第52話 魔法銃《アレイシア》 籠手《オートクレール》1
「という訳で、魔法銃売ってください!」
「アホだろお前」
開口一番。神代 レンドウさんにあしざまに言われる
弓野さんとの話は終わりその地続きで
方向性が定まったので魔法銃の購入を希望した
だがその結果一蹴。
まあその通りではある為
だが男のロマン。止められない
同じ男なら理解してほしい…!
俺の熱意を余すことなく神代 レンドウさんに伝える
「大剣と魔法銃!全く異なる性質を両刀!最高じゃないっすか!!」
「俺ぁ無駄な仕事させる奴は嫌いだ。武器をおもちゃにする奴は特にな」
「おもちゃじゃないっすよ!俺はいたって真剣なんです!!」
「真剣なら俺にこんな喧嘩売る真似しねえだろ!
というか同時に見下げたわそのクソ度胸!本業掲げてるウチによくそんなこと言えたもんだな!逆に感心するぜクソッタレ!!」
「ありがとうございます!!」
「褒めてねえよッッ!!!!
・・・にしたってな。例えお前さんが魔法銃に必要な魔力を賄えたとする
武器適正ってのは一般人が武器を扱う為の補正だ。素人が何であんな業物振るえるのか知ってるはずだ。逆に適性がなければ補正は全くつかない。何の補助もなく使えるとは思えねーんだよ」
そこは数をこなして練習。と言いたいがそれではやはり遊びと認識されてしまう
売ってほしいならそれ相応の動機と説き伏せる算段は用意しているんだろうな?と言いたげな目つきで
何か、何かないかと思案して数分。
オールラウンダーであるアリアの事を思い出した
「…魔法銃の補正をつける籠手。それも売ってください」
「ほう、勉強しているじゃねえか」
アリアがカージテッドとの戦いで用いたバフ効果のある籠手。確かあれは補助と付与に特化したガントレット。あれを用いれば補正がついて扱うことができる
そして考えがあったことに感心を示した神代 レンドウさんを納得させる
答えだったようで光明は見えてきた
「では」
「だが高えぞ?武器同士の相性合わせるための素材と
「ぶほッ!!?」
吊るされた蜘蛛の糸は蜘蛛の子を散らすがごとく搔き消された
それって当分遊んで暮らせる額じゃないですかヤダー!と心の中で絶叫してしまうくらい恐ろしい額だ。プロハンターでも早々手が出ない。生活費を差し引いてまで買う値段ではない
例えるなら良い素材をドロップしたデッドゴードの群れを都合10回討伐して運よく手に入れられる額だ。
つまりレアな素材で80万くらいの相場である。他の素材が10万か20万合わせてもかなりの周回になってしまう。
1000万を悠々と手にできるのはトップランカー位だ。
税収があっても10億以上は稼ぐと聞く
つまり現状不可能に近い。というか若干デッドゴードはトラウマ気味で戦いたくはない。
デッドゴード以上にレベルが高いモンスターはいるにはいるが総合的にデッドゴードの方が強く素材の価格もデッドゴードの方が高い。
強い=高い相場とは限らないのがハンター界隈に辛いところだ。
さらに深い階層に潜らなければ手に入らないが現状行けるのは8階層までだ。
8層のレベルは40が平均だがそれ以上も存在するエリアで深い階層ごとに手を付けるハンターが少ない。
故にレアアイテムの入手も夢ではないが夢を見すぎているレベルだ。
それほどに危険。デンジャーなのである。
現在開放している階層は運営別で差異があるが平均25層まで。
それこそ70レベルが跋扈している階層など夢のまた夢である。
「どうするよ?」
試すようにそう神代さんは俺に訊く。そんなもの、言うまでもない…!!
