第4話 魔法と愛

「シノ、本当にその装備でいいのか?」




「はい、大丈夫です。あんまり強力なのを使うと危機感薄れますしなにより節約は大事です」




立ち寄った防具屋と武器屋に赴いて鉄と皮の装備一式を買って身を固めてある程度らしくなってきた。鉄の槍に盾と触媒を武器に軽装で守りと回避に適したスタイルで行こうと思う




この装備で30シルバーかかったがリュミアさん的には鋼の装備にしたかったようだ




でもこれから何が起こるか分からないしお金は大切だ。それに高価な装備をしても貧弱な俺では宝の持ち腐れだろうし問題はないと思う




「シノは謙虚だのう。金ならわらわがいつでも稼ぐというのに」




「それじゃお世話になりっぱなしじゃないですか。俺はもっと強くなりたいんです」




あれから怠けていた体を酷使して筋トレに俺は励んでいた腕力強化のための素振りも腕立て伏せ腹筋百回をノルマに毎日欠かさず体力をつけるために走り込みも欠かさず少しは筋肉が付いたかもしれない。といってもそれを始めたのは三日前なので筋肉がついてるはずもないのは知っているけど。




だがそのひたむきさと姿勢にリュミアさんは感心しているようだ。いつまでもリュミアさんに頼らないという心構えは必要だ。というかこの程度実際この世界の厳しさに比べれば軽い準備運動程度に過ぎない。




だが無理は禁物。少しづつこの世界に順応していこうとできる限りのことをコツコツやっていこう




魔法も初歩的なものをリュミアさんに教えてもらった。禁呪が使えたこともあって魔力の経路が繋がっただろうと見越してマナの感覚のとらえ方もより早く練習し火と水の魔法の呪文を教えてもらい操ることに悪戦苦闘しながらもある程度扱えるようになった。このままいけば魔法戦士になれそうだな






「揺蕩い揺れし原初の叡智よ顕現せしめ舞い踊れ!ファイアボム!」


「さざめき荒れ狂う生命の源泉よ顕現せしめ咲き狂え!アクアスプラッシュ!」




と、初歩の詠唱厨二ですなと思いながら攻撃魔法を的に狙いを定めて放つもあらぬ方向に飛んでいく。




「まあ最初はそういうものだ。逆にうまくいくことが稀有よ。しょげるでない」


と言っても落ち込むものは落ち込む。やっぱ才能ないのかなと結構へこんでしまう。


最初はこんなもんかと思っている暇なんてない。すぐに使えなければ魔法も意味をなさない


でも功を焦ったところでうまくいくものもうまくいくはずもない。リュミアさんの言う通り地道に頑張っていくか


そういえばこの世界の事なにも知らないなと思ってリュミアに聞いてみる。彼女に対してもう敬語を使うこともなくこれからは仲間としてリュミアと接していくことに決めた。




「リュミア。そういえば俺ってこの世界の事知らないんだよね。この世界の名前やどういったものがあるか知ってる範囲で教えてくれないかな?」




「ほう、この世界を気に入ってくれたか。わらわもうれしいぞ。そうさな…まずこの世界の名はエバーネストと言う。そして現在地はフェドロゴア大陸のマミヤの獣道。これから向かうはマミヤの魔導院。これからシノには魔法の訓練をそこで受けてもらう。魔術候補生がいる学院であるが気背負う必要はない。シノには特別講師をつけてもらうからの」




「え!?特別講師って俺に!??」




「無論だ。魔術を鍛えるのはもちろんだがなによりシノの魔法はわらわからみても未知数だ。ならそれ相応の魔法使いに教授鞭撻してもらうのは普通であろう。その間わらわはバベルボーンの蔵書と文献を文書館にて探してみる。頑張って戦えるまで成長するのだな」




正直そこまで本格的に魔法を伝授することになるとは思わなかった。わくわくしてきた。俺の知らない魔法が学べるなんて行幸だろう。だからこそ口にするべきだ。リュミアに会わなかったら今日まで俺は生きてはいなかったから




