第59話 排撃部隊《リジェクト》

「今日は皆さま。ご多忙の折お集まりいただきありがとうございます」


周囲には知っている顔ぶれやまだ名を上げていないが実力は確かな熟練のハンターが集い。その中に俺もいて汗だらだらだ。コミュ障爆発。大勢集められた人数は500人くらい。日本中の総人口に比べればかなり少ないが俺にとっては膝から崩れてうずくまりたいレベルのすし詰め状態で会合はさながら全校集会のスピーチのように行われている。


「コヒュー…コヒュー…コヒュー…っっ」

「おい大丈夫かアンタ…?なんかこの世の終わり三秒前みたいな表情しているぞ…?」

「だ…だだだだ大じょう…ウプ」

「いや無理することねーからな!??世界をお前が背負ってるわけじゃねーからな!!」

「ありがとうございます…」


だが我慢だ。挨拶を行っている笠井さんはミスリルの恩があるし

なによりここで弱音を吐いていたら先が見えそうにない。というかその前に嘔吐リバりそう。というか彼岸リバーが見えそう。

隣りにいた親切なハンターのおじさんに背中をさすってもらったおかげで吐き気は少し収まった。


「ありがとうございます…極度のコミュ障なんですよ僕…」

「良いって事よ。ここじゃみんなが一致団結しなきゃな。

座っててもいいんじゃないか?俺が見ててやるよ」


このおじさん優しすぎる…!

心にときめきを感じながらこっそり座り話を聞くことにする


「排撃部隊リジェクトの結成は未知の敵との戦いに際し糾合されたギルドですが

リジェクトを契機に今後も社会の為、ひいてはハンター同士、互いの信頼の一助となることを…」


「オイ、それくらいでいいんじゃねーか?オレたちゃ仲良しごっこに来たんじゃねーぜ?」


社交辞令の挨拶を遮ったのは弓野さんだ。こういう時なげーよみたいなヤジが飛ぶだろうがナンバーワンハンターに牙をむく奇特なハンターはトップランカーの内でしかいない。それほどまでに個人の有する武力が桁違いなのだ。元々堅苦しい挨拶は不本意だったのか笠井さんは先ほどとは違う本来の微笑みを浮かべて話を変える


「そうだね。僕としてもここで時間は取りたくない。

では本題に入ります。

僕たちハンターはこれから未知の敵とされる存在『至徒』と呼ばれる存在の駆除を任されます。各々思うところはあると思いますがそこは僕たちを頼ってください」


思うところというのはパーティーではないハンターとの連携の話だ

知らぬ他人と息を合わせるのは困難であるしハンターはチームワークが基本

いくら手練れと言っても個人では限界がある。猛者であるプロハンターも仲間の援助を受けて頭角を現しているのだ。決して一人の力ではない。

そこで矢面に立つのがトップランカーということらしい。ひんしゅくという白羽の矢も請け負い政府の無茶ぶりとは言え難儀であると同情もしたくなる


そんな中一人の少年が手を上げて質問を投げかける


「質問いいですか?つまりトップランカーの皆さんを僕たちに合わせてくれるという事でよろしいですか?」

「そうだね。基本的な命令は僕たちが出す形式だけど

チーム配分の際パーティーになった時は状況に応じ君たちの命令を聴くよ。

じゃないと不公平だからね。」

「・・・わかりました」


不公平というのはトップランカーの活躍についてだ。彼らと俺らでは実力が違いすぎる。

本来ならトップランカーが対処する案件でそれに対応しきれない場合を見越して熟練ハンターと将来性のあるハンターを起用したのだ。

つまり俺達は保険でおまけ、飾り、当て馬にされているその不満も一身に受けて自身が上に立っているわけではないということを示し

人心掌握と精神的バランスコントロールをしているのはうまいと思った。

と言ってもそんなもの口だけと思うハンターもしばしばいるとは思う


「質問ならいつでも受け付けるよ。他にないかな?」


「あ、えと…。笠井さんとパーティー組めるって事ですか?

2位のあの方とも?」


「状況によるね。最善を尽くしたいからAIによって最適解を導くことでパーティーは決まる。それがどうかしたの?」


「あ、いえ…」


(ニブチンがー)


(優しいだけの殿方はだめですわよ…)


弓野さんと工藤さんが笠井さんの唐変木ぶりに呆れているのが見えた気がした

それを聞いてどこかの男子が尋ねる。


「てことは亜美さんとも仲良くなれるってことっすか!!」


「それって質問?まあそうなんだけど仲良くなれるかは人によるかなぁ…」


それを聞いた男子勢が盛り上がっているのを見て困ったように頬を掻く笠井さんと


「モテますわねー」


「オメーよりはな。へっへ」


「・・・フンですわ」


と皮肉のように言う工藤さんに意趣返しで返す弓野さんのやり取りが聞こえた

実は仲いいんじゃないのかな?


