第73話 合流(クロス)至徒排除戦(リジェクション)その1

「お、お前らも来たのか」


ダンジョンへ赴くと偶然号生と弓野さんに出会う

あまりに珍しい組み合わせでちょいとからかい半分で聞いてみる


「何ですかぁ~デートっすかお二人さん?」


「ンなわけねえだろ…。オレと勝鬨は至徒潰しに来たんだ

オレらも偶然顔合わせただけだよ」


くっ、これでジャイアントキリングを諦めさせる口実になったと思ったがそうもいかなかった。二人があっているというのはゴシップネタやSNSで話題になりそうだが…


「オレの一途ラヴなめんなよ。ファン公認だからな」


どうやらジャイアントキリング様は公認カップルということになり

ほかの男といても交際やら逢瀬やらの沙汰にはならない様子

恋愛がらみで荒れるのは俺としても不本意だしというかそれが怖くて諦めさせようとしているけど公認かよチクショウ!!!


「遊びに来たんじゃねえぞ。あのヤローを叩き潰しにいくんだ

気を引き締めやがれ」


「号生はワークホリットのリベンジ?」


「お前の慣れ慣れしさもう慣例なのかよ…。

あのヤローもだがもう一体の影ヤローもだよ

俺の獲物横取りしやがって…ぶっ殺す!!」


カージテッド。俺たちが交戦して満身創痍で撤退し

笠井さんが戦い敗北を喫した相手。俺たちが戦った時よりはるかにパワーアップしているのがわかる。そうでなければ笠井さんが後れを取る理由がない


号生のニュアンスは笠井さんの仇討ちに近い。笠井さんに敵愾心を抱いているとは聞いたことはあるが同時に憎からず思っているライバルという関係性なのだろう


「何にやにやしてやがる。腹立つやつだなてめえはよ」


「まあね。俺としても嬉しい限りだからさ」


「何がだよ。なんか知らねえが余計ムカついてくるな…」


ついそういう関係性にほほえましさを感じほころんでしまう

時間はまだあるし今日一日で解決する話ではないので話す余裕もあっていいだろう


「つまり俺たちと同じく至徒探しってことか?」


「至徒だ。そんな悠長にこと構えられるかよ

行ける階層を増やしてあいつら見つけ次第叩く

あいつらナメてやがるからな。そう深くは潜ってねえはずだ」


「わかるのかそういうの?」


「ハンターしてりゃ相手のことも理解できんだよ

彼を知り己を知ればってやつだな。それに」


「それに?」


「俺ならそうする。なめ腐った相手には特にな」


直観は確かだ。俺はカージテッドやワークホリットのことは戦いくらいしかわからなかったが号生は何かを感じ取りそれを経験則として感じ取っているようだ

流石トップランカー。一度手合わせしただけでそこまでわかるとは


「でも前回の戦いで痛い目見たはずだよ?警戒するんじゃないかな?」


そうアリアは疑問を口にする。確かに、最終手段にダンジョンごと消滅させたということはやつらにも知れ渡っているはずだ。人間が潜れない場所にいてもおかしくはない

だがそれを号生は切り捨てる


「そりゃあいつらにもプライドがある。理屈じゃない感情があるから俺たちと戦ってんだ。そして辛酸舐められたっつーんなら絶対に俺たちを潰しにかかる

待ち構えてんだよ。絶対にハンターがいる場所で雌伏しふくしている」


「そうだな。少なくともダンジョン外では長くはいられないのは確かだ

シンシンジュクから近いのはシンシブヤダンジョン。そこに潜んでいる可能性が高い」


俺たちは得心しがえんずる。だが弓野さんの話だとそう単純にはいかない


「確か配置の特性の至徒の話があったよな

弓野さんが相手した。あいつは各ダンジョンを移動するスキルがある可能性もある

正直奴らはチートじみた特性を持っているから戦うなら一体ずつが理想的だな」


「ああ、配置の最適解。チェスの駒を一番効率よく充てられるスキルと思っていいな

もしそいつを使われたら囲んで棒で叩かれるのが関の山だな」


(雄一さん。いつになく饒舌ですね)


