第3話 褐色魔女との出会い

背後に回られた。厳かな声だが声音からして女の人だ。背中に何か突きつけられている感覚、多分刃物だろう。殺気というのは感じたことはないが彼女からそういうものが皮膚で感じ取れ汗がにじむ。・・・今俺に出来るのは動かないことくらいだ。一応柔道は昔習っていたがここは未知の異世界で俺は貧弱な人間。勝ち目はない…。




と、なにやら俺の体をさわっている。ボディーチェックの様にまさぐられ一通りさわり終え。




 




「丸腰、 やつらにしては気配が弱い…。貴様、何奴だ!」




 




明らかな恫喝、なにいってるかよくわからないがどうやら誰かと勘違いをしてなさっている。身の潔白を証明するために。やるしかない。あの秘伝の技を…意を決して、俺は敢行する。




 




「すみません許してください僕は東雲森秋で何もしない人畜無害の平和主義で菜食主義じゃないけど敵じゃありません!!」




 




早口で命乞いをし土下座。相手は後ろにいるがその場でしゃがみ込み土下座した。異世界で通じるか分からないが敵対の意思を見せない姿で多分通じるだろう。




するとその行動にあっけにとられたのか彼女は特に何もせず呆然と立っている。・・・今の内に逃げようと思ったが




 




「・・・どうやら、奴らでないようだな。こちらこそ済まぬ、わらわの勘違いであった。無礼を詫びる。」




 




殺気も消え持っていたナイフもしまいフードを上げ顔を見せ彼女は謝罪する。良かった、本当に誤解だったようだ。




褐色の肌に赤髪の少女は多分歳は俺と同じか少し上か、改めてみるとすごく美人だ。二次元補正もあってか萌えを感じる。と、そういえば言葉が通じるのか。彼女の声も日本語に聞こえる。どうやらここに来た際に何か俺に施されたのか分からないが二次元に見えたりや言語など便利な機能をつけてくれたらしい。─それがなんなのかは分からないが




 




「誤解が解けてなによりです…。それでは」




 




さっさとその場を立ち去る。危なかった、とりあえず難を逃れたと思ったが




 




「待たぬか。みたところおぬし、路頭に迷っている様子。武具どころか金銭もなく一人でいるのは危険であろう」




 




 




制止する様に俺を呼び止める。確かに、それはそうだ、気が付けばもうすぐ日が落ちそうだ。明かりもないなか一人でいるのは危険すぎる。だけどそれって…




 




「それって、俺と一緒にいるってことですか?」




「無論だ」




 




臆面も屈託もない表情で彼女は言う。え、マジで?・・・本当に俺はついている。結構現実ってよくできてるなと思ったが。




 




「いえ、俺なら大丈夫です。なのでお気持ちだけ受け取っておきます」




「・・・え?いや、待たぬかっ!!なぜ断る!!」




 




そういって俺は立ち去ろうとするも彼女は素っ頓狂な声を上げながら呼び止める。せっかくのありがたい親切。だが出来ない、彼女の親切に応えることはできない。なぜなら…




 




「俺には大切な人がいます。なので浮気になります」




「なあッ!!」




 




 




そう、俺にはリノたんがいる。たとえ彼女がどれだけ美人で美麗で容姿端麗で才色兼備であろうとも俺はリノたんに愛をささげた身、浮気などもってのほかである。そんな発言に彼女は顔を朱に染めて




 




「・・・う、浮気は、少し飛躍し過ぎではないか…」




 




・・・確かにそうだ。出会って早々の女性にいきなり浮気などとおかしなことを言ってしまった。二次元補正があれど彼女は現実、久しぶりの人との会話で言葉を間違えてしまうので訂正する




 




 




「間違えました。俺には大切な人がいます。なので貴女といると浮気してしまいそうです」




「それはただ口説いているだけではないかッ!!」




 




赤面して声高に叫ぶ彼女。だって仕方ないじゃないですか。透き通るようなほどきれいな赤髪に褐色の肌。それに加えて親切にしてもらうとなると純情ハートが射抜かれそうになる。ああ、雑念を振り払え…俺にはリノたんがいる、リノたんがいる。




 




 




そんなことをしているうちに周囲は暗くなる。月の光が差しそこまで暗くはないが・・・。




 




獣が叫ぶ声が聞こえた気がした。茂みから何かが動いたような気がした。恐怖か寒さか怖気が走る。そんな俺の様子を見て彼女は勝ち誇った笑みを浮かべる。頼っても良いんじゃよと言わんばかりの顔で。・・・仕方がない




 




「やっぱり、お言葉に甘えさせていただきます」




「うむ!その方が得策であるぞ!」




 




満面の笑みを浮かべる彼女と一緒に行動することにした。




 




とりあえず野営のために俺は枯れ葉や渇いた枝などをかき集め一か所に集めた後彼女は魔術の呪文を唱え火を起こした。すげえと素直に俺は感服し。パチパチと焼ける焚火に囲いながら彼女と俺は話をしていた




 




「なるほど、別の世界からのう。やはりそうか、別段珍しい話ではないぞ。おぬしと似たような装束の者が現れることは風のうわさであるが最近よく耳にする」




「良かった。他にもいらっしゃるんですね」




 




それを聞いて安堵した。俺だけじゃないのか。それなら別世界の人用の措置とか確立されている可能性もあり得るし異世界転生や異世界転移も事実だと裏付けられる。帰還できる可能性もあり光明が見えてきた




 




「そのものらは料理など独自の文化を持っておる人がいての、一段と飯が美味くなったという点ではなかなか面白い連中だ。あまり増えすぎると治安などに支障が出て困るがの・・・」




 




「ただの凡人です。言葉とかは喋れるようですがそういうのはあまり・・・」




 




「ふむ、読み書きができると。それはそれでかなりの才覚ぞ」




 




「ありがとうございます」




 




 




俺を呼んだなにかがその力を俺に授けた。だがそれ以外はこれといって力とかも湧かないし力を持つ人にとって雑魚といえる魔獣相手でも俺はすぐに殺されてしまうだろう。




今俺が生きているのはすべて運だ。幸運がなければ俺は今ここにいなかっただろう。運がなければ、この人とも会えていなかったし。そしてはたと気が付いたのか彼女は




 




