第69話 降神法《アヴァターラ》機構《システム》

仮想演算検証室シュミレートルーム。いわゆるゲーム制作現場へ案内され

SF近未来チックなデジタルな部屋へ入室した


ゲーム制作者の面々が集い見たことのないメカや機械椀マニピュレーターアームを操作し

パソコンが陳列する中プログラムを絶え間なく打っている人の姿もある。

要するにゲームを作っているというより新たな兵器を開発しているような場所だった


「驚いたかい?」


「圧巻ですよ…、今更ですけど進んでますね色々…」


「毎日が進歩だからね。科学は常に日進月歩にっしんげっぽ

まあだからといって個人的にはすべての科学の叡智を魔道具に変換したのは反対なんだけどね

先達が組み上げたシステムを旧弊と断じるのは好きじゃない。敬意を以て新たな改革へ導くのが後人の務めだと思っているよ」


立派な思想だ。かくいう俺も魔道具に否定はないが科学や電気製品を否定するあり方は許容できない。


社長さんの言った通り先人への侮辱にほかならないからだ

その考えはもう古いとかという考えは間違いではないが

先祖が導き出した答えを古臭くてダメというのはリスペクトに欠ける


そんな会話をしながら道並ぶ機材を横目に案内される場所はさっきと打って変わり質素なものでMMOのヘッドギアとベットが二つだけある部屋だった


俺と弓野さんがMMOを実施する。

アバターと言ったシステムを使用するために俺が想像したのは

全身をスキャンするような

台の上で立ったり寝転んだりするMR検査のようなものかと思ったが

普通にMMOゲームと変わらないベットで寝てプレイするものらしい


「オレこれー!!」


といって弓野さんは左のベッドへダイブ、先にベッドの選択権を奪われてしまったのは不覚…!その左のベッドを俺が使おうと思ったのに…っっ!!!!


「くぅ!!取られたぁ!!!!」


「修学旅行の学生じゃないんだから…まあ楽しんでくれてなによりだよ」


社長さんに呆れられているが最近まで学生だった時分としては高校生気分はなかなか抜け出せない。

というか俺は常にピーターパンシンドローム。子供のままだから仕方ない!!


仕方なく残りの右のベッドに座りヘッドギアを頭に取りつけて説明を聞く


「これから君たちにやってもらうのは降神法アヴァターラ機構システムという新技術で動いて感想を聞かせてほしい。MMOを起動後近くに君たちのアバターが出現するからやってみてほしい」


「うっし!じゃあお先ィ、雄一ィ!!」


と早速説明を聞き終えてなんのためらいなくヘッドギアをセットしてベッドで横になっている。

怖いもの無しかアナタは…、俺が躊躇しているのは以前ヘッドギアが壊れて死んだ経験があるからだ。まあ無事だったけど

だがここでまごまごしていても仕方ない


続いて俺もセッティングし横になる。そしてゲーム起動と共に視界が変わる


眼下に広がるのは先ほどの部屋で見渡せば社長と寝ている二人の姿

自分で自分を見つめるという死んだときしか自分の姿を見れないなどという一世紀前の話を思い出してしまう


感覚としては生身と誤差はなく現実世界にいながらダンジョン内のような感覚

ハンターとしてレベルとステータスを発揮している状態だと理解できた


「成功のようだね。どう、感想は?」


「すっげえ!!自分で自分見下ろしてやがるゥ!!」


「いや違うでしょ!ハンターの時と誤差がないかとか違和感がないとか…」


「ねえよんなもん!このゲーム何年やってると思ってやがる!!信頼性はピカイチだぜぇ!!!」


どうやら弓野さんはワールドマインドやワンダーグラウンドへ厚い信頼というか全幅の信頼を置いているらしい。


俺が始めたのは半年前で弓野さんと俺の年齢はあまり変わらないと思うのだが…何年やってんだろ?ともかくゲーマーとしてもハンターとしても熟達者の弓野さんの言う通り俺自身も全く違和感はなく。


唯一言うとするなら自分で自分を見ているという気味の悪さくらいだろう


そして俺に対し手招きをして社長が無言で手を差し出してきた。

握手を迎えるようなしぐさに俺も反射的に手を掴んでしまう…つかめる…!?


