第67話 息抜き(フリータイム)

弓野さんとの至徒の捜索の後、俺には休息を命じられた

曰く「これはプロハンターの仕事で無理して付き合う必要はない」

リジェクト入りしたとはいえ俺もある程度名が知られたアマチュアハンター

そしてプロの案件に関わらせすぎた事への謝辞と今まで通りの生活で心を癒してほしいという配慮だ。


至徒との戦いというのはそれほど凄絶であり勝鬨さんの案件はダンジョン消失まで及んだのだ。

俺が本来踏み入っていい案件ではなく巻き込んだことへの悔恨。だが俺だって無関係ではなく全ハンターが困窮する事態でもあるのだ。それの一助もハンターの端くれの役目だろう。そう言ってみたものの


「頑張りすぎだお前。献身は美徳だが人間はそんなに頑丈に出来てない

ガス抜きしなきゃぶっ倒れるぞ。必要になったら呼ぶからよ」


そう言われれば引き下がるほかない。さりとてやることもない

ハンターをやっているのだからやることはハンターな事しかないのだ

貯蓄は充分にあるしリジェクトの報奨金もあってかプチリッチだ

高級豪邸は建てられないにしても生活に困ることはまずありえないだろう


ハンターになってから東奔西走。そのせいか動かないと落ち着かない


「俺ってこんな社畜体質だっけ?」


「へー…っこれが練気アギトって言うんだ☆

新たな私の才能開花だね☆」


「私もキャシーさんの魔法に耐えられるよう練気アギト頑張ります!!」


≪こんな隠しスキルがあったなんてね…人間凄いわ…≫


例によって俺の隠していたことを包み隠さずすべて話した

リジェクトに入ったこと。練気アギトのこと

佳夕さんはプンプン怒っていたがなんとか留飲りゅういんを下げてもらった

練気アギトのことは内緒だったが弓野さんの口添えで許可を下してもらい今に至る。他のハンターには内緒にという取り決めの為神谷さんや三崎さんに伝えられず罪悪感を禁じ得ないが仕方ない。彼らが内緒にする保証はあるが身バレする可能性はゼロではないのだ。交換条件として俺のパーティーのステータス開示を要求され結界魔法の中限定での使用を許可された

アリアは攻撃の練気アギトを上げ佳夕さんは魔力の練気アギトを上げている

ステ振りで様々なアビリティスキルを会得し形にしている


アリアの練華ヴァリアブル

死斬血牙レッドルーム豺狼ウルフティング』というらしい

血のたぎりが続く限り攻撃力が上昇する攻撃偏重型練気であり

血糊を武器が帯び返り血を浴びるほどに攻撃回数が上昇するそれは攻撃こそ最強の防御と言わんばかりの防御を無視した連撃スキル。


佳夕さんの練華ヴァリアブル

和光同塵トゥインクルスター頂絶突破アマルガム』というらしく

詠唱時間を長くすれば長くするほど魔法威力を上げ詠唱中に大気のマナをオド変換し続ける永久機関。これは神代魔法に耐えるための練気だという


元々のレベルでのポイントもだがそれぞれの才覚によって目覚ましい練気アギトを生み出している。


なんというか俺もなんかすごい練華もうひとつ生み出すべきじゃね?と思うほどに格好いい…!!


弓野さん曰く『練華ヴァリアブルは単純なほどいい』らしく

複雑にした練華ヴァリアブルは発動に手間がかかるらしい

卓絶した練気アギトを作ったのは良いが自身の相性や方向性を無視したものはスポイル化してしまう為だ。


そして人間の範疇を超えた練気は編み出せないということ

人間に限界があるようにその元である人間の範疇を超えることは不可能

笠井さんはパッシブスキルで電気を常に纏うという特性を持っていたのでどういう練華かは知らないが卓絶した練華を有しているらしい

そして勝鬨さんは元の才覚を以て編み出した奥義を練気化している為リスクがない

2位の人は不明で弓野さんの予想では複雑すぎる練気と予想している


練気にリスクがあるのは弱点を作ることで高度な練気の負荷を抑える特性があるかららしい

つまり完全無欠や絶対無敵の練気は存在しない

強い練気ほどリスクを強いて複雑であるほどに発動が難しい

だからこそ基本は単純で指向に合った練気をお勧めされる


そういわれると…作りたくならない?複雑で絶妙な練気を!!!!