「そういえば自己紹介がまだであったな。わらわはリュミア、・・・おぬしはたしか、シノノメ、と言っていたな?うーむ、発音が難しいゆえシノと呼んでも構わぬか?」




 




「良いですね、とてもかっこいいです」




 




そういえば俺も自己紹介していなかった。というかリュミアさんの名前からしてやはり本名が先らしい。東雲は苗字だがシノは確かにかっこいいのでここではそう名乗ろう。と、おなかがすいたので採ってきた果実を取り出し食べる。空腹のせいかすごくうまい。そういえばこれって食べても大丈夫なのだろうか。不安をあおるようにけげんな表情でリュミアさんは俺の持っている果実を見つめている




 




「シノ。その果実。どこで手に入れた?」




「え?、えーと、森に生えていた木の実です。どうしました?」




 




まさか毒のあるものじゃと思ったがリュミアさんは果実を手に取り鑑定する様に見ている。そして




 




「シノ。この果実、わらわも見たことがない。味も…美味であるし青果として売れば金になるやもしれぬ。もうひとつ良いか」




 




冷静な口調であるものの果実をなめた後リュミアさんの声が弾んでいる。微笑ましいほど甘いものが好きなのがわかる。・・・お金か、そういえばそうだ。どこであろうと金がなければ話にならない。だが数量は微々たるもの。というか勝手にリュミアさんがひとつ食べてるし。売るのは無理だとして、どこかお金を手に入れる方法はないものか。




 




 




 




「ですがその森は結構遠くて、親切なドラゴンに送ってもらった後ここに来たのでどこにあるのかわかりません」




「ぶッ!ド、ドラゴンッ!??ドラゴンとはッ!あのドラゴンかぁっ!??」




 




 




食べている果実を噴き出し驚愕しながらリュミアさんは言う。多分世間一般で知られているそのドラゴンだと思うけど異世界なら珍しくないと思ったが違うのか。たぶんリュミアさんは大人のドラゴンを想像しているので補足の説明をする




 




「あ、でも子どものドラゴンでおとなしい子だったので危なくはなかったですよ」




 




「・・・どうやら、冗談ではないようだな・・・。本当にドラゴンに乗ってここまで来たのか…」




 




いまだに信じられないという表情で俺を見つめる。だが俺の表情で嘘ではないと信じたのかリュミアさんはこの世界のドラゴンについて説明した




 




「不思議なこともあるもんだのう…。シノの世界は知らぬがこの世界のドラゴンは基本的に狂暴でな。子も然り。警戒心が強くどう猛で我々にとっては脅威で遭遇すれば大抵は殺されるものだ。熟練の戦士でさえてこずるものよ。だがまあドラゴンライダーの乗る育成したドラゴンは例外であるが…。シノの遭遇したのは多分天然のドラゴンであるはず…。ドラゴンがそのようなことを…興味深いのう…」




 




あごに手を置きなにやら思案するリュミアさん。ということは本当に俺って運がよかったんだな…。もしリュノアさんの言うドラゴンなら俺は真っ先に殺されていただろう。それかたとえ子であっても殺されているし親連れであったら消し炭だろうとぞっとする。




 




すると、疲れがたまっていたのか睡魔が襲ってくる。深夜は大体起きているが今日はいつになく活動したからその反動だろう。そして釣られるようにリュノアさんも




 




「まあ、後のことは明日考えようかのう。シノの顔を見ていたらわらわも眠くなってきたわい。ふわぁ~っ」




 




かわいらしいあくびをし横になるリュミアさん。おやすみなさい。俺も横たえ眠った。今日はいろいろあった。思い返し思うのは…。リノのことだ。あれからどうなったのだろう。・・・とりあえずは生きて帰ることだ。




 




「リノ…絶対返るからな」




 




そう心に誓いながら俺はまぶたを閉じた。




――――――――――――――――――――――――――――


少女は泣いていた。少女は泣いていた。しくしくしくしく泣きじゃくる。どうして私は一人なの




私の心は埋まらない。私の孤独は埋まらない。運命の人がいるのなら、私を迎えにきてくださいな




少女は歌う。言葉を紡ぐ。悲哀に満ちた哀悼歌、誰に捧ぐかひたすら祈る




――――――――――――――――――――――――――




目が覚めた。何か夢を見ていた気がするがきれいさっぱり忘れている。大したことじゃないと思い背筋を伸ばし体をほぐす。言い朝だ、快晴で雲一つない青空が広がっている。・・・まだ生きている。気を引き締め、とりあえず何をすべきか考える。だが




 




「ん・・・、むにゃむにゃぁ~、シノぉ、それはわらわのぉ・・・むちゃむにゃ・・・」




 




と、気が抜けるような寝言を言いまだ眠っているリュノアさん。なんというか、警戒心ゼロだなと微笑んでしまう。それは俺に心を許している証拠だ。でなければこんな姿をさらしはしない。




 




「まったく、たった一日いただけなのに・・・」




 




それは彼女は優しい人間だからであろう。だから、俺もこの人の恩に報いなければ。お世話になりっぱなしというのも性に合わないし。とりあえずリュノアさんが起きるまで周囲を散策することにした。




 




「お、枝発見。小学生の頃はこれで遊んでたな」




 




散策中に俺は長い枝が折れているのを見つけた。手に取り護身術を習っていたので一応棒術もかじっている程度であったが無駄な枝を足を使って折り、雑なつくりではあるものの丈夫そうで武器にはなりそうだ




 




師範に習った通りの動きで仮想敵を思い浮かべながら棒を振り回す。腕はさび付いていたものの体は覚えていたようで、すぐに昔の様に動きを思い出す。重心を前に体幹を安定させる、何通りかの攻撃をイメージし対処、相手の足を薙ぎ払い、相手の急所を刺突する。急所を狙うのは普通ならに駄目であるがここは異世界。得体のしれない怪物には対処できないものの人間相手ならまだ戦えそうだ。ある程生き残るには嫌であるが殺生は免れないだろう。殺すのは好きではないが否応はない。・・・とりあえず異世界いる間は体を鍛えて鍛錬をしておこう。と、いつの間にかその光景をリュノアさんが見ていた。




