1日目 ②

テミニカ


不気味な文字を目にし急に不安が襲ってきた。


「ショウ、戻るよ」


ショウの手を掴み、来た道を戻る。少し握る手が強くなっていた。流石にショウも怖くなったのか大人しくしている。


 カツンッ カラン


足に何かが当たった音がした。石でも蹴ったかのと思ったけど、そこには


「ビデオ......カメラ......?......なんでこんなところに?」


来る時は気づかなかったけど、地面には海に流されたゴミが散らばっていた。

しかし、砂埃を被っているけどこのビデオカメラは少し新しい。


 ......


何か映っていないか。そんな好奇心を抱いてしまった私は、カメラの電源を入れる


 ......


付かない、どうやら壊れているようだ。私は中に入っているSDカードを抜き出した。何もないかもしれないけど、どうしても中が気になる。


「ショウ、ここに来たことは内緒ね」

「わかった」


そう言って私達は洞窟を後にした。


ビーチに戻ると、パパはどこにいってたんだと少し剣幕な表情で私を問い詰める。洞窟の事は話さずに反省したフリをしておいた。でも、本当に少し反省してる。



ビーチを後にし、私達は果樹園「トロピカル・ガーデン」に来ていた。ここは映画でアバズレンジャーとトロピカル男爵が出会った場所だけど、私のお目当てはここで食べられる「巨大トロピカかき氷」だ。マンゴー、バナナ、パイナップルが大胆に乗ったかき氷の上にヨーグルトがかかっている。美味しそうだし、これは映える。このためにお昼は少しだけにした。


果樹園を散策しながらパパとママは写真を撮りまくっているけど、私は何が良いのか分からなかった。食べた方が美味しいじゃん。早くかき氷食べたい。そう思っていると、少し先で人だかりが出来ているのが見えた。何だろうと思い、近くに行って、人だかりの中を覗き込む。


 えっ!?もしかして、あれは


 アバズレブルー!?


アバズレブルー役の俳優。名前は確か......氷上健介ひかみけんすけだっけ?

ファンと写真撮影をしているようだ。


「えっ本物!?すげーっ!」


憧れの人を前にショウはとても興奮している。私たちも写真を撮ってもらうことにした。ショウは緊張しながら、サインをお願いする。


「さっサイン下さい」

「いいよ、何に書こうか」

「じゃあっカードに……あっ」


ショウはブルーのカードに書いてもらおうとしたけど、カードを置いてきていた事に気づいて残念そうだ。


「あはは……残念だったね、また会ったら、カードにも書いてあげるよ」


サインは仕方なく私の手帳のメモに書いてもらった。私は写真を撮ってもらおうと近くの人にスマホを渡す。すると、なぜか周囲がザワザワし始めた。


「あれっ、ピンク?」

「えっウソっ」


「あっ、えっと違いますっ!似てるって言われるけど、人違いです」


またピンクと勘違いされたらしい。


「確かに似てるね、ミサキに」


氷上さんにも言われた。ミサキはピンク役の名前だろうか。


「ねぇ、私も1枚写真撮っていいですか?」


写真を撮ってくれた人が言って来た。


「えっ、私ですか?」

「こんな偶然無いんで」「俺もいいですか?」

「は、はぁ……」


余程似ているのか。私も氷上さんの写真撮影に巻き込まれてしまった。長くなりそうだったのでショウには先に戻ってもらった。


「なんか付き合わせちゃってごめんね」

「いえいえ、似てるって言われるの嫌じゃないんで」

「…そう」


プチ撮影会は15分くらい続いた。


「氷上さんは、どうしてここに?」

「元々親戚の家があってね、小さい頃にたまーに来て遊んでたんだ。しばらく来てなかったんだけど、撮影で久々に来てからまたこの島の良さを思い出したんだ。それで、最近は月に1度は来るようにしてる」

「そうだったんですね」

「だから、弟くんも残念がってたけど、また来たら会えると思うよ」

「そうですね、弟も喜ぶと思います」

「それじゃ、そろそろ行くね。旅行、楽しんでね」

「はいっ、ありがとうごさいました」


氷上さんいい人だったな。あんなに長々とファンサービスしてくれるなんて。これが神対応ってやつか。


氷上さんと別れて、家族の元へ戻った。


「えっ……なんで食べてんの」

「安心しろ、まだあるぞ」


先に3人はかき氷を頼んでおり、既に半分無くなっていた。写真撮りたかったのに。


「ヒトミ、ブルーの人と会ったんだって?凄いじゃない」

「あ、うん、いい人だったよ。この島にはよく来るんだって。あ、美味しい」


かき氷を食べながら、さっきあった事を話した。


「ねぇ、私って女優とか向いてると思う?」


私はピンク役の人に似てると言われ少し調子に乗っていた。


「いやぁ、厳しいだろう。小学校の劇、めちゃくちゃ棒読みだったじゃないか」

「しかも、本番でセリフ飛ばしちゃってねぇ。あれはあれで可愛いかったけど」


パパとママが私の恥ずかしい過去を掘り返してきた。


「えっ、演技はこれから勉強すればいいじゃん!」


赤くなる顔を冷やすように、かき氷を食べるペースが早くなる。こんな話するんじゃなかった。


果樹園を後にした私達は、浜崎さんの家に戻ってきた。ヒロシさんも釣りから帰って来ている。今は18時、夕飯までまだ時間がある。


「まだ晩御飯まで時間あるし、温泉入ってきたらどうだい?うちのお風呂狭いし、ゆっくり出来ないと思うから。」


サチコさんに教えてもらい、私達は温泉に入る事にした。旅館は満室らしいけど、温泉は入れるみたい。旅館まではヒロシさんが車で送ってくれた。


ヒロシさんは車の中で昔の事を話してくれた。

ヒロシさんが小さい頃、友達と数人で洞窟探検をしたらしい。でもそこは本当は入っちゃいけない場所らしくて、そこにある祠に触ったら島の大人達にこっびどく怒られたという。


洞窟、祠というワードに今日の海での事がよぎった。でも、その洞窟はもう開発で埋められているらしい。じゃあ、あの海の洞窟は何なんだろう。ただの洞窟を撮影で使ったって事かな?


温泉に入りながら今日一日の事を考えていた。トラブルはあったものの、有名人にも会えてラッキーだったし。美人な女優にも間違えられるし。楽しい一日だった。


でも......あの洞窟、持って帰ってきたSDカードには何が映っているのだろう。


夕食を終え、みんなが寝静まった頃。私は父が持ってきていたビデオカメラを手に取る。SDカードを今日拾った方に差し替え、再生してみる。同じSINY製のカメラだし、問題ないはず。海の近くの洞窟で拾ったものだったけど、壊れてはいなかった。


SDカードには4つのデータが入っていた。恐る恐る一つ目のデータの再生ボタンを押す。一つ目のデータには何も映っていなかった。何もないじゃないかと少し残念に思ったけど、二つ目のデータはちゃんと映っていた。布団の中で、音量を小さくする。



サングラスをかけた男とメガネの男が立ち話をしている。

大きなカメラが数台見える。

「おはようございまーす」と数人が挨拶をして通りすぎていく。

見覚えのある顔ぶれだ。


 ……


これは……メイキング映像だ。


しかも……アバズレンジャーの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る