第78話 合流《クロス》至徒排除戦(リジェクション)その6
「アイツ…格好つけやがって!!」
「後でお説教だね☆それよりも勝鬨君に回復魔法を佳夕ちゃん!」
「…損傷がひどすぎます…。私ひとりじゃとても…」
勝鬨をうつぶせにして佳夕は回復魔法をかけている。だが彼女一人ではどうにもならず三人合わせても同じだ。HPは回復するだろうが肉体の破損は完全に治療できない
専門に医療機関での治療でなければ傷を治すことは不可能だ
あらかじめ逃走ルートとして
理にかなった選択だろう。了承も得ずに移動させたことに憤るが
それ以上に必要な判断だったといえる。
このままダンジョンから脱出し勝鬨を搬送させて武器の収集に移る方が適切だ
それに対し勝鬨は息も絶え絶えながら
「…はっ大した事ねえよこれくらい…!」
回復の半分も終えぬうち、死に体ながら維持と根性だけで勝鬨は立ち上がる
喘鳴を鳴らしながら穴の開いた体であるのにもかかわらず
動けるほどの体力も血も足りぬというのに彼は立ち上がる
「無理はいけません!もうあなたは戦えないんですから!!」
「女が俺に意見すんな…!武器はある、生きている
なら戦わねえ理由が…っっ!!?」
睨んで佳夕を凄ませ振り払い一人で敵の許へ赴こうとした途端
彼の視界が暗転する
弓野が当身をし意識を奪ったのだ。
強引なやり方だが現状最も理にかなった行動と言えよう
「けが人が無茶すんなよ。それに噛みつく相手はその子じゃねえし」
「あ、ありがとうございます…」
「別に、今こいつ起こしたらややこしくなるしよ
いったん脱出して体勢立て直そうぜ」
「さんせーい☆私も疲れちゃったし☆」
「でも…雄一さんが…!」
「でもも何もないよ。それに前に言ってたじゃん佳夕ちゃんが
雄一君を信じようって。今から行っても三時間オーバーしちゃう
・・・悔しいけど、信じるしかないよ」
歯噛みしながらアリアは平静を装いながらも
最後に絞り出すようにそう言った。
悔しいのは佳夕も同じだ。敵の挑発に乗らなければこんな結果にはならなかった
たとえ戦える状態で足手まといになろうとも雄一のそばにいたかった
リミットが口惜しい。時間が無制限ならばどこまでも追いかけていたいというのに
だが現実は無常だ。3時間以上は肉体に毒になる。下手をすれば魔食病に発展しかねない。それでもいいという思いを彼女は押し殺す
ここで雄一に心配をかけるのは彼にとって不要な荷物ゆえに
*****
『ねえ、思ったんだけどその持ってる銃は飾りなのかい?』
それは俺の持っているアレイシアを差している
これはまだ使えない。使い方を熟知していないし何よりロマン武器なので
実用性には向いていない。そして高速移動できる相手に弾丸を当てられる訳がない
―
今までにない魔素に濃さに充てられて俺の中の虚空に魔が吸い寄せられている
充溢し横溢するエネルギーは魔人になるために十分な貯蓄量となる
同じく魔素を吸収し奴自身エネルギーを漸増させている
影の鎧の濃度と強度が増す。漆黒に滲む黒は光すら遮断する
だからこそ逡巡も前置きもない。覚悟はできている
どちらにせよここで奴を仕留めなければ俺は確実にダンジョンに殺される
帰還経路は
だがそのころに人間である保証はない
『――――私が奪い貴方が施す…』
躊躇なく、その言霊を口にした。導火線に火がともる
その詠唱を妨害することなくその間に奴は最大限のポテンシャルを上げるために
力をためているのだ。―いうまでもなく、全力で俺と戦うために
魔素が蜷局を巻く。うねり爬行しのたうち回る
体に負荷が起こっていると言われればそうではない
力による暴走というより『あらかじめこうなるように手順を踏んでいる』という不快感。魔人になるというのは肉体も魂も俺の覚悟以前に定められているから当然のように受け入れている。その異質。元より怪物になる前提で生まれたという感覚が何よりも気持ち悪い
魔素が蜘蛛の巣のように張り巡らし肉体を魔へ置換していく
拒絶反応はない。浸食よりも新生に近い。俺の人間という皮を剝ぎ棄てて行われる羽化や脱皮のそれそのものだ
肉体がすげ変わる不快感がないという不愉快。それをこらえ飲み込んで綴る
幾里の導火線の3割が燃えて消える
『生を喰らい、死を飲み干し。我が
思えば伽藍洞が皮をかぶって歩いているようなものだ
血肉も魂も欺瞞。俺の本当の姿がコレだと浮き彫りになり
今まで空虚だった器に油を注ぐ。
満たされて、満たされて、満たされて。
今までの俺は何だったのかと疑問に思えるくらい変わっていくことが本来へつながっていくと心が導いていく。続いて5割線が燃える。後二割。
『暴虐の死よ、我が足元へ。敬虔なる生よ、我が心胆に』
キャシーの魔法が神の御業ならばこれは悪魔の所業だ
魔力という誘惑に耐え切れず甘く温く緩く溶かされていく腐敗
蜜におぼれてなおもがくという行動すら思考に流れない
このまま
格子のカギは回される。導火線はすべて燃やされた
変わっていく時間がいとおしい。変わったことが狂おしい