先ほどの光景をいつみていたのか気づかなかったがとても恥ずかしい。だがリュミアさんは感服したように拍手をする




 




「シノ、ぬしはただに非力な凡人だと思っていたが武術の心得があったのか。多少荒はあるものの鍛えれば戦士として見込みがありそうじゃな。思いついたのだが金銭を稼ぐ方法としてギルドがある、行ってみぬか?」




 




ギルド。多分モンハンの様な様々な依頼を受け報酬をもらうというやつか。さすがリュミアさん。だが俺程度が倒せるモンスターなどいるのだろうか。ぶっちゃけ、殺すのは好きではないし




 




「でも、俺なんかがモンスターを倒せるとは思えません」




 




「知っておる。だからわらわがついておるではないか!こう見えてもわらわはか弱き淑女ではないゆえ」




 




えっへんと胸をたたく仕草に自身満々なのが伝わってくる。




焚火の時に見せてくれた火の魔法を見る限りリュミアさんは魔法使いなのかもしれない。




そういえば、俺はリュミアさんのことを何も知らないな。昨晩の会話でも特にリュミアさんに関することは聞いてない。




それはなんとなく、聞いてはいけない気がしたのだ。素性を隠すような外套をはおるリュミアさんは何か詮索してはいけない何かがあるようで言及も追及もしないようにしていた。




俺を襲った理由だって聞いてない。だが、これだけは聞きたかった




 




「・・・どうして、そこまで俺に親切にしてくれるんです?」




 




「・・・む?」




 




当然の疑問だ。別にリュミアさんを疑っているわけではない。




ただ俺にしてくれていることはどう考えてもリュミアさんの利益になり得るものではない。




それも見ず知らずの一般人で脆弱な俺に対してだ。異世界人の事は快く思っていないのはわかっているからよけい聞きたかった。




どうしてそこまで…。




するとリュミアさんは空を仰ぎ見やり思案する。




その様子は、まるで確かになぜここまでするのかというのをはたと気づいたような感じだ。するとリュミアさんは思いつき気恥ずかしそうに頬を描きながら




 




「・・・なんというかな、放っておけない感じがしたのだ。本来なら他人に関心を持たぬのだがおぬしは…、わらわと、似ているのだ。どこかはわからぬ。だが、なんとなく、の」




 




憐憫や同情ではない。お互いにある共通項。それが俺に親切にしてくれる理由…。なんとなくそれは分かる気がした。




 




「まあ、深くとらえずとも余計なおせっかいとだけいっておこうかのう。あのままではシノが垂れ死ぬのは目に見えておるゆえ、そうなれば寝覚めが悪いのでな」




 




 




冗談交じりに真面目な話をごまかすようにリュミアさんは言う。確かに、リュミアさんがいなければ俺はどうなっていたか…。もしかしたら、俺を彼女と引き合わせるためにニュートは俺をここに連れてきたのか…。なんというか、俺って本当に助けられてばかりだ。




 




「そうですね、リュミアさんがいてくれて良かったです。本当にありがとうございます」




 




「わらわに感謝せよ。だがシノ、今のは少しおぬしを小ばかにしておったのだぞ?怒らぬのか?」




 




「いや、本当にその通りなので反論なんてできませんよ」




 




「・・・少し、天然なのかの?まあよい、それより街まで先は長い。シノ、準備をを済ませたのち旅立つとしようぞ」




 




「はい」




 




そうして俺たちは朝食を食べたのちリュノアさんと俺は歩みを進めた。数十分歩きリュミアさんはこの付近に詳しくすぐに湖を発見し水を確保する。彼女はは不思議な人だ。魔法使いであるためか不思議なものを持っている。例えば水をすくうときに使用した珍奇な魔法瓶。興味本位で尋ねてみる




 




「これか?これはドワーフが鋳造し水の精霊の加護を施した瓶であり名はチューワイデン。どの様な汚水でも純水に変えるろ過の瓶だな。ここの水は大丈夫であろうがわらわはこうして飲むのが好きでな」




 




水魔法があれば大丈夫じゃないんですかと聞いたが魔法は魔力を消耗するので必要最低限しか使用しないと返答した。それと




「魔法の水はおすすめできぬ。なにせ魔力を帯びているゆえのどを通るようにはできておらぬ。・・・しばし身を清める。覗くでないぞ」




 




そしてその後彼女は体を清める為衣服を脱ぎ俺は急いでその場を去る。数十分後




 




「ふう、やはり行水は欠かせぬな。シノ、おぬしもどうだ?」




衣服に着替え終わった後そう勧めるリュミアさん。・・・そういえば体を洗うことはあまりなかったな




リュミアさんに不潔と思われたくないので俺も湖で体を洗う。すると




見ていた。隠そうともせずリュミアさんは裸の俺を見ていた。・・・ええぇ




当たり前だが恥ずかしくて死にたくなる。体を両手で隠しながら赤面になる




「・・・ふーむ、なかなかいい体つきをしておるなシノ。もう少し鍛えれば戦士になれるな」




「いや、何覗いてるんですか!!男だからと言って見ちゃだめですよ!!!」




「いいではないか!眼福であるぞ!!」




だが恩人であるため反論はできずすぐにそそくさと着替える。はあ、ろくに体を洗えなかった・・・裸も見られたしお嫁にいけない・・・




 




当然俺はふてくされていた。なにやら反省していたリュミアさんが何か言っているが聞く耳は持たない。




「すまぬシノ!!なんというか・・・いい体をしていたのでな。顔豹も良く背丈も高く顔も良いのなら覗かぬわけにはいかなくてな・・・てへへ」




お世辞なら結構。俺はそんな大層なもんじゃないと自覚しているし運動不足の俺がそんな体なわけがないのは目に見えている




だがリュミアさんは恩人だ。これくらいなら許してもいいだろう




「わかりましたよ。でも次はないと思ってくださいね」




「シノは優しいのう。まあそのお礼と言ってはなんだが・・・ひとつ魔法を教えようぞ」




マジか・・・!魔法を教えてくれるなら裸体のひとつやふたつ問題ではない。なので早速教えてもらうことにした






「魔法とはな。生来持つオドと自然界のマナの二つにわかれておるでな。シノは悪いがオドを持っているとは思えぬ。だからこの世界の理からマナを得て魔法を発現させる。まあ、基本的にオドを使用する魔法使いはそうそうおらぬから安心せよ」




