第12話 棒の無い世界


「ショウさんのことを、愛しているんですね?」

 とゴブオは言った。

 アリナは「うん」と確かに頷いた。「好きだよ、あいつのことは。愛してる。そう表現しても、全く差支えない」

「それでは、僕との先程までの行為はどう表現しますか? あれは、彼との愛に背いた行為ではありませんか」

「うーん、それは……」アリナはゴブオの追及に首を傾けた。「裏切りに、なっちまうのかなあ。普通、会ったばかりの子供におっぱい触らせたりしないもんね」

 彼女は宙に彷徨わせていた視線を、今日会ったばかりのゴブリンの子供に注いだ。

「そう考えると、罪悪感沸いて来ちゃった。ダメだねあんなことしちゃ」


 自分自身の言葉に至極納得して、アリナはうんうん頷いた。ゴブオは、彼女のそんな様子に良くない流れを感じた。僕は余計なことを、聞いてしまったのか。


「ア、アリナさん。おっぱいは、ショウさんにも、揉まれたことあるんですよね」

「ん? そうだけど、それがどうかしたのかい?」

「僕と彼、どっちが気持ち良かったですか。どちらの方が、良い心持になりましたか。あなたを興奮させましたか」


 アリナは、今しがたまで自分が立っていた扉を思わず見た。その時、目の前にはショウが居た。彼の手。男性的な手。これまで、何度か私の体に触れてきた……。


「そんなの決まってるだろう。あいつの方が気持ち良かったよ。第一あんたは子供なんだ。生き急いでことを考えるもんじゃない。ほら、寝な」


 ゴブオは拍子抜けした。もう寝るのかよ。こっちはまだまだ元気だぜ。下半身のもやもやが晴れない。


「アリナさん! もうちょっとだけっ」

「駄目だ。殴るぞ。あたしは風呂入って来るからな」


 アリナはゴブオを見捨て、さっさと部屋から出て行った。シーツをぐるぐる体に巻いたまま。やはり、堂々している。ビキニ・アーマーで街を歩くような人だから、恥もないのだ。


 ゴブオは目いっぱい、大の字になった。そうして、しばらくの間、アリナのおっぱいについて思考を巡らせていた。突然ズボンをがばり脱ぐ。

「無い!」

 とゴブオは叫んだ。棒が無いのである。


 だらりだらり、ゴブオは冷や汗かき始める。頭を抱える。どうしてだ、何故棒が無いのだ。これじゃあ、本番出来ない。ゴブリンとはそういう種族なのか? 特別な個体だけが生殖出来るというタイプの生き物なのか?


「違います。それはこの世界が、R15で構成されているからです。」

 と、例のゲームボイスの声。

「あーるじゅうご?」

 ゴブオは意味が理解できず、日本語覚えたてみたい。

「つまり、15歳未満お断りなのです。この世界は。それは駄目ですよね?」

「駄目です!」

 ゴブオは怒りの腹筋で起き上がった。

「そう。その意気です。この世界を再構築しなければなりません。世の男性にち……を与えなければなりません」

「ん? 何? 何を取り戻すって? はっきり言ってくれよ。分からないからさ」


 ここぞとばかりにゴブオは意地悪する。


「オラっ!」

 ゲームボイスのどすのある声の後、ゴブオの頭上に巨大な拳骨が現れ、ゴブオを思い切り殴った。

「ごべっ!」


 ゴブオの頭頂部に大きなたんこぶ完成。


「悪い子には容赦しませんからね」

「ごめんなさい。ところで」

「はい、何でしょう」

「ショウにも、棒は無いんだよね」

「棒とは何ですか?」


 なんだい。まるでうぶな女の子みたいに分からないふりしやがって。ケケ。とゴブオの思考はすっかり気持ち悪い。


「ち……のことですよ」

「あーなるほど。彼にもありませんよ。そこは平等です。というかそれこそが彼の目的なのです」

「てことは、彼はち……の無い世界を望んでいる」

「その通りです」

 

 そりゃあいかん。なきゃあだめだ。無いと、きっと楽しくない。童貞だから、未だよくわからぬが。ショウは臆病しているのだ。女の子との交わりを。僕は怖くない。童貞だけど怖くない。


二 

 アリナはゆったり、湯に浸かっている。全身はぽかぽか温かく、頭も空っぽにしたいところだが、できない。どうしても、ゴブオの愛撫を思い出してしまう。思い出すと、下腹部がキュっとなって、身をよじらせた。くねって、左手で右肩を掴む。肘にちょうど、乳首が隠れていたが、ちょっとして零れた。未だ、つんとして掴みやすそう。


 ただ触れただけで、ああはならないよな。とアリナは考えた。そして、自分と同じく湯に浸かっている二人の女を眺める。彼女達に男はいるだろうか。いたとして、どれほど彼女達を気持ちよくしているのだろうか。ゴブオ以外に、あれほどの快感をもたらしてくれる者は存在するのだろうか。


「いけないいけない」

 アリナは無意識に独り言ちて、ほほを叩いた。ぱしゃぱしゃ水しぶきが立つ。


 あたしは何を考えているんだ! あたしの愛する人はショウなのだ。彼だってあたしを愛してくれてる。裏切っては駄目だ。


「じゃあ、ショウから三人共寝取れば、ち……が生えてくるってこと?」

 ゴブオは、半ば呆れた心持で言った。

「はい! 物分かり良くて助かります。それじゃあ私は行きますね」

「どこに」

「お風呂ですよ」

「ああ、そう」

「それじゃあまた」

「また」


 ふざけてる。何だこの世界は。棒が無いだなんて。許せない。絶対に取り戻してやる!








 




 

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