「ありがとうリュミア。本当に・・・」




「な、なーに。礼など無用よ。まったく、そういう顔で言ってくれるな。男らしくないぞ。まあ、わらわも一人は寂しかったからの。お互いさまというやつだ」




だがそれは収支に会わないというものだ。でも現状リュミアを助ける術が俺にはない。


強くなってリュミアを守れる日などあるのだろうかといえるほど彼女は強く恩を返すには偉大過ぎた。


だからこそ強くなるためならどんなことでもやれるというやる気につながる。


魔導院。リノの為に帰ると約束した。


でもここにいる間はリュミアの助けになる為強くなりたいと俺は思った




旅のおかげか筋トレのおかげかある程度休憩をはさむ時間が減ってきた。


水袋で水分補給をしながら長い道中談笑をしながら


ついに目的の魔導院のある地域にまで足を踏み入れた。大きな建造物を中心にさきほどの繁華街のような商店より活気は少ないが綺麗に掃除された露店が所々居を構えている。つまり治安が良く清潔な街だ。


そこにマントを羽織りその下に制服を着た少年少女が話をしながら同じ方向に足を向けている


そこが俺の向かっている魔導院だろう。というか失念していた。魔法学校なら制服は必須。


今の俺は慣れと鍛えるためにハンター装備でどう見たって分不相応な格好でどうしようと考え制服はどこで買えるのかやそもそも正式に入学していないのだから制服は支給されないだろうと混乱していると


リュミアが杖を振るって俺の鎧を魔法で学生さん同様の制服に変わった。魔法すごい




「その格好では奇異な目で見られるであろう。では行くかの。その前に露店にてパンを食し腹ごしらえするか?旅中にまともな食事はしておらんかったからの」




「いえ、大丈夫です。それよりも制服ありがとう。どうしようってさっき思ってたとこなんだ」




「流石にわらわもそこを見落とすことはない。さて準備ができているのなら行こうか。魔導院は学徒らが向かうあのひときわ大きな建物で裏道を往くが良い。裏口に人が立っているはずだ。すでに手紙はよこしている。わらわの紹介ということは講師は知っておるゆえ安心して行ってこい。ではしばし別れだ。文書庫へ足を運ばねばならぬのでな」




そしてリュミアさんと別れ俺は言われた通り魔導院の裏通りへ歩を進める。


リュミアって顔が広いな。これから会う人は多分恩師だろう。気にするなと言われたがやはりここまで俺に世話をする理由は似た者同士だけではやはり割にあわないのだが


もしかしたら本当にすごい魔法使いなのかもと疑問形なのはなんというかそういう威厳が抜けているところがあるのでそうは見えてしまわないという理由があるのだが。学校、なんだよな。ヒッキーの俺にはハードルが高い場所だ。すくみそうな足に力を入れて歩みを進め魔導院の裏口に付いた。そしてリュミアの言う通り一人の女性が裏口にて待っている。


急ぎ足でそこへ向かって彼女は俺に気づいたようだ。緊張するがそんな場合ではない。




「あの、リュミアの紹介で来ました。シノです」




「あ、君がリュミアの言っていたシノさんですね。どうぞこちらに」




・・・恩師の方ですよね?なんというか温厚で柔和な母性を持った方でなにより20そこそこの年齢にしか見えない。これも魔法の力なのかな?




「いいえ、外見を魔法で偽ってはいませんよ。見た目通りです。それと私はリュミアの恩師ではないですよ」




「!?」




何も言っていないのはずなのに疑問を彼女は答えてくれた。というかこの人が恩師で魔法を教えてくれるなんて誰が言ったんだ?勝手な勘違いをしてしまい自分を恥じる。ご教授してくださる方は別にいるだろう。




「いえいえ、もちろんシノさんに魔法を教えるのは私で間違いありませんよ。ご年配の方と思いましたか?うふふ。リュミアとは一緒に魔法を教えてもらった学友のようなものですかね?」




