第62話 勝鬨号正VSワークホリット
双方の気迫が物理的障壁を生み出し互いにせめぎ合い領域を譲ることはない
先に動いたのは勝鬨さんで瞬刻地面が迫り数メートルという距離が圧縮される。一拍も置かずしてワークホリットへ勝鬨さんは肉薄したのだ
これが縮地という俊足の極意。刹那の速さにて敵の懐中まで入る。
それから生じる時間にしておおよそ0,0000001秒の抜刀は
彼我共に認識できないレベルのスピードで打ち放ち斬撃は振りかぶるという所作のみがかろうじて認知できたほどだ。
それをたやすく奴は往なした。神速を超える絶速を前になにも動じることなく攻撃を受け流したのだ
ガキンッと金属がはじかれる音が遅れて聞こえる。だが想定内と空転した斬撃の後に第二の軌跡が浮かび上がり奴の表皮に朱線が引かれる。それが見えたのは魔素洞調律を底上げした俺とワークホリットと呼ばれる至徒のみ認識していた
『へえ、抜刀を同時にこなすとは。いや、初撃はわざと遅く放ったのかな?やるねお兄ちゃん』
納刀から抜刀までの所作。攻撃は一撃だけではなかった
横一文字に一閃する刃は懐に第二撃、小刀による連撃が相手に気取られぬよう攻撃をあの一瞬で二度行っていたのだそれは腕が四本無ければできない芸当だが不可能ではない。緩急をつけてミスディレクション。錯覚とも思える一撃を影に二撃同時に放っていた。
そして驚くべきは一撃目と同じタイミングで二撃目は先ほどの攻撃より早く撃ちだし連続に放っていたという事だ。それは奴の言う通り
「あの一撃が遅いとかマジかよ…」
感嘆と畏怖で息をのむ。
少なくとも生物が反射で認識できるレベルの速度ではない一撃を『視線誘導の為にわざと緩慢に放った』という事実。すなわち一撃目はブラフであり本命があの小刀ということだ
(とはいえこれが遅いと言わざるをえねえのが、上のバケモン《1位》なんだがな。
本当に理不尽な世界だぜ)
そう心で毒づきながらも攻撃が通ったことに彼は勝機を見出す
「攻撃が通ったってこたーよぉ。倒せるってわけだ!!」
『そうだといいねぇ。オレとしてもぉ。戦い甲斐のあるやつと戦いたいしぃ?』
だがダメージを受けたにも関わらず奴の関心が勝鬨さんに向けられることはない
それは、突然起こった。
「ごふっ!??」
攻撃を受けたのはワークホリットだけではない。吐血と共に腹部から背中にかけて爆発のような現象が起こる。
その衝撃ははた目から見れば腹部に見えない攻撃が横殴りに襲い掛かり
勝鬨さんはエビぞりに数センチ後退する
「何が起こったァ!??」
正体不明の攻撃にひるむことなく回復魔法で外側から焼けるような裂傷を治療し
起こった現象について冷静に勝鬨は考察する
爆発魔法?いいや違う。熱エネルギーのような感覚はなかった
そして爆発魔法なら内部に炸裂する為に
動かない対象ならば出来るだろうが俺の動きでそれを危機回避できなかったのが解せねえ…!
