第56話 魔法銃《アレイシア》 籠手《オートクレール》5
「というか…どこにあるんだよミスリルって」
道路を一人帰り道、ごちりながら頭を悩ませる
当座の目的である魔法銃と籠手はミスリルがなければ作れないと
頭が痛くなる案件で思いのほかハードでありいわくミスリルの場所はというと
神代さんに尋ねた結果
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「知らねえよ。知ってたら掘りつくされてるだろ?」
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むべなるかなな回答によって一刀両断、一蹴され今は帰路にいる
当然だ。採掘所など知っていれば絶対に独占される。
そして
それほどの希少金属。
持っている人間がいるかさえ定かでなくミスリル自体眉唾みたいな代物だ
どうすっかなぁ。などと考え思索。そして行き着いた結論は
「弓野さんなら知ってるかも…」
せっかくある伝手なので最大限に利用させてもらう…!!
スマホで電話し連絡を取った
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その後はというと…
1.弓野さん経由で連絡。弓野さん邸で待つように指示
2.突如現れたむくつけき男たちによって目隠しをされ連行され車で移動
3.そののちどこかに到着し下車、数分徒歩で歩く
歩いた場所は一切不明。総ての情報が遮断されている状態だが
起動音と浮遊感の感覚でポータルで移動したことは分かる。
人に会いに行くというのに仰々しい拉致めいた境遇であるが
だがその処遇も当然と言える。
通常のルートでは行きつけず足跡すら辿れない並々ならぬ存在
その人に尋ねに行くのだ。コミュ障は大丈夫。
なんというか心の準備もできたしなんだかんだ急なアドリブがなければ問題ない
緊張で早鐘を打つ心臓を落ち着かせ冷や汗が一筋伝う。その場所にて会う人物
それは人間国宝であるナンバーワンプロハンター笠井隆吾さんに会いに行くのだ
そして目隠しが外され視界が開ける。
案内された孤島の別荘なのだろうか。移動した先には辺り一面海が広がっている
「ではこちらです」
ガードマンらしき男たちは去り代わりに執事らしきひとに案内され
屋敷の中を移動し和風の客間で数分待つ
その間に呼吸を整える。今まで戦った強敵よりも緊張する
そしてそれから5分くらいで引き戸が開けられ見たところ貴公子然とした好青年が姿を現す。この人こそ…世界で一番有名な人。笠井隆吾さんだ
「やあ。待たせてすまないね。僕としても急だったからね」
「いえいえ…!お忙しい中僕なんかの為に時間を割いてくださりありがとうございます!!!」
たおやかな笑みを浮かべ優しい印象を持つがこの人が本気を出せば世界を敵に回しても敵わない武力を個人で有しているのだ。
機嫌を損ねたらそれこそ俺の首が飛ぶどころか存在そのものが抹消される。
全く誇張も比喩もない。
コミュ障とは別の意味で生きた心地がしない。
目の前にいる人が目上の人であるとともに存在の次元が違う事を肌でおもい知らされる。
「そうかしこまらなくていいよ。
そうは言うが。俺も一般人のはずだがこの人に隙らしきものは一切見当たらない
誰もを受け入れる許容を見せる優しい雰囲気とは裏腹に誰に対しても心を開いていない矛盾がある。あてにならない直感だが
固唾をのんで質問する。有名人故に資源収集や会合など忙しかっただろう。
そのいとまに俺が入ってきたのだ。殺されたって文句は言えない
「今日はお願いがありまして、…ミスリルのありかを知っていますかね…?」
「ミスリルのありか?もちろん知ってるよ。僕の装備はミスリルで固めているからね」
僥倖!幸甚の至り!快哉を上げながら上がるテンションのまま訊いてみる
「では教えてもらえませんかね!!」
とはいえぶしつけな質問だと後から気づく。ミスリル。総てのハンターが喉から手が出るほど欲しいもの。それのありかを軽率に聞いてしまった自分を恥じる
「うーん…。これってあんまりフェアじゃないんだよね。君は確かにリジェクトに入っているけど他ハンターの知らない情報を漏らす訳にはいかない。」
「そこをなんとか…お願いします!!」
平身低頭、土下座どころか五体投地。三点直立だって出来るその勢いで頼み込む
迷惑千万すぎる…(後からの自己客観視)
困ったという様子でと頬を掻きながら笠井さんはためらいがちに
「そもそも入手難易度が高く希少品で並のハンターじゃ取れないけど
知られれば攻略組が黙っていないからね…僕の独断で決めかねちゃうんだよね…」
そうだ。ゲームよろしくゲーム感覚というか人生がゲーム。ダンジョン攻略に命を賭けている輩。攻略組の存在を忘れていた。
彼らは日夜ダンジョンへ繰り出し攻略情報をネットに公開し収益を稼いでいる人たちだ。
攻略が進めばダンジョンの資源促進につながる為政府も公認している集団がここになって壁になるとは
…普段お世話になっている分申し訳ない。
かくいう俺はモンスター情報もそこから手に入れている身だ。
笠井さんもそうだ。ただでさえ無理を承知で頼み困らせているのだ。
ここは身を引くべきではないか?というか諦めるべきではないかと納得させる
元々俺のエゴの話だ。人様に迷惑をかけること自体
「そうですよね…。今日はお時間ありがとうございました…」
頭を深々と下げそう言って去ろうとした間際。笠井さんは呼び止めるように声をかけた
「だからタダで教えるわけには…そうだなぁ
じゃあ、僕に勝ったらミスリルの入手法を教えるってことでどうかな?」
「いや無理ですけど!??」
とんでもないことを頼んでおいてなんだが
とんでもないことを笠井さんはおっしゃる
笠井さんと戦うということ。それすなわち自殺である
というかハンター同士の戦いはご法度ではと思ったが
「ハンターにはコロシアムがあってね。修練や練度向上の名目でバトルが許される場所があるんだ。もちろん殺しはNGだね。死んでも蘇生出来るけどなるべくそう言った事例は出しちゃいけないから」
ということで戦いはOKらしい。無理ゲーというレベルではない。自殺の方がまだ現実的と言えるほど戦う相手の次元が違いすぎる
これは地道にミスリルを探したほうが楽なのではと脳裏によぎったが
気の迷い、血迷っている。いいや多分…元からアレなのだろう
なんというか。こういう機会ってなかなか無いものである
本当に
プロハンターナンバーワン。笠井 隆吾との戦い。やってみたい…!
