第70話 新たな戦術《バトルスタイル》

降神法機構アヴァターラシステムの実地も終わり

本格的に魔法銃アレイシア籠手オートクレールの戦術について考えていた

前提として練華を用いて魔力を放出するのが前提条件であるが

その場合誤差ラグ再仕様回復時間リキャストタイムという隙が生まれる


その問題は佳夕さんやアリアが時間を稼いでくれれば問題ないのだが

問題である。大問題である。俺は男だ。女を盾に戦うなんて言語道断

故に俺の戦術は仲間に頼らず、そして問題の隙をどう埋めるかが肝要になる。


そう言ったわけで例によってまた一人ダンジョンへ繰り出すのであった

無論理由も話したし危険のない浅層の2層での練習だ。これなら信用してもらえるだろう。最近信頼を裏切る真似ばかりしてたし信用を回復させなければ…!!


《で、どうしようっての?当座の問題を解消するって言ったら…鎧で耐えるか盾を以てガードするかぐらいだけど》


お目付け役にキャシーも同行。という訳ではなく俺のフェアリーなので一緒にいるのが当然という理由だ。


「俺としては練気アギトの練度を上げるか回避に徹しながら練るとか行動と溜めを同時にやりたいな。魔法と違って立っている条件もないし」


キャシーの言う鎧を使ったダメージ軽減は理にかなっているが俺としてはそれを生かせる致死を癒す病―ダメージオブランゲージをなるべく使用したくない。


陰府死慄シェオル・マーダークルもまだ一度も使っていないし使用すべきなのだが、正直言うと今となってはあれらに頼りたくはない。

何というか不気味だ。


魔人化トランツァーと無関係な気がしないからこそ使うたびに魔人へ足を踏み入れ沼に使っている気分になる。故にあれらは最終手段。

使用すれば魔人に近づくという保証もないがそうでもないという根拠もないのでなるべく遠ざけておきたい。使えば便利だからこそ裏を感じずにはいられない。


そしてもうひとつ、魔人化トランツァー詠唱スイッチが使えるという事。これは確実に魔人になるファクターである。

めちゃくちゃ使いたくないので試す気もないが。


これも一応キャシーを通じて仲間に伝えてある。

流石にトップランカーや排撃部隊リジェクトなどには話していない…。

アリアのこともある。捕まってモルモットもありえなくはないのだ。

死んでもごめんである


************


《スキル開放。陰府死慄シェオル・マーダークル発動》

『ガゴッッ!!』

「よっしゃスキル成功!!!」


などと供述したが早速『陰部死慄シェオル・マーダークル』を使用

HPをわざと削り0になった瞬間攻撃していた対象。初見殺しの一角兎『衝角兎ワンキルラビット』の即死スキル『一角一撃』を受けて即死。あらかじめセットしていた『陰部死慄シェオル・マーダークル』が発動する。


使用して分かった。

これは自動で発動するタイプであり逆に言えば俺の意志関係なく死んだ場合オートで強制発動するスキルである。

つまり俺が死ねば誰かを否応なく道連れにする嫌がらせ過ぎるスキルということだ

・・・・・・・・・・・・・

前言を翻す行動に出た弁明があるとすれば

使うのをためらっていたのは本当だ。

だが知らないを知らないままにしておくこともリスクである。


俺がゲームで試しに死んだことで駆動限界や死に至るダメージを理解したように取り返しのつかないスキルだった場合を考慮し嫌でも把握をしておかなければ後々後悔する可能性だってある。


だからさ、死ぬのを喜びとするマゾヒストを見るような侮蔑の視線を向けないでキャシー!??


≪やっぱヘンタイよねアンタ≫


「あのさあ!!毎回言っているけど死にたくないから程度を知っておきたいの!!

俺だって好きで死んでるわけじゃないからそこんとこよろしく!!!」


必死の釈明と哀願込みでの誤解を解こうと躍起になるが

軽くため息を吐いてキャシーは呆れたように


「まったく、付き合い長いんだからわかってるにきまってるでしょ?」


「あ、キャシー…ツンツンだったお前がついに俺を名前呼びで…っっ!」


「ぶっ殺すわよッッ!!?つーかくだらない事覚えてんのねアンタ…!!」


「え?あれくだらない事なのか!!?結構キュンと来てたんだけど!!!!」


「うっさいわね!!別にいいでしょ!虚構フェアリーのセリフなんだし!!」


初期の会話を思い出し新事実発覚。あれはただの社交辞令チュートリアル科白セリフだったらしい。カンペかよォォ!!!