ニコニコと暖かな笑みを浮かべているこの人はリュミアと同期の人らしく彼女もまた魔導院に通っていた生徒なのだろう。学友のようなものという含みのある言葉に疑問は浮かぶが俺はリュミアについて詮索しないと誓ったから深くは聞かないようにしよう




「あらあら、本当にいい人に巡り合えたのねリュミアは。勘も鋭く話通り優秀な子ですね。教えがいがありますわ。ふふ」




というか…さっきから俺は一言だってしゃべっていないというのに意思疎通が成り立っている。もしかして




「そうですわ。失礼ながら貴方の心をのぞかせていただきました。すみません。昔から疑り深い性分ですので。もしかしたらリュミアをたぶらかしているのではないかと…」




深々と頭を下げる彼女に俺は待ったをかける。いや別にいいんですけどそんなに怪しいですかね俺って?




「いやいや別に謝らなくていいですって!俺こそ失礼な勘違いをしてたのでお互い様ということで!!」




「まあ、ありがとうございます!優しいお方なのですね。リュミアも心を開くはずです。普通なら怒ってくれても構いませんのに」




「別にやましいことを考えているわけじゃないですしそれに俺の事を知っていれば魔法も効率よく教えられると思うので良いと思いますよ」




それによそ者の俺を警戒なしで迎えるのもどうかと思う。だから心を読んでくれたのはむしろ警戒を解いてくれる必要な手段だしそれにリュミアを待たせる時間を節約できるというもの。問題はない




「本当にいい人なのですね。あ、申し訳ありません!私はナリハ・コリュードと申します。一緒に魔法を頑張りましょう!」




両手でガッツポーズをしながら楽しそうにエイエイオーと言わんばかり元気で跳ねるナリハさん。


たゆんと揺れるたわわな果実が目に入ってしまった。するとナリハさんはいたずらな笑みで横目で俺を見て




「男の子ですね☆」




「すみませんでした!!」




「あらあら、健全な反応ですわ。と、からかっている間に着きましたね。ここが魔法の修練所ですわ」




教室並ぶ道のりを歩きすれ違う色々な魔法使いの先生と生徒たちを横目でちらりと見ながらたどり着いたのは弓道場のような広い空間。あるのは鎮座している木人と的。魔法を当てる訓練のためのものだろう




「教室ではないんですね」




「広い学院なのですが生徒数が多いので教室は空いておりませんわ。それに生徒のようにいちから教えるのではなくシノさんには実戦の為の演習という形にしました」




見れば修練場は森閑としており俺とナリハさん以外誰もいない貸し切り状態。これなら間違って他の人に魔法が流れ弾する心配はない。あ、そうだ




「ナリハさん」




「はい、なんでしょう?」




「リュミアの心配をしてくださりありがとうございます」




俺は彼女のことを何も知らないだからリュミアの負担になれない。だから理解者がいてくれたことが嬉しい。この人が疑ってくれたのは正直安心したのが本音だ。それほどリュミアは想われている。心配してくれる人がいる。ああ、本当に安心した…。




「・・・・・・・・・・・・」




「え?俺って変なこと言いました?」




すると一瞬だけ笑みが消えた気がした。だがそんなのは気のせいと思うようにすぐに先ほどの笑顔に戻り小さな子を注意するように




「ダメですよ☆自分のこともいたわってくださいね♪」




優しくそう言ってくれた。だがなんだろう。心なしか怒っているように見えた。というか背後になにか般若のような怒りの化身が現れているように見えるのは気のせいと思いたい…!!




「は、はい…」




「では、魔法の実技訓練を始めましょうね。リュミアから聞いたところ火と水の魔法をシノさんは使うことができるんですね?」




「そうですけど…」




「魔法とは本来魔法使いでも会得に一か月はかかるんです。それをたった三日で使いこなせるシノさんはとっても優秀です!異世界の方々というのは優れた方が多いのでしょうか?」