(≪ほらやっぱり同性の友達に飢えてたわねこいつ≫)


(まあソッチ系じゃないのは分かってはいるんだけどねー☆)


(なんか複雑だなオイ…)


女子同士こぞって話し合っている。内容は分からないが各々作戦会議ということだろう。こっちはこっちで話を進める


「リミットは1日3時間。どう割り当てるか重要だな」


「そうだな。・・・しっかしお前のパーティー女ばっかだよな

ハーレムかよオイ」


「なかなか羨ましくはないよ。俺としては号生が仲間に入ってくれればうれしいんだけど」


「それはないが…。まあがんばれよ」


「? ああ」


何について頑張ればいいか要領を得ないがとりあえず頷いた

というか即断で拒否されたの悲しい。


*******


装備を整えて各々二人ずつ分かれて探索を開始した

俺とキャシー。弓野さんと号生。佳夕さんとアリアという顔なじみのある割り振りで安定したタッグとなる。


俺は実質一人で

それに並んで号生自身一人で十分と言っていたが相手は至徒で確実に生き残れる方法を取った方がいい。


俺はすでに二体の至徒と戦っているということで説き伏せたが正直なところキャシーが俺にしか見えない(アリアも見えるがばれたらマズい)のと

キャシーの氏素性うじすじょうを知られないためでもある。



号生と弓野さんから『ガザイの羽』と呼ばれる緊急転移アイテムをもらうことで


至徒を発見次第糾合きゅうごうないし撤退のために希少アイテムを三つずつ各々所有することで


別れながらでも即座に駆けつけることが可能なためそこまで重要ではない。


単純にひとりでいる場合が最も危険だ。片方がやられても片方が助けを呼ぶという形式を維持することが肝要だから


そんな便利アイテム市場で見たことなかったがプロハンター専用のアイテムでレアなため需要に対し供給が乏しいので出回っていないとのこと


プロハンターは貴重な財産だ。有望なハンターはなんとしても失わないように高価なアイテムをプロに優先的に回すのは当然の判断だろう


それぞれハンターは才覚レベルというふるいにかけられている

レベル50という壁があり伸び代がなければ切り捨てられるかレベルの低い雑務に充てられる


ダンジョンの出現があったにせよ電気器具が魔道具に置換されたにしても

根底は変わっておらず強い人間は強く弱い人間は弱いという現実は盤石ばんじゃく


さりとて、平等に皆強くレベルも無制限ならばキャシーが持たない

キャシーは一介の女神と言っていた。人間でいう派遣社員程度の存在


110億いる人間すべてにレベルとスキルを付与しなおかつ維持することで精いっぱいで常に9割の力を失っている。それ以上無理なんて言えるはずがない


《なによ、私の顔に何かついてる?》


「いや、みんなで頑張っていこうって思ってたとこ」


《へー。にしてもそんなに友達っていいものなの?》


「いきなりどうした?俺なんか変だったか?」


《勝鬨君だっけ。彼に対していつもよりしゃべってた》


「まあそりゃ年の近い男同士だしな。気心が知れやすいからかな?」


それ以上別に特に思うことはない。だが俺にとって初めての男友達だ

うれしくもある


「ははーん。キャシー嫉妬してたか?ヤロー同士にそれはないぜ」


≪まーね。アンタがほかに目移りする懸念はあるわよ≫


「え?俺ってそんな酷薄こくはくにみられてた?

