特急「へいわ」の2時間20分 ~大阪から岡山へ

第2話 出発前の「点呼」

 岡山清美氏は、去る1960(昭和35)年10月、大阪にある父親の経営する会社に勤めるべく、岡山を離れ、大阪にやってきた。

 しかし、彼女が以前住込みで勤めていた下川書房と高校3年次から手伝いに入っていたO大学前の喫茶店「窓ガラス」の各店主からそれぞれ要望があり、個人企業の確定申告のある2月の約3週間にわたって父の会社である岡山洋行から「派遣」されて岡山入りし、両店の経理事務等を手伝うこととなった。

 今年は、その「派遣」の2年目。


 岡山洋行株式会社の社長室に、岡山清美氏は社長の和彦氏から呼ばれた。

 その用件は、彼女が岡山から出てきてこの2年来この時期になると必ず発生している業務であり、数週間にわたる岡山への出張案件である。

 社長室にはいつの間にか、有限会社有賀茶房の有賀幸作社長が来社している。


「それでは、清美さん、今年も下川書房さんと窓ガラスさんへの出向、頼みます」

「わかりました。社長、日程につきましては、予定通りですね」

 ここで岡山社長は、運転士や車掌などに対して乗務前の点呼を実施する運転区や車掌区の助役や区長のように、娘である清美氏に仕事の目的と手順等を説明する。


 はい。特段の支持等のない限り、予定通りでお願いします。

 まずは先日申し上げた通り、今晩大阪18時丁度発の特別急行「へいわ」に乗車して岡山入りしていただきます。岡山到着は定刻で20時22分です。

 この度は、岡山の有賀茶房の有賀幸作社長がこちらで用務を済ませて同じ列車で戻られるので、彼に同行して岡山入りしてください。

 経費については、さしあたり有賀君の会社持ちですが、後に弊社との間で精算します。それはいいでしょう。その後は、彼が下川書房さんに送ってくださる。

 明日からは、下川さんと本田さん(窓ガラス経営者夫妻)のもとで、高校生の頃とあまり変わらんかもしれんが、御二方の指示のもと、期間中仕事していただきます。

 今回も、御存知の通り両店の確定申告に関わる事務処理と、いささか接客の方もお願いすることになろうと思われます。よろしいですね。

 それと、ここでは大きな声で言えないが、弊社業務の方も、よろしく頼みます。

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