「無理ですっっ!!!!」
払える訳ねーだろバーカ!!というように俺は吐き捨て
神代さんは応えるように豪快に破顔一笑する
「だよなぁ!はっはぁ!!夢は見るなっつー話よ!!」
むべなるかな。確かにその通りなんだが
現実的な話ではないのは確かで方法はないわけではないのだ…!!
その方法とは二パターン。
方法1,リジェクトのコネを利用する(後々信頼に響きそうなので却下
方法2,内緒でアリアの武器を売る(殺されます
…すー。ふぅ…と一拍呼吸を置く。
流石にそこまでやるほどに求めていないのだと自身を諫めたのち
粛々と諦めて帰路に足を向けた
―――――――――――――――――
だが、諦めきれない。というか
ダンジョン階層6にて
「資金集めじゃオラァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
裂帛の気合と共に一足一刀。
のべつ幕なしに手近にいるモンスターを屠りまくる俺
その様を見てドン引く仲間をしり目に
無論こんなに気合を入れているのはいち早く資金を集めるためだ。
普段触れようともしない
ハンター同士の諍いのタネであるレアモンスターの巣窟に踏み入り金になりそうなモンスターを狩りまくっているのだ。ちなみにほかハンターが来たら
「今日の雄一さん。元気ですねぇ」
「いや佳夕ちゃん。今回はチミのレベリング目的だったはずでしょ?
何やってんのあの子…」
≪まああの調子ならすぐバテるでしょ。ぶっ倒れたらその辺に野ざらしにしておいて
レベル上げは私たちで何とかしましょ≫
「それは流石にひどいのでは…」
≪自業自得よあのバカは。私たちに何か隠してるみたいだし。ま、最低限の魔物避けの魔法くらいかけておいてあげるわ≫
(なんだかんだ雄一君に甘いにゃぁ、みんな)
のんきに雄一が意気込んでいるさまを遠巻きに眺め佳夕のレベリング目的の反故と隠し事の意趣返しを込めて雄一が疲弊で倒れるのを待つ間歓談にふける女子組。
無論雄一がそこまでして張り切っているのか雄一自身が目的を教えていないので手伝う義理はなく助勢はない。
孤軍奮闘でモンスター相手にちぎってはなげ、切った張ったを繰り返している。
といっても特に
普段行わないレアモンスターハントを目の当たりにし目的は金策というのは皆分かっているが今のところ生活に不自由を強いるほどの赤貧ではない。
つまり雄一自身欲しいものがあり今のままでは手に入らない。だが私事だからこそ仲間に相談しにくいという憶測が立つ。
というか口頭で資金集めとか抜かしている時点でお察しである。
生暖かい目でそれを見守ってとりあえずことが終わったら相談しろと三人は詰問するつもりだ。隠し事話という約束を現に二度破っていることになる
そうして20分経過した時案の定雄一は疲労で倒れ伏せた
散乱したドロップアイテムを集め物陰に雄一を隠し魔物避けの魔法をかけたのち
彼女たちは本来の目的である佳夕のレベル上げに専念する
「そういや、佳夕ちゃんとの連携は初めてだね☆」
「そうですねぇ…!なんだか緊張します…」
《初々しいわねぇ》
アリアを前衛に、佳夕を後衛に攻撃から守る形で魔法を放つオーソドックスな戦闘態勢。
雄一がダウンしている為力不足であるが不測の事態を想定したいい機会とも捉え今までなかったアリアと佳夕のチームワーク戦を行う
今回ダンジョンに挑む理由はレベリングだけではない
佳夕の要求でキャシーが以前カージテッドに使用していた浄滅魔法の練習も兼ねている。
筋肉痛を超回復にて直し筋肉を肥大化させるように魔法も鍛えれば耐性が付くと踏んだのだ
≪でもほんとうにいいの?慣れるまでかなり辛いわよ≫
「大丈夫です!あれくらいへっちゃらですよ!!」
「おおー頼もしいねー佳夕ちゃん。結界よーし!
