第48話 インポッシブル(内緒ごと)

「雄一さん!?おかえりなさい!!心配していたんですよ!!!」

「ごめんごめん…ちょっと遊びに出かけてて…。連絡しておけばよかったかな?」

「・・・・・・・・・・・」


あの後無事治療をしてもらい体力も全回復。疲労も倦怠感もなくなりいつも以上に健康な気がする。

怪しいキノコとか混ぜてないですよね?と工藤さんに問いかけたら目をそらしたのは気のせいだと思おう。うん!


そしてアリアは俺をジトーと何やら疑り深い目で見ている。こいつにごまかしは通じないか…後で教えとこう。

俺だけじゃ秘密を守れないだろうし内通者的なポジも必要だ。アリアならその辺の理解があるはず…ハズ!!!


≪まー、私も心配してなかったし杞憂よ佳夕ちゃん。こいつがいちいち面倒ごとに巻き込まれたわ身が持たないわ≫

「そう…ですかね…?」


そしてキャシーは全く気にしていない様子で佳夕さんの肩に乗って語り掛ける

・・・佳夕さんは心配していたが二人は心配してなかったと予測。

まあ仕方ない。俺も秘密を抱えている身だ。それについて糾弾するつもりはない

俺の秘密というのは先ほど言っていた総括部隊『リジェクト』への参画だ


みんなも誘おうと思ったが俺一人だけ指名され驚くことにアリアも指名されなかった

理由としては経歴不明のハンターは加入を認めないというもの。

確かにアリアは政府が作り出したハンターでそのことは口止めされている


今は潔白だろうが少なからず政府と繋がりのあるプロハンターと引き合わせるのは危険と判断し俺もその意見に同意した



――――――――――――――――

「おいテメ、カビ女ぁ…。何してやがったぁ?」

「あらあら乱暴ですこと。暴力はいけませんわ」

「パンピーをテメエのダンジョンに引き入れたことがよっぽど酷だっつうの!

