第53話 魔法銃《アレイシア》 籠手《オートクレール》2

目が覚めた。周りには仲間がいない。だが俺の周りに結界が施されている

どうやら張り切りすぎて困憊状態になったらしい。

寝ている間襲われた形跡はない。アリアかキャシーの結界のおかげだろう

そして麻袋には俺が倒したレアモンスターのドロップアイテムが積み込まれている

知らず、微笑んで呟いてしまう


「本当に仲間に恵まれてるな俺…」


だがおちおち寝ていられない。仲間が心配だ

いち早く駆け付けたいが体を動かそうにも憔悴はまだ続いている為

思うように動けない


だが佳夕さんにはアリアとキャシーがついている。急ぐ必要はないと判断し

しばらく結界内で休息をとることにした


周囲に人の気配はない。運営が監視しているだろうが遅かれ早かれわかる事だ

練気アギトを練り上げて編み出した練華ヴァリアブルを開放する


零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン

攻撃力と防御力を魔力に変換する練華ヴァリアブル


主に魔法攻撃に対して耐性をつける練気アギトであるが今回は違う

練り上げた練気アギトの疑似魔力を放出しMAGに吸収させる

そして唱える魔法はひとつだけ


魔法選択コードスキャン回復魔法ヒアリー


了承オーダー回復魔法ヒアリー現出アクティブ


回復魔法の重ね掛けで治癒に専念する。ダメージは追っていないが治癒魔法はHP回復だけでなく文字通り体を治療する魔法である。


無理して寸断ズタズタになった肉体節の損傷を体のいたるところに施し魔素洞調律シンクロニシティを上げて促進力を向上させる。


俺の体の直りが早いのは偏に魔素洞調律シンクロニシティの恩恵だ。


荒療治の生療法だが十分動ける。心配はいらないといったが。万が一に備えて彼女らの足跡を追う。



―――――――――――――――――――――――


だがまあそれは杞憂だったようで。モンスターを撃破する二人を確認

苦戦している様子はなく一時間くらい戦っていたようだ。

大型の魔法で円柱状に穴が開いている。どうやら浄滅魔法を使ったようで

詠唱が使える辺り喉に回復魔法を施しているのだろう

魔力回復はエーテルで補えるので魔力不足の心配はないだろう


アナウンスを知らせる腕時計で時間を見る

ということは俺は一時間眠っていたということになる


そして一通り片付いた後俺に気付き二人、というかキャシーも含めて

「元気になったようだね雄一君」

「では」

≪きっちり話してもらうわよ、ね?≫


語気強めで詰め寄ってくる三人に俺は観念し素直に述懐した


――――――――――――

―――――――――

――――――


≪はぁ~バカね。アンタ≫

「それはちょっと…ですね」

「うん、駄目だねそれ」


男のロマンが女子組に通じないッッッッ!!!!