「これってもしかして…実際に触れられるんですか!??」


「その通り。物理的干渉も実証済みだ。安全装置セーフティーマージンを搭載しているから人間を傷つけることもない」


手を握ってようやく気付いた。社長さんは生身の肉体で俺はハンター状態だとすれば腕力が桁違いすぎる。力加減を間違えれば社長さんの手を握りつぶしていたことに気付いて手を引いてしまう


「大丈夫大丈夫。ケガひとつしないさ」


「いやすみません…!!」


そんな俺とはよそに弓野さんは部屋を縦横無尽に駆け回って遊んでいる

そしてその周囲にドローンが飛んでいることに気付く。


「ドローンの投射技術…。でもゲームアバターが現実で使えるなんて…」


革新的なんてものじゃない。ハンター世界の常識が変わる。ハンターという生身である以上痛みはあるし恐怖もある。

それをアバターに置き換えればそれすらなくなり部屋にいながらダンジョン攻略をリアルで実行できる。

俺たちが血を流さず死ぬ事もなくアイテムを収拾しなおかつ3時間というリミットの制約すら無視できる代物だ


「ナーヴギアによるスキャンとドローンの投射技術。

そしてダンジョンを中継器として霊脈を索引受信する

それらを組み合わせて疑似的な魔素の肉体を構築するシステム

テレイグジスタンス技術から取り入れたもので遠隔で現実と遜色ない稼働を可能にするアバターシステムさ。ただ唯一欠点があるとすれば…」


ほら、と社長さんが弓野さんに視線を仰ぐと急に弓野さんの挙動がバグって動けないでいる


「あれぇ…??バテてねえのに動けねえ…!!!」


「ドローンの動きや演算処理を超過すると追い付けないことと

ドローンを破壊されれば投射も不可能になることだね。

ゲームなら調整が効くけど現実のハンターの身体レベルに合わせた場合世界リアルとのズレを調整ができないから誤作動を引き起こすんだ」


「それを早く行ってくれよ…!動けない…」


「ちょっと待って、調整を一からリセットすれば治るから

流石にトップランカークラスの力にはまだ追いつけないのは査定済みだからね」


空に手をやりキーボードを動かすような仕草をしたとたん弓野さんの体が動くようになる。よくわからんが進んでるぅ…!

多分SF映画やアニメで出てくるホログラフィックのコンピューターを用いたのだろう。挙動が戻った弓野さんは体に異常がないかストレッチをしながら社長さんに訊く


「はぁ…つまり欠点があるからまだ使用段階に至れねえっつー訳か

まあそうだわな。まだ人間で使ったことないんならよ」


「そう、いっちゃあなんだけど並のハンターじゃ負荷があるかもしれないから中々テスト出来ないんだよね。だから弓野さんに白羽の矢が立ったわけだよ」


「まあ人道的だわな。ノーリスクで事を進めるっつーのは良いと思うぜ

ラグもないしダンジョン内のスペックと変わらねえ。だが例え挙動を追いつけても

ドローンを破壊されれば問題はまだ解決できねえってわけか」


「そう、将来的にはバリアでドローンを守る事を旨にしているよ

諸々の要素を克服し実用段階に行けば異世界での活動も可能というわけだよ」


危険要素がないと聞くとやはり脳裏によぎるのがアリアを人体実験した裏の政府

その裏政府の所業を知っていると懐疑と猜疑が出てくるが信頼第一のマネジメント企業がそんなヘタを打つはずがないと納得する。

だがどうしてもそれが脳裏によぎる悪癖はどうにかしたほうがいいとは思うな…


「実用までどのくらいかかるんです?」


「うーん。今のところ半年ってところかな。この降神法機構アヴァターラシステム自体ダンジョン発生時に上がっていた翻案だから

この実験は少なくとも8年を費やしている。

その最終調整に半年は少なくともかかるね

それほど長いプロジェクトってわけだね」


初期の時点で立案されていた企画。将来的には無血でのハンター活動を考えていたという事になる。MMOゲーム制作とはわけが違う。逆にたった8年でここまで確立できたのは大躍進以外何物でもない


「半年後実用と生産が可能って事ですか?」


それは、困る。俺はMMOゲームでのハンティングは好きだし

苦痛や死を遠ざけるシステムに異を唱える気はない


ただハンターは命懸けの仕事で少なくとも俺にはプライドというものがある

ハンター業に誇りを持っているし綺麗ごとだけじゃない。


戦いにスリルを求めていることだって否定しない。だからそのプライドとスリルを排すような現実を俺は受け入れられるだろうか…?