『視界くらましの
≪ホント、便利よね。貴女の結界魔法≫
「ニャハハー☆伊達に暗殺業やってないからねー。一度も人殺したことないけど☆」
アリアのユニーク魔法である結界系魔法は万能だ。自身の防御だけでなく
相手を封殺するなど多岐にわたりバリエーションも富んでいる。
今回は
防音耐性もついた本格的な暗殺用魔法である。
そして結界内には標的であるスプリングカブトという後ろ足がバネ状になっている攻撃と俊敏に特化した強敵だ。
縦横無碍に移動し撹乱し攻撃するという相手は
アリアの援護があるにしても標的を当てるのは難しい。
だがそうでなければ今後あの
至徒と呼ばれたモノは強敵でありレベル差以前に存在の次元を知らしめられた。
前代未聞の難敵を前にこの程度乗り越えなければどうやって雄一の隣に立てるのか。
猪突な程に吶喊する猛進にアリアは上空に向けて無数の剣を降り注がせる
毛ほども障壁とならず攻撃も外殻が分厚くて貫けない。
だがアリアの狙いはそこではない
「後ろががら空きだよーん☆」
「!??」
いかに装甲が堅牢であろうと薄弱な個所は必ず存在する
鎧の寸隙を突きそこに有した刃を差し込んだ
狙うは繊弱な関節部分。だが生命力が高い昆虫系モンスター相手に隙間を縫う攻撃は致命傷にはなりえない。
だがそれでいい。要は関節可動域を封じ込めば動けなくなるのだ。
差し込んだ剣によって駆動が困難になり剣が部位同士に挟まる形で邪魔をしている。
正座をしている時に額に指をあてることで動けなくなるように動くために必要な機能が損なわれて身動きひとつとれず陸場で溺れるようにもがくしかない
「す、凄いです。初めての相手なのにすぐに弱点を見抜くなんて…!」
≪関心は良いけど詠唱準備ね≫
「は、はい…!」
ここからとどめを刺すことは容易である。
軟肉個所に毒を流し込むことやそこから急所に突き刺すことだって可能だ。
だが今回はあくまで佳夕に
アリアがとどめを刺しては意味がないのだ。
だが思いのほかアリアの手際が良すぎて苦戦の
なるべく危険は避けたいという配慮は良いが
危険を想定する配慮を欠いていては
持ち前の天性の直感と観察眼を頼りすぎているきらいがある。
それについてアリアは気づいていない。このことについてキャシーは協議しようと思いながら佳夕に詠唱を促す
「■■■■■■■■■■■《手を取れ伝え…。汝総てを掌握する者》…!!」
血の奔流が
その反動を詰まった血塊ごと飲み干し
「…!。
光の柱が天罰の様に降り注ぐ。
裁きの鉄槌が光となって打ち下ろされ、
同時にあまりの威力に施した結界が崩落する。
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――
そしてその場には何も残っていない。スプリングカブトの肉片はおろかドロップアイテムも消滅している。
それは事前にキャシーから訊いている。
あまりの威力に戦利品すら消えてなくなってしまうので貴重な相手には使わない方がいいとあらかじめ皆に伝えてある
とはいうもののアリアは半信半疑でこの目で見るまで疑っていたが
いざ目の当たりにし
「なるほど、確かに強いわ~。短縮詠唱だと威力があるの?」
≪いいえ。
その上負担が大きいから詠唱は完全に唱えた方が良いんだけど
ねえ、本当に平気?佳夕ちゃん≫
そのことについてもキャシーは佳夕に伝えていた。
詠唱が短ければ短いほど急激な負担がかかることを。だがそれを飲んで佳夕は短縮詠唱を敢行したのだ。ゆっくりなじませる方がダメージも軽減されるのだがそんな時間はない。なぜなら
(立ち止まっていたら…雄一さんに追い付けない…!!)
つぶれた喉で呼吸しながら
そう心胆に刻むように言い聞かせる
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