まあ案の定というか予想はしていたがやはり直面すると傷つくものがあるのは確かなわけで

話すのにためらっていた理由が的中すると結構くるな…


「だから話したくなかったんだよ…。俺のエゴで一千万とか仲間に負担できるわけないだろ?」


≪そりゃそうでしょ。自分の趣味の為に素寒貧にされちゃたまんないわ≫


「でも…良いと思いますよ私…!」


「だめだよ佳夕ちゃん。そういうとつけあがるからこの子」


その通りではあるが、ちなみにアリアの武器売り払うとかの話はしていない

したら誇張なく殺される。


直感で分かる。

使い捨てているように見えてアリアは結構武器に対して愛着を持つ人だ


度外視にして正解だった。もとよりそんなことはしない。仲間の信頼を裏切る真似はしないのがモットーだからだ


「でもありがとな。俺のドロップアイテム麻袋アイテムボックスに入れてくれたり魔物避けのまじないかけてくれたりさ。助かったよ」


≪そりゃそうでしょ。仲間なんだから≫


「見捨てるなんてしませんよ!」


「激アマなのよみんなね」


≪はぁ!?別に甘やかしてないし!!こんな奴でもチームの要だし!!≫


「素直じゃないですね~キャシーさんは」


「そうだにゃー。一番雄一君のそばにいるからね~」


「むぅ~それはそれで複雑ですぅ~~」


「ま。とりあえず金に関してや趣味については置いておくよ。

ごめんね佳夕さん。欲望が先走ってしまいました…。」


≪これからは反省することね。じゃ、協力なさい≫


「誠心誠意鋭意に助力させていただきます!!!」


猛省して佳夕さんのレベリングを手伝うことに精を出す。

だが俺は諦めたわけじゃないんだからね!!!!