ひどいなーキャシー。俺は仲間を裏切ったりはしない」


確かに女の子ばっかりで肩身が狭かったりはあるが

友達ができたからって今まで戦ってきた仲間を裏切るはずはない

天秤にかけられたってそんなことはしない…多分!!(ちょっと自信ない)


そして驚くことにキャシーがやけに素直で少し調子がずれた

重要なところでキャシーは素直になる。

俺に裏切られることが怖いと思っていたということだ


≪ま、わかってるわよ。でもちょっと不安に思うことがあって…≫


「らしくないな。キャシーはもっと強気じゃないか?」


≪おあいにく様。怖いことばっかよ。力の1割も使えない女神なんて使えないからね≫


「そんなことない。そんなことを言うな。カージテッドの時神代魔法がなかったら確実にやられてた。俺の一番最初の仲間のキャシーをそう思ったことはない。キャシーを貶すことは佳夕さんやアリアを侮辱することだ。あまり卑下するなよ」


ちょっと恥ずかしいこと言ったようで照れ臭くなって閉口してしまう

しばしの沈黙。そしてキャシーが口を開き


≪・・・ありがと。ちょっと元気でたわ。

アンタも意外ね。結構真剣になって怒るなんて≫


「怒ってた?まあちょっとムッと来たけど

さっきのセリフを看過できないのはマジだ。

キャシーは頑張りすぎる。だから頼ってくれよ」


9割を常に使い。1割を維持に使っている。そんなかつてない消耗を経験し

キャシーは弱気になっていたことに気が付けない自分の愚蒙ぐもうさに腹が立つのもあった。


確かにそれは憤ってるといえるのだろう。俺が貶されるのはいいが仲間が貶められるのは許せない。なんというか、自分のこと以上に。それは確かに。怒っているといえるな…。

小首をかしげて(俺って怒っていたんだ?)などと考えているとキャシーはその様子に笑いきびすを返して


≪わかったわ。じゃあドシドシこき使ってやるから覚悟しなさいよマスター?≫


「その意気だ。俺としてもそんなキャシーでいてほしい」


いつも通りのキャシーの態度に戻って安心した。

俺自身そうあってほしいと心底そう思い

彼女キャシーに助けられていることを覚えていてほしいと思う


≪そういえば、アテもなく探すのって骨が折れるわね≫


「そうだなー。うー・・・ん・・・・・・・・・

! いいこと思いついた!ていうかもっと早く思いつけばよかった!?」


≪なによ急に、名案浮かんだの?≫


「前に言った俺の練気アギト練華ヴァリアブル

零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオンを応用できると思ってさ」


練気を練り練華を放ち魔力を拡散させる。ここまではいい。前も使っていた方法だ

問題はここからだが…よし!


≪一体何なのよ…?≫


「出来った!!!マジで出来やがった!俺ってやっぱ天才かも!!!」


あまりに会心の出来すぎて快哉を叫びたくなる

そんな興奮気味だった俺を諫めるようにキャシーは突っ込みを入れる


≪ひとりで納得して自画自賛しない!私にも説明しなさいよ!!≫


「そうだな。俺の練華ヴァリアブルは魔力を放出するんだけど

その魔力をうまく使えないかなーって思ってさ

今までは魔力運用の短縮や魔法を強化することだけを考えてたけど

俺から放った魔力を俺自身操れれば…放出した魔力を使って周囲を探知することができるみたいだ…!魔力を分布させて付着したものの位置がわかる」


≪すごいわね…なかなか考えてるのねアンタ≫


なんかちょっと馬鹿にしているニュアンスに聞こえるが気のせいだろう。

素直を言葉通りに受け止める

アレ?そうなると馬鹿にされてるように聞こえる不思議。キニシナーイ


「まーね。偶然の産物というか俺自身こんなに汎用性高く使える練華だとは思ってなかったし。フッ、俺の才能が恐ろしいぜ…!!」


≪はいはい自惚れなーい。アンタすぐ調子に乗るんだから図に乗らせないわよ

私の目が黒いうちはね≫


「ちぇー。でも戦いでも使えるぜー。相手の情報とか弱点とか見えるかもだし」


そうなれば無敵。もはや敵なし。俺こそ最強のハンター。なんて思っているとキャシーにまた突っぱねられると思い自重。

どっちにしても嬉しい事例だ。ようやく俺の才能が実を結んだ気がする。

だからこそあまり能力を開示しない方がいいな

これが知られれば厄介者扱いされるし注目度をあまりあげたくはない(手遅れかもだけど》

キャシーにも一応仲間内だけの内緒にしてもらおう







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