第79話 合流《クロス》至徒排除戦(リジェクション)その7

影の鎧が収束、再び乱立する数字ステータスを固定し

奴自身のナメプが続き俺は憤慨を禁じ得ない


「まだやんのかソレ…!」


『まあね。いや勘違いさせたなら申し訳ないけど

僕は別に加減している訳じゃないんだよ

あの姿にも弱点があってね

強くなったり弱くなったりがランダムだから僕でも制御し切れない部分があるんだよ

その為にステータスを固定する必要があるんだ』


攻撃の強弱が常に変動する。それを生かしあらゆる攻撃に柔軟に対応し緩和するのがカージテッドの強みだ

その強みを殺す固定化の鎧は甚だ手抜きにしか俺は見えなかった

鎧化の隙を突くことはできる。隙と呼べる隙は多々あり形態変化時がそれが顕著だ

だがこいつは正攻法で叩き潰さなければならない。プライドだけでなく

コイツの心を折るという目的があるからだ

そしてもうひとつは魔人の力を把握しておくこと

こいつは力を試す格好の存在だ。並の相手なら瞬殺できるほど俺は強くなっている

元には戻れるという確信が俺にはあった。魔人化トランツァーになった今戻る選択などありえないと思うがカージテッドの不完全という言葉と

変化しているのは表層だけということだ。肉体の変異は確かなのだが完全な変化に至っていないのが現状

俺自身魔人になるということは元の存在の戻るという行為であることを把握している

だが物事には段階があり完全な魔人になるには複数回の変異を踏まなければならない。なぜそんなことがわかるのか、それは知識ではなく手足を動かすことに説明が要らないのと同じで元々持っているからわかりきっているというのが答えだ。


──故にまだ俺は人間であり、人間に戻れる可能性があるということ

それだけわかれば十分だ。後は心置きなく力を使うだけ

コイツを屠り地上に帰るだけだ。

だがその為の決定打がない。通常の魔法ではダメだ。先ほどはとてつもない威力によってダメージを与えられたが本来カージテッドに魔法は通じない

ならば剣による攻撃と。左手に備えられた籠手と魔法銃を見る

まだ試したことのない戦い。魔法銃との兼用の戦闘行為

今魔力と魔法が使える俺にはうってつけだ。魔法銃の利点として

通常魔法使いは魔法を構築し放つために佇立状態を強いられるが

魔法銃は動きながら魔法を弾丸に込めラグなしで打ち込むことができるという強みがある。といっても魔人状態の俺にはあまり関係がない事なのだが必要なのは後者でありラグと呼べるのは弾丸の装填のみの魔力を叩き込む魔弾が放てるメリットだ

魔法を込める為にはあらかじめ弾丸に術式を刻み魔力を流し込み魔法を発動する原理であるが

魔弾の場合は魔力そのものを弾丸にできる為わざわざ弾丸装填の必要がない

問題は魔力を流す行為が弾倉マガジン交換に相当し魔人ならば瞬秒の余暇もないだろう。重要なのは奴に通用するほどの魔力を込めるには時間がかかるという点

そして剣との併用の戦闘を俺はろくに行っていないということ

ぶっつけ本番で通用する相手出なければ

ぶっつけ本番でやらなければならないという現実


互いににらみ合い攻撃のタイミングを見計らうのはガンマンの早打ちのようで

俺自身距離を置いた時点で使用するべきは銃撃、銃把じゅうはに手を添え相手の間隙をうかがう


『使うのかい?それを』


「持ち腐れてる場合じゃないからな」


手の内を明かすのは愚策。問題ない

カージテッドの戦い方はあらかた理解できた

どういった手で攻撃してくるかを俺は把握している

鎧をまとった姿は変動を抑制するだけでなく『元の姿の行為を封じる』ことで

能力に更に下駄を履かせているバフと推測

そうでなければあの高速移動は説明できない。いくら敏捷が一万を超えていたとして

先刻の戦いで号生が目で追えないという理屈にはなりえないからだ

武技の究極を往く号生が追い付けないほどの絶速は単純な速度だけではない

何か時間系の魔法を用いた可能性もある。もしかすると時間粒子タキオンを操作したとも考えられる。考えれば考えるほど奴の出鱈目さが露呈する。

無駄な考えは避けろ。ドツボにはまらない為に深読みは禁物だと言い聞かせて


どちらにせよ試し方法はひとつ。奴より早く

──正確には奴は攻撃を待っている

銃を抜きカージテッドめがけて引き金を引き弾丸を打ち放つ

撃鉄が落ちる音とともに着弾。カージテッドは神速めいた動きで横にそれて回避した。それが戦いの合図ゴングの様に再び戦いの火ぶたが切られる


地面と時間が圧縮したように瞬時に間合いに詰めるカージテッド

片手で大剣を振るい迎撃。横一文字に薙いだ一閃は下段に屈伸し回避され

衝角に変質した影の刺突が一角獣の様に一点を穿ち貫く

回避する術はない。あまりにも圧倒的なステータス差で俺の防御力と鎧は紙細工の様に抵抗を発揮することはなく無残に体躯に突き刺さる


「がッッ!!!!」


『何とも呆気ない。こんなに易々と攻撃を通せるとは思っていなかったよ』


「そりゃそうだろうな」


『!?』


引き抜こうと衝角に力を入れるも鋭角が微動だにしないのは体の筋肉を圧縮し固定しているからだ


「獲ったぁ!!」


回避できないのは事実、ならばあえて攻撃を受けるのが得策だ

せっかく人ならざる者になったのだから人間状態で致命傷になりえる攻撃を受けるという選択肢が増えたのを使わない手はない


(人間じゃなくなったからって普通やるか…!?)