――――――――――――――――――――――――――――

俺が加わったことでもう少しレベルの高い場所へと移動。

そう、もうわかったよね?モンスターハウスだ。


魔素が滞留している区域であり強力なモンスターが徘徊している墓場

佳夕さんときたとき以来避けていた苦い思い出の場所だ

モンスターの遺骨が点在しており魔素の濃度が高いために霧が発生し日が出ていても薄暗く不気味である。


「二度目とはいえ不気味ですねここ…」


「え?前にも来たことあるの?」


「そういえばアリアはその時いなかったな

前に一度だけ佳夕さんとモンスターハウスに来てたんだよ

あの頃は若かったなぁ…」


「半年前くらいですよね…」


遠い目で過去を去来する僕たち。二人だけのパーティーということもあってか

色々生き急いでいたなぁ。


「つまり半年前まで来てなかったってコト?何で?いやな思い出があった?」


「まあ、辛酸舐められたよ。モンスターが強すぎてな…。無意識に避けてたかも」


「ありゃま」


一攫千金の確立が高いならここなのだが、ぶっちゃけ階層によっては強豪が集う場所で低層でさえ俺たちは行かなかった。ハンターでさえツワモノでなければ忌避する場所だ


だがもうあの頃の俺達ではない。

強くなったしチームワークも熟達しパーティーとして完成している

臆すことはない。


そして早速エンカウント。俺たちは戦闘態勢を取る

顕れたのは杖を持っている悪魔型『フィアデーモン』に骨組みのモンスター『ネメシスガーゴイル』

と。モンスターの上に表記されているが俺はこいつらを知らない。

だがただならぬ雰囲気は感じ取れる。


先手必勝。後方に足を進めた佳夕さんをかばう形で即座に立ち位置を入れ替え

防御を捨て唐竹割を大上段で繰り出す。


ガーゴイルはたやすく砕けた。というより構築している骨の関節部分から瓦解していく

嫌な予感が奔る。後方より気配。だが遅かった。

攻撃を受けたように見せかけてフェイク。


外した部位が俺めがけて射出される

躰の骨を外し追尾式となって宙に浮き旋回


左腕の骨を俺の背後に回し後ろ首を掴まれかち上げられ地面から離れ


挟撃の形で正面から爪が刺突。地面に接していない為剣がうまく振るえず態勢もままならない為攻撃は実直に受けるが鎧に阻まれダメージは軽減されている


だがダメージは明確にあり攻撃は胸部の骨に響き酸素が吐き出された

しまった…。まだ体が温まっていない。


魔素洞調律シンクロニシティが十分に発揮されていないので防具が生かし切れていない。もし貫通攻撃なら即死である。ゆとりがあったので佳夕さんを一瞥する


「燃えよ燃えよ灼炎に伏せよ!炎魔法ヴィリア!!」

「GAAAAAAAAAGGGGGGGGG!!!!!!」


フィアデーモンは佳夕さんが相手取り魔法同士を炸裂させ相殺している


あの悪魔みたいなやつは魔法が使える。

杖を持っている時点で分かっていたが


佳夕さんと互角に渡り合っている。

だが魔法の連発速度は魔物が上の為アリアが補助に回っている


無数の剣と結界魔法で攻防一体に努め佳夕さんとアリアの交代での戦いは目を見張る。


だが感心している場合ではない。次の攻撃を耐えられるか。佳夕さんとアリアは手いっぱいで助けは望み薄だ。


つまりガーゴイルの方は俺一人で何とかしなければならない

佳夕さんのレベリングをサボった報いだ。一人で何とかして見せる

まずは首後ろのガーゴイルの腕を何とかしなければならない。


だが背後にいる為攻撃は出来ない。今のままでは打開できそうにない。

ならば一髪千鈞を引く賭けにでる。次弾、攻撃が迫りくる。


刺突は聞かないと判断したガーゴイルは両手両足の骨躯こっくを切り離し


四方から俺の首だけならず『頭蓋』『鎖骨』『頸骨』『胸骨』を圧迫し万力の様に拘束し


緩慢に力を込めてヒビを入れじっくりと痛みと恐怖を与えていく。


恐怖だけではない。身動きできないままじっくりと痛みを継続的に与えていく圧殺だ。力を入れれば骨に食い込んでいく地獄。


魔素洞調律シンクロニシティが低い今では神楽でも押しつぶされるだろう。恐怖に呑まれる。


いっそひと思いに殺してほしいと懇願したくなる苦痛だ。

だが…打開策があるという時点でその絶望はひねりつぶされる。


死んでも一度は生き返る。だががんじがらめにされればもう一度死んでしまうので意味がない。陰府死慄シェオル・マーダークル

ならばガーゴイルを屠れるだろう。だがアンデッド系モンスターに聞く保証もない。だからこそ必要なのは剣ではなく最大火力の魔法


――――零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン―――――


時間がないため粗雑な練気しか練れない。

5秒間瞳を閉じ自身に向けて体内の練気を張り巡らせ葉脈の様に行き渡らせる。


そして同時にスキル『十方纏綿クロスロード』展開

拘束された骨組みの腕から転移し束縛から離れ距離を置く。


インターバルは取れた。練気を再び練り上げ先ほどより練度の高い練気を練りだす

内に問いかけるように練気の飛ばす。

虚空の空間に光が四方八方に数条伸ばしていく

そして練気を十分賄えたところで


零落アディショナル魑魅魍魎ヴァーミリオン発動。

攻撃力と防御力を代償に魔力を放つ。周囲に分布する魔力をMAGに吸収させ振り返り中空にて背後にいるガーゴイルに向けて


魔法選択コードスキャン炎魔法ヴィリア自然魔法メレウィー

混成タンブル! 相克炎緑魔法キリアリアルストル!!」

了承オーダー混成魔法デュアルマジック 相克炎緑魔法キリアリアルストル 現出アクティブ


出来るだけ接近し近い距離で種子を爆発させた炎が巻き上がる

前方にショットガンの様に散弾が飛び散る形でノックバックで後ろに後退

練気で魔力を吸収して放った一撃だ。次弾までの魔力も十分ある


逆に放った左腕が無事なことが不思議なくらいだ。飛び散らないまでも

反動による脱臼やMAGそのものがキャパを超えて壊れてもおかしくはない

それゆえに威力は絶大


硝煙が噴出し煙が上がっていくとそいつの姿が見え


『GGGG…!』


ガーゴイルの体に弾丸を炸裂され種子が骨に食い込んでいる。

ひび割れた体は再構成に時間がかかっているようで接骨部分がままなっていない


八方から俺を拘束した為に四方に散らばっていた骨は集約し一点に集中していた。

散開していれば厄介であるが俺の脱出は想定外だったようで

一気に固まった体に一撃入れる事が出来た。


拘束状態は本来デフォの構成ではない為統率も取れておらず隙だらけ

致命的な攻撃をもろに受けてただろう。


だがガーゴイルの周囲に謎の文様が浮かび上がり光の粒子が傷口に収束

回復魔法。やはり一筋縄にはいかないと


つい、笑みがこぼれる。


―――――――――魔素洞調律シンクロニシティフロウアップ―――――――――


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る