「わからないですけど、多分…」




それはない。と言ったらただの見下しにしかならないのでお茶を濁しながら言葉も濁す。


使いこなすといっても初期魔法を撃てるだけで敵に当たらなければ話にならないので使いこなしているは言いすぎな気がする。




「いえいえ、過大評価ではありませんよ。魔法というのは元来素養と血筋によって変動します。それも魔法のない世界から来てすぐに魔法を使いこなせるなんて天賦の才覚以外の何物でもありません」




そう言われてみるとそうなのかも…なんて思ってしまうもあまり自惚れられる気がしないというか褒めちぎられているのでこそばゆいしこっぱすがしいのでやめていただけませんか?俺はそんなすごい人じゃないので




「凄く謙虚ですね。もっと素直に認めた方が伸びもすごいですよ。才能というのは気づかないと開花しませんからね」




「なるほど」




そして訝し気に俺を見つめるナリハさん。?とかしげる俺とナリハさん。疑問の心を読んだのかその理由を彼女は口にする




「うーん。少し見えずらいですわねシノさんのステータスとレベル。申し訳ありませんがプレートを見せて…あら?シノさんはステータスプレートをお持ちでないのですね?」




「ステータスプレート?」




「そうですよ。自身のスキルと状態をわかりやすくまとめたものでこの世界では基本的なものです。どうやらシノさんの世界ではそのようなものはないようなので…はい☆」




するとナリハさんは魔法でちょちょいと感覚で水晶と台を取り出しネームプレートのようなものがが水晶台の上に置いてある。魔法すげえ…。何度もいうようだけど




「このステイスフィアの上に手をかざしてください。そうすればシノさんの素養と才能がプレートに自動で刻まれます。それ以降は成長したのでしたらプレートに順次更新されるので持っていてくださいね。なくしても再発行できるので安心してください。まったく、リュミアったらこんなことを忘れているなんて。後でお説教です」




ぷんぷんとかわいらしく怒っているナリハさんになごみながら俺は言われた通りステイスフィアなるものに手をかざす。二次元の世界だからゲーム形式なのかとなかなか面白いシステムだ。そして水晶が輝いた後プレートに何かが書き込まれる。どんなだろうとみてみる。そして俺の横で覗き見るナリハさんは結構体に毒だ。


────────────────────────────────────── 


シノノメ モリアキ 性別♂ 職業 魔法戦士 レベル3


体力 200 


攻撃力 26


防御力 37


魔力─オドー 0 


魔法耐性 96


武装 鉄の防具一式 鉄の槍 魔法触媒


使用魔法 火属性魔法ファイアボム 水属性魔法アクアスプラッシュ




特性 ■■■■■■■■■ ??? 表示できません


スキル 闘呼気 特殊な呼吸法で闘気を放ちステータスを上げる。


マナ経路(パス) オドの代わりにマナを使用する


──────────────────────────────────────


・・・なんというかこの世界ではわからないが俺から見れば平凡なステータスだ。わかり切ってたけど


だが嬉しいことに凡才だと思っていたがスキルの項目があって闘呼気というのは初耳だ。元の世界風に言えば波紋の呼吸のような感じだろう。極めればスタンドが使えそうなんて妄想してみる。だがそんなことを考える前に気になったことが一つ




「ん? 特性の欄が黒く塗りつぶされてるな…?」




「私も初めて見ました…。なんなのでしょうか?」




ナリハさんが知らないことを俺が知っているはずないのでとりあえずこれは保留にしておこう。呪いの類だったら怖いし




「それよりも…魔法耐性がこんなに高いなんてやはりシノさんには魔法の素養がありますね」




「オドがゼロなのにでしょうか…?」


オドがないということは本来魔法が使えないという事だ。どういうことだろうか


「確かにオドがゼロなのはおかしいですねぇ?素養の有無抜きでもレベル3なら最低でも10はあるはずなのですが・・・オドがないのはファイタータイプのスキルである闘呼気の影響なのでしょうがオドがゼロの理由にはならないはず、でもオドなしで魔法が使えてなおかつ魔法耐性がこんなに高いのは不自然ですし、でも現に魔法は扱えているのは…うーん」




