第11話 慌てる
一
ショウは、ベッドで仰向いて、天井を見上げている。木目をじっと見ている。どうして、アリナは俺を拒否したのだろう。今まで、こんなことは無かった。不安。あの、突然やって来たガキゴブリンへの苛立ち。
あのガキは、本来なら関わることさえ無かった。今までとは違う行動を取ったから、こうなったのか? と彼は考えた。いずれにしても、用心せねばならない。俺はこの世界では、ヒロインを全員手に入れるのだ。そうして、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしてやる。平行な世界をつくる。
ジャネットの部屋にでも行こうか……とショウは考えていると、悲鳴を聞く。悲鳴は、確かにアリナの部屋のあたりから発せられていた。彼女のものとは思えないが、よがりを伴っていたその声に、ショウは居ても立ってもいられなかった。
二
アリナは、体が浮く、ふわふわした感覚に全身を浸していた。全身はすっかり脱力され、その表情は惚けている。そんな様子の女に、馬乗りのゴブオは、かつてない満足感で一ぱいだった。
一夜にして、この女性を僕はモノにできるかもしれない。”感度倍増”のスキル。強力だ。ゴブオは希望を見出した。見てくれだけは爽やかなあの男に、どうすれば勝てるんだと、悲観もあった。
希望が、倍増していきます。
「はあ、はあ」
とアリナは、しばらく走った後のように呼吸を乱し、額と生え際の間からは汗をしっとり滲ませている。前髪の幾筋かが、その汗に巻き込まれ、額にぴったり張り付いている。彼女の中の波が引いて行く。表情には満足が多分に含まれている。
ゴブオは自分の手のひらを眺めた。小さな緑色の手のひら。こうして見ると、線の入り方は人間の頃と何ら変わらない。
今のアリナさんの反応は、いわゆる絶頂とされるものだろうか。それにしても、良い反応であった。瞳は半分、白目剥いて、背中は浮き、声は高く。そこには、アリナさんの制御は一つとして存在しなかった。彼女は、僕のもたらす快感に身を預けてくれたのだ。
「ちょっと、……休憩しよう、ゴブオ」
アリナはそう言って、ゴブオの頬に指の四本で触れた。
ゴブオは黙って頷いた。
「やっぱりあんた、タロウマルにそっくりだ。でも、違う。タロウマルはきっと、こんな助平に触れてきたりしない」
コンコンと、強めのノック音。二人とも、足音には気付かなかった。
「おーいアリナ。君の部屋のとこから悲鳴が聞こえたから、心配で来たんだけど、大丈夫かい?」
別にショウが、忍び足で歩いていたわけではない。二人がそれぞれ、ゴブオはおっぱいに、アリナは緑の手による快楽に、夢中になっていたのだ。
二人は一、二秒目を合わせて会話無く、成すべきことをした。ゴブオはベッド下に身を隠し、アリナはシーツを身体に巻いた。
アリナは少しばかり扉を開けて、来訪者に応対した。
ショウは、すんなり扉が開かれ安心したが、すぐに驚いた。アリナがシーツを乱しながら身体にぐるぐる巻いているのだ。乳も上半分ほど露出し、太腿も、ミニ・スカートのように露出している。加えて、額には汗、頬はぽってり赤い。アリナがあまり扉を開けてくれないので、部屋の中がよく見えない。
「アリナ、服を脱いでいたのかい?」
とショウは言った。
「ああ」
彼女はは薄く笑う。
「その、君の部屋から声が聞こえたんだけど」
「刀が倒れちゃって、それだけだよ。心配ない」
「そう、なら良かった。それで、あのゴブリンのやろ、子供はどこ?」
ショウは野郎と言いかけて、すぐに子供と言い直した。アリナは彼の問いに、ちょっと窮した。
「あの子は、用を足しに言ったよ。もう少しで帰って来るんじゃないかな」
「あの子は良い子だよね?」
「うん、とても。心配かい?」
「いや、なら良いんだ。じゃあお休み』
「ええ、お休みなさい」
アリナとショウは、互いの頬に口付けしあった。そうして、ショウは自分の部屋へ戻って行った。ゴブオは、彼女がショウと会話している間、ベッド下からずっと、彼女のお尻を眺めていた。シーツがぴたぴたに張り付いて、その円をそのままに主張されたお尻。
「ふう、気を付けないと」
アリナは扉を閉めて一息つく。
ゴブオものそのそ、ベッド下から脱出して体に着いた埃を払う。
アリナはベッドの中央に胡坐をかいて座り、ゴブオは彼女の正面に、正座する。
「危なかったな」アリナは人差し指でちょんと、ゴブオのおでこを押した。
ゴブオはそのせいで仰け反りながら「はい」と答えた。そうして、アリナの目を見つめる。
「なんだい?」
アリナはゴブオの表情がもの言いたげだったので、自分の方から言った。
「あ、あの、お二人は恋人同士なのですか?」
「そうだよ」
アリナは躊躇無く答えた。
「いつから、恋人同士なのですか?」
「うーん、数えてないなあ。大体、二週間ぐらいかも」
二週間か。二週間なんて、大した時じゃないな、とゴブオは考えた。
「お二人はそれで、色々、されたのですか?」
「色々って、なんだよ」
アリナはふふと笑って、ゴブオの鼻をつまんだ。
「したさそりゃあ。だって、恋人同士だもの」
ゴブオは、俄然燃え上がった。
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