と言いたいがポイントを無駄には出来ない。もし俺にこれ以上成長の望みがなければ最後の頼みの綱を無駄に消費するというのはあまりにも間抜けな話だ

なので『零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン』で会得したアビリティスキル『オド変換』『魔法耐性』『オド放出』などの軽めのAPで賄ったものをどうにかやりくりして作るしかない。これだけで練華に昇華できたのも偏に攻撃防御を犠牲にするというリスクを作ったからだ。

・・・そしてひとつ思いついた。俺の練華には魔力を放出することで魔法を緩和する特性がある。それを用いて造れるのが


「魔素結晶化による武器の付与。『零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン』の弱点である攻防激減を補填する練華ができる」


そして早速それを作ってみようとアビリティボードを操作するが

突如注意事項の画面が映し出された


『承認不可。『零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン』を破棄しなければその練華は使用できません』


・・・甘かった。これですべてのステータスが盤石で無敵になるはずがそうは問屋が卸さない結果になる。どうしても弱点のない練気を作りたくないらしい


うーん、ならば零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオンで魔法銃の路線は変わらない。って感じだな

左手に装備している魔法銃『アレイシア』も試射してみて所感としては悪くない


「うん、籠手ガントレット『オートクレール』の補正でうまく捕捉できる」


本来は腕力増強や武器の強化に用いられる籠手を魔法銃補助の為だけに使うのは心苦しいので何か生かせないものか…


すると不意にメールが届いた。差出人不明で知り合いと言えば雄二さんとパーティーメンバーに弓野さんと号正くらいだが


ウィンドウに表示し内容を確認…良いのかな?アヤシイメールだったら怖いな

いやそんな一昔前の詐欺メールはもうなかったんだっけ?ハンター制度ができてからその辺厳しくなったことに気付かないのは俺も一昔前の風習が根付いているからかもな


とにかく見てみよう。表示された内容はこんな感じだ


『平素よりお世話になっております。

鹿目雄一様 

弓野亜美様の招待により新たなMMOアップデートのプレイヤーとして選ばれました

是非本社へ訪れてください

ハンターMMO協会『ワールドマインド』 より』


どうやら本当らしい。いやわかってたよ。

怪しいサイトとか行ってないからね俺

健全な人間だからヘンなメールとか来ないの知ってたし

なんて誰に充てた言い訳か分からないことを心の中で呟きながら


「ハンターMMO。『ワンダーグラウンド』の更新か…」


俺のやっているMMOゲームはこれであり基本すべての人にこれが届けられるのが義務付けられている

レベル20まで上げるというのも現代ツールを動かす魔石や鉱石を運搬するために必要だと佳夕さんは語っていた。


ダンジョンは単に発掘場というだけではない。声以外捨てるところのない牛やアンコウの如くダンジョン自体も発電所ならぬ発魔所として運用されている。無限の魔力が今なお魔王から発せられダンジョンは欲望が続く限り無尽蔵ならば永久機関と言っていいだろう。


手術や移植に必要な魔素やエネルギー源としてマナなどがあらゆるツールに利用されている。

俺が持っているスマホなどのかつての電気製品もまた魔道具として魔力を用いた端子ツールとして運用されているのだ


そして霊脈同士つなげることができるので移動用のポータルだけでなく電波の中継器としても活用している。


魔力の幅は少なくとも太陽系まで及び宇宙にもダンジョンがあるというジョークとしか思えないが宇宙ステーションや月のダンジョン旅行などある為冗談ではない


その為人工衛星に至っても魔力を用いた技術を使用している。

総ての家電製品は魔道具に成り代わり

今では電気用品は蒐集家コレクター歴史博物館ミュージアムの展示くらいにしか置いていない

まああくまでも成り代わっただけであり過去の電子製品をそのまま魔道具へ移行させただけで別に生活に変わったことも支障もない


とかくあってMMOゲームもまた魔道具としてツール化されており従来のMMOと差違はない。

ただしハンターゲームに限りリアルに反映される為従来のゲームでは不可能なことができた。危険を冒さずレベルを上げる画期的なシステム。それのアップデートはハンターにとって心待ちな出来事である




*********


招待されたのは俺だけという事もあって佳夕さんやアリアの随伴は許されなかった。

とはいえ彼女らもあまりゲームに感心があるわけではなく各自自由行動を行っている。


大手ゲーム会社というだけあって大きく屹立きつりつしたビルは壮観だ

シンシブヤのバスで数分移動しワールドマインド日本支部へ到着。


自動車や単車バイクなどの移動手段はポータルがあっても健在だ。

ポータル自体霊脈の有無で行き来が出来ない欠点もあるが先んじて言った通り電気やガソリンが魔力に変わっただけで生活の幅は変わっていない。


人間変化に強いのだが急激な変化を求めているわけではない。

安定した地に足着いた技術。電気や燃料の資源が限られた中生み出された魔力の資源化は賢明な判断だとは思えないが10年経過した今では普通になっている。

暇つぶしに脳内解説を挟んでいると弓野さんが先に到着していたらしい

バスから降りた先に彼女が手を振っている


「よォー!急に呼んで悪いなぁ!!」

「いえいえ、招待してくれてありがとうございます!新しいアップデートの先行プレイ。憧れていたんですよ…!」

「そいつは良かった。オレとしても息抜きになるかなって思ってお前を紹介したけどよ。気に入ってくれて何よりだ」


そんな歓談をしながら本社へ足を向ける。

自動ドアを抜けた先、そこで丁寧なお辞儀をして迎えてくれる男が一人

ワンダーグラウンド創始者であり統括社長である『有馬ありま和彦かずひこ』が慇懃いんぎんに迎えてくれた


「いらっしゃいませ弓野様鹿目様。私は有馬和彦

本日はご多忙の中ご足労頂きありがとうございます」


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