「良いんですか。戦っていただいて…!」
「僕も君の実力を知りたいと思っていたし弓野君が認めるほどだ
こちらこそお願いしたいよ」
ミスリルだけでなくあの笠井さんと戦える機会があるとは
胸を躍らせて案内されるコロシアムに移動する
無論孤島にそんなものはない。だからこそもう一度ポータルを用いて移動
移動した先にはコロッセオ…ではなくそれによく似た闘技場。
観客は一切いなく
無論公式とはいえ戦いは秘事に値する為当然と言える
準備のため更衣室にて防具と武器はポータル経由で搬送され着込んで俺は手を眺めた
「怖いのか武者震いか分からねえな…」
手に震えは心の脈動は、恐怖か歓喜によるものかわからない
ただ言えるのは戦ってみたいという感情に偽りはないという事だ
魔素も心に呼応して上昇しているのがわかる。
「よし。行くか」
なんのために戦うのか。それを忘れてしまうくらいの
俺はコロシアムにて笠井隆吾さんとの戦いに期待する
今の俺でどれくらい肉薄できるのか。もしかしたら勝てるかもしれない
そんなことに期待を膨らませて
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それは、数秒にも満たぬ。されど緩慢に時間を刻む走馬灯のような光景だった
轟音が響く。雷が疾走する。音を切り裂き空間を駆け抜け剣雷が迸る
雷閃が暗雲を伴わず発生し天地問わず十方総てに電気が空間を掌握している
ここはすでに相手の
霹靂を伴った笠井の体躯は金色に輝いている。
形成している物質は血肉ではなく雷電そのもの。故に行動に限界はなく駆動も人間の次元を超えている。
「か…は―――――――――――――」
初動など許さじこちらが動く前にその間隙を衝かれ時間空間距離を一切無視し雄一の行動を封じ十手先以上動く前に攻撃されて身動きが取れない。
挙動の思考に入る前にすでに一挙一動看破され射抜くような一撃が穿たれる。
総じて後手。
攻撃に転じる時間などなく距離を取ることもたとえ取れたとしても全くの無意味に他ならない。
先手が、攻撃が。行動が一切許されていない。
動こうとした瞬間ではない。未来予知めいた雷電による思考速度の向上と挙動の速さによって放たれる攻撃は予備動作すら許さず算出された攻撃予測は総てが正確無比に的中している
動いた先に壁があり立ちふさがり許されるのは佇立と呼吸のみ。
それ以外の行動は雷撃と剣撃が合一した攻撃によって遮られ攻撃として無防備に受けてしまう。
攻撃を受けるたびに思考回路が断線する痛みと体躯を走り抜ける痺れが全身を蹂躙していく。
全く動けない。なすがままなされるがままだ。そして攻撃は間断なく止むことはない。圧倒的な
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「完敗です…マジで強いですね笠井さん…」
「いやいや、僕もあんなに危機感を持つのは初めてでギアを上げすぎたよ…ごめん」
「いえ、変に加減してくださらずありがとうございます」
まったく手も足も出なかった。動くといういとますら許さない間断なき攻撃の嵐
もしかしたら笠井さんに勝って良い感じにウハウハ俺TUEEEEEE出来ると因業になっていた。だが実際のところは初手から本気を。
しかもそれは本気を出すときの武器ではない。
使用したのは通常の剣らしきものでつまりあの伝説の武器。『滅鬼の斬々―イヴェレア アーミタス―』を引き抜かせることすら出来なかったのだ。
致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―や
だがいかなる力や能力も『使用させなければ無用の長物に過ぎない』と今回の戦闘で学ぶことができた
つまり結局。俺は完敗したのだ。ミスリルは無理だ…諦めるには納得行き過ぎる動機だろう
「じゃあ、約束通りミスリルの場所教えるね」
「え!??」
「君、隠し玉持ってるでしょ?それ使われたら流石にやばいって警鐘鳴ってたからね
使わせる隙を一切与えないよう戦ったんだ。つまり僕は君の本領を見せる前に倒した。だから僕の負けってことでもあるよね?」
「謙虚すぎますよ…!!!良い人過ぎないですかアナタ…!??」
「いやいや。事実負けていたかもしれないし僕としても兜の緒を締めるいい機会になったよ。…君は強い。それほどの実力を秘めている」
「そんなことは…」
「君こそ謙遜しているよ。僕以上の相手は2位の彼くらいだと思っていたのに
参ったな。結構悔しい」
それが本音だということが言葉の節々から機微に至るまで伝わる
戦いには負けたが勝負に負けたといったように笠井さんは自己研鑽を怠らない傲慢さを持たぬ。いいやむしろ劣等感が強いナイーヴな人だと親近感を持った。
だがそれでも謙虚すぎる。技を使わせない戦術は正当だ。
わざわざ相手の攻撃を受ける必要なのないのだから。
俺は完膚なきまで負けた。奥の手も使えなければ意味はないし看破され封じられたのだ。笠井さんはやはり凄い人だと再認識出来た
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