ああ、もうすでに正気ではない。
狂って一周で正常になるのなら理性のシリンダーはもう巻き戻すことはできない
人間という窮屈な檻から、怪物が解き放たれる
元より俺は、魔人になるためだけの繭に過ぎないと気づかされた
血を吐くように、吐き気を催す文言を奏上する
後は爆発するだけ。火薬に引火すればそれで
『ここにあるもの総ては我にぬかずき給う―――――――』
もう止まることはない。ただ走り抜け、そして狂奔に身をゆだねるだけだ
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途切れる意識、断絶する思考。心ゆくまで楽しむがいい
溶ける心、飽和する魂魄。行く手遮るもの総てを誅戮せしめん
満ち満ち満ち空洞の穴が埋まっていく。
虚無ゆえに無尽蔵に生み出された魔素は充溢し
この時初めて雄一の魔素が総身に
顕現する体躯はもはやこの世のモノではないまつろわぬ化生
人型をして鎧部分に魔の肉が突起し貫いて外殻として構成されてゆく
鎧と魔人の肉が融和している。隆起している魔族の外装が鎧を侵食し
破壊しながら新たな武装へと昇華されているのだ
思考は透き通るように
怪物になったにもかかわらず自我は当然のように確立されていて
異形の鎧袖は元より怪物めいた武装から異形の鎧へと変異している
化け物。凶戦士。それ以外に形容できぬほど人間からかけ離れたケモノだ
されど姿と打って変わり思考は穏やかで暴走する気配はない
完全にコントロール権を掌握している証左だ
奔流する魔素はいくら満ち満ちても全く足りていない
多分このダンジョンすべての魔素を食い尽くしても足りないほど
依然として虚無の飢餓感は消えていない
愛染・烈火が魔に耐え切れず破砕。だが供給する魔素によって再構築され
更に禍々しい大剣へと変貌する
剣、鎧ともに魔人用に変換され銃も籠手も同様だ
そして驚くべきことに、いや魔人ならば当然なのだが
魔力ゼロの俺に魔の
準備はできた。今完全に俺は魔人に俺は完成する
だがそれを待っていたカージテッドは不服そうに顔をしかめた
『…うーん、まだ不完全だねぇ君。
僕の知っている魔人はもっとそんな落ち着いた格好じゃない
なによりもまだ魔人たる力を発揮できていない
いうなれば戸口に立った程度の段階だ
まだまだ未熟、なり立てだから仕方ないとしても
君ならもっと予想を裏切ってくれると思っていたんだけどね』
そんな思惑知ったことではない。
あいつの気に入るような服装をあつらえる気は毛頭ない
ただ俺は目の前のカージテッドを叩き潰す。それだけが魔人になった理由として十分だ
不安そうに俺を見るキャシーに向け穏やかな視線を送り
―大丈夫だ。全然平気だ―
と表情だけで伝える。それを見てカージテッドは
『どーやら君一人ってわけじゃないみたいだね
前から解せなかったんだよ
何で一介の魔法使いが極大魔法を使えるのか
そして今度は君がその魔法を剣にまとっている
第三者が施していなければ成立しない事案だ
姿は見えないが今はどうでもいい。脅威となるのはもはや君だけだ鹿目雄一』
キャシーの存在に気づかれた。仕方ないといえば仕方がない
カージテッド相手によそ見をしている時点で気づかれる可能性があった
そして奴の言う通り人間が扱えない魔法を佳夕さんや俺が使っているならば
他の誰かの介入を疑うのは当然といえる
それをわかっていてもキャシーの姿が見えないのは僥倖だ。知られれば認識されるならばキャシーを真っ先に狙うに決まっている
だが運がよかったというべきかカージテッドの関心はキャシーに全く向いていない
今関心があるのは魔人になった俺のみ。それは神代魔法が通じないことを意味する
解せなかったのはこっちもだ。号生の練気を放たれてなお無傷でいる矛盾は『攻撃を無効化』したのだろう
号生はそれを看破し伝えることはついぞなかったがあの攻撃のおかげで奴の能力を垣間見えることに成功した
ケダモノとなった鎧装から知性は毛ほども感じない
だが俺自身はいたって冷静、駆動する各部位から蒸気が噴出し興奮しているように見えるだけだ。
「キャシー、離れていてくれ。そして、見守っていてくれ…!」
≪わかってるわマスター…!信じてる…!!≫
不安で押しつぶされそうな、怪物であることが常態であることを恐れていつ本物の怪物になるかの恐怖を和らげるためにキャシーにそう伝える
これが本来の俺、など認めない…!俺は人間だ!化け物なんかじゃ断じてない
そう言い切れる強さを求めるようにそれは懇願に近い
キャシーの返答が心強く、背中を押すように魔人となった体躯を疾駆させ吶喊
カージテッドへ向けて咆哮を上げ大上段に切り伏せる
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!」
『猛るか雄一、だが勢いだけじゃ僕には勝てない』
そんなことは先刻承知。ただひたすらに前に、奴の命に指をかけるまで前に前進する!!