「質問は終わりかな?」


と尋ねる笠井さんに対し質問の要求はなかった。俺も特に聞くこともなかったので声はかけていない


ただ思ったのが。みな危機感がないなということくらいだ。トップランカーがいるから安心というよりも自分の腕に自信がある者や

大げさすぎると事態を誇張と判断しているハンターもいる。

誰もかれもが選ばれた辣腕らつわんのプロ。

それ故に慢心が当たり前のようについている


至徒と呼ばれる存在の一人カージテッドを相手にした俺だけが知っている

結果的に勝てたのは神代の魔法を用いたからだ。そして相手が手心を加えたというハンデありきで実際は勝負にすらなっていない。

笠井さんと戦ってわかる。政府が汚染区域として至徒の目撃現場を封鎖し資源採掘が困難になりやきもきしているせいかトップランカーまで出張る采配はある意味正解だったかもしれない。

…笠井さんをもってしても勝算は少ない。

汚染区域。至徒と遭遇し通常のモンスターとして対峙したハンターはみな重傷を負っている。

回復魔法も魔素による治療法も解決の糸口にならない。死人がひとりも出ていないというのは幸いなのかと言われればそうではない

生殺し いらう そう言った言葉で遊ばれているのだ。

苦しみ悶え死を待つだけのハンターは魔蝕病に似た症状で時間と体力の許す限り生き地獄が続いていく


「じゃあ前置きはこれくらいに。実直に言うよ

今回は狩猟ハントじゃない。防除リジェクトだ。

未知の敵だからといってドロップアイテムは期待できない

僕たちはまず安全第一に戦いに赴こうと思う」


「ハッ、1位サマが弱気だなァ。んなこと言ってっと士気が下がるぜ?」


そこにトップランカー5位である勝鬨かちどき 号正ごうせいが発破をかける。

見るからにチンピラ気質な彼は普段の態度からハンター界隈で不人気であり

暫定5位という不名誉を被っている。

5位というのはただ5番目に強いというだけの数合わせで決まっただけでトップランカーで最も特徴がないといわれている

だがそれは違う。彼の戦いは一見地味だがまったく無駄がなく隙が無い。

取り立てた象徴たる特徴はないが強さではなく経験値の高さという点では一つ頭を抜けている。

天才の中に混じる努力で勝ち抜いた凡人という印象があるが

普段の喧嘩腰の態度とトップランカー入りを阻むように立ちふさがる壁でもある為

あまり快く思わないハンターも少なからずいる



それに対し不快気な顔をみじんも見せず


「確かにそうだね。これから戦うという時に言うセリフじゃない

…僕が言うべきは至徒を確実に始末する。そんな強気な言葉だね」


「ケッ。すかしてんじゃねえよ」


吐き捨てるように悪態をつく勝鬨に対し対応し慣れている為か

歯牙にもかけてない

双方の態度の違いも相まってか周囲の反応もまた違う



「笠井君に何て態度よ5位のくせに!」


「笠井君優っっしい~~~!!あんなチンピラに嫌な顔一つしないなんて

私だったらありえないわ!」


「テメエの発言が水差してんだよ空気読めや5位風情が」


「どうせおこぼれでなったんだろ?女に負けるとかありえねー」


とヤジを飛ばすハンターも少なくはない。それに対し常に喧嘩腰の勝鬨が黙っているはずがなく


「アアッ!!!!」


と喝破と一睨みで文句を言うハンターたちをすくませる


…籠手と魔法銃は間に合わなかったな。俺としてはそれを使って戦いたかったが

とはいっても戦い慣れていない戦術が通じる相手でも試す暇がある相手でもないのは百も承知だ


「それじゃあ班分けを決めるね。ステータスを確認後各自それぞれのチームになって」


ステータスを吟味しそれぞれに応じた編成にするということか

急造でチームワークも何もない杜撰なつくりではあるものの文句は言えない

総てのハンターをこぞって駆除に当たった場合社会を回す資源を調達するハンターがいなくなるのだ。

そして一部が既存のパーティーで組んだ場合その他大勢の不満を負う事となる

政府としても中心の資金源たるトップランカーを出したくはなっただろうが

新人と熟練ハンターだけでは対処できない事案だということは理解しているらしい

出来れば捨て石扱いで新人を投入したかったのだろうが

そうした場合ハンターは使い捨てのコマという擁護できない状況に陥り

社会的立場を危うくする。社会的地位が高い人間も大変だなと他人事のように考える

ステータスの閲覧は一度に行われた。ウィンドウが開き消えたと思えば笠井さんの手元に粒子状に縮小されたステータスが傍らのAIフェアリーによって分析させる


トップランカーが扱う人工知能はスパコンと直結していてダンジョン運営に用いるサーバーとは天地の差がある。数秒も経たずにハンターすべてのステータスを掌握し判別、結論を下し戻ってきたステータスには数字が割り振られていた

こんな芸当もできるのか

そう感心もかくや。そんな時間はなく割り振られた数字。

20番の数字が頭上に表示され当該するハンターを発見する


「おーい、こっちこっち!」


見知らぬ少女が手を振って俺に呼びかける


「お、さっきのあんちゃんか。頼りにしてるぜ」


さっき親切にしてもらったおじさんがそう頼もしそうに俺を見てうなずく


「ヘン。肝入りサマかよ」


とパーティーとなったのは5位の勝鬨さんだ。とはいっても最年少の15歳で年下ではあるがハンターとしての格はあちらが上なので敬意を払い敬語で話す


『よろしくおねがいします』


ふっ。とさわやかにあいさつを交わすように格好良く俺は手を出し握手を求める

俺も場数を踏んだハンターだしなにより唯一至徒とやり合った存在

畏れるものなどないし戦いにおいて経験に不足はない。

一時的とはいえパーティーの仲間として俺も戦力として頼られるよう努力をする

そう意気込んで俺は戦いに挑む。

そう、世界を救うその時まで…ご視聴ありがとうございました!完!!






―――――――――――――――――――――――――――――

というのは想定した脳内でのシュミレートであり

実際はというと…


「ォ…ぉ。ォネ…ガイシ…しましゅ……ゴフッ!??」


「「「いや大丈夫(なの)かお前(キミ)!??」」」


戦う前に過呼吸で死にそうになっていた


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