そんな顔を曇らせていただろう社長さんは人差し指をピッ!と上げ俺の心を見透かして肯綮こうけいてる回答をした


「まあね。でも君が懸念しているだろうハンター業が廃業になることはないね

君だけじゃなく大多数のハンターはこのシステムに反旗を翻すだろう

命懸けの今まで培ってきた技術を機械に横取りされるかってね

まあ私たちも培った技術ではあるが…そういった批判も受けて基本的にこの降神法機構アヴァターラシステムは危険区域や必要な人にのみ限定使用を許可されるという方針でいるんだ。だから安心していい」


「だってよ!オレも確かにアンタらとその仕事は信頼しているんだけどよォー。

やっぱ自分で汗水流してハンターしたほうがいいと思うぜ」


「そこは私も同意だよ。この技術は倫理的側面にも警鐘を鳴らしていてね

現実感の乖離を誘発することを危惧しているんだ。

安全や安心を確保する代償に『自分が死なない』という錯覚を促す危険性も承知している。だからハンターの反発だけでなくそう言った危険性を考慮して降神法機構アヴァターラシステムをほどよく運用するというのが目的なんだ」


過ぎたるは猶及ばざるが如し

血が流れず痛みを感じないという事は危機感の希薄を意味する

感覚機能を追加すればその問題はなくなるだろうが

今のご時世ダンジョン絡みは避けられない事案で

戦いたくない人や痛い思いをしたくない人が我慢して戦っているという例もある


それに対する救済措置として完璧であり完璧故に欠点を見逃してしまうリスクを孕むのも事実。機械は間違えないのではなく間違いを理解しないという言葉がある

そしてそれによってもたらされる無血のハンティングは現実感を薄れさせる。


心的外傷PTSD回避のための予習としてMMOゲームが開発されその延長線にある故に安全面に重きを置くのは仕方ない。


感覚機能を拡張すれば問題はなくなるがそれでは本末転倒、実地で戦っているのとさほど変わらない。


違うとすれば回復や蘇生などが残機制度リスポーンに変わるくらいだろう。それはそれでメリットがあるのだがやはりとしてかこれも命の軽量化の一助になる要因となっている。


故に結論として出たのが降神法機構アヴァターラシステムを過分な使用はせず

あくまで必要な時と人にのみ提供するという展望で挑んでいるわけだ。


要は均衡均整バランス。毒にも薬にもなる技術の革新はどう扱うかで決まる。そこが妥協点で落としどころだろうと考えているわけだ。


ダンジョンというゲームめいた世界で現実感を保っているのは痛みがあるからだ

そして臨場感や危機感が現実というものを教えてくれる。

だからこそハンターをゲームと錯覚する人は少ない。


現に実力派社会であることは依然変わりなくハンターに得手不得手や優劣が付くのも現実の延長線上たる所以なのかもしれない


順応と思い込みをはき違えてはいけない。それほどに便利で危うい技術なのだと俺は思った。そしてしっかりそれを念頭に置いた判断の元運用されると聞いて胸がすいた


確かに弓野さんの言う通り信頼が置けると判断できる

矢継ぎ早に思った疑問を社長さんに投げかける

弓野さんはというとどこまで動けるかの調整を測り部屋を駆けまわっている


「武器や防具の場合は各自後付けで装備するんですかね?」


「そうだね。流石に身体情報を立体グラフィックス化可能にしたといっても

魔素で出来た武器や防具をそれこそハンターの数だけあるものを総て再現するのは不可能。だからそうなるね」


「ダンジョン内でのリミットも無制限という事ですかね?」


「そうなるね。でもあくまでドローンが活動するまでだ。場合によっては3時間より短くなる場合もあるね。点検や魔力充填が必要になるからやはりそこは完璧といかないかな?」


なるほど。ドローンによる投射はドローン自体に多大な負荷をかける

いかに精巧で頑強に出来ていたとしても機械の限界はいずれ来る


魔素の金属にも金属疲労という現象が確認されていて金属という規格で優れていても金属の性質上脆弱な部分も引き継ぐ形になっているらしい。


硬度や靭性がある限り、形ある物質である限りいつかは壊れる宿命にあるのだ


「他にはないかい?」

「オレはパース。説明書読むの嫌いだし」


弓野さんは特に質問はせず俺は興味が続くままのべつ幕なしに社長さんに斟酌しんしゃくなく色々質問してみた

完全に魔素のみで出来ているのかとか魔素洞調律シンクロニシティも同じなのか

そして質問することもなくなったのでふと思いついたことを呟いた


「じゃあ、最後の質問だと思います

…この降神法機構アヴァターラシステム。笠井隆吾さんのスペックを再現出来ますか?」


「オイオイ!男の子だろ!!実力差なんて機械に頼んなよ!!