するとリュミアさんは杖の様なものを俺に渡す。多分それは触媒だろう、何の素養もない俺が何もなしに魔法が使えるはずもない。




「これを使うといい。消耗品の杖であるが多少の魔法が使え安価で買える代物だ。値が張るものは高度な魔法が使えるが消耗が激しいゆえよほどの上級魔具でない限りはこれを多数所有する。使って見よ」




といわれてもリュミアさんにはなじみがあるモノでも俺にとっては未知の領域だ。なのでまずどうやれば魔法が使えるか全くわからない。それを失念していたリュミアさんはそのことに気づき頭を小突く




「おっと、まずは魔法の術式から教えねばならなかったな、失敬。まずは大気と同調せよ。そう難しいものではない。そよぐ風、地面の温度、群生する草木、太陽のぬくもり、とここまで感じれば上等だろう。森羅万象のエネルギーを肌で感じ一体となりそこから魔法は生まれる。そこからシノは言霊を読み取りそれを具現化し魔法は初めて現実に解き放たれる。言霊、これが一番大事だ。魔法は言葉によって紡がれるものだからの」




・・・それってめちゃくちゃ難しいじゃないですかヤダー!考えるな感じろ精神ってことでおk?それは俺には到底無理な所業だ。半ばあきらめ気味だがこれからの生活に必要不可欠でありここでリュミアさんに恥をかかせるわけにはいかない。一泊呼吸をおき・・・さきほどリュミアさんの言っていたことを実践する。大気との同調。まったく経験がないからできる自信はないが心を無に、肌に感じるものを吸収するように身を任せた。すると、脳内に情報が流れ込んだ。感じる総てが情報となりそして俺は、




≪-奏で紡ぎ寿ぎ祝賀せよ永久の調べよ。その歌は呪言か呪詛か祈祷か祈願か表裏の理に無謬も誤謬もあらず。生と死は円環であり獣は肉を喰らいやがて朽ち果て土へ還らん。そして更なる命萌ゆり産声あげん。ゆえに我は問わん。この世界は残酷だ、流血なくして歴史あらず。されどそれよりて連綿と紡がれ歴史は命の系譜となる。残酷なくして美しさはなく醜悪を見ず美麗を求むるならば汝永久に目を閉じよ。清濁併せ呑め。それこそこの世界の証とならん。されば死と再生の輪廻の許我は告げる。‐喰らい貪り血肉を求めよ。そして新たな命を汝は産まん。積み上げ崇め奉れ人骨の柱。闘争と平和は犠牲なくして成り立たぬゆえ、殺(いか)せ殺(いか)せ命の輝き。その灯消えるまで────死の山土となり血の河のどを潤さん…!生きろ、そして死にたまえ…!!現れよ、骸海之骨頂(バベルボーン)!!≫




瞬間、ガキッ、と何かがはじける音がした。なんだろう?視界が真っ赤で黒くて目から口からおびただしい血が…




「・・・!?し、シノォォォォ!!!」




視界暗転。だが黒く染まった視界が突如として切り替わりなぜか女の子が見えた気がした




その娘はしくしくと泣いていた。孤独と寂寥が彼女を苛んでいた。たった一人、誰かを求めているようだ。それがだれか分からない。だがそれこそ彼女の孤独を埋めるものだとわかった




 陽の光が瞼に差し込み瞼の上は光によって赤く染まりまばゆいそれが眼球を刺激し眠気と光に耐え切れず目を開けた。すると眼前には涙をこらえたリュミアさんが映りこんでいる。そして今自分はあおむけになり倒れていることに気が付いた。どうやら俺は倒れていたらしい。上半身だけ起き上がりケガがないか確認。痛みはないが脳みそがぐちゃぐちゃに攪拌されたようにシェイクされている。そして心配しているリュミアさんに大丈夫と告げ胸をなでおろさせた。だがいまだに彼女は苦悶の表情を浮かべておりした唇をかんでいた。どうやら自分のしたことに自責の念を感じているだろう。気にしなくていいと声を掛けたかったがそういえば彼女にとって余計負担になるだろうと思い立ち上がって心配させまいと気丈にふるまった。これはリュミアさんのせいではない。それだけは俺は知っているし勝手な呪文を使ったのだから俺のせいだ。悲しみを含んだ表情を浮かべながらリュミアさんは言う




「・・・目が覚めたか?…驚いたぞ。初めて聞く魔法に直前にシノが血まみれになったのでな。幸い外傷はなく出血がひどかったが治癒魔法でどうにかできたのが幸いだ。血の補給はさきにわらわが捕まえた鹿と魚で補えよう…。すまなかった、シノ…」




リュミアさんの慙愧忸怩を含んだ謝罪に俺は




「いえ!それより俺が魔法が使えたのが驚きです。教えてくださってありがとうございます。リュミアさんのおかげで五体満足なので結果オーライですよ」




「いや、わらわのせいだ。魔法を知らぬシノに魔法を使えと無理を言ったわらわが悪い。まさか使えるとは思わなんだが…。どこで習ったその魔法は?わかるのはあの魔法は二度と使わないほうが良いということだ。発動はしていなかったが禁呪の類にも見えたからもし実現していればまずいことになったということはわかる。本当にすまなかった…」




あまりにも自責の念に駆られているリュミアさんを見て俺はジョークを言う。そうすれば少しは雰囲気が和むだろう




「なら、胸を触らせてくれたら許しますよ。一目見た時からリュミアさんのおっぱい気になってたんですよ。はっはっは!」




すると、リュミアさんは急に俺の両手を掴み強引に自身の胸に俺の手を触れさせた。まさぐらせるように、揉みしだくように俺の手を動かし豊満な胸の感触を余すことなく手に通う神経に刺激が伝わり血流が熱くほとばしる感覚が流れ込む




・・・は…い?