ショック。いやまあAIだからあらかじめ登録した設定なのはわかっていたけどショック!!!いや女神様なんだけどね!??


「で、肝心の大剣と魔法銃の組み合わせだけど決まった?」


「うん、やっぱり練華ヴァリアブルによる魔力放出で撃つ方式にするよ

攻撃は受けるか躱しながらで」


「まあいいんじゃない?ていうか魔法銃って本当に魔力がないと撃てない訳?その辺疎いのよね私」


「もちろん魔弾のようにあらかじめ魔力と魔法陣を込めたものがあったり

MAG同様ダンジョン内のマナをオドに変換して撃つこともできるから魔力は必須じゃないかな?俺の場合は相性だし」


「そうだったわね。そうだった場合魔力なしで魔法銃の適正があった時困るものね

…それだったら魔力なしで杖適性の場合どうなるのかしら?」


「その場合はそもそも適正に該当しないって感じかな。魔力なしの人間は魔法使いの武器が使えないことになるね」


「へぇー。色々ルールがあるのねぇ」


「ていうかキャシー。他人事みたいにいっているけどコレ作ったの女神キャルシュリー様本人だからね!!」


「んなわけないじゃない。

私はあくまで才能の数値化

レベルとステータスに魔物に効くよう武器を調整しただけよ。

それ以外は手を付けていない。無論人間の叡智の賜物ね

武器適正は私が作った概念じゃないわ。多分元の異世界からの引用ね」


知らなかった…。

そうなると練気とか知らなかった理由はそもそもキャシーが作った概念ではないからで数値化の際に偶然できたかもしくは異世界にも同じ技術が存在するのか定かではない。


ゲートで繋がっている以上法則もある程度共有していなければ片方が傾いてしまう。

…そう考えるとレベルの制限を超える方法も理屈上あり得るという事だ


異世界人と俺らの世界の人間。違いはあれど同じ法則の元少なからず繋がっている

異世界の技術をこちらに、もしかしたらこっちの技術が向こうに言っている可能性もなきにしもあらず。練気ももしかしたら異世界のすべの可能性も浮上する

そうなるとキャシーの技術は基本流用に比重している事がわかる


「キャシーって、意外とすごくないんだな」


「失礼しちゃうわね…っ!!いっとくけどアンタたちの生殺与奪せいさつよだつの権を私が握ってるの忘れないでよっっ!!アンタがアタシの機嫌ひとつを損ねただけで指ひとつ動かさず全人類のレベルステータス消しちゃえるんだからっっ!!!」


などとすごんでいるが微塵も怖くはない。9割の力を割きながらここまで長らく現状を維持してきたんだ。そんなことをするわけがないのは自明の理だ。

そしてキャシーならばどんなに人間に失望しても力を返還しないのもわかっている


「ごめんごめん。まあキャシーはそんなことしないのは分かってるから」


「うっ…まあそうなんだけどアンタも大概好感度カンストしてるわね…」


「コミュ障だからね。基本的に俺は人は信用しないんだ」


「それは関係ない気もするけど…」


失礼なことを言ったので謝罪。冗談めかしていたとはいえ失言なのはわかっている

そしてキャシーが凄いことだって分かり切っている。


力の9割をどことも知らない人間に

そして狙われているとわかっていても力を緩めたりはしなかった。


気に入らない相手の力を奪うことだって可能。なのにそれをしないのは聖人を超えた女神だ。いや女神なんだけど慈愛の度合いが桁違いすぎる


俺ならば絶対にできないことだ。俺は俺の身を護る事が精いっぱいで自分の余力を他人に渡すなんて不可能だ。好感度がカンストするのも致し方なしだろう。


その話を聞けば異口同音いくどうおんすると思う。


だからこそ真逆に俺はめったなことで誰かに心を開いたりしない。

仲間の皆は俺の中で信用に足る行動を示してくれたから背中を許しているだけで基本は警戒心MAXである。


俺は弱い。弱いからこそ余裕がなく狭量きょうりょうなのだろう

裏切られるのも、失うのも沢山だから。理由にすればそう言う事なのかもしれない


だから佳夕さんもアリアもキャシーも。そんな俺と共に戦ってくれるのが心強く

俺自身が強くなったと錯覚するほどに頼もしい


まあそんな悲観よりも、強くなるという目標を努め続けるほうがずっと有意義だと知っているから


右手に大剣『愛染・烈火』を携え

左手に籠手『オートクレール』と魔法銃『アレイシア』をこしらえて


みんなが信じる俺でいたい。過去を悔やまず前に進める胸を張れる自分でいる為に

強くなるために研鑽けんさんを重ねるだけだ…!!


