第54話 魔法銃《アレイシア》 籠手《オートクレール》3


「さっきの不思議な雰囲気。一体何なんでしょうか…?」


雄一の練気を感じ取って佳夕は意識が少しそれる。

だが隙を見せたわけではない。それは余裕の表れ。一瞥程度のゆとりが佳夕にはある。

雄一が見ていたら『強くなったぁ』と述懐するだろうが本人はガーゴイル相手に夢中だ


(まーくだんのプロハンターからご教授してもらった新しいスキルだろうけど

・・・見たことないし気になるなぁ)


《(・・・え?何あのスキル?私知らないんですけど…)》


おおよそ把握しているアリアと自身から生じた力でない事に驚愕するキャシーは対比的に見える。のちほど詰問しようと心に決める三人のことを雄一は知らない


だが今はそこに意識を置いている場合ではないことは委細承知。念頭に置く程度で済ませ即応で切り替えていく。


こと魔法の打ち合いにおいて人間より魔物の方が有利なのは自明の理である

元来魔法に長けた生物であることもさることながら魔法を放つインターバルの短さや顕著であるのは『』ということ


つまりたとえ魔法の連射速度と火力を上回っても回り込まれれば終わりだ。


あまりにも致命的な弱点故に魔法使いは不遇な職種ジョブとされる。


ソロでの活動は不可能であり後方支援が基本とする魔法使いにパーティーは必須

移動しながら魔法を放てる魔物相手に棒立ちで対処できるわけがない。


故に魔法全一である佳夕はいくら強くとも単騎での戦闘は不利に追いやられる


その為のアリアのカバーである。

冥加にも彼女は結界魔法を得意としており

例外としてアリアのほとんどの魔法は佇立の必要がない。


理由は単純であり魔法の術式をあらかじめ体内に内蔵している為である。

それによって詠唱時間や術式展開を用いることなく魔法を放つことができる。


だがその分威力が軽減されているがそれを差し引いても破格の力と言えよう。

通常の人間ではない魔械人間デミヒューマン

ゆえに彼女は魔人でなくともダンジョンではない魔素のない現実世界でスキルや魔法を駆使できる。


攻防は一体。そしてそれはアリアと佳夕の二連携に対しフィアデーモンは一人で二人を相手取るのは感服に値する。魔法のつばぜり合いとアリアの牽制を同時に対処する戦闘能力の高さ。一工程に2度行動を可能にする反応速度と即応度の高さはモンスターハウスならではの強さの証左なのだろう