唐突のことで思考がまとまらない。暖かい感触と柔らかい受肉、乳房が俺の手に万番なくその感触が伝わってくる。布越しでさえこのインパクトだ。じかに触れればどんな感触か。そんな下劣な思考を振り切り俺は胸から手を放す。




「な、な、な。何をしているんですか!??リュミアさん!?」




赤面しながらリュミアさんに訳を聞く。やはり恥ずかしかったのかリュミアさんも顔を赤らめながら




「何とは、わらわはシノに重傷を負わせたせめてものシノの償いの為に…わが乳房を差し出しただけ…。・・・もしかしてわらわの胸では不足だったかの…」




最期の言葉で償いにならないということにショックを受けたのか自身の乳房ではシノを満足させられなかった無力さを悔やむようにつぶやいた




そんなこともちろんあるわけがないしむしろ童貞の俺としては初めて触った胸がここまで極上だとはこの人生で経験することは絶対にない体験をしてむしろ血まみれの時より衝撃的だった。たわわで豊満な乳房に触れて喜んでいいのか罪悪感を感じればいいのか混乱する中




「そんなことないですよ!それよりも!ちょっと会った俺なんかにリュミアさんの肌を触れさせるなんていけませんよ!触った手前こういうのもなんですけど!!もう少し自分の体を心配してください。リュミアさんは魅力的な女性ですから俺なんかが触れていいものじゃないですから!!」




「‐‐‐‐‐‐ッ!?」




当たり前だ。会ったばかりの女性の肌に肌に触れるなんて、ましてや恩人であるリュミアさんにこんなことしていいはずがない。だがここで謝ったらせっかくここまでして償ったリュミアさんの行為を無碍にすると思い口にはしなかった。そしてそういった瞬間、リュミアさんはさらに顔を赤くする。さきほどの行為を恥じたのだろう。羞恥心は大事だ。リュミアさんとは仲間としていたい。そう思った発言だったが




「…おぬしだからやったのだ、バカ者…」




小声でぼそりと何か口走るリュミアさん。よく聞こえなかったがこれ以上こんなことはしてほしくない。リュミアさんは素敵な女性だ。俺なんかよりもっといいひとにこういうことをして上げるべきだ。言ってて悲しくなるが事実だ。




「でも、ありがとうございます…。リュミアさんの厚意嬉しかったです。俺なんかにここまでしてくれるなんて」




「・・・ふ、ここまでしなくては釣り合いが取れんだろう。感謝するのだな、わらわの胸を触ったのはおぬしが…いや!何でもない!!聞かなかったことにせよ!!!」




やっぱりリュミアさんはすごい人だ。俺のせいでけがをしたにもかかわらず見知らぬ人に体を触れさせるなんて誠意のある人。正直この人に出会えて幸運だったと思う東雲だった






しばらく歩いたのちに街が見えてきた。そしてその街には見覚えがある。ニュートに乗ったときに見かけた街だ。




広場には女神の石像に噴水に石畳の道。建物は大きなレンガの家。石造りの建造物が立ち並び往来には様々な商品を売っている出店に色々な種族が行きかいにぎわう人々を見るとまるで映画の世界のようで改めて異世界に来たと実感する。そんな俺のさまを見てリュミアさんは連れてきたかいがあったというように笑みを浮かべた。正直、きゅんと来た。まずいまずい…リノたんリノたん…。これでは元の世界に変える気持ちが揺らいでしまう。マジでちょろいな俺と思いながら今回この町に来たのは物見遊山や観光の為ではない。




 




ギルド、つまり依頼をこなして賃金を稼ぐという生活に関わる仕事。一応バイトとかはしていたがほとんど親の送金だよりで生活していた俺は不安を覚えた。一抹どころではない、めちゃくちゃにだ。さらに自堕落な生活をしていた不登校の引きこもりの俺にそんなコトができるはずがない。ましてや異世界だ。普通の仕事より過酷なのは自明の理。討伐や駆除依頼なら命懸けであろう。まあ当たり前だがそんなのムリなので薬草採取などの簡単な依頼を受けるしかないのが現状。依頼に伴う経費は心苦しいがリュミアさんが払ってくれる。いつかある程度稼いだら返さなければ。そう思い目移りする出店を横目に『フェルボルド』という看板のある少し年季が入っているのかボロの入ったギルド施設の扉を俺たちは開けるのであった。そして待ち受けていたのは




 




当たり前だが。そんな場所が殺伐としていないはずもなく。入った瞬間椅子に座って酒をあおっている屈強な男たちや明らかに強そうな雰囲気を持つ女性。所々に古傷を負っている怖そうな方々の視線が俺たちに向けられる。あ、これ場違いやん。喧嘩吹っ掛けられたら死ぬパティーンやコレ。というかもう一瞥程度の視線でさえ生きた心地がしない。心臓の鼓動で内臓が飛び出そうな錯覚に陥りながらも堂々とリュミアさんは受付嬢のような人の所へ行き依頼の話をしている。近くにいても内容がまったく入ってこない。俺の姿を見るやクスクス笑う傭兵かハンターの方々。当たり前だ。俺みたいなのがいていい場所じゃないし簡単な依頼で死ぬんじゃないかとかそう考えながら笑っているのだろう。まあどうみてもヒョロガリのガキだし周りの人たちは素人目でも歴戦であることが俺にもわかる。やっぱ入る場所間違えたんじゃなかろうか?ここは超難易度の依頼をこなす熟練者が集うギルドで初心者コースでは絶対ない。採取や雑魚モンスター狩りとかそんなのないってわかるほど雰囲気は陰惨としているというかなんか暗い!笑い声はすぐにやみ、そしてそれ以外は浮かれて笑っている人は皆無。さらに極めつけに沈黙で息苦しい!もうここから出て行って逃げ出したいのだが依頼の受領が終わったリュミアさんが近づいてくる。そして依頼の紙を俺の前に突きつけた。そこには…




 




「・・・何です?これ?」




 




内容を見て絶句しかけた俺は上ずりながらリュミアさんに問いかける。その態度はまるでおかしな依頼でも受けたのかと首をかしげているような挙動だ。上にクエスチョンマークが浮かんでいるのは気のせいだろうか




 




「何とは?見ての通り今回の依頼だ?初陣を飾るのにうってつけであろう?」




 




ういじん?と採取クエだと思っておりもしかして俺の聞き間違いか見間違いだと思い目をこすってもう一度依頼書を凝視する。だが残念なことに見間違いではなかった。




 