人間を超越した存在ならば説明は簡単だろうがそれでも
『爆発魔法とは系統が違うのはダメージを受けた俺本人が確信している』
そしてそれは俺が近づいた時に起こった現象だ。
おそらく触れられたのか不可視の攻撃を受けたのか。
どちらにせよ近づくことが
魔法を打たせる時間をこいつが与えることはないし俺たちのチームで魔法が強い女は気絶しリタイアしている
だがその問いは簡単に氷解した。誰によるものでもない奴自身の口から綴られたのだ。
「今のはオレの特性のひとつを応用したもの
魔素をコントロールし暴発させたんだ。オレの本質は『不和』だからね
あらゆる現象具象を狂わせるアンバランサー。今は一部しか使えないから良いハンディキャップだよねぇ?」
先ほどの攻撃の正体をあけすけに言い放つのは
余裕の表れ、知られても問題はないという強者の理屈で完全に相手を侮辱している行為そのものだ
「こいつ…舐め腐りやがって…!!」
互いに間合いを詰め激戦。触れられれば爆発する奴の異能の前に勝鬨さんは臆することなく漸近する。
肉薄し撃尺の間合いに詰めより至近距離にて奴の攻撃を読みながら回避と攻撃をよどみなく発動している。
近づいたのも理由として危険であるが接近することで動きの初動を掴み攻撃のリズムを崩すことなく放ち続ける達人の芸当だ。
無駄がなく一撃一撃が必殺に等しい攻撃を流石のワークホリットも危機感を感じたのか同じく奴も刀撃を回避しながら勝鬨さんに触れようと双方引くことなくいみじくも全く同じ攻撃方法に転じている。
避けて隙を見て攻撃。だがよどみなく攻撃と回避の応酬は続けられ数秒の刹那が引き延ばされ時間がゆっくりと動いている様に見える。
(一部しか使えない…?カージテッドもそう言っていたような…?)
だがこちらとしては好情報に違いない。
至徒は多分共通して弱体化を余儀なくされている。つまり弱っている間に付け入るスキがあるという事だ
(出来れば助勢したいけど…あの
双方とも伯仲した波動をぶつけ合い間に入る隙間が存在しない
まだ
そして鎧の外装がなければたちまちひき
致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―や
攻防戦はどちらかが倒れなければ介在は不可能。
無理に入れば不穏分子として敵味方関係なく排除される空隙がない状況。
故に今できるのは死合の結末を見守る事だけ。
***************
(攻撃が通るとはねえ。正直侮っていたよ)
瑕疵に満たない一条の線は確かにワークホリットにダメージを与えていた
そしてあの小刀にはデバフが搭載されている。明確に動きが鈍っている辺り麻痺効果の毒か呪いの類だろう
俊足といえどしょせん人間。超越者たる至徒が後れを取る理由はない
適当に遊んでズタズタに引き裂こうという考えは甘く実行に移せずされど状況をワークホリットは楽しんでいる
『でもこれまでだ。余興を長くしていたらメインが冷めてしまう』
そう言って縦に並ぶ魔法陣が幾何学を描いて展開される
魔法砲台。縦一列に並べられた魔法陣を砲身に放つ魔の砲弾。
だが構築には時間を要するため気取られぬよう遠距離にて放つ技をこんな至近距離で使用するのは愚策。
無防備であると主張しているようなものだ。
本来魔法砲台を使用する際魔法使いは佇立を強いられるが至徒の場合は魔物と同じく
魔法行使中に移動できると鑑み回避に専念していた比率を攻撃に偏重。
勝鬨は魔法陣の破壊を目的に攻撃に転じた
だが、その前に
突如として人の頭であった至徒の頭が大きく膨張しおおよそ形容できぬ怪物へ変貌
目じりと口角が引き裂かれ横に広がる姿は醜怪だ。人貌だった
「あ?」
異形変貌への関心はなかった。元より人外であり姿も借り物と理解していたからだ
解せないのはせっかく構築した砲身を自ら飲み込み台無しにしている事だ
何がしたかったんだと思考が巡る前に遮るように直感が働く
これは…ヤバイ!!!
「オイ!!!雄一!!!!!そいつら連れて逃げろ!!!」
その気配は雄一も同じく感じ取っていた。危険に対する嗅覚はトップランカーと同じく彼も有している
「神谷さん!捕まって!!」
「分かった!」
切迫している状況を神谷さんは理解し三崎さんを抱きかかえ俺の背を掴む
移動する地点はすでにマーキングしてある。あらかじめ登録していたポータルへ向け瞬間移動。脱出と共に白い闇がダンジョンを飲み込んだ
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