切り伏せた一撃は影の鎧によって往なされた。渾身の一撃を正面から防がれる
だがそれも想定のうち。左手を徒手に至近距離から奴に向け魔法を放つ
『
疑似太陽を生成しカージテッドの眼前で放つ。無論俺も無事では済まないが
いくら超高速で動ける奴でもこの距離なら確実に当てられる
案の定攻撃は当たり双方傷を負って後退する。
影の鎧すら焦げ跡を残し延焼させることに成功
勝てる…!確信をもってそう言える
攻撃が通用しているならば倒す機会がいくらでも見つかるというものだ
初めて自身の魔力を使って魔法を使う。その感傷に浸る間もなく
自身の傷を見て奴が俺に向けて言葉をつづる
『いいねえ…でもその程度じゃないだろう…?』
「強がりはよせよ、お前の言う不完全でもダメージを与えられたんだ
お前のHPを存在もろとも削ぎ落してやるよ…!」
虚勢でもなんでもない事実を言い放った。今の奴は全力だ
そして魔人化した俺はどこまで引き出せるかわからないコレを
完全に抽出するまでもなくカージテッドに拮抗し肉薄している
ならば勝算はこちらにある。カージテッドの限界を見てまだ引き出せる俺に対しこいつは俺に勝てないと確信する。時間が惜しい。魔人になったおかげで制約はないのだろうが長時間
少しでも戻る一縷の望みを賭けて一秒でも早く奴を屠る…!!
『僕と君は同じだよ』
突如としてカージテッドは言い放つ。
少しでも俺の隙を作るための口実か
だがそれにしては余裕にあふれている
「?」
大気の魔素が揺らぐ
『僕の特性は変動。物質に干渉し自在に操るだけじゃない
あらゆるステータスやレベルを変動させ乱立させる力
これこそが僕の真の本質。
常に力の変動させることで攻撃をつかませないのが
だからこそ制約というものを僕も持っていない。限界という概念が僕には存在しないのさ』
それがカージテッドの特性というのは本当だろう
戦っていた時の違和感が氷解した気がする
いくら力を載せて攻撃を奮っても奴自身にクリティカルに攻撃を当てた時はない
その理由は変動するステータスによるもの。ゴムの様に弾む防御は物質干渉による柔軟化だけではない。常に変化することで攻撃の感覚を掴ませないのが奴の戦法
『鎧状態は変動するステータスを固定するための僕のアレンジだ
今のステータスはおおよそ129900くらいかな?
かなり加減していたと思う』
バカを言うなと突っ込みたくなる。笠井さん以上のステータスを提示し
それを手心と断ずるコイツ自身の傲慢さと実力が混在している
そしてそれは鎧の姿の状態はつまるところ『全力と称しただけの形だけの限界』を演じていただけに過ぎないという事実だ
その鎧をほどいて元の悪魔の姿を現し変動の悪魔としての姿に回帰する
『これほど魔が充実した場所で戦うのは僕にもメリットなんだよ
通常の場所ではレベルが足りないから150レベルまでが発揮できる限界に位置する。そのための魔物を倒して経験値にする。その工程を無視し魔素が充満した場所で
なおかつ限界のない僕がこれを取り込んだらどうなると思う?』
つまりあれだ、号生ではないが俺もムカついてきた
こいつ今までもこれからも全然本気で戦う気がないんだ
命の駆け引きという土俵に立たず一方的に蹂躙し
いまさらながらわかった気がする。
「あーもういいよお前のナメプは
ウザいから
つまりあれだろ?レベル1000くらいまで変動ができるって言いたいんだろ
俺はどこまでか知らんけど500くらいは行けそうだ
だからお前が圧倒的有利な立ち位置にいるから余裕こいてるのは分かった」
『それを知ってなおなぜ止めないんだい?』
「決まってるだろ。二度と狼藉働かせない為に心も折って二度と復活できないように
屠ってやるんだよ…!!」
やるべきことはただひとつ、そのなめ腐った根性を俺の渾身をもって叩き潰すだけだ
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