それにお前は笠井を超えれると思うぜ!??」


その質問にいち早く反応したのは弓野さんで発言に言葉が足りなかったようで語弊を生んでしまったようだ。しばし訂正し言い直す


「あ、いやそういう訳じゃなくて…。再現可能限度っていうものがあるかっていう純粋な興味で笠井さんレベルさえも将来的に追いつけるかなぁ?なんて…」


素朴な疑問…とつぐむ前に喋っていた内容を反芻し失言を口走っていたことに気付いて口を反射的に抑える

降神法機構アヴァターラシステムを確立し実現させた世界1と呼ぶ会社の

その総括者に向かってその言い草は喧嘩を打っているのと変わらない

再び訂正する為に舌を回すも適切な言葉が浮かばない


そう逡巡しゅんじゅんしていると社長さんは朗らかに笑い


「いいね。確かに最強のトップランカーを再現する

そこまで考えていなかったよ。あくまでハンター活動の補助的な役割に留めていたんだけど…なるほど、私としたことがハングリー精神が足りていなかったようだね」


「あ、いえ…」


俺の言葉を受けて社長さんに妙な火を付けてしまったことを後悔

謝罪の前に訂正はいらないと待ったをかけて


「いや、やはりハンター直々の言葉は重みが違う。そして戦わない我々と違う視点を教えてくれる。

いい勉強になるよ。君たちを呼んで本当に良かった。

実は秘密なんだけどこの降神法機構アヴァターラシステムの開発に

私、少しモチベーションが損なっていてね

社会貢献や実績を伴っているにもかかわらず自分で企画しておきながら気が進まなかったんだよ。その理由が釈然としなくて

何が足りないのか疑問に思っていたんだけど

その疑問が今ようやく氷解したよ。

役に立ってはいるけどその実意欲的に取り組んでいないのは

何の為誰の為と考えるあまり自分の為を忘れていたからだ。

目標の為に邁進し続けるハンターのチャレンジ精神は我々にないものだ

君たちは若く、そして情熱を持ち続けている。

失念していたよその心を。そして君たちにはこの技術は無用の長物だとも」


「そんなことないですよ!というかすみません失礼な事言ってしまって!!!」


「いいや、謝罪はいらない。むしろ感謝するよ。

これでようやく、真の意味で降神法機構アヴァターラシステムが完成に至るんだ。私としてもその情熱と目標、チャレンジャー精神に倣って打ち込みたいと思う」


「えーっと、俺のせいなのはわかっているんですがアブナイ方向に向かってませんよね…?ね…、ね…っっ!!!!」


無意識に焚きつけた事で俺が社長さんの暴走を促進してしまったようだ!?

俺のせいでマッドサイエンティスト誕生で世界がアポカリプス不可避!??

などと思っていると豪放に社長さんは笑って


「はっはっは!そんなわけがないよ!!ただ単にやる気が出てきたってだけだよ

君たちがいなければずるずると遅延していたかもって話」


「よ…良かった…」


心の底から安堵する。社長さんをそそのかし悪のドローンハンター軍団制作 幇助ほうじょとか洒落にならない。


誇大妄想が過ぎると思うかもしれないが前代未聞故に危険を危惧すべき技術だと理解しているからだ。

まあそんな言葉にかどわかされる人じゃないと思っている。信じているからね!!そう思っている矢先


「えー何だよ、それって結構面白そーじゃん。ハンターも作れるってこたー新しいモンスターも作れるってわけだろ??新しい戦略とかにも使えそーじゃん」


「ほう…後学のために詳しく」


「いやダメでしょ!??」


俺も人のことは言えないが余計なことを社長さんに吹き込もうとしてる…!!

そしてノリノリの社長さんに対し待ったをかける

もちろん本気ではなくただの悪ノリだと気づき

社長さんともども笑い合う楽しい実施だったとさ

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