デーモンの攻撃を結界魔法で阻害する。結界魔法 完封結界障レイズコート

かつて佳夕を爆殺する魔法で守っているのは何の因果か。


この戦い。その実本来ならばすでに決着を下しているのだ。だが成せないのには理由があった

もう一度浄滅魔法にて圧倒しようとした佳夕であったが今日はこれが限界であると肉体が警鐘を鳴らしキャシーもこれ以上の使用を許可しなかった。

浄滅魔法使用不可。その環境下ゆえに持ちうる魔法での迎撃しか佳夕には許されていない。魔力の残存もあまりない。

早急にケリをつけなければこちらが危ぶまれる状況。だが不思議と不安と焦燥はない


故に魔法の打ち合いによる戦い。応酬に重ねた応酬の戦いは決着がつかず

だが奇妙なことに勝機があるフィアデーモンの行動に懐疑を感じる二人。その理由に数刻待たず彼女らは解に到達する



アリアの妨害もあるだろうがそれにつけても回避に転じようとする気配もない

まるで正面から突破することを誇りとするような魔物なりの矜持を二人は感じた


魔法に一日の長や一家言があるのだろう。

それにこたえる義理は二人にはない。

だが彼女たちもそんなものに応える雄一バカについてきたのだ


迎え撃ってこそ甲斐性というものだろう。


「佳夕ちゃん!背中任せたからね!」

「はい!!」


佳夕の前衛に回っていたアリアが前に出る

佳夕の魔法が傍らですり抜けていく。回避は必要としない


アリア自身が佳夕の魔法を知悉ちしつしているからだ。

無論佳夕の信頼もあり背中を悠然と預けているのも一因か


魔法の連撃。デーモンと佳夕の魔法を相殺していく魔法の砲撃の中


アリアは真っ向勝負に挑む。


魔物の攻撃は一工程シングルアクション二回行動デュアルエフェクトを可能としている。

当然一回の攻撃は佳夕に対しての魔法でありもうひとつはアリアの攻撃だ


先んじてアリアが行っていたのは佳夕のサポートと牽制攻撃の二工程

それを総て振り切り佳夕の魔法を逆に盾にしアリアは早急に勝負を仕掛けた


阿吽の呼吸というべきだろう。どちらかの呼吸が乱れれば解れる危うい薄氷の上

勝負を仕掛けた理由はふたつ。ひとつは佳夕の魔力切れの危惧。


魔力がレベルアップで上がったとはいえ魔力量は有限であることには変わりない。少しだけだが精彩を欠いているようにも見える憔悴を感じ取ったこと


もうひとつは単純にらちが明かない事。レベルは60以上あり佳夕とアリアを相手取り引けを取らない戦闘を行っているフィアデーモンに対する危機感である


モンスターハウスという魔素が蓄膿している環境下に於いて魔物は大幅な強化を施されている。魔素濃度が濃い場所は魔物も同様に過ぎれば毒であるが克服すればエネルギー供給源になりうる。

