第55話 魔法銃《アレイシア》 籠手《オートクレール》4

鎧の除装は俺の意志に呼応し神楽も抵抗なく俺の躰から離れる

鎧の様々なパーツが足元に落ちる音と共に

俺の魔素洞調律シンクロニシティを妨げるのは有している愛染・烈火のみとなる


感覚器官がぐにゃりと曲がる。飴細工のように思考が赤熱していく

久々の魔素の暴走状態。だが思考は狂気を通り越して澄み渡っている。


まるで自分で自分を俯瞰しているような他人事。

キャラを操作するプレイヤーのような倒錯感


背水の陣というわけではないがこの方が思考が冴えていていい。

気分がいい。最高にハイになっている。このまま溺れてしまいそうになる


故に細工、思考に一度線を引き飲まれぬよう防波堤を作る。

なぜこんな自殺まがいなことをと仲間が見れば疑念を抱くだろうが

これが一番最善手。防御に入れるリソースを剣に回す


神楽を外したのは単純に火力に回すリソースが足りなかったからであり

いくら魔素が無尽蔵であろうとも蛇口が小さければ一度に排出する魔素は限られていく。魔法が使えない体質ゆえに魔素を送り込む経路が極端に細いのだ

だからこそその経路を無理やりこじ開ける。


「がッッ…!!!!!!!」


全身の毛穴に針を通すような激痛が全身に響き渡る。

いや事実そうなっているのだろう。あらゆる通気口が無理に開き

全身の瞳孔が開きっぱなしだ。

感覚も過敏になり軽微な痛痒さえ激痛へ転換する

だがそれでいい。緊迫感が出るし痛みで理性を抑えられる。

問題は痛みがなくなった時だ。もうブレーキとなるものは体に存在しない


「ふー。ふー…」


痛みを呼吸で緩和する。のどに通る空気さえ痛みとなって肺を突き刺している

久々の死に至りそうな感覚だ。

ある程度コントロールが効くのは工藤さんのおかげかもしれない。

だからこそ鋭敏になった感覚故か。数刻先の相手の攻撃を先見。動きの影を見た

踏み込む左袈裟の踏み込みに対し合わせて剣を宛がわせる

一瞬の間の挙動。動けた自分に驚きながらも実行に移す


「GGGG!?」

(心眼…か?相手の攻撃を読むスキルだが俺にはないはずだ)


