第31話 礼拝堂と侵入とシスター

 俺とリーネが酒場で協会の場所を聞いて馬に乗り、教会を見つけた時にはもう西の空に太陽はほとんど隠れていた。

 アイテムBOXからランタンを出して火を灯し、照らした先に教会が見えた。

特に損傷はなく、荒らされた様子もない。ただ人の気配も感じない。


「牧師はおらぬようだの。ん?いや、まてよ……」


 俺の前にちょこんと座るリーネが耳を澄ませてあたりの気配を感じとる。


「ふむ。誰かはおるようじゃの」


「ハンス牧師か?」


「そんなことは分からぬ。どうも……礼拝堂のほうじゃな」


俺たちが着いたのは裏手の母屋の方、礼拝堂はその建物の裏、正面側だった。

 馬から降りてその辺の木に括る。

俺は一応腰の銃の一丁抜き、弾を確認して臨戦態勢を取る。そして何が起こっても対処できるようにゆっくりと警戒しながら母屋に近づく。

 そう大きくない母屋には人の気配はない。数ヶ月誰も出入りした形跡がなく、伸びた雑草は力強く天を目指している。入り口は避け、窓から中を覗いてみたがやはり人の気配はない。


 そのまま母屋をスルーして礼拝堂を目指す。


 母屋よりやや大きめの建物のてっぺんには大きな十字架があり、このあたりの建築物の中では立派な方だ。建物の周りを確認するとこちらは人が行き来したであろう形跡がある。しかもそれなりの人数。足跡の大きさから子供と大人、しかも子供は複数人いると思われた。


 建物自体はしずまり返っている。

俺は母屋と同じように建物の中を覗こうとしたがこちらの窓はカーテンが降りており中が見えない。だが、微かな光が漏れていた。


 俺はリーネに目配せして礼拝堂の入り口へと移動する。


 入口のドアの両側に俺とリーネが立つ。扉に手をかける。鍵はかかっていないようだ。俺はそっと扉を軽く開けて中を見る。扉の向こうには下りの階段があり、中は少し掘り下げられているようだった。

 礼拝堂の中は薄暗く、祭壇までは見えない。

だが、たくさんある参列者用の長椅子の最前列に小さな灯りが見えた。


 誰かがいる。


 気配は1人。

ここからではどんな人物か確認できない。

俺はリーネを見る。彼女がちいさく頷く。

リーネに後方からのカバーを任せて、俺は音も立てず中に入る。

ゆっくりと周囲に警戒しながら礼拝堂内にいる人物に接近する。


 まだ気づかれた気配はない。

暗がりの中人影のシルエットがしっかりと形を成してくる。

どうやら祈りを捧げているようだった。

座っているので身長は定かではないが少し丸みを帯びている。

どうやら女性のようだった。

俺は一旦、祈りを捧げている女性の少し離れた場所で身を低くして相手の様子を伺う。


 小さな灯りで相手の姿を確認する。

どうやらシスターのようだ。横から完全に相手の姿を視認する。

彼女は俺たちに気づくことなく一心不乱に祈りを捧げているようだ。

年の頃は20代前半から中頃ほど、服装のせいで髪形はわからないが綺麗な顔立ちをしている。

 さて、どうしたものか。この教会にシスターがいるとは聞いていない。この町で洗礼を受けたのかもしれないが報告書には載っていなかった。

俺は少し思案してゆっくりと立ち上がり持っていた銃をホルスターにしまう。


「あの……突然お邪魔します」


 静かな礼拝堂に俺の声が響く。

一生懸命お祈りをしていた女性の身体がビクッと動き、飛び退くようにその場から離れてこちらに灯りを向ける。


「だ、だれですかっ!!!」


 女性は完全に警戒し、いつでも逃げ出せるようにゆっくりと下がりながら問うてきた。俺はゆっくりと敵意がないことを示すために両手を見える位置で上げる。


「突然、すいません。ハンス牧師に会いに教会本部から来たケントと申すものです」


女性は敵意むき出しで値踏みするように俺を見る。恰好がどう見ても牧師には見えない。訝し気ながらも敵意がないのは感じたのだろう。


「ハンス牧師は……牧師はいません。……すぐにお帰りください」


 女性は思いつめた表情でそう短く答えた。


「……町で最近ハンス牧師をみないという話を聞きました。私は定期連絡の途絶えたハンス牧師の様子を見てくるよう本部に頼まれてきたのです。お話しだけでも聞かせて頂けませんか?」


 俺はゆっくり、優しい声を心がけて女性に話しかけた。その時、


「おい、そこのお前!!動くな!!動くとコイツの命はないぞっ!!!」


 少し高い少年の声が礼拝堂に響く。

俺は声のした方向に視線を向ける。

 そこにはリーネより少し身長の低い活発そうな少年に果物ナイフを突きつけられて両手を挙げたリーネと、鍬を持っていつでも襲い掛かるぞという意思表示をした少女。

 その後ろにも棒切れを持ったさらに小さな少年2人が立っていた。


「キャア、牧師様タスケテー」


 天井に目線を向けて両手を小さく上げたリーネがやる気のない悲鳴を上げた。




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