第72話 戦え(ファイティング)
至徒との戦いは相性を振り分けられたとはいえ敗北に喫したという事実は覆らない。
光に対する影 物量に対する幻影 呪詛に対する
完全不利ではないとはいえ相性によるアドバンテージは大きいものだ。
それが人外の化け物となっては重大な課題になりえる。
1位の笠井は昏睡状態で入院。2位は何を考えているか分からない。3位工藤は猛省(さもありなん)。4位弓野は次に備えて訓練をし5位勝鬨は練気の修練に励んでいる
あの時唯一勝ち得る可能性があったのは勝鬨だけでありそれは雄一というイレギュラーがいたからに他ならない。
彼らがいなければ同じく
それをいやというほど理解した故に勝鬨は練気の練度とリキャストタイムの短縮を目指す。
攻撃自体に問題はなく至徒に通じるのならば攻撃を極めるのではなく攻撃を確実に与えるチャンスを増やすべきと考え彼は練気の
(あいつらがいなきゃ今頃…)
―――回顧し―――あの時あった
攻撃は通っていた。倒せる可能性もあった。だが、致命的に一手が欠けていた
優勢であったこと。未知の敵に対し優位に立っていたことの優越感は慢心を促すものだ。
故にワークホリットのブラックホールに気が付くこともなく。
その一撃で逆に屠られていたという事実は払拭出来ない。
致命的、あるまじきミスだ。多少名を上げた新入りの声がなければ確実にこの場に勝鬨はいなかったであろう
だがそれはあくまでもしもの可能性であり気づいた時に黄金の一撃を与えれば会費は出来たかもしれない。だがその後は消耗で攻撃を放つ事が出来ない
列挙するたびに自身の至らなさが露見する
(俺にできる事。それはただ笠井よりも強くなること。
だがそれだけじゃだめだ…!!)
心証が変わる。移ろう心が定まっていく。今は倒すだけの心であってもいつかは…
今はただこの一念をただ敵を屠る事のみに注ぎ叩きつける。それだけだと
勝鬨は考える
********
「弁明の余地も
「相性もあるがもう少し真面目にやってほしい」
「本当にそうでしたわ。私もここまでの事態になるとはつゆほども思わず…」
あげつらうことなく謝辞を申し渡す工藤は上司に充たる男に対し頭を深々と下げる
本来ならチームリーダーである笠井に謝罪するものだが本人は入院中でそれどころではない為トップランカーの監視役である男に向けて反省の意を申し渡す。
敵はカウンター。倍返しの特性を持っていた至徒とは言え攻撃手段はあったはずでその結果互いに戦いにすら発展していなかった
千日手になり痛手を負うよりはマシとはいえ
まじめにやってほしい者だと男は嘆息を吐く
だが結果オーライともいえる。戦いによる損耗が彼女にはない。次善の策として打つ一手として彼女は重要な役割を持っている
最上級の
いかに相手が強大とはいえデバフによるマイナスは受けたくはない一打だろう。そう思いながらも気取られぬよう表情をおくびには出していない
だがそんな男の意図をトップランカーが察せぬはずもなく
切った張ったと
(自業自得とはいえ、気に入らないですわね。まあ笠井さんの敵を討つと思えば、まあ…)
そう思案し本意ではないものの彼女は自責の念と自嘲を込めて飲み込んだ。
どちらにせよ選択権はない。ただ彼女は上司に従うのみだ
********
「至徒を倒そうと思う」
そうあけぬけに言った。いの一番に何言ってんだと俺自身思うのだが
意外にもその提案に否定的な人はおらず同意してくれた
「だよねー。最近活気も減ってきたし私たちで何とかだねぇ☆」
「雄一さんがそういうなら私も頑張ります!!」
≪にしても意外ね。アンタがそう切り出すなんて。というかこういう面倒ごとは他人任せな気がしたけど≫
キャシーのいう通りだ。俺は面倒ごとは避けるし嵐が過ぎ去るのを待つタイプで事を穏便に済ませたいのがモットーだ
だがそう言っている場合でもなくなった。リジェクトの士気が低下している
勝鬨や弓野さんはやる気に満ち溢れているがそれ以外のプロハンターは明らかに活動が消極的だ。安全かを確認し最低限の資材で切り盛りしている。
ライフライン周りは問題なく魔力を通す魔石や貴金属は確保できていて発電所であるダンジョンで電力は無限に賄えてはいる。が、だがそれだけだ。
一攫千金や命知らずの
至徒の力を見て忌避感をぬぐえないのは当然の帰結だろう。
無限階層と呼ばれたダンジョンの次元を総て消し飛ばし跡形も残さない怪物相手に挑もうと考えるほうがおかしい。
「確かにやりたくはないし怖い。でもこのままじゃ俺の望む生活が送れない
ハンター界隈が過疎化するのは、俺は寂しい」
≪人はパンだけじゃ…ってやつね。娯楽なしに生きていけないのが人間よね
確かに重大案件ね。戦えるハンターで一人でもあいつら倒さなきゃ元の生活の帰れそうもないわ≫
「でもでも、キャシーちゃんはいいの?このままなら女神追跡の手も緩められると思うけど。政府も現状を維持するのに手いっぱいだし追手もいなくなるよ?」
≪それは本意じゃないわ。追いかけられるのは趣味じゃないけど
「いう~☆」
人間に対しそんな
人の世を忍び
正直言って誰も巻き込みたくはない。一度カージテッドで痛い目に遭った手前
棄権に巻き込むことは忌避したかった。だが俺は信じようと思う
共に戦い分かち合う仲間を、だから俺も仲間のために命を賭けられる…!
誰一人死なせはしない。
「でも今からってわけじゃないよ。それぞれ準備が必要だし
それに…」
死なせはしない。俺が死んででも。でもそれで足りない場合だってある
俺の手の届かない範囲で俺には何もできない範疇ならば話は別
俺の言葉は絶対ではなく力も絶対ではない。そのために魔人化だっていとわないが
それでも足りなかったら。そのせいで、もし――――――
その弱気をかみ殺す。それを言葉にしてはいけない
俺は絶対に仲間を護る。絶対に
『仲間を死なせることなんて絶対にありえない』そう誓い
「至徒倒した時の報奨金で何を買うか考えておく時間もね」
そう言いつくろってごまかしてみる。長い付き合いだし筒抜けだろうが
即興の言葉と作り笑いをやってしまうそんな俺の態度にため息をついて三人は断じる
「心配なさんなって☆だって私たち」
「雄一さんの!」
≪アンタの仲間なんだから≫
やはり、そんなものは不要だっていらぬ心配で杞憂に過ぎないと
「ああ、俺もようやく信じることを信じられるようになってきたよ」
本当の
佳夕さんもアリアもキャシーも仲間を護りたいという気持ちは同じ
信じられないというのは無粋で侮辱だったようだ。
こんな俺についてきてくれてありがとう。そう言いたかったが言葉にしたら失礼な気がして。そんなセリフは言うまでもなく持っているとわかっているから言葉にはしない
だから言えるセリフはただひとつ
「買ったら俺のおごりでまたパーティーしようぜ!!!」
「おー!!!気前いーじゃん雄一君!」
「悪い気がしますが…お言葉に甘えちゃいます!」
≪破産させるから覚悟しなさい?≫
またいつもの日常に戻ること。それが俺の最大の祝福
今ある俺のすべてであり、絶対に失いたくないモノなのだから
俺は戦える。準備も覚悟もできている
なるべく早くやつらの
絶対に奴らを叩き潰す!!!!!!
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