第60話 会敵≪エネミー≫

集められたハンターは120人余りでそれぞれ汚染区域に指定されたダンジョンの捜索となる。


俺達20番組はシンシンジュクに充てられ37都道府県総てをめぐる場合を考え人ダンジョンにつき五組。

幸い汚染区域は少ないために100人足らずでも余剰戦力として見込め 

ホッカイドウ トーキョー オオサカ エヒメ フクオカの五つの都市の中枢たるダンジョンへそれぞれ赴くこととなる。


移動は専用のポータルを用い所定の場所へたどり着くのに数分もかからなかった


「ちょうど五か所。都合がいいが縁起がワリイな。気味が悪い」


「相手も5体ってことでしょうかね?」


コミュ障も回復し平静になったところで勝鬨さんにそう問いかける


「どーだろうな。噂ではゲートの向こうから来たといわれてやがるから

もっといる可能性も否定できねえ」


至徒の情報はある程度伏せて俺たちは伝えた。俺のパーティーに女神キャシーがいることを考慮し悟られない為だ


魔王の配下か近衛か。どちらも憶測の域は出ないのは本当であり魔王以外のことはキャシー自身良く知らないらしいので嘘ではない


俺達のパーティーの役割分担は 前衛が俺と神谷士郎さん。中衛を魔導銃使いの三崎舞さんが担当しサポートとして勝鬨さんが牽制に回るという形だ


神谷さんはアタッカーであり大楯を用いてヘイトを集め攻撃を促すタンクの役割を持つ


勝鬨さんは二刀使い。日本刀を二振り。打刀と小刀を持つブシドースタイル

そこから繰り出される剣技は独自のものであり武士の家系の一子相伝。

と言われているが実のところは良くは分からない。

勝鬨流剣術と呼ばれたそれは素人目には凡庸に見えるが無駄なく撃ち込まれる打突は確実にドラゴンをも仕留める屠竜ドラゴンスレイヤー

水のような無形の型は無数にあるとまことしやかにささやかれている。実は結構ファンがいたりする。がアンチが多すぎてあまり注目されていないだけだが


三崎さん…魔法銃のワンランク上の魔導銃を持ちあらゆる術式を組み込んだ魔弾で敵を撃ち抜きバフデバフを扱うのはアリアに近い。

以上をもって俺たちのパーティーの編成は少し偏っているがバランスが悪いわけではない。


僧侶アコライト回復役ヒーラーがいないのは精鋭を集めた故に出た弊害であるがそこは運営側が何とかしてくれるらしい。先に攻撃されない為念を押し待機させている。


「にしても、何階にいるんですかねぇ?浅層せんそうにいてくれればありがたいんですがね」


「俺が知るかよ。つっても20階以降ならお手上げだがな。奴らが千や万の深層にいたら永遠に見つからねえ。その前に俺達が息切れしちまうな」


ダンジョンが出来て十年が経過し飛躍的な発展と衰退した技術が存在する

十年という短い月日で一世紀先の文明を俺たちは手にしている


ワープするポータルなど10年前の人間が訊けば与太話だと一笑に付されるだろう

それほどまでに人間の文明レベルは上昇し確実に順応している


だが…それでもまだたどり着けない領域が存在する。

十年という歳月と最強のハンターの涵養と薫陶があってもまだダンジョンは数十しか攻略できていないのだ


そして現在確認されている階層は千以上存在する。

人間の欲は底知れず資源枯渇はあり得ないだろう。

だが同時に自分たちには手に負えないほどの欲望を持ち未だ持て余しているのが現状で

地球の覇者には程遠い。


今より先の未来、踏破する階層も増え熟練ハンターも増えていくだろう。

それまでに至徒という存在により破滅へいざなわれないとも限らない


ダンジョンを支配するにはあまりにも俺たちは井蛙せいあに過ぎない

これ以上の異世界ですらまだ未知の領域。魔王とやらを倒すために人間にレベルやステータスを授けてもらったが魔王を倒すことなど不可能ではないか?