ということは本来俺は闘気使いであってまかり間違って才能がないのに魔法を使おうとしているということだ。格闘タイプが魔法使いにジョブチェンジとなかなかシュールなことになっているな




「わからないものはおいておきましょう。どうやっているのかわからないですが魔力は使えるみたいですし」




「そうですわね。あ、私も失念していましたわ。ステータスプレートを知らないならステータスを見る術も知っておかなければですね」




「そんなのあるんですか?」




「はい、それでは試してみてください。やり方は簡単です。ステータスを見たいって思ったら出てきますので」




そういわれてステータスを見ようと思うと画面が切り替わる。視界に映るのはVRの世界で自分の手を見ると自分の状態が表示されてナリハさんの方を見れば彼女のステータスが表示される。すごく便利だ




「凄いですね」




「でもこっちも注意が必要です。隠蔽というステータスを隠す魔法やスキルもあってみるだけでは表示されない異常や能力もあるのでステータスを正確に知りたいのでしたらプレートを持っている方が確実ですわ」




と、ある程度自分のことがわかってきたので魔法を的に当てるという訓練を始めることとなる。


まあ当然ながらリュミアと一緒にいた時のように的外れで明後日の方向に魔法が飛んで行ってしまう。


でもここで心が折れてはこの先生きていけないだろう。何が悪かったか思案する。コツもだがまず魔法を正確に飛ばす方法を知らなければ意味はない。なので




「教えて!先生!!」


「はい!!!」




凄いいい返事で待ってましたと言わんばかりに快活に答えてくれた


勢い余ってジャンプしたのでやはり…動いてしまう…奴が!!反射的に目がそっちに行ってしまい思考だってそっちに向かうので当然




「照れてしまいます♪」




「マジすみません!!!?」




教えてもらっている講師に何て感情を!!?反省!!!




「と、大道芸はこの辺にして脱線してしまいましたねまずは、と。どうしてシノさんの魔法がまっすぐ飛ばないのか、ですね」




いい具合に軌道修正してもらい基本的に魔法とはボールを投げるのとはわけが違うらしく魔法を放つ時点で俺の意思とは関係なく火の玉や水の噴水は自分勝手な動きをしていうことを聞いてくれない。魔法についててんでで知らないことをナリハさんは丁寧に教えてくれる




そして教えてもらった改善点は




1 魔法の動きと癖を知ること


2 変換した魔力の匙加減で威力も勝手も変わる


3 そもそもオドがないので魔力の流れと配分がわからない




と列挙すれば初歩以前の問題だ。オドがあればもっとうまくいくとナリハさんは言っていた。俺の場合は呼吸によって天然のマナを取り込み変換しているために普通の魔力と違うから御するのに手間がかかる。動きを掴み魔力の度合いを理解しマナの魔力の性質を知らねば制御は出来ない。


そもそも動かない的にさえ当たらないのだ。動いている敵に当たるはずもないので相手の動きも把握しなければならない至難の業。結構大変だ


・・・一応、方法らしきものはある。だが魔法を知らない俺がそんなことをしてタダで済む保証はないし最悪死ぬかもしれない。その心を読んだのか




「万一のことがあれば回復魔法とポーションに治療室もあります。でも、おすすめは出来ません。私的にはやめたほうが良いと思います。私もその方法は知らないのでどう作用するか…。ゆっくり魔法を知る方がいいと思います。時間はかかりますが私がついていますし」




そこまでは力になれないので申し訳ないという風に言うナリハさん。でもやっぱり時間かかりそうなので申し訳ないですがお断りさせてもらいます。甘えっぱなしは良くないしなにより






「心配してくださりありがとうございます。まあ当たって砕けろですよ。俺には時間が惜しいので」




誓ったんだ。帰るんだって。そしてリュミアさんを守れる力が欲しいって


心配してくれるナリハさんに感謝し俺はそのやり方を実行に移す。だが砕ける気は毛頭ない


まず周囲のマナを吸収する。そしてそのマナを体外に放出した。そしてすかさず視界を切り替えステータスを見る視点に変える。ステータスで魔力が見れるということは俺が出したマナも視認できるはず


