第32話 少年と馬車と戦闘開始
俺とリーネは子供たちの手でぐるぐる巻きに縛られていた。
縛られてるとはいえ、子供の仕事だゆるゆるでいつでも簡単に抜け出せるレベルだ。
礼拝堂の参列者の椅子に座らされる俺たちをさもしてやったりという顔で少年たちは俺を見下ろしていた。その後ろで困った顔をしているシスター。
「お前らあの鉱山の手下だろ!? ここになにしにきたっ!!」
少年は声を荒げて俺たちに質問する。
「俺たちは遠い町の教会からハンス牧師を訪ねてきたんだ。俺も牧師だ」
そう説明すると少年はおれをじろじろ見てから疑いの眼差しで
「そんな格好の牧師がいるもんか。どうみても鉱山からくる連中と同じ格好してるじゃないか」
ぐぅの音もでない正論に俺は苦笑する。たしかに今は旅装でカウボーイのような恰好をしていた。さらに少年がリーネをみて
「それに、こんなチビっこいシスターなんか見たことないね。俺と変わらないくらいの年じゃねーの?」
「なっ!!!」
少年の言葉にリーネがカチンときたようだ。それも正論。だから普通の恰好にしろと何度もいったのだが聞きやしない。
「小僧、……わしゃを愚弄するとはええ度胸じゃのぅ」
明らかに青筋を立てているリーネの低い声に威圧された少年は少したじろいで一歩下がる。
「お、怒っても怖くねーぞ」
少年は明らかにビビっていた。
その時、リーネがぴくんと何かに反応し真顔に戻って礼拝堂の祭壇の方を見る。そしてすぐに俺に目配せをして
「小僧!いますぐ全員を連れてここを離れよ!!」
そう言ってさっと緩い拘束を解く。俺もそれに続いてすぐに拘束を解き、リーネの視線の先、祭壇側に立ちホルスターの留め具をはずして
「シスター、子供たちを連れて隠れろ!!何かがくるっ!!」
「え?え?」
「な、なにいって……」
子供たちもシスターも突然殺気立ち、豹変した俺たちに驚いていた。
すると、遠くでなにかが回る音がする、
ガラガラガラガラガラ……
その音はどんどん近くなってくる。
それに気が付いた少年が慌てて
「そんな!! いつもはこっちに来ることないのに!! シスター、か、隠れなきゃ。みんなも地下へ!!」
少年の声にシスターがオロオロしながら
「で、でも……この人たちが……」
「俺たちのことは気にしなくていいから、急いで隠れろ」
どうしていいか分からず右往左往するシスターにきつめの声で俺がそう告げる。シスターは俺を見つめてコクリと頷くと
「急いで!!地下の倉庫まで行って隠れてっ」
何かが転がる音が馬車の音だと理解できるほど大きくなっていた。尋常じゃないほどの音と地響きを鳴らしている。
小さい子たちは急いで何もない礼拝堂の壁に駆け寄り、壁を押すと、クルリと壁が回転してその奥に消える。どうやら隠し扉だったようだ。それにシスターが続く。
殿を務めた少年が扉の前で立ち止まり、リーネを見て
「お前だけなら無理すれば入れるっ」
少年は俺を見た後、リーネに声をかけてきた。
俺は少年の優しい男気に感心して
「リーネ、行くか?」
そう問うた。リーネは静かに笑って少年の方に向き直り、
「小僧、その心意気だけもらっておこう。行け、みんなを守ってやるがよい」
そう告げると、少年もコクリと頷いてそのまま扉の向こうへと消えていった。
「……ただのガキかと思おたらなかなか見込みある男の子じゃて」
リーネは小気味好く笑い、背中に手を回すとベールの下からショットガンを取り出す。
ヒヒヒィィィィィィィン
大きな馬の嘶きと共に、祭壇側の壁がドカーーーーーーーーーンという音と共に外側から破壊される。破壊された壁の破片が俺たちに向いて勢いよく襲い掛かる。
避ければ背後の隠し扉に当たる。
「リーネっ!!やるぞ!!」
俺は2丁の銃を素早くホルスターから抜き、構える
「おうよ!!」
リーネが俺と背中合わせに立ち【魔力操作】を使って自分の魔力を炎へと変換し、俺に流し込む。俺はそれを【魔力増幅】で拡大して素早く銃に込めて乱射。
発射された弾は破片に当たると大爆発を起こして周辺の破片もろとも爆散する。
派手な爆発音が連続で鳴り響き、礼拝堂は半壊した。
ガラガラと礼拝堂の壁や天井の破片が当たりに散らばる。
俺は素早くシリンダーを開き、空になった薬莢を捨てる。次を装填して礼拝堂の壁に突撃してきた馬車、いや、昔でいうところの戦車だろう。馬車には大きな車輪が2輪、側面にひき殺すための刃がついている。
その大きさも普通の馬車の1.5倍はあるかと思われるほどの大きさであった。
だが、その大きさのほとんどが馬車に乗る巨体のせいのようだ。
「ぶぇっ、ぶぇっ、ぶぇっぶぇっ。町に入り込んだならず者を始末していいってリードストン様がおっしゃったんですよぅ」
馬車に乗る、というより馬車そのものがしゃべりだす。
全長、全幅、合わせても4メートルはゆうにありそうな馬車だと思われていたモノは
肥満したオニのような姿をしていた。
「建物ごと吹っ飛ばしたつもりだんたんですがねぇ、どうしてどうして」
馬車は自分が突っ込んだ側の反対側、隠し扉がある側の建物が綺麗な形で残っていることを関心するように手を叩き始めた。
「やれやれ、肥えすぎて自力で歩けなくなった老人のような奴じゃな。引いとる馬が可哀想じゃて」
俺の背後から悪態をつきながらリーネがショットガンを肩に担いで俺に並ぶ。
「確かに馬が可哀想……、ありゃ馬も普通の馬じゃなさそうだ」
馬車に繋がれた黒い馬が2頭、その大きさは馬車に引けを取らず、さらに暗闇に赤い目を光らせていた。
「ぶぇっ、ぶぇっ、ぶぇっぶぇっ。よく喋る人間だ。我々を見たら普通腰を抜かして震えて命乞いをするモノでしょうに。まぁいい」
馬車男は手綱を引き、馬に鞭をくれる。
ヒヒヒィィィィィィン
と大きく嘶いた馬が馬車の重さを苦ともせず一気に加速して馬車事態を振り回しながらぐるりと旋回して俺たちと距離を取り、辺りの木や岩をなぎ倒して俺たちの正面に対峙する。
「おぅおぅ、大迫力じゃな。あんなのに巻き込まれた一瞬でズタズタの肉袋にされてしまうぞ」
「そうだな。どうも脅威は後ろの馬車デブではなく、あちらの馬の方らしい」
俺たちはそんなことを話しながら礼拝堂から離れる。
攻撃としてはまぁベタベタな馬車ごとの突撃なのだろう。
シンプルゆえに強い。
「さて、お互い一撃必殺。荒野の決闘と洒落こむか」
俺たちは戦車男と正面から対峙した。
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