あまりにも命知らずな作戦で思わずカージテッドは動揺したじろいでしまう


そして、致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―を起動

今までは使うのを敬遠していたがコイツ相手ならば別だ

三割削られた分三割ステータスを乗算する


振り下ろされる大剣に一撃に左手の銃の掃射はいかな俊足であろうと回避は至難

こともあろうに至近距離で身動きが取れない状態ならば着弾は必須

だが、攻撃は確かに通った。ダメージも与えた。それでも上昇した奴のスタータスには及ばない…!!


無駄骨ではないが絶たせた肉骨に対し代価があまりにも低い


『どうしたんだい?魔人になってもこの程度かな?』


「抜かせよ!!」


とはいっても致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―で下駄を履かせた上で

与えたダメージはおおよそ50程度だ。十万以上あるHPに対し心もとないといえる


そして貫かれた体躯に更に加重をかけ深々と影の衝角が突き刺さり吐血

逆に俺のHPがどんどん削られていく始末。

しまった。当てられないから動きを止めたつもりが奴に攻撃のチャンスを与える結果となり舌を打つ

俺の射程ならば奴の射程にもなりうる。判断は失敗し予想以上の彼我の差に圧倒される


とてつもなく痛い…。人外になっても痛覚は適応されているらしい

それは悲しむべきか喜ぶべきか。まだ人間でいられるという証明ならまだ…


ダメージが継続して漸増するならば俺のスキルもまた上昇している

HP1になれば俺が一撃で死ぬ代わりに相手もまた即死に追いやるのが

致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―の真価

ギリギリの刹那。HPをギリギリまで削って奴を屠る

その作戦は読まれているのか、渾身の力をもって内臓がまろびでる勢いで引き抜いて

後退しまたもや影の鎧を脱いで元の姿に戻る


『ダメージを与えるたびに威圧感を感じる…

それが君の隠し玉かい?危なかった。さすがにあれ以上強くなられたらたまったものじゃない

それに今の君にはこの形態が適切なようだ』


影を柔軟化させステータス変動による攻撃の緩和の影の悪魔カージテッド

神代魔法ならともかくとし単純な攻撃ならばダメージを抑えられてしまう形態である

オマケに相性による魔法が効かないならば


愛染・烈火大剣アレイシアで叩き潰す…!!」



*********

鹿目雄一とカージテッドの戦闘は三時間以上続いている

絶望的な状況の中佳夕とアリアはいつも通り帰ってくると信じ

俯いて手を合わせ祈っている

弓野もまた救援部隊を要請するがことごとくとして断られ憤っていた

その最中病院のベッドで治療を受け眠っていた勝鬨が目覚めた

目覚めと共に上体を起こし即座にベッドから降りておぼつかない足取りでどこかへ向かう。それを看護師が制止するも振り切り騒ぎを聞いた弓野は勝鬨に問い詰めた


「何やってんだテメエ!絶対安静って言われただろうが!!」


「知らねえよンなこと!俺の命は俺の勝手だ!!」


「だからって死にに行かせるわけにはいかねえ!!

大方雄一のとこに行くんだろ!?俺たちはタイムアップだ

どうやったってたどり着けねえよ!!」


「ッ…!」


その事実は勝鬨自身痛感している。正確にはダンジョン内に二時間半彼らはいた

つまり三十分未満ならばダンジョン内を潜ることは可能だ


だがどこにいるかもしれない雄一とカージテッドを三十分以内に探し当てるのは不可能も同然、よしんば見つけたとしてもその階層まで行きつくまでの時間は絶無に等しい。

現実的ではない。

今更追いかけたところで間に合うことはなく戦いに参加することも不可能だ、足手まとい以前の問題。


即座に雄一かカージテッドのいる場所に移動できれば話は別だが勝鬨も弓野もその手段スキルを持ち得ていないのが現状だ


「せめて…あのヤローがいる場所まで行ければ…!!」


「行ける方法ならあるよ」


「「!?」」


声が聞こえた先に二人は振り向き視線の先には雄一に仲間であるアリアの姿があった

先ほどの会話を聞いていたらしい彼女は事情を把握しているようだ


「私のスキルで雄一君が持っている武器のある場所まで移動できる

キミも持っているはずだよ。私が渡したナイフを

それがあればすぐに彼のところまで行ける…」


「何だよ!そんな方法があるならさっさと言え!!!

すぐに救出しに行くぞ!!!」


「待て弓野、…そうできなかった事情くらい察しろ」


「・・・・・・・私は、私たちはいけない…

雄一君がダンジョンに入って三時間以上経ってる

…生きてる可能性は低いし、それを見たら私たちは…耐えられない

情けないことに怖くて行けないんだ。だからあなたたちに託すしかない…」


いつになく弱気なアリアに驚きながらも弓野もまたその現実を突きつけられ逡巡している

もし雄一が死んでいれば。カージテッドの餌食になっていれば

それを想像するだけで震えが止まらない。短い間だが交友関係を持っていた弓野からすれば友人の死に等しく彼女もまた堪え切れる事実ではない


故に、進み出るのは一人だけ


「俺はいくぜ。あいつが死んでようが知ったこっちゃねぇ」


「オイ!勝鬨!!」


「だがな、あの影ヤローはぜってー叩き潰す!!

骨くらい拾ってやるから震えて待ってやがれ」


ぶしつけな言い方であったが彼特有のやさしさの表現をくみ取り

傷が完全に癒えていない勝鬨は雄一とカージテッドのいるダンジョンへ駆け抜ける

止める看護師や医師を振り切り小さく彼はつぶやいた


「死んでたら承知しねえぞ雄一…!!」



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