未知の感覚に当惑しながらも宛がった刃を振りかぶり方の関節部分を切り払う

接合部を支える部位を一時的に切り離し左腕のコントロール権は一瞬失われ

振りかぶった勢いで左腕に剣を移動させ

右手で骨腕それを掴み奴の躰から数メートルへ投げ捨てる


「これで、左腕は使えない」

「GGGGGG…」


神楽を装着していた場合。攻防一体にはなるが逆に言えば防御にリソースがいきわたり攻撃が半減する弱点がある。

それはそれで利点となるが攻撃力が足りず消耗戦となるいまでは邪魔だ

死を肌で感じる。鎧を脱いだ代償は大きく

攻撃が当たればまともでいられない。かすっただけでも即死級のダメージを負う今の状況

恐慌と興奮がないまぜになる。飲んだことはないが。酒に酔ったように気分がよく気持ち悪い

思考を冷静に線を引いた理性を稼働させ暴走を俯瞰する

猛る鼓動。平静な思考。上々。理想的なパフォーマンスだ

魔素を引き出しながら思考を玲瓏透徹れいろうとうてつに力を自在に汲みあげる

狂奔きょうほんと冷静が同居している奇妙な状況。しかし俺にとっては理想的な思考分割だ。今にも叫びだしそうな総身の激流を清流として行きわたらせる

ここまで0.2秒。溜めは終わった。大剣を肩に携え予備の動作を完了する

狙うは一直線。走り抜ける先は一つでいい。軌道が逸れればそれまでだが問題はない。俺の方が早いと確信が持てる

そして

凶化強倍々化ブーステッドオン破壊風激震攻斬ギアバースト・ブレイクストーム!!!」

猛るままその名を紡ぎ瞬刻雄一は消え。

疑念に思う間もなく

ネメシスガーゴイルは空白の一閃により斬断される


『G?』


それは奇怪な光景だった。数刻間もなく雄一の雰囲気が剣呑を纏い世界を割いている錯覚を覚えさせ雷霆のように迸らせたと思えば

前傾姿勢スタンディングスタートめいた構えを取った瞬間。音を超え光を超え世界を置き去りにし初動と終動が同時に現象として顕現している

佳夕はかつて見たイーヴィルヴァーンとの戦いを想起しアリアもまたレベルが上でありながら全く雄一の姿を視認できなかった

瞬間移動のスキルを用いた?いいや違う。全く同時に二か所に現れるなど帳尻に合わない。十方纏綿クロスロードを用いた戦術ではなく純粋な独力で彼は現実ではありえない攻撃をゲームだけでなくダンジョンにて起こして見せたのだ

つまり端的に言えば神速をもって上下一閃。唐竹割により左右にネメシスガーゴイルは泣き別れになったという事だ

攻撃全一。乾坤一擲。総てをなげうって打ち払う一撃をもってネメシスガーゴイルを屠ることに成功した。

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ドロップアイテム回収後

佳夕さんのレベルが飛躍的に上がる

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花道佳夕 レベル 53


HP 2540


攻撃力 110


防御力 200


俊敏 696


MP 1643


運 893


スキル

武器作成・改XX

あらゆる武器の改造を施せるスキル

熟練度80 成功率93%


術式作成++

魔法を作成するスキル

熟練度100 成功率100%


確率操作

成功率を調整するスキル

運を半分減少させることで運否天賦を操作できる

運命のスキル


魔力強化++

魔力を上昇させるスキル

魔力消費ごとに魔法攻撃力を三分の一上昇させる

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「ええ…」


「え?おかしなとこありましたか…?」


「いや、違うんすけど…けど…」


「?」


《ほっときなさい》


佳夕さんのステータスをみんなで眺め

思わず。俺は喜びよりため息が漏れる。だってしゃーないじゃん


ずっこいずっこい!!!

俺と違って全然アタリスキルじゃん!!!!

俺のスキルとか何なの!??死前提のスキルって何だよ!??

良い感じなの十方纏綿クロスロードくらいだよッッッ!!!!!


と気が済むまで内心ぼやいた後。素直に佳夕さんの成長を喜ぶ


「いや良かったね佳夕さん。最初から思ってたけど持ってるよ君」


「え?そうですかね?私よくわからないですので…」


「雄一君はねー。強すぎる君に嫉妬しちゃってるんだよ~☆」


「悪いかチクショー!!!!俺だってまっとうなスキル欲しかったよ!!!!」


それらをカバーするために技とか作り上げて試行錯誤と苦肉の策練っているのが俺ですよふーん!

