第77話 合流《クロス》至徒排除戦(リジェクション)その5
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周囲に魔力の粉を散布し気づかれる前にカージテッドに付着させる
だがそれも小細工。蜘蛛の子を払うように影の外装の前に打ち払われた
『なんだいがっかりさせないでくれよ雄一君
キミのその特殊な力はそんなちゃっちい利用法なのかい?』
「あいにく小細工凝らさないと手札が無いんでね…!」
流布された練気はかき消された。そして同時に放ったあの少女型の至徒にも放たれて
『…ッ!!』
触れたとたんバチンッと火花が散りはじかれた。そして俺はあの子の特性を把握する
「アリア 佳夕さん 弓野さん。その子は反射能力を持ってるみたいです」
特性は自動迎撃の反射と看破する。そうでなければ不意を食らったようにあの子が驚くはずがない。あのぬいぐるみがキーになっているようだが…
「オーケー雄一君。私もわかってきたよ。この子攻撃できないみたいだ」
「だからずっと待っているみたいだったんですね…!」
「オートで反射ならそれ相応の割り振りがされる…。
攻撃力を無くすことで防御特化の特性を得たってとこだな」
これで、相手のタネはすべて割れた。同時にこちらの手札もすべてさらすこととなり
両者確実に倒さなければならない状況へと至る。
『ご明察。ミアリガルドちゃんの特性は反射
いかなるものも反射し跳ね返す力さ』
『カージテッド…!』
『別に仕掛けがわかったところでミアリちゃんの反射を対処する術はないし
君帰っていいよ。あとは僕がやるから』
名前も特性もカージテッドが勝手に明かしミアリガルドと呼ばれる至徒は憤り
挙句の果ては逃走を促す始末だ。彼らに連携も統率性もなにもない。
そしてミアリガルドは頬を膨らませながら踵を返し
『後悔する…から…っ!!』
『そんなに個に執着ないだろ僕ら?』
カージテッドの影にのまれどこかへ移動したと思われる
逃走を許した。というよりはカージテッドに隙を見せれなかったのが現実で
彼女を逃がすことで6人で囲んで叩ける状況へ持っていけたというのは合理的だろう
個に執着がない。意味するところは…
「まさか自分から不利な状況に追い込むとはなぁ…!!
やっぱ死にてえのかテメエはなぁ?」
至徒という存在自体自身の死に頓着がないということに他ならない
彼女を逃がすことは悪手だ。反射能力で閉鎖されたダンジョン内で有効に活用できるのにそれをあえて手放した愚挙
まさか…ミアリガルドという子を思いやって…?
『違うね雄一君。単に僕の力を発揮するのに彼女が邪魔なだけさ
そしてもうひとつ。・・・僕一人で十分という現実だ』
収束する殺意、飴細工のように歪曲する空間。
プレッシャーが物量となって俺たちに襲い掛かる
そう、事実カージテッドとの差は埋まってはいない。
一人で十分という言葉も事実である。
ゆらりと、陽炎が揺蕩い揺れる。カージテッドの攻撃が…来る!!
さきほどの練気でも読み取る前にはじかれてしまった為だ
依然として奴の力は未知数のまま。それを全力で出されたなら勝ち目は一部たりともない
影の攻撃は俊敏で見えなかった。間隙一切なく放たれた電光石火の攻撃と
号生の
黄金の一撃を付与した認識不可能な斬撃を前に血を吐いたのは号生だった
みぞおちに一撃衝角めいた影の一撃が突き刺さる
『見えない攻撃。確かに厄介だ
だが考えても見てほしい。切断の結果だけの斬撃。
過程を無くすことで切り結ぶことができない
つまり一方的に切るかたわらで僕の攻撃を往なすこともまた出来ない
だから悠々と君の懐に入ることができた』
防御不可故に自身もまた防御する術がないという弱点
だがそれはさして弱点と呼べる代物ではない。切り結ぶ必要などない。相手の攻撃ごと切断すれば往なす必要性がないからだ
相手はすでに即死に至っている。だが事実つじつまが合っていない
カージテッドの言う通り懐内には入れるのは事実だが同じくカージテッドもまた攻撃を受けているに他ならない。速度で回避したわけではない。攻撃したタイミングが計れないからこそ厄介な攻撃をどうやって見切ったというのか
『過程が見えないなら攻撃のタイミングが見えない?