人間による魔素と欲望の同調によって生じたダンジョンは千以上に及ぶ。それを持続させるほどの魔素を有している魔王はいまだ健在。


もはや無限の魔力と言って差し支えない。誇張なく永久機関がなければ再現できない所業。それに属するかもしれない至徒…。


想像するだけで毛穴が開き総身が震える。そんな最中勝鬨さんが吐き捨てるように檄を飛ばす


「ビビんじゃねえ。プレッシャーを与えるわけじゃねえが俺たちが最終戦線だ。

ハンターがビビったんじゃこの先未来はない。」


それに対し俺は今思っている素直な感情を披歴する


「そうですよね。想像してたんすよ。向こうの世界にいる魔王ってやつ

人類は目先のダンジョンに夢中になっていたんじゃない

ダンジョンという逃避で生きていたんだって。魔王ってやつはそれほどまでに

人間にとっておぞましすぎる存在。神でさえ人間にすがる相手なんて、出来るはずない」


自分で言っていて忸怩たる思いだ。将来異世界に行って魔王を倒すだとか息巻いていた俺がそんなことを呟き慄いているんだと思うと滑稽極まりない。

怖いと、明確に思ったのが初めてであり至徒よりも次元違いの存在であると至徒を尺度にすれば魔王がどれだけ出鱈目な存在かが理解できる

続いて神谷さんも会話に参加して


「まあ夢中になっていたってのも間違っていないけど

打算なしに女神サマが力くれたわけじゃないだろ?俺たちに希望を見出したんだと思うぜ。人間は強いって事教えてやろうぜ」


嬉しい助言をしてくださった。そうだと良いと俺も思う。

キャシーの役割はあくまでゲートを開通させることだけでレベルやステータスという概念は彼女自身の独断だ。彼女は魔王を倒せと言った。

だがそれは方便に過ぎずただ魔素のある現実に順応してほしかっただけかもしれない。事実それらがなければダンジョンは閉鎖区域に指定されていただろう。


ただそれでもキャシーは本来の役割の範疇を超えてくれたのだ。

それは多分彼女は人間に一縷の望みを見出していたのかもしれない。


自分たちのエゴへ付き合わせた贖罪もだがこの事態を収めてくれると信じていたのかもしれない。それに応えられるかはわからないが…神谷さんの言葉も相まって自身を鼓舞するのに十分な燃料になった


「そうですよね。俺達がやらなきゃ誰がやるってんすよね」


「は、さっきまでイモ引いてたやつとは思えねえな

確かにトップランカー《あいつら》が気に入るのもわかる気がするぜ」


…なんだろう。すごく買いかぶりすぎじゃないですかね?

俺別にいい奴でも格好いい奴でもないただのパンピーだ。

正直雲の上の方たちに目をかけられる理由がわからない


「買いかぶりすぎですよ」


「世辞じゃねえよ。

まあつっても俺は他の奴らとは違う

テメエを俺は認めねえ。危険と判断すりゃ独断で処断するから覚悟しとけ」


称賛した後それを反語する言葉を紡ぐ。

勝鬨さんが冷徹にそう告げた瞬時、

全身の毛穴から剣呑を感じ俺の背筋が凍る。

警告した処断という意味は誇張でも比喩でもない。危険と判断すればためらうことなく排除する宣誓だ。

これは字義通りの意味で力があると判断した故の敵愾心。


敵を見るようにめつけられて一瞬呼吸と心臓が止まった気がした

魔人化トランツァ―。それは人類の兵器にもなりうるし脅威にもなりうる代物だ

俺に魔人化トランツァーの素養があるのを看破されれば怪物扱いと変わらない


プロハンターの上澄みであるトップランカーはそう言った素質を見抜く力を持っているのかもしれない

そうならば得心は行く。故に背中は預けられないと宣言している

トップランカーというのは只モノではないという再認識に至り神経を張り詰める

後ろから刺されないことを祈りながら動揺を隠すため歩幅を緩めず進む

俺もまだ死にたくはない



*******


「凄い…トップランカーのひとと対等に話してる人初めて見た…」


一方先ほどの狼狽具合から考えられないほど流暢に話している雄一の姿に驚きを隠せない三埼。同性同士というのもあるだろうがやはり勝鬨に恐れを感じる彼女は彼らの後ろを歩いている


「親睦を深めろとまでは言われてないけど

やっぱり最高レベルのハンター相手だとものおじしちゃうのに凄いなぁ…」


そうひとりごちてしまうのも仕方ない。

三崎も神谷も上位級ハンターであるがトップランカーとの差は瞭然であり天地ほど開いている。

雄一自身も雲の上の人間だと思っているが彼自身の周りのハンターである佳夕やアリアが特殊である為に怖気づくことがないのかもしれない。

神谷に至っては特殊な環境下にいないのに平然としている。一歩引いて三崎の許へ行く神谷は彼女に話しかける


「まー気にすんなよ。別に仲良くなれって言われてるわけじゃあるめーし。これっきりだと思えば気が楽だぜ?トップランカーと話す機会はそうそうないし」


「ですよね。中々お目にかかれる方たちではないですからねぇ…。でも私は怖いです。仲良くなるのも…別れるのも」


「…そうだなあんまり仲良くなっちゃいけねーよな」


苦手意識とは別に知己になることへの恐れを知っている

惜別というものは近しい者ほど引き裂かれる心傷トラウマになりかねないというのはプロならば基本の姿勢である。

深入りはせずプロのハンターらしく感情に流されない冷徹な神経に引き締める

神谷も最低限のチームワークをこなせるほどの観察に留めている辺り仲間意識に一線を引いている。

どちらにしても今回限りの共闘だ。それは勝鬨も雄一もわかっており会話をしながらも神経を研ぎ澄まし周囲の警戒を寸毫たりとも怠っていない


だからこそ不意打ちなどありえない。このパーティーはいつ奇襲されても迎撃に入れる体勢に在り敵も承知しているはずだ。だからこそ

迷宮の奥から足音が聞こえる。

雄一たちはすでに臨戦態勢。だが気配を感じ取るのに数刻遅れる致命ミス

至徒相手に体たらく。慙愧に走る前に各々あらかじめ組んでいた体勢に入る

隠形?不意打ち?奇襲?そんな吊り野伏せまがいなことを何故する必要がある?

そんなと固持する様に。強者を強者たらしめる毅然とした振る舞いで


『来たな、ハンターのお方々。さきに食事を済ませていたぜ?』


累々の魔物たちの遺骸を影にソレは現れた。





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