2日目 ②
私は店を出て家族を待っている間、暇だったのでミサキさんについて調べていた。
misaki 23歳
公共放送の教育テレビのレギュラーを経て10歳で子役としてデビュー。ドラマで脇役として数作出演後、13歳で芸能活動を一時休止。20歳で芸能活動を再開。
「アバズレンジャー」以外のドラマでは目立った活躍は無い。
アバズレンジャーの後、見かけないと思っていたけど、この映画の後すぐ芸能界を引退していたらしい。Twitterもインスタのアカウントも消えてる。
ん? 「misaki 失踪説」?
サジェストに不穏な文字が見える。なんだこれ?と思い検索してみる。
まとめサイトばっかりでそれといった情報はない。私はページをスクロールし、あるサイトのページを見つける。
「アバズレピンク役のmisakさん。映画の撮影中に失踪?」
そのサイトは個人のブログみたいで、毎話、戦隊シリーズの感想やおもちゃのレビューをしていた。
そのブログによるとミサキさんは去年の4月21日、大口羽白島での撮影中の投稿以降、Twitterやインスタの更新が止まっているらしい。その後の映画の試写会やイベントなどは体調不良を理由に欠席している。映画の撮影時点で、テレビ放送最終回までの収録は終わっており、放送自体に問題は無いが、映画の終盤の展開に少し違和感があるらしい。他の戦隊シリーズでは、ヒーローが怪人を倒した後、エンドロール中に変身していない出演者のエピローグのようなものが挿入されているらしいが、アバズレンジャーは怪人を倒した後、夕日に向かって走って終わった。また、毎作DVDに収録されているメイキングが無かったらしい。大口羽白島には因習のようなものがあり、ミサキさんはその生贄になってしまったのでは?関係者は島の掟で外部に漏らす事は禁忌となっている可能性がある。
とこんなことが書かれていた。
いや、これで失踪は流石に飛躍しすぎだろう。だいたい、こんなに特撮が好きなら映画の流れと撮影のスケジュールが違うことくらいこの人も分かっているはずだ。因習なんてオカルト話でしかない。ただのアクセス数稼ぎだろう。
そんな事で時間を潰していたら、家族が店から出て来た。ショウの買い物袋の中に茶色いモノが見えた。あれは、ワラヤマくんだ。
「ショウも買ったんだ、ワラヤマくん。誰に渡すのかなぁ?」
「教えない」
「何でよ、別にいーじゃん」
「うっ、うるさいっ、秘密ったら秘密」
「こらこらヒトミ、そんなにからかうな」
ショウの顔が赤くなっている。そんなに照れなくてもいいのに。
もう15時だ、3階のレストラン皆でちょっと遅めのランチをすることにした。料理が美味しそうだったので昨日のメイキングで入っていた店を選んだ。
「この島、地酒があるのか、飲もうかな。」
「今日バイキングあるんだから、ほどほどにね」
今日は泊まるのは民宿だが、夕食はホテルでとることになっている。それでもパパはお構いなしにお酒を頼む。お酒か、どんな味なんだろう。私はパパがトイレに行ってる隙に、おちょこ一杯分の日本酒をこっそり飲んでみた。苦い。美味しくなかった。まだ私にお酒は早いようだ。
**
ショウがお化け屋敷に行きたいと言ったので、レストランを出て一階まで降りて来た。ショウって怖いの苦手だったよね?心配なので私も一緒に行くことにした。さっきお酒飲んじゃったからなんだかぽわぽわしてる。ちょっと酔ってるのかな。お化け屋はいい酔い覚ましになるかも。
1階の入口から少し階段を降りて地下に案内された。
「ここは死の迷宮......一度入ったら二度と抜け出せない。」
お化け屋敷アナウンスが設定を説明してくれる。このお化け屋敷は迷路みたいになってて、行き止まりがあるらしい。
「ショウ、大丈夫?怖かったらリタイアしてもいいからね」
「だっ、大丈夫」
震えるショウの手を握りながら迷路を進む。度々上から雷の音がしたり、絶叫が聞こえる。そのたび、ショウの身体がビクッと震えて怖がっているのが伝わる。私は酔っ払っているのもあって視界がぼやけてあんまり怖くなかった。
迷宮の先を進むと、行き止まりに来てしまった。鏡の中から手が出てくる仕掛けに少しだけ驚いた。そして、来た道を戻ろうと振り返った瞬間、二人のお化けが私たちに向かってきた。驚いたショウは、私の手を振り解いて一目散に反対側の道へ走っていった。
「ショウっ!待って」
ショウの手を離してしまった。追いかけないと。しかし、私の視界はだんだんぼやけてくる。
ドサッ
「っつ......痛ったあ」
足がもつれて転んでしまった。
でも、そのおかげで酔いが覚めて来た。ショウとは完全にはぐれた、探さないと。
記憶が曖昧で道のりを覚えていない。お酒なんて飲むんじゃなかった。
酔いが完全に覚めた。そして、視界が鮮明になってわかったけど、このお化け屋敷はよく出来ている。周りの岩の質感がとてもリアルだし、冷たい風が通っていて本物の洞窟みたい。だんだんと暗くなってくる。私はスマホのライトを付けて奥へと進む。
「えっ?」
行き止まりに当たった。目の前にあるものに、私は目を疑った。
まだ酔っているのかと思った。でも、酔いは完全に覚めてるはずなのに......