本気で殺されてえかお前ェ!!!」


弓野は工藤の胸倉をつかみかち上げる。

それに対し降参の意を表明する様に工藤は両手をひらひらと上げている

彼女の激高も理解できる。


トップランカーに内密に行い独断で選別したのはもちろん

頭角を現しているがプロハンターでも避けたがる

彼女のダンジョンへ無理やり放り出した事実はハンターにあるまじき行為。


下手をすれば殺人だ。蘇生魔法でも手に負えない危険な環境下にあったのだ。

怒るのも無理はない。


犯罪行為そのものでハンターの名を穢すだけでなくはく奪されてもおかしくない事を彼女は平気でやってのけたのだ


「でもそのおかげで彼のスペックは理解できましたわ。結果オーライってやつですわね。あ、下品でしたわね今の言葉は」

「オーケー、テメエは殺されたいって言ってんだな?望み通りにしてやるよ…!」

「まあ待ってよ弓野君」


振り上げられる拳に対し仲裁したのが1位の笠井だ。

二人の間に割って入り喧嘩を止める


正確には殺し合いであるが普段の殺し合い(じゃれあい)ではなく本気での殺人を冒そうと弓野は行っている。

流石にそれは看過できないと笠井は制止せざるを得ない


「何だよ止めんな笠井!こいつのやったことは重罪だ!リアルで殺してやるから

二度と生き返らない様にしてやるよ…!!」

「まあまあ。落ち着いて。二人が争っても事態は変わらないし終わったことだ

鹿目雄一君も無事だったんだし工藤君の今後の処分は決まっているから安心してくれ。もう二度と起こさないよう僕も注意するからさ」

「…つまりアレか?戦力減らしたくないから殺し合うな。なんて優しく言ってんのか?相変わらずドライをオブラートにしてんなお前」

「…まあね。大事な3位と4位だ。失いたくはない」

「テメエのメンツも大変だな。ケッ」


やる気が失せ投げ捨てるように工藤を離す弓野。

それに対し衣服の埃を払い何事もなかったかのように工藤は微笑む


「助かりましたわ隆吾さん。私、女性に乱暴されるのは好みではありませんの」

「君の趣味には口出ししないけど流石に僕もやりすぎだと思うよ。

ハンターにあるまじき行為だ」


少なからず、彼にも怒気があるようで語調が少し荒い

気圧も戦慄くことなく凛然と微笑みを返し


「わかっていますわ。ですが念には念を入れておきたくて

これから戦う相手に対し油断は出来ませんわ」


その後神妙な顔つきで真摯にそう述懐する。それが彼女の本位らしい

それを聞いて怒りを抑え柔らかな口調に笠井は戻る。

彼女なりの真剣さがあると理解できたからだ


「…被虐体質マゾヒストなのに慎重だね君は」

「だからこそですのよ。

『死に至らない事を知っているからこその痛み』ですわよ

死んでしまったら元も子もないですわ」

「つまり彼を殺す気はなかった…と」

「もちろんですわ。私、殺しは趣味ではないですから

ちゃんと復帰できる様にケアはいたしますわ」


確固たる意志をもってそう工藤は断言する

普段は見下すように女王然としている彼女であるが

彼女もプロハンター。彼女なりの矜持がある

それを聞いて笠井はほっと胸をなでおろす


トップランカー同士に仲間意識はない。

そもそもパーティーでもなんでもないのだ

それを十把一絡げに上層部が枠を作り大仰な会議場ラウンドテーブルまで作っている仮初のもの。

故にリーダーも存在しない。

だがまとめ役というもの必要なのもまた事実であり不承不承ながらも笠井がその役を担っているのだ。


元々は一般人からの成り上がりばかりでハンターをしていたらいつの間にか最強の名を誇るプロハンター五人。通称トップランカーと周囲からもてはやされそれに便乗し政府公認の存在にまで引き上げられた。


つまり全員特別な出生やいで立ちというわけではない。

皆好きにハンターをやって実績を上げていく内に

周りが勝手に太鼓をもって神輿を担いできただけ

強いという理由だけで束縛された五人がトップランカーという訳である


順位が引きあがるほどに自由度は下がる。

4位の弓野はネットアイドルとして活動できているのもそのためだ。

彼女のランクが上がればアイドルのような配信は不可能になりえるだろう


(僕も、好きでこんなことやっているんじゃないんだけどなぁ)

などと内心ぼやきながら心の中で嘆息を吐く


彼自身も自由奔放で縛られるのを嫌うタイプである。

いや、トップランカー全員がそう言えるのだろう


だが国に逆らえば社会で生きていられなくなるしハンター権がはく奪されれば裸のまま放り出され何の権利もなく生きていくしかない。

世界を揺るがすほどの力はあってもしょせん人間だ。

ダンジョンでは無敵でも現実では一般人と相違ない。


リアルに行けば毒を盛られたりライフラインが途切れれば生きていられない

生殺与奪は国が管理しており政府に飼い殺しにされているのが実態だ


(強いって狭隘きょうあいだよなぁ…)


強いゆえにさらに強い権威を持つ者に体よく使われるのがハンターだ

そもそも国や国家がなければ成立しない職業がハンターであり

今では必要不可欠に至るほどダンジョンのアイテムを運用している


もはや後戻りはできない水準に至ったそれは瓦解すれば立ち直るのに100年以上要する。

今までの先達の叡智を無碍にしあたかも自分で文明を築いたかののような傲岸が招いた結果だ。


政府間の腐敗の悪化、そしてダンジョンの出現を契機に新政府の樹立にそれに伴ったハンター制度による新たな躍進。などという無謀めいもくでダンジョンに手を出しておいて

結果や恩恵は他人頼りはふざけている。


だが我々もその文明開化のおこぼれに預かっているのも事実

政府側の暗部。その腐敗が暴かれ人工的なハンター精製を聞いた時は

笠井は怒りと軽蔑に煮え立っていた。


だが同時にハンターがいなければ成立しない世界において仕方ないという冷淡な意見も心胆に合ったのも事実。


まあ、今までの文明を放棄したという時点で情状酌量の余地は全くないのだが。


ともあれいずれにせよ人は社会に隷属しなければ生きていけない依存関係にあるのは事実であり環境が変わっていてもそれは変わらない。

事実ハンター業は刺激的であることも笠井自身感じていて都合のいい点を取り上げているのは政府と同じだ。


望まぬ役を買って出るのも強者の必要な権利として留飲を下げていた。

だがいかんせんリーダーという役職は笠井自身性に合わないのだ


さりとて適任が他にいるわけでもなく。

優等生じみた笠井に白羽の矢が立ったのは自明の理だろう


(まあ、そんな事思っても仕方ないとはわかっているけどね)


「隆吾さん?」


「ああごめん。ちょっと疲れてるみたい。でもまあ頑張るよ」


「無理はいけませんわ。私の特性キノコでもひとつ」


「いらないよ☆」


「ガーン、ですわ…」


にっこりと笑いけんもほろろに拒絶の意を伝える。

一人でも何かやらかしそうな雰囲気なのだ。それを四人まとめるのは心中お察しする

笠井の心労は絶えない








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