「・・・疾駆狼ヴァルド討伐依頼…報酬20シルバー。・・・コレハナンデショウカ?」




 




「うむ、わらわたちの実力に申し分ない相手だ。それに20シルバーあればしばらくは食べていけるぞ!それに20シルバーとは一頭に付き、だ。今回は五頭いるゆえ100シルバー。ふ、良い依頼を受けたものだ…」




 




流石わらわといわんばかりに胸を張り誇らしげにどや顔をするリュミアさん。うん、リュミアさんなら大丈夫だろう。下手すりゃ俺は死ぬけどね。嬉々としているリュミアさんを見て反論しにくい…!!行き先不安ながら俺はその依頼を受けることにした。ごめんリノ、多分帰れねえわ(諦念)




 




 




 




そして幌馬車に乗り目的地まで案内される俺たち。そういえばこの世界の文字読めたけど書けるかな?遺書書くときは別に日本語でもいいか。そうげんなりしている俺にリュミアさんは




 




「どうしたシノ?馬車酔いか?気分がすぐれないようだが・・・」




 




「いえ、今日はいい天気だなと思いまして…死ぬにはいい日かも」




 と冗談とも本気とも取れない応対をする。それを察してか。というかもっと早く察して!??




「む、もしかして怖いのかシノ?案ずるなといったであろう。わらわがついて居るしなにより防具も武器ももらったであろう?ここのギルドは装備を無償で支給してくれるから財布にも優しくわらわも世話になった行きつけだ。今回はコネもあってミラがいい依頼を持ってきてくれてな。非常に僥倖であるぞ」




 




杞憂であってほしい。実はあまり強くないモンスターですようにと願ったがハンターの皆さんが、あのいかつくて怖そうな方々が俺に同情の視線を送ってくれたおかげでやばいと確信してしまったのである




 




ちなみにミラさんとは受付嬢のお姉さんで同行する俺を見てこっそりと「生きて帰ってくることをお祈りします…」と耳打ちしてくれた優しい人だ。そして俺を案じてやめたほうが良いといわなかった辺りリュミアさんの実力が本物かそれともリュミアさんって逆らったら怖いタイプで結構なご身分の方なのか分からないが前者であろうと俺が死なない保証はないし俺を守りながら戦うのは苦であろう。だから尋ねずにはいられない




 




「・・・なぜ俺を誘ったのでしょうかリュミア様?」



どう考えても足手まといである俺を連れていく理由がない。その旨を伝えようとすると

 




「急に仰々しいぞシノ?それと敬語も敬称もよさぬか。もうわらわたちは仲間であろう?死線を潜り抜ける友としてな」




 




ニカッと笑みを浮かべるリュミアさん。いや、質問に答えてください。というか死線超えるほどやばいのねやっぱ




 




「まあ、本当のところはわらわ一人でもいいのだがそれではシノのメンツに傷をつけるであろう?女に稼がせるのは男として屈辱であろうし。それと…」




 




「それと…?」




 




「・・・実は、パーティーを組むのはシノが初めてでな。浮かれてしまったのだはっはっは!」




 




恥ずかしながらと口に手をおさえ照れ臭そうに笑うリュミアさん。・・・でも、それまでリュミアさんは一人で依頼をこなしていたのか。意外だ、実力もあって美人なリュミアさんなら誰だって誘いが来るはず。だがそれについては触れないようにした。何か事情がありそうだし




 




それに俺も男だ。腹をくくって挑むしかない。ここで死ぬか飢えて死ぬかとそれだけのこと。だが正直怖い。こわもてハンターさんたちでさえあんな目をしていたんだからそうとうやばいはず。とりあえず、リュミアさんを信じよう。




到着。そそくさと目的地に着いたやいなや馬車は駆け足で避難してゆく。お疲れ様です。生きていたらまたお会いしましょう。




 




「・・・良し」




 




呼吸を整え緊張をほぐしはちきれそうな心臓の鼓動を緩やかに、血流の加速を安定させる。




 




ずぶの素人であるが死にたくない一心で死に物狂いで頑張れば多分大丈夫だろう…大丈夫…




 




まずはいつ狙われるか分からないのであらかじめ武装して移動しよう。背中に携えた槍を構え左手に盾を持ち神経を研ぎ澄まし慎重に行動




 




「おおおおおおォォォォォォォオオオォオォォォォォォォい!!わらわたちはここだ!!かかってこい犬どもォッッッッ!!!!」




 




「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッッッッッ!!!!!!!!!!!お前ぇ、何してんだァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!?????」




 




突如大声で挑発し居場所を伝えるリュミアさんに思わず素で突っ込んでしまう俺。何してんの!?バカなの!?死ぬの!??俺がいること忘れてない!!???




 




「ふ、時間の節約だ。人の一生は短い。ならば迅速に終わらせるのが妥当であろう?それとお前とは…いうようになったのうシノ♡」




 




どや顔で決まったといわんばかりに決めセリフを言うリュミア。はいもうだめ俺の限界来ましたー。




 




「じゃあ言うけどリュミアのせいで俺の寿命がマッハで無くなってるんだけど!!!迅速に終わるの俺の人生の方なんだけど!???」




 




するとリュミアはポンッと手をたたき




 




「そういえばそうだの!いつもの感覚で戦っていて忘れていた。済まぬのシノ☆」




 




「奏で紡ぎ寿ぎ祝賀せよ永久の」




 




「すすす、すまぬ!?本当に反省しているから!?猛省しているから頼むからわらわのトラウマをむしかえさないでくれるかのシノ!??そしてそれは使わぬ約束であろう!???」




 




てへぺろとした顔から一変して涙目になり目に雫をこらえてウルウルし懇願するリュミアを見て詠唱をやめる俺。よろしい、今度やったらおっぱいをもっといじくるからな?パンツとかいただいちゃうからな?そして何気にトラウマなんだアレ。あんまり脅しのネタに使わないでおこう。




 




そして案の定、コントをやっている間にやってきた疾駆狼ヴァルド君。しかもお友達もつれて五頭もやってきた。人気者なんだねヴァルド君!ちなみにそんな状況でリュミアにヘッドロックをかけてる俺って結構バカなんじゃねえかと思い戦闘開始となりましたわ