「なんで......祠が......?」
海の洞窟と同じ形の祠がどうしてここに?
はっと、私はヒロシさんの話を思い出した。開発で埋められている。入ってはいけない祠。でも私はお化け屋敷にいて、そうだ。祠のあるお化け屋敷なんだ。これは偽物。そう
「テ」
「ミ」
「ニ」
「カ」
祠の上に書いてある文字を読んでしまった。偽物だと思い込もうとした私を、その文字が襲う。その瞬間、私の脳に不穏な文字が浮かび上がる。
失踪
因習
生贄
私は泣きながら来た道を急いで駆ける。一心不乱に走り続けた。
その時、何かが私に語りかけているような気がした。
-がつまよ-
そう聞こえた。アナウンス?でもこの感じ......頭に直接......
私は怖くて仕方がなかった。
「姉ちゃーん」
ショウ?
ショウの声がする。私は急いで声の方向へ走った。そこにはショウがいた。
私は泣きながらショウを抱きしめた。
「何?姉ちゃん」
「置いてっちゃダメでしょ」
「ごめん」
ショウの身体は暖かった。力強く抱きしめすぎてショウは少し苦しそうだった。
少し落ち着いて、私たちはお化け屋敷をリタイアした。パパとママは目が赤くなっている私を揶揄っていた。馬鹿にされてるのに、私はなんだかそれにすごく安心した。
**
17時くらいにショッピングモールを出て、そのままホテルに向かった。先にホテルの浴場でお風呂に入る。
「あれっ?……ない」
脱衣所でワラヤマくんが無くなっているのに気づいた。何処かで落としたのか、多分お化け屋敷だろう。あとで電話して確認しよう。
お風呂から上がって、バイキングに来ると
「あれっ、また会ったね」
そこには氷上さんがいた。私は三回目だし驚きは薄いけど、これ本当はめちゃくちゃ凄いことだと思う。パパとママは初めて会ったので驚いている。ショウも毎回新鮮に驚いている。
「すみません、娘と息子がお世話になってたみたいで」
「いえいえ、あっ、もし良かったらご一緒してもいいですか?」
「えっ、いいんですか、こちらこそ」
「僕も一人じゃ寂しかったんで」
流れで一緒に食事をすることになってしまった。氷上さん、一人なんだ、彼女とかいるのかと。てっきりミサキさんとか......
その時、さっきの失踪説のが私の頭をよぎった。何考えてんだ。あんなの信じるわけ。
「ショウが羽白衣見たいって言って、まぁ私もミサキさんが着てるならいっかって感じで」
「えーっ、ショウくん、お姉ちゃんのが見たかったのかな?」
「姉ちゃん、なんでそんな話するんだよ」
食事中、氷上さんと旅行中の話をしていた。民宿の話。さっきのショッピングモールのことも。でも洞窟とお化け屋敷のことは話さなかった。そして、私はどうしても気になった事があったので氷上さんに聞く事にした。
「あの〜、ミサキさんって今なにしてるんですかね」
聞いてはいけないような気がしたが、聞くチャンスは今しかない。
「…….悪いけど、それは答えられない。彼女にも悪いしね」
「そっ、そうですよね、ダメですよね。引退されてるのにそんな事聞いちゃ」
……
「そういえば、無くしてたワラヤマくん見つかった?」
気まずい空気が流れていたけど、氷上さんが話題を変えてくれた。
「結局、見つからなかったみたいなんです」
「そう、残念だね。じゃあもう買っても意味ないよ」
「え?どういうことですか?」
「実はね、ワラヤマくんは二つ買うと効果が無いらしいんだ」
「そうなんだ......じゃあ、ミサキさんはどうしたんですかね、お母さん用ともう一つ」
「あぁ、あれね、アレは女の子のスタッフに頼まれてたんだって。どうしても行けないらしいから」
「あー、そうだったんだ」
ミサキさん、氷上さんと付き合ってるのかと思ってたけど、そんなんじゃ無いらしい。そんな感じで、貴重な話も聞いたりしながら食事は続いていた。食事を終え、氷上さんと別れ、私たちはホテルに隣接している娯楽施設のカラオケで遊んでいた。
プルルル、プルルル
パパの携帯が鳴る。
「はい、御供です。はい、はい、えっ......はい」
少し酔っ払っていたパパの表情が真剣になる。誰と話してるんだろう。
会社の上司とか?旅行中に怒られてたらウケるな。
「分かりました、じゃあ後ほど。」
パパが携帯を切って少し息をつく、
「......今な、浜崎さん家から連絡があったんだ。......ヒロシさんが、亡くなったそうだ。」
えっ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます