2日目 ①
このカメラにはアバズレンジャーのメイキング映像が入っている。
撮影者があの洞窟で落としたのだろうか。
続きを再生する。
果樹園でトロピカル男爵と出会うシーンが撮影されている。レッドとグリーンが差し入れのパイナップルを食べてはしゃいでいる。
次は、青の洞窟。明日、私たちがダイビングをする予定の場所。海中の岩の間を抜けるシーンを横から撮っている。サメの怪人はCGっぽいけど、レンジャー側はスーツアクターが実際に泳いでいる。凄い…貴重な映像だ。あのカメラは海中も撮れるカメラだったんだ。
次は、この島にある大口滝でアバズレンジャーが滝に打たれて修行しているシーンだ。滝に打たれながらの長いカットがあるからか、NGを連発していた。ちょっと可哀想。OKが出て皆でハイタッチしてる所、なんだか青春っぽくていいな。
次は
「観光でーす」
「イェーイ」
ピンク役の…ミサキさんがピースしてる。横には少しローテンションで話すイエロー役の人。
「最近できたアローコウというショッピングモールにきましたー」
「広ーい」
アバズレンジャーで観光してる。氷上さんはいないみたい。ミサキさんが来ている服、浴衣っぽい?私服では無いような。
「お酒たのんじゃおーかなー」
「おっ、ミサキさんやるねぇ」
「ミサキちゃん飲んべぇだもんねー」
レストラン街の店かな、美味しそう。でもメイキングとはいえ、子供向けの映画でお酒って出していいのかな?
トロピカル男爵の人がマンゴーパフェを食べている。かわいい。コワモテのおじさんだけど演技以外の時は目が優しい。新しい発見だ。
次はお土産コーナー。グリーンの人がお菓子をいっぱい買っている。レッドの人はお魚のガチャガチャを回している。お目当てのサメをゲットしたらしい。
ミサキさんが変なぬいぐるみを買っていた
「好きな人に渡すと結ばれるってー」
「誰にわたすのかなー?」
氷上さんの声がした。このメイキングは氷上さんが撮ってるんだ。
「えーっと、お母さんです」
「2つ買ってるけど、もう一個は?」
「ふふっ、ヒミツでーす」
「コイツぅー」
ちょっと上目遣いになっているミサキさんがかわいい。
「今からめっちゃ怖いと噂の、お化け屋敷に行きまーす」
「俺お化け苦手なんだよなぁ」
霊媒師の末裔って設定のグリーンがお化け怖がってるのが面白くて、布団の中で静かに笑いを堪える。
「中は撮影無理なんで、出てから回しますね」
そう言ってこの映像は終了した。
和気藹々としたメイキングだった。楽しそうだなぁ、明日の旅行のネタバレ食らってる気がするけど。氷上さんがカメラを落としたってことは、このメイキングは未公開映像ってこと?でも、あの洞窟で落としたなら、すぐ見つかりそうだと思うんだけど。
気付けば1時間くらい見てしまっていた。続きは明日にしてもう寝よう。私はSDカードを元の奴に差し替えて布団に入った。
**
次の日、ショウが早朝に起こして来た。
「お姉ちゃん、起きてよ、海行かないと」
「んぁ…?あぁ、そんな約束してたっけ…」
「早くしてよー」
寝ぼけている私の肩をショウが揺らしてくる。眠い目を擦りながら、顔も洗わずにパジャマ姿のまま家を出た。ビーチは浜崎さんの家から歩いてだいたい20分くらい。今は朝5時30分だから誰もいない。と思っていたけど、誰かいた。
「あれ?氷上さん?」
「あっ!ブルーだ!」
「やあっ、また会ったね」
ビーチには氷上さんが私達より早く来ていた。私は着替えてくればよかったと少し後悔した。
「どうして、朝早いのにここに?」
「......昔、この浜辺には人なんていなかった。昔の景色を感じるには、この時間じゃないといけないんだ」
氷上さんは昔のこの島を知っている人。リゾート開発が進んだこの島に何か思う所があるんだろうか。
「今は多くの人がこの島を愛してくれている。それは凄く嬉しいんだ。でも、この誰もいない景色も忘れたくないんだ」
氷上さんは本当にこの島が好きなんだな。
「そっちこそ、朝早くから何してるの?」
「あっ、えーっと、今聖地巡礼してて、ビーチのシーンを再現したいんです。」
「成る程ね、あっそうだ、弟くん。また会ったから、書いてあげるよ、サイン」
「やったー!!ありがとうございます」
ショウはとても喜んでいる。朝からテンションが高い。
「名前は?」
「ショ、ショウです」
「ショウくんね......はい、書けたよ」
「あっ、ありがとうございます。僕、アバズレンジャーの中でブルーが一番好きで......」
ショウはもう嬉しくて泣きそうになっていた。憧れの人に二度も会えて、名前も呼んでもらって。無理もない。
「その、映画の再現とやら、一緒にやってもいいかい」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん、こんなに好きでいてくれてるんだ、嬉しいよ」
そう言って氷上さんは財布からカードを取り出す。やっぱり自分でも持ち歩いてるんだ。私は写真を撮るためポケットからからスマホを取り出す。すると
ポロッ
昨日寝る前ポケットに入れていたSDカードが落ちた。
「ん?」
「あっ」
氷上さんの足元に転がる。
「はい、どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