 




炯々と輝く双眸に舌を出しよだれが流れ出るゆうは4メートルはある狼のはっはと息を散らしながら牙をのぞかせるそれはまさしくモンスターであり初めて見たが他のモンスターと一線を画すことは間違いない。それが一気に五頭。リュミアの実力を見破り群れは散開し4頭はリュミアに1頭は俺へ向けられた。それを見てリュミアはうすらと笑みを浮かべる。冷や汗をかき足をすくませる俺とは対照的に




 




「どうしたヴァルドよ。しばらく見ないうちに知能が落ちたか?割り振りが逆であろう?わらわに2頭、シノに3頭ならば勝機があったのにのう…」




 




つまりそれはリュミアに2頭も4頭も関係ないという宣言だ。リュミアの攻撃魔法は見たことないが大規模魔法で一か所限定であれば2頭散開し挟撃。そのスキに俺を食い動揺したところを不意打ちで勝つ。それならば勝算はあっただろう。だが4頭ならば頭数は十分であるが小さな標的相手には窮屈で攻撃も当たりにくい。おそらくリュミアに気圧されてこの判断をしたのだろう。そして攻撃を開始した4頭のヴァルドは鋭利な爪で軟肉を屠らんと疾走し先ほどの俺の予想に反してまるで打ち合わせをしていたかのような軽快な動きで連携を取り互いに衝突せずリュミアに向け爪による連撃を開始する。だがそれをものともせずリュミアは周囲に赤色のオーラをまとい言霊を紡ぐ。足元には六芒星の魔法陣が展開し杖を振るい




 




「エー、アー、ユー、オー、ダイナソン。ヴェリグリューシュ!」




 




そして向かってきた狼に向け魔法を放つ。そして4頭のヴァルドは同時に頭部が破裂し爆散する。頭を失いよろよろと数歩足を動かしたのちヴァルドは倒れ巨体の衝撃が地面に響く




 




・・・え、マジで?驚く俺と残った1頭のヴァルド君。その様を見れば強力なモンスターと言えども裸足で逃げるだろう。というかマジでヴァルド君は逃げた。達者でなヴァルド君。またいつの日か会おう




 




「ふ、こんなものかのう。大丈夫かシノ?さきの魔法の余波でケガなどしていないか?」




 




「大丈夫です。というかリュミアってマジで強いんだね?」




 




「当たり前であろう。これでもま、・・・魔法使いであるからな!!」




 




はりきりすぎてかんでしまうほど嬉々とした口調で自慢げに胸を張るリュミア。ナイスおっぱい。




 




そして無事に俺たちは依頼を達成し帰路へ立つ。迎えの馬車が来るほうが時間がかかるほどこの依頼はあっけなく終わりを迎えた




「ご無事でなによりですシノノメ様。これが報酬の80シルバーです。お受け取りください」




本来なら100シルバーという大金なのだが一匹のがしたため80シルバーの麻袋を受け取った。重い。これが金の重みか・・・!




「ありがとうございます!」




お礼を言って袋を落とさない為にミラさんは俺の手を覆いながら袋を渡す。童貞には刺激が強い。そして俺の生還に安どしているのか少し涙目でミラさんは俺に心配の声をかける。そしてなぜかムスっとしているリュミアさん。どうしたんだろう?




 




「ミラ、わらわには心配の一言もないのかの?」




 




「まあご冗談を、心配するのはモンスターの方ですよ」




 




「む、手弱女に向かってその言い草はないのではないかの・・・」




 




タオヤメ?まあそこは流しておいてミラさんもリュミアさんを信頼しているようだ。今回のクエストは造作もない。それほどリュミアさんは強いということを彼女は知っている。いいな、こういう関係。だが相変わらずムスっとしているリュミアさんに俺はフォローを入れる。女の子はそういわれるのは好きじゃないのか…女子の生態が少しわかったような気がした




 




「それほどリュミアを信頼しているってことだよ」




もちろんそんなこと言うまでもないしリュミアさんも知っているはずだ。それを聞きリュミアさんは笑みを浮かべ




「ふふふ、そうであろうな」




満足そうに笑う。だがなぜちょっと不機嫌だったかはわからなかったが…




 




 




祝勝を祝って宴会が開かれた。豪華な肉料理にお酒が乱立し食べきれるか分からないほどの大盤振る舞い




まるで満漢全席のようだ。こんな食事食べたことがない




80シルバーゲットだぜ。主にリュミアさんのおかげで!働かずに食う飯はうまいな!あれ、なんかしょっぱいなこのごはん…




 




「まあ気にするでない。今回は無事を祝し豪奢に行こうぞ!次はわらわに奢ってくれよシノ☆」




 




「ははは、精進します…」




 




それって当分先かもなと思いながらリュミアさんのおごりでごちそうにありつく俺。くッ、肉がめちゃくちゃおいしい…!そしてなぜか異世界になさそうなメニューが所々あるし異世界人の料理開拓が実を結んでいるでぇ…!




 




「麦酒をもらおうかのう!」




 




「はい!麦酒を一杯どうぞ!!」




 




なんやかんやてんやわんやで盛り上がる夕餉に俺は満足し自室へ向かう




・・・部屋はなぜか同室だった。別の部屋をとるほどの余裕はあるはずだが「寝込みを襲われるやもしれん」とのことで相部屋となったしだい。そして酒も入ってかぐっすりと眠るリュミア。これでは別の部屋と変わりないんじゃ…




そういやリュミアの使っていた魔法、確か呪文は…エー、アー、ユー、オー、ダイナソン。ヴェリグリューシュって言ってたかな?俺にも使えるかな。無理だな。一瞬で疾駆狼を屠った魔法を俺がやすやすと使えるわけがない。なので小声でちょっと言ってみた




「・・・エー、アー、ユー、オー、ダイナソン。ヴェリグリューシュ」




ぼそりと小声でリュミアさんに聞こえないように、すると空間に小さな火花が散った。小さな爆発が少し大気を揺るがした。どうやら少しだけだが成功したようだ。というか出来ちゃったよ…ということはこれはそこまで大した魔法じゃなくてリュミアさんが極限までに高めて練度を上げた魔法なのかもしれない