**********


至徒の消息は今だ掴めていない

力が未知数でありダンジョンを消滅させるほどの力を有したモノが確認されて5体

楽観視していた世界情勢が一転するほどの事態であり世界中が至徒の捜索に躍起になっている。


世界もまだ捨てたものではない。諦観ていかんに屈することなくマンパワーで国を興してきた現代ダンジョン社会は伊達ではないという事だ。


ダンジョンが出来てハンターという職種が生まれたことにより厭世的ペシミズムな考えの民衆は減り時代遅れともいえる狩猟者ハンターによる拿捕ハンティング興業というものは人々に活気を与えている。


そしてトップランカーの敗北を契機に海外。

主にアメリカのハンターが至徒を倒し名を上げようと日本へ入国しているのだ。


ハンターというものはアスリートよりゲーマーに近く矮躯わいくである日本人が強豪たらしめたのはひとえにゲーム強国という枠に合ったからだ。


身体能力も素養も肉体よりも才能に起因する為腕っぷしの強さよりも戦略性と相性の思索がハンターには求められる。


肉体を鍛え上げたアスリートには申し訳ないがステータスとレベルは肉体的依存ではない。良くも悪くも各々の才覚により得手不得手が明確化するのがハンターという職業である。


だからこそ俺みたいなモヤシでもモンスターと渡り合える理由となっているのだ。魔素洞調律シンクロニシティも鍛えれば上昇する訳ではない。


アリアの様に肉体改造による底上げや工藤さんみたいにドーピングなどの『ダンジョン由来の外的要因』が上昇の起因とされていると俺は考えている。


実際アリアも肉体的に筋肉質ではなく全体的に細いフォルムであれほどの力を行使しているのは証明になっている。


ダンジョンから帰宅。自室にて例によってベットに寝ころび iPad(魔道具式)をスライドさせ見ているニュースを眺めながらそう思案する

アメリカという巨躯ムキムキマッチョメンに日本が後れを取らない理由はその辺だと思う。


そしてトップランカー上の精鋭がアメリカにいるのだ。そのトップ5。その中でのトップであるレベル94の男。


エイビス・ウォロー氏はナイスガイのイケメンの細マッチョ。でありながら笠井さんを上回るレベルとスペックを有している。


公開されているプロフィールでは核融合の魔法とエネルギーを操るという生きた発電機どころか太陽というトンデモ人だ。


雷霆らいていであり雷帝エレクトロマスターであった笠井さんと比べればどちらが強いかなど明白である。


思うんだがステータスとレベルが高くなおかつ魔法を同時行使できる人が強い法則なのは理解できるが


トップランカーもそうだがトップ5も然り強い人は総じて見た目までハイスペックという法則があるのだろうか?見た目=スペックならば女神さまは相当面食いに違いない


と思いジトーとキャシーを見る。すっごい見る。卑屈と卑下にこの世総ての非モテの代表を請け負う視線をキャシーにぶつける


《な。何よ…何かした私?》


「べっつにー。この世は不公平だなーなんて思っただけだよ」


《なんか含みがあってムカつくわね。これでもフェアに力を与えたつもりよ!》


まあそうだろうとはわかっている。キャシーがそんなことをするはずがない

善人悪人問わずブサイクでも醜男しこおでも分け隔てなくキャシーは力を送っているのは百も承知だ

・・・笠井さんを思い浮かべiPadに映るエイビスさんの顔を見る

じーーーーーーーーーーーーーーー

そして矢継ぎ早にキャシーを見る

じーーーーーーーーーーーーーーーー

じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

視線の圧をどんどん強め。というかまなじり開いてキャシーに詰め寄っている


「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


《いや違うから!??私顔で選んでないからっっっ!!!信じなさいよぉ~~~~~~~!!!!!》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る