つまりこのままではジリ貧だ。千日手どころか息切れで敗北に喫してしまう


今成せるのは可及的速やかな対処が最適解。そしてその解は導いている


「攻撃を一度に二回。すごいよね☆でも…それ以上はないと見たよ!!」


『GGGG』


ならばこちらも手数パターンを増やすまでの事。フィアデーモンが二回行動を起こしたようにアリアもまた障壁と牽制の二通りをそつなくこなしていたのだ

行動を早く転ずることはフィアデーモンだけの専売特許ではない。アリアもまた

様々なパターンを駆使して戦うハンター故に


剣を一つ取り出し投擲。だが狙いが甘く魔物の横を通り過ぎていく

だがそれが狙い、瞬華瞬蹴ターンステップターンを用いすかさず剣の傍に転移し

体躯をコマのように駆動させ回転斬りを放つ。当然虚を突かれたことで敵は動揺とダメージで揺らぎ対応が遅れてしまう。時間にして二秒。攻撃は終わらない


完封結界障レイズコード発動。至近距離にて結界魔法を放ちデーモンを閉じ込めてある程度距離を取った後


「ドカン☆」


『GAGGAAAAAAAAAAAAAA!??』


盛大な轟音を鳴り響かせて地響き。炸裂する威力に地面に亀裂が入る

遠隔操作による結界魔法の内部爆破で結界ごと爆発し崩落。

触れた相手もろとも爆殺する結界魔法ゆえに至近距離では使用は困難な代物だ

何より内部より生じる爆破故に逃げられず結界内の存在は無事ではいられない


無論、それだけでは終わらない


「佳夕ちゃん、スイッチ!決めちゃって☆」

「任せてください!!!!」


アリアはとどめを刺すつもりはない。元より佳夕のレベリングの為の戦いだ

HPが残り少なくなった魔物に対しとどめの一撃は渾身を込めて手心は一切ない

肉体の崩壊を回復魔法で修復を試みるデーモンに対しその間隙を突く


雷撃魔法ウィアーズ…、連撃必勝ライオット!!!」


佳夕自身初めての魔法を応用した魔法で名前も佳夕自身がつけたもので少し気恥しさを感じながらもとどめはきっちりと差す。それが戦った者に対する敬意


瞬時に雷撃が驟雨しゅううのように束となって雷が重複を重ね増幅していく

そして雷撃を纏い杖を振るって雷を操作し杖を連続で突き上げる


この行動も必要でありイメージこそ魔法の真骨頂。佳夕の動きと連動し雷撃に雷撃を重ね杭のように打ち付ける雷槌ミョルニルは連続性を帯びて槌を振るい雷の唄で敵を討つ。


そしてその間、満足したようにフィアデーモンは口角を吊り上げて笑い


『KKKKKK…』


敵に賛辞を送り退場する。充足に至る戦いと言えたのであろうフィアデーモンに後悔はない。

戦いはひとまず終わる。


佳夕自身魔力切れでぺたんと座り込んでしまうほどだ。心の中で命を奪ったことへの弔いの言葉を投げかける。ごめんなさい。と。


佳夕自身未だ命を奪うことに抵抗がある。だがそれこそ佳夕の凄さだと雄一なら断言しアリア自身佳夕のやさしさには敵わないと笑うのだろう。


アリアもまた神経と戦いの連続で疲れたようだ。

結界を張り佳夕を抱えるように自身に体を寄せる。


その行動に佳夕は驚くがアリアとしては最小限の結界を張り魔力の消耗を減らす合理的判断だ。その為窮屈を強いるのは忍びないという慙愧ざんきはある


「え!あ。アリアさん!?」


「ちょいきゅーけいしようね佳夕ちゃん。私も疲れちゃった。

肩寄せ合ってで悪いけど、結界でおとなしくしよーね☆」


「それは…助かりますが…近いです…うう…」


「ハグ☆ハグ☆おねーちゃんと一緒に休憩しましょーね☆」


「妹さんになった覚えありませんけど…!??それよりも…雄一さんは」


「ジョブジョブ☆佳夕ちゃんだって彼の強さ知ってるでしょ?

信じてあげなよ。彼も私たちを信じているから」


「…!そうですね…!」


≪(どーだか。あいつ自己チューな時はホント自己チューだからねぇ)≫


とキャシーは内心そう思っており空気を読んで言わずにいた

そして実際のところその通りであることは言うまでもない


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――――――――――

―――――――


鎧越しでも魔素洞調律シンクロニシティが上昇しているのがわかる

神楽を用いても完全に魔素の増大を打ち消すことはできないようだ


何て大喰らいだろうと自分のことながら呆れてしまう

完全に盛り上がっており俺自身舞い上がっていることは自覚している


思わず哄笑こうしょうを上げてしまうほどのハイテンションには及ばないが

剣撃を振るうごとにランナーズハイになり息を荒げ興奮してしまっている


「はっ、は…!!」


犬のように舌を出しながら呼吸をだらしなくしている面はいうまでもなく無様

顔が見えないことを幸いにこれでもかと痴態を顔面にさらしている


仮面が装着されているということはやはり魔素が上がっている証だろう

戦闘本能と呼応し魔素のシンクロが上昇しているのを感じた


ネメシスガーゴイル。思った以上に固く耐久性を誇る相手だ。

剣の刃が通らず魔法もすでにからっきしで使用限度を迎えMAGは現在 


冷却保存フリーズ中だ。

再起動には時間がかかり現在の戦闘で発揮することはないだろう。


練気アギトはもう使う意味がない。

魔法銃欲しいなぁ…。などとぼやいてみる


愛染・烈火の刃が予想以上に決定打足りえず頑強な骨の体躯はまさしく堅牢無比

付けた傷はささやか程度に収まっている


剣と鎧に魔素を供給付与し威力を上げてなおかつ魔素洞調律シンクロニシティが上がってもこの事態。

思った以上に難敵だった。


魔法が通じるのならば佳夕さんとアリアが適任だったろうが今更嘆いても遅いし何より…


楽しい

そう、超楽しい。


譲ってたまるかこいつは俺の獲物だと固持こじしてしまうほど

強く戦い甲斐がある。むしろこいつと戦えてよかったとさえ思えるほど戦いに期待が持てる


本当によろしくない傾向だと分かってはいるものの

やはりさがというべきか止められないし止めたくもない


それが鎧、神楽を着てもなお魔素洞調律シンクロニシティが上昇し続けている理由なのかもしれない。

・・・なんというか、本当に自分でもどうかしていると分かり切ってなお

実行に躊躇いがみじんもなかった


起こした行動はあまりにも無謀で愚挙。自身が唾棄した行動に他ならない

それこそ、望んでいないからと手にしたものをまだるっこいと俺は

神楽を除装じょそうする。


鎧を総て外し普段の装備をもってこいつに勝負を挑んだのだ


何故この行動に至ったかは雄一自身理解できない。

もしかしたら直感なのかもしれない


魔素洞調律シンクロニシティと無意識に判断したのか


それとも単に着ているものが邪魔に思えただけだったのか定かではないが

結果的に最適解と言える。そして同時にリスクを孕むのも事実


通常より魔素濃度の濃いモンスターハウスの中魔素を励起するというのは自殺行為に他ならない。

今まで以上に魔素の蠱惑どくに苛まれるのは火を見るより明らかだ


だがこれを乗り越えなければ。

至徒には到底斃すに至れないと雄一の心臓が躍動する


―――――魔素洞調律シンクロニシティオーバーテイク――――――――














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