 


早朝。隣のベッドでいかがわしい夢を見ているのか身もだえしているリュミアさんを無視し朝食をとり出立の準備をする。お金は手に入ったしここには用はないだろう。リュミアさんも目覚め俺を見た後なぜか赤面していたが何のことかさっぱり理解したくないので気にしないふりをした。ありえないだろJK。そして旅立って数キロの地点で俺はリュミアさんにあの魔法について尋ねる




 


「そういえばリュミア、あのヴェリグリューシュって魔法だけど」




「ほう、昨日使ったあの魔法の名、よく覚えていたな。あれはちと難しい魔法での、ある程度の練度を持つ魔法使いでなければ使えぬ魔法でシノには少し難しいかの」




よし、ちょっとだけど使えたことは内緒にしておこう。




「それにあれは短縮詠唱を用いたゆえ本来の呪文とはかけ離れておる。レーガエーデュミーガハベスンガイゴリアマーダカイシュードコロアッタカメーサハラドルグクシャノルドハーソナーゾリュチュオシエメルマリオールガラルメブヴァエブリーブ。ダーラデュラバルイーシャネバナーゴロアソルドロン。ヴェリグリュージュが正式な呪文だ。わらわは舌をかむゆえ省略しておる。それに長い呪文であるため汎用性が低く御しがたい代物よ」


・・・やはりちょっと使えたことは内緒にしておこう。リュミアさんの沽券の為に。


話題を変えるため少し思案し思いだした。そういえば変な夢を見ていた気がする。それもただの夢とは思えない


だからリュミアさんに聞いてみる。もしかすると知っているかもしれないし




 




 




「そういえば、この世界に来てから妙な夢を見るんですよ。同じ人が現れて」




「ほう、それは妙だのう。同じ夢を何度も、俗にいう連夢というやつかの?してどのような夢であるか?」




「少女の夢です。緑の髪に13か14の幼い少女でいつも一人で寂しそうな夢です」




「ふむ、この世界に来た時の作用で脳に異常が起きたかそれとも何か意味のある夢かもな。正直シノも十分異常だ。あのような魔法を使うなどただものではあるまい」




「そういえば、あの時使った魔法ってどんな効果でしたか?」




「・・・あまり言いたくはないのだがいうなれば地獄の具象化よ。無数の骸骨が人柱のようにそびえたち塔を形成しておった。まさに災厄、死霊魔法の類とわらわは見るな」




「よくその魔法を消せましたね」




「まあ術者本人であるシノが気絶して勝手に消えたよ。わらわはただ魔法の一端を垣間見たにすぎぬ」




「それを鑑み憶測だがわらわはシノは招かれてここに来たと思う。そして呼んだのは神話のあの女神をほうふつとさせる」




「女神?」




「ただの女神ではない。原初の女神でありこの世界を作ったとされる神だ。魔法の原点である歌を編み上げ創造したとされる。ゆえにシノの言った言語の壁はここには存在せぬ。呪文は別だがな」




「その女神はリノア神。涙で海を作り血で大地を作ったとされる創造神。海が塩辛いのは涙ゆえに、土で農作物が作れるのは命の源の血であるゆえに、とまああくまで架空の話だ。もしリノア神に惚れられたのなら不幸極まりないな。彼女はかなり独占欲が強く嫉妬深いと聞く。わらわも気をつけんとなはっははは!!」




ー怖気が奔る。あの女神を見た所感は、おぞましいこの上ないほど狂乱と嫉妬と愛憎が氾濫していた。


女神と言えば聞こえはいいがアレはそんな生易しいものではない


夢を思い返してみる。もし本当にそうだとしたら情報が必要だ。思い出したくはなかったが仕方ない。あまり覚えていないだろうと思考を巡らした瞬間


鮮明に、リアルを帯びて明確に克明に思い出してしまった




私はファムファタール。貴方と運命の女、来て、来て、来て、来て。私の愛しい人。貴方に会うのが待ち遠しい。会えた時は抱きしめ溶けるようなキスをしましょう。私は貴方のもの。貴方に総てをささげます




くるくると舞い踊る緑色の頭髪の少女。見目麗しいという表現では表せなくただ美しいとしか言い表せない




そして感じるのは、恐怖。こんなにおぞましい女は見たことがない。壊れているし病んでいる。その愛は盲目ではなく盲従だ。ただ愛しい人のための玩具に成り果てたいそれは人として破綻している。寒気がした怖気が走った。この女の姿が消えるまで俺はただ待つしかなかった






「―――――――――――――っっ!!?」


うぷ、と吐き気がこみあげてきた。やはりあれは女神なんかじゃない。邪神の類に他ならない化け物だ。






「!?っ、大丈夫かシノ!!」




心配し背中をさするリュミアさんのおかげで幾分楽になる。ダメだ。それが元凶だってわかっているのにソレのことを知らなきゃ帰れないかもしれないのに…嫌だ、もう思い出したくない考えたくない!!




「・・・シノ、無理はするな。おぬしを連れてきたものが何であれしばらくは時間は必要だ。それにわらわもいる。心配することはないぞ」




その言葉がどれだけ心強かったか。もし一人だったら絶対に耐えきれるわけがない。それほどにおびただしい悪夢に他ならない




「おぬしの為ならばわらわはなんだってする。どんなことも申してみよ」




「ありがとうございます…リュミアさん。本当にあなたと出会えてよかった」




「嬉しいこといってくれるのう。仲間であろう。当然のことをしたまでだ」




屈託のない笑みを浮かべて元気づけるリュミアさんが本当にまばゆく見えた。その期待に俺は答えたい。


だから俺は強くならなきゃ。強くなって彼女を安心させたい。


でも少し彼女のセリフ回しが気になった。確かにすごく嬉しいけどよろしくない言葉が一つ


 


「それと約束してくださいリュミアさん。男に対して何でもするなんて言っちゃだめですよ」




「?なぜだ?わらわがそういうのはシノに対してのみだぞ?」




「~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ俺に対しても禁止です!そんなこと言っちゃいけません!」




そう入念に念押しをして旅立つ準備をする俺たち。帰るまで結構時間がかかるかもしれないな

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