まず見たのはマナと魔力の違い。例えるならマナは水で魔力は血に見える。同じ液体でも成分が違う。同じ液体でも血管に流し込めばどちらの方が負荷がかかるか一目瞭然だ


マナの配分でどれだけの魔力になるか調べる。マナ5パーセントで10パーセントの魔力に変換できると予測。続けて的に当てず試しにファイアボムを放ちその魔力量を目算で計測。必要な魔力は25パーセント。つまりマナが12・5パーセントあればファイアボムは放つことができアクアスプラッシュの魔力量は20パーセントと10パーセントのマナで賄える計算。続いてマナの限界許容量を調べ一度に変換できるマナは37パーセントと中途半端だがファイアボムとアクアスプラッシュは同時に放てることを知る。


ナリハさんと俺の体を見る。ナリハさんに流れるオドの流れは血管を伝い流れている。対して俺の体内にはオドの代わりにマナが流れていた。なるほど…確かにマナの方が活性力が高くその分振れ幅が大きい。だから魔法使いは大気中のマナをオドに変えて駆使するとリュミアが言っていた。そもそもマナそのもので魔法を使うことがおかしいのだ。本来体内に流れるはずのものではないマナを血中に取り込むこと自体が。マナをオドに変える機関は俺にはない。だから…俺なりに発想を転換してみたのだ。そして思いついたのが、闘呼気による気の流れである。闘気もまた血管に流れており使える闘気を操る技術(スキル)を利用してマナを動かしてみたらどうか。すると、思う通りに動いた。闘気をマナに付着させ流れを完全に掌握し


「揺蕩い揺れし原初の叡智よ顕現せしめ舞い踊れ!ファイアボム!」


「さざめき荒れ狂う生命の源泉よ顕現せしめ咲き狂え!アクアスプラッシュ!」




同時に魔法を打ち予測した軌道に向かい魔法は沿ってゆき、正確に火と水は的を射た




「やったぁ!!」


歓喜に震える俺だがそういえば体に異常はと思ったが特に痛むことも疲労感も感じない。よかった。うまくいったようだ。




「おめでとうございます!す、すっごいですシノさん!!」




「ナリハさんの指導のおかげです!!」




「そんなことないです!不確定要素も多くオドのない魔法という未知の領域にシノさんは足を踏み入れたんですから!胸を張っていいと思います!」




俺以上に興奮していらっしゃるナリハさん。喜んでもらうと俺も嬉しい。




「全部ナリハさんのおかげです!ステータス表やステータスを見る術がなかったらできませんでしたよ!本当に今日はありがとうございます!」


お礼を述べ頭を下げる。魔法とはどういうものかマナとオドの魔力の違いを指摘してもらわなければ一生理解できなかったと断言できる。


失敗は前提


ゆっくりじっくりと理解していけば何も問題も危険もなかったかもしれないが…でもそんなに時間がかけられない焦燥が俺にある。リノ、速く会いたい。その思いが今も俺を生かし続けているのだから。それだけが俺が生きる理由なのだから。


まあそれはおいておいて言わなくても良いとわかっていたが俺はナリハさんに言っておきたいことがあった




「それと、リュミアの事怒らないでください。あの人たまにおっちょこちょいなので」


「ふふ、そうしておきますわ」




流石にそれに口を挟まずにはいられなかった。あのリュミアがそんなことを忘れているはずないとわかっていたから俺より彼女を知っているナリハさんなら重々承知だろう。でもやはり彼女をとがめるようなことは俺は嫌だったのでそういってしまう。


リュミアがステータスプレートとステータスビジョン(俺命名)を教えなかったのは俺に自分の素性を割らせない為だろう。リュミアの事情を俺が知るわけにはいかない。


彼女の抱えているものを俺は知らないのだから。背負ってあげたかったが今の俺では力不足で少し悔しい。もっと強くならなきゃなそう決意を固めてリュミアと合流するためナリハさんに別れを告げようとする。