氷上さんがそれを拾ってくれた。でも、これ元々は氷上さんのだよね……
返した方がいいのかな。でも、中身見たのバレちゃうし……
今は黙っていることにした。その事は後にしよう、明日の朝またこのビーチに来るかもしれない。
「それじゃあ、撮ろうか」
「はいっ!」
「せーのっ」
「「さぁ、コンプリートだ」」
動画と写真でそれぞれ撮影した。これは早朝からショウにとって最高の思い出になったかもしれない。
**
朝食を済ませ、昨日のメイキングでも来ていた青の洞窟に行った。ダイビングで魚を見ながら、岩の間から太陽の光が刺す場所を潜る。その光景は昨日の洞窟と似た雰囲気を感じる。
次は大口滝。中学生以下は滝行ができないらしくてショウは見学、私だけ滝に打たれていた。夏なのに滝に打たれるのはとても冷たい。よくこれであの長い台詞を言えるなと感心してしまった。
その後も色んな場所に聖地巡礼に行ったが、昨日の洞窟には行かなかった。映画ではあの場所で撮っているはずなのに、何故だろう。
聖地巡礼は14時くらいまでかかった。
あとはショッピングモールで遅めの昼ごはんを食べて、中を回ってお土産とかを買うつもり。明日は海に入って、温泉に入ってゆっくりして夕方のフェリーで帰る。なんて充実した旅行なんだろう。
ショッピングモール「アローコウ」。この島唯一のショッピングモール。広い、これは確かに半日潰れるわ。
中に入ってすぐ右に、レンタル衣装ショップが見えた。アバズレンジャーの衣装やトロピカル男爵の衣装がある、他にも人気アニメのコスプレ衣装なんかもレンタルできるらしい。
あっ、あれは......メイキングでミサキさんが来ていた着物だ。へー『羽白衣』って言うんだ。けど「羽白」なのになぜか袖の部分は赤い。モール内でも着ている人を何人か見る。でもこの着物、肩と脚が大胆に出てるし、胸の谷間も見えてる。なんかエッチじゃない?
「ねー、お姉ちゃん、あれ着てよ」
ショウが羽白衣を勧めてきた
「えー」
流石にアレを着るのには抵抗がある
「あー、もしかしてショウ、私が着るの見たいの?へんたーい」
「ちっ、違うもん」
ショウの顔が赤くなっている。一体何が違うというのか、エロガキめ。まぁでも、ここでしか着れないし、ミサキさんも着てたし。ね
私は似てると言われてからというもの、なんだかミサキさんの真似をしたくなっていた。レンタルはクリーニング代も入ってるので汚しても問題ないらしい。
「うーん......」
羽白衣を着ているとやっぱり他の人の目が気になる。一緒に写真撮りたいって言ってくる人も何人かいる。何でだろう。
「あっ」
昨日の事を思い出し、スマホを取り出す
「やっぱり......めちゃくちゃ伸びてる……」
―――――――――――――――――――――――――
大口羽白島でアバズレの聖地巡礼してたら
ピンク役のmisakiさんとそっくりの人を発見!
氷上さんもいて一緒に写真撮ってもらいましたー
最高!!!!
#アバズレ聖地巡礼
#リョウアヤ
――――――――――――――――――――――――――
昨日投稿されたツイートが拡散されていた。写真撮ってた人に投稿していい?って聞かれて確かに私OKしてたな。あの時の私は調子に乗っていた。
リョウアヤってのは、青柳リョウと桃瀬アヤカ。ブルーとピンクのカップリングか
確かピンクはレッドとブルーと三角関係で、最終的にレッドとくっついたんだよね。
映画でもピンクとレッドのキスシーンがあった。この投稿。ピンクとレッドの過激派とかに怒られたりしないのかな。
“ 2つ買ってるけど、もう一個は? ”
“ ふふっ、ヒミツでーす ”
“ コイツぅー ”
昨日の映像を思い出す。実際はどうだったのかな。ミサキさんと氷上さん。お似合いっぽいけど。そんなことを考えながら、お土産屋さんに入った。
「何にしようかなぁ......無難にクッキーとかでいいかな」
友達に配る様のお土産を選んでいる。ショウは刀が付いてるキーホルダーを見ている。男の子ってああいうの好きだよなぁ。そんなんどこにでも売ってるでしょ。ここでしか買えないものにすればいいのに。限定のぬいぐるみとかさ。
私はショウにも何か買ってあげようと思い。ぬいぐるみが置いてあるコーナーを見る。
ペリカンとか可愛いかな、でもこっちの方が喜ぶか。私は「アバズレブルー 限定アロハシャツver」を手に取った。レジに並んでいる途中、レジ前に置いてあるメイキングの変なぬいぐるみが見えた。
「ワラヤマくん」 これがミサキさんが買ってた......渡すと結ばれるっていう。藁人形のような見た目をしていてちょっと不気味だ。
「これも下さい」
これ渡したら引かれないかなぁ。
そう思いながらも私はこの人形を手に取った。私も17歳だ、好きな人だっている。
「お名前書かれますか?」
「はい?」
「この紙に名前を書いて渡すと、渡した人と結ばれるんです」
よく見たらワラヤマくんに紙が入ったタグが付いてる。これを渡すってこと!?
そんなんもう告白みたいなもんじゃん......。
急に恥ずかしくなってきたが、もう勢いで書いてしまった。渡すかどうかは保留にしておこう。
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