違うね。相手の呼吸や視線。所作を見ればどのタイミングで攻撃を放ったか目算できる。君の独特な構えが終われば攻撃が放たれるのは検証済みだからね』
深々と解説をしながら鋭利な影で号生を突き刺しさらに瀉血させる
だがそれでもおかしい。タイミングがわかったとして
どこから攻撃が来るのか予測できるかどうかは別だ
工程絶無で放たれた斬撃は工程がない為に阻害する強度も無視できる
切ったという結果が出ているのだから攻撃が完遂してなければ間尺に合わない
考察の中号生はある可能性に至る。
『攻撃の完全無効化』
悲しいかなそれを雄一たちに伝える術が彼にはない。血を吐きながら呼吸だけで精いっぱいで急所を狙われた為大幅にHPが削がれてしまう
その間0000000.1秒。号生は突き刺さった先端から投げ捨てられ攻撃に気づいたのはカージテッド本人と攻撃を受けた号生だけ
駆け抜ける刹那に次の標的へ殺意が集約する。
アリア 佳夕 弓野 その誰でもない。他でもない鹿目雄一へ向けて…!
最後の意地を見せて前のめりに倒れる。前に号生は片足でふんじばりこらえる
「あ、がぁ…っ!!」
『もう倒れたほうがいいよ。臓腑は煮えた肉の様にグズグズ。
HPは残っていても6割は壊死している致命傷だ。治療と蘇生に期待した方がいい』
「るっせえんだよ…指図すんなカス…!!」
男の矜持。それを見てカージテッドは
その間に付け込み攻撃することはできる。だが…
そんなことはできない。余力がなく死力を尽くすべき場面なのは承知だ
それでも…、男を見せた号生の手前不意打ちなどできるはずがない
右にそれて一射、雄一の頬の横に一撃弓野がカージテッドへ向けて射貫く
抵抗はない。いやそれ以前に後頭部に撃ち抜かれる一矢は通用することなく砕け落ちる。
この攻撃に対しカージテッドは一瞥たりとも意識を向けず歯牙にもかけていない
満身創痍で意識はあっても危篤状態で動けない号生に意識を向けて
攻撃を放った弓野にはまったく危機感を感じていない
それの意味するところはつまり
振り返り雄一に向けて影は視線を向ける
それ以外に視界がまったく入っていないというように
『次は君だ雄一。結局、ミアリを連れてくる意味はなかったようだ
あの魔法の警戒でもあったけど彼女なら女子たちの
男の戦いに水を差すな。そう言いのけて
女性陣のひんしゅくを見事に買う
「なめてくれるねぇ…私たちじゃ不足って意味かな…☆」
『当たり前でしょ。女が男の土俵に立てるはずがない
ああそういえば極大魔法が使える魔法使いちゃんがいたっけ。忘れていたよ』
「性格が変わっていますね。男とか女とか
ハンターにそういうのは関係ないです!」
「そーだぜェ!ステータスで強さが決まるなら体力も筋力も関係ねえ
ダンジョンにおいて男女の優劣はねえよ!!」
そんな理論知ったことじゃないと反論し切り捨てる
これは作戦か?カージテッドは男が女がという性格ではなかったはず
鎧の姿になると性格も変わるのか?