みたいに大仰に拗ねてしまう。俺も強くなりてえよ…


「ということは…私。足手まといじゃないんですね!!」


「あったりまえじゃない!最初っから佳夕ちゃんは強いよ☆」


「えへへ…私。強くなれたんですね…」


《もちろんよ。あの雄一が嫉妬で狂いそうなくらいはね

というかいじけすぎて地面に変な模様描き始めたから止めた方がいいわね…》


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―――――――――――――

―――――――


とりあえずいじけ倒した後俺はアリアの言うように魔法銃と籠手を手に入れるための交渉として神流の神代さんに話を持ちかけた。


「へえ。誰の入れ知恵だぁ?確かに素材を事前に提供してくれたなら

値段はグーンと下がるぜ?」


「どのくらいですかね…?」


「20万」


「それでも高いけど手が出せないほどじゃない…!??」


「まあ調整チューニング代と鍛造費で20万だな

これでも破格に安いんだぜ?トップランカー様 

昵懇じっこんの鍛冶屋だからな。

だからこそだ…素材費を差し引いた分。苦労するってことだ」


それは承知の上だ。だからこそ入念にレベル上げを行った。佳夕さんもレベリングによって50の壁を越えている。

故に今怖いものと言ったらあのカージテッドのような奴らくらいだけだ


「魔法が使えねー奴専用の魔力をあらかじめ弾丸に仕込んだ魔法弾一式なら魔弾の分取り立てるぜ?」


「いえ、俺が欲しいのは魔力を弾丸として撃つタイプの魔法銃です」


「へえ。つーとおめえ。魔力が出せるようになったっつーことか?」


「まあ一応」


お茶を濁しながら言葉を濁す。練気アギトについて知っているかもしれないが

一応口外無用なので黙っておく。


神代さんは顎をさすりながら気にせず話を続ける

会った時からわかっていたがこの人も元ハンターだ。


何の因果か鍛冶屋に転職ジョブチェンジしている理由まではわからないがおおよそ看破されているのは間違いない


「まあ術式刻む手間賃は減るわな。魔法銃は魔法そのものを弾丸に込めるか

魔法を弾丸として射出する媒体がある。単純に魔力をエネルギーとして撃ち込むタイプも然りな。お前は後者ってわけだ」


「はい。単純に魔力を打ち出すタイプですね」


「なるほどなるほど。・・・なんでだ?」


「ロマンです」


「・・・よし。お前が本物のバカだという事だけ理解した」


およそ予測し得ない理解の斜め上の発言に聞こえただろう

魔力をエネルギーとしてぶつける魔法銃はそれほど不評である


そんなものより術式を編み上げた実弾の方がはるかに効率がいい

手間はかかるが魔法を棒立ちで放つことなく高速で魔法を打ち込むのが魔法銃の特長である。

その長所を全く生かすことのない事に対し疑念を抱いたであろうが返答は決まっている。ので

キリッと決め顔で理由を断言する。


だがやはり理解されなかったようでバカ認定されてしまった。解せぬ


とはいっても考えなしというわけではない。単純な遠距離から魔力を弾丸として撃つというのは俺にとってかなりの利点だ。練気アギトで魔力を発生させることはできる。ただ魔法自体は使えないので良くも悪くも魔法弾として使用するのは困難である。一応つてがないわけではない。佳夕さんの魔法作成と道具作成を用いれば魔弾は作れるのだ。


「でも弾丸も欲しいっすね。仲間の魔法使いの人に魔弾が作れそうな人がいるので」


「へえソイツ。かなり優秀じゃねーか」


「マジモンにすごい人っすよ」


隠す必要のないので実弾の購入も催促する。といっても二丁ではなくカスタム次第で魔力弾と魔法実弾用に分けることができる。バッテリー型の弾倉マガジンと実弾用の弾倉マガジンを分けて使えるタイプを特注でお願いする


「よしよし。大体わかった。だが30万に引き上げだ。いいか?」


「100万以上あるので大丈夫っす」


モンスターハウスで手に入れたドロップアイテムがかなりおいしい値段となった値段だ。パーティーメンバーに相談して多少の贅沢は許してくれました

そして手記にさらさらっと必要な品を書き記し紙片として切り渡される。


「よし。じゃあこいつら手に入れたらもってこい

一か月で作ってやるよ」


「・・・・・・・・」


そして、紙に書いてあった内容に愕然とする

ある程度の無理を覚悟していたが。まさかの無理難題で驚きを隠せない

いや。だって…これは…


「あの…」


「んだよ?もってこいよな」


「いや、これはちょっとおかしいんじゃ…作ってもらえるのは魔法銃と籠手ですよね?」


「それが?」


「・・・いや。必要なものリストに『ミスリル』って書いてあるんですが!???」


そう。伝説級の金属。オリハルコンとアダマンタイトに並ぶ超有名な希少金属

ミスリルを持って来いと神代さんは言うのであった…!!


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