するとその前に彼女はちょいちょいと手を動かし




「サヨナラの前にがんばったシノさんにご褒美です。受け取ってください」




手招きしてご褒美をくれるとナリハさんは言う。なんだろう。新しい魔法道具かな?期待を膨らませて彼女に歩み寄る。すると




「─---------------」




頭を抱き寄せ胸に密着させて俺の体を抱きしめた。突然のことで思考がうまくはたらかない。今何が起こっているのか。ナリハさんはその姿勢のまま俺の頭をなでて




「無理はしないで、強がる必要なんてないわ。あなたはとっても強い子ですから。苦しくて寂しくて泣いたっていいんです。泣かないことは強さではないのですよ。今の私にはこれくらいしかできません。あなたの痛みにはなれません。でも少しでも和らげれば・・・」




よしよしと子供をなだめる母親のようにあたたかいぬくもりが全身に流れ込む




「べ、別に、強がって、なんか・・・」




だが紡いだ言葉がところどころたどたどしく、しどろもどろで嗚咽を漏らしている。気づけば目頭が熱くなっている。


泣いていた。俺は泣いていた。このぬくもりを俺は知らなかった。なんなのだろうと思いながらそれらしい言葉を探している。でもやっぱりそれがなにか分からなかった




「愛ですよ。あなたは愛されているんです。今もそしてこれからもあなたは愛され続ける。一人じゃないですよ。この先もずっと…」




愛・・・愛?愛される?俺が?よくわからなくてこわくていごこちがよくてこれいじょうこのままでいたらずっとはなれたくなくてそれがそれがただただこわくて…そう思っていると強くナリハさんは俺の頭を強い力でうずくめて




「大丈夫。安心してください。いなくなったりしませんよ。また会いに来てください。あなたが来ることを心待ちにしていますから」




満面の笑みでそういうのだからその言葉にすがっていたいと思う心が俺を弱くする気がした。でもそれでもいい。


怖くなんかない。この抱擁は恐れるべきものじゃない。ただ素直にこの瞬間をかみしめた。それから十分くらいたって




「・・・もう大丈夫です」


「そうですか?まだこのままでも」


「大丈夫です…本当に」




放す体に口惜しさを感じながらもこれ以上は依存につながりそうで自分から離れてゆく。


手で涙をぬぐう。泣いたのはいつぶりだろう。まるで遠い昔の出来事のようで覚えていない


不思議と心がお湯で満たされたようにあたたかく今まで死んでいたように産声を上げた気がした




「・・・ありがとうございます」




本当に、ただそれだけしか言葉が見つからなかった。無機質な体に血が通うようにあたたかいこの気持ちはなによりもまさるものだとわかった




「良いんですよ。いつでもハグしちゃいますからまた来てくださいね☆」


「はい…絶対に」




決意を胸にそう約束した。ありがとうナリハさん。おかげで元気が出ました。


ほんとうに…ありがとう。そう口にする前に




「そーいえばですねー」


「?」




いたずらな笑みで満足そうに笑いながら




「私の胸ってリュミアより柔らかかったみたいですね☆」


「ぶふゥゥゥゥゥゥううううう!!!!???」




シリアスな雰囲気をぶち壊すかのようにトンデモ発言をするナリハさん。突然のことで噴き出す俺。そんなこと考えてなかったと思うけど無意識にそんなやましいこと考えてたのか俺はー!?というか流石にこれはよろしくないですよ!俺もね!!




「プライバシーの侵害とデリカシーの欠如を言い渡します!!女性がそんなこと言ってはいけません!もう心を読まないでくださいッ!!そんなこと考えた俺にも非はありますけど!!」




「あ、怒りましたねぇ!そうでなくては。感情は素直に出したほうが良いですからね☆それにしてもーリュミアも胸をもませるなんてダイタンねぇ。でも大きさは私の方が上ってわかったから良いかな」




「だーかーらー!!そんなこと言ってはダメですって!!!」


そんな漫才を繰り広げながら魔導院を出て見送るナリハさんに手を振って別れを告げた。


あの抱擁がこれからの俺の心の支えとなってくれると信じて

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