どちらにせよ何らかの意図があるはず。・・・そんなわけがない
未だに奴との戦力差は埋まっていない。カージテッドは余裕にあふれている
そんな小細工をする意味が全くないのだ
そう、純粋に奴は自身の思うことを口にしているだけ
騎士道という男尊女卑。男の王道を今、奴は志しているのだ
その思想に共鳴しているのは俺と号生だけだ。旧弊の男の在り方
古臭く時代錯誤の思想。だが確かに納得してしまうのは男のサガか
『まあどっちでもいいよ。今関心を向けるべきは雄一君だけだ
君たちも逃がしてあげるから帰りなよ』
本心から奴はそう断じて、転移 魔法 弓矢の一斉攻撃が放たれた瞬間に
三人の武器すべてがことごとく破砕する
見えない速度で武器のみを破壊しはたから見れば移動せずにカージテッドは反撃したように見えるだろう。実際奴の動きを目で追うのが精いっぱいなほど早すぎる
『戦闘続行不可だ。武装解除させた。もう君らじゃ雄一君の手助けはできない』
半死半生の号生。戦う術がなくなったアリア 佳夕さん 弓野さん
事実上戦えるのは俺だけでありできることは必然的に消去法で決まる
あとの説教が怖いと、そう楽観的に考えながら
『英断だね。君ならそうすると思っていたよ』
「これで二人っきりだな…」
『ああ、そうかもね…』
≪アンタねえ…!なんで一緒に転移して逃げなかったのよ!!≫
小声でも聞き取られる可能性がある。キャシーを無視しカージテッドに話しかける
「俺も逃げたら即座に追い抜くつもりだったろお前?」
≪!?≫
『当たり前だよ。君ほどの逸材を前にして舌なめずりで済ませるとでも?』
会話という形でキャシーの問いに答える
こいつは逃がしてはくれない。影を自由に行き来できるのだから
暗闇が多い迷宮にのみあるポータルを破壊することなど造作もない
ダンジョンに入った時から、すでに俺たちは奴らの舌の上で転がっている状態なのだ
『そして、もう僕にあの魔法は通じない
せせこましいねやり口が、極大魔法を気づかれぬよう剣に薄く張って
少しずつ削り取る戦法なんてね』
「バレたか」
手の内は筒抜け。微弱の神代魔法を薄く剣にまとわせ毒の様に浸食させる作戦も水泡に帰した。鎧をまとった時から蓄積されていた神代魔法が
『もう気づいているんだろう?この状況を打破する方法がひとつしかないって』
「それは…」
『何をためらう?最強の存在たる魔人ならば僕程度軽く屠れるのに』
それが奴を唯一討滅する方法。
迷ってはいた。人間である執着はもちろんあるし化け物になりたくないと臆していた
だがそれしかない状況を想定し魔人になる覚悟もまた出来ていた
だが、肝心の魔人になる方法がないのだ
頭に浮かんだ詠唱。あれがキーワードだろうが例えるなら詠唱は導火線であり
導火線に火をつける火種がないのだ。つまり言祝いだところで効果はなく
魔人化することもまたない
『やり方は分かっているはずだろう?
ただ条件に合う方法がないだけで』
その条件のすでに把握している。日を重ねるごとにあの声は響いてきて
歩み寄ってくる
「・・・魔素が致命的に足りない。今の俺の
単純に燃料が足りないだけ。導火線があまりにも長く
だからこそ俺は魔人化にならなかった。成るほどに成長していなかっただけだ
『その条件を満たす方法が直近でひとつある、としたら?』
「それはお前が俺を魔素の飽和している階層に移動させることだろうな」
『イグザクトリー。ないならばある場所まで連れて行けばいい
今まで君ができなかっただけでおぜん立ては僕が用意できる』
その階層は危険極まりない。場所やそこに生息するモンスター以前に
俺とカージテッドの魔素がそこで充溢し誰よりも危険な存在に変貌しているからだ
キャシーを見る。声はかけられない。奴に気取られるわけにはいかない
だからこそアイコンタクトで問いかける。
これから赴く戦いはキャシーも危険な目に遭わせる。安全圏などどこにもなく
俺自身魔人になって理性を保っている自身はない。敵と味方の区別なく叩き潰す可能性がある。
それができなかったのは真に一人になるのが怖かったのかもしれない
だが覚悟は決まっている。これしか方法がなく、キャシーを転移させる覚悟が
キャシーと目を合わせ目で問いかける。キャシーはどうするか
仲間は否応なく送ったくせにキャシーのみに選択権を与えるのは卑怯だがやはり覚悟が足りていないのかキャシーに共にいてほしいからか
全身を使いキャシーはかぶりを振った。
―――――ついていくに決まってるでしょ。アンタは私のマスターなんだから――――――
『覚悟は決まったかい?』
視線をカージテッドに戻し俺は首肯する。ともに付いてくる為にキャシーは俺の肩に乗りカージテッドの影がキャシーもろとも飲み込んでいく
移動先は5000階層。人類が未踏の区域であり無論ポータルもなく帰還方法もない。それを知ってなお雄一は死地に飛び込む。人としての死か怪物としての死かは定かではない
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