第30話 マスターと町と状況
「やれやれ、思ったより大物だな」
俺は頭を掻きながらぼやく。
「ふん、まずは状況を確認するべきじゃろうて。マスター、あのご老人はずっとこの町におるのかえ?」
老人たちが去って安堵したのかマスターは床に座り込んでいた。
リーネの質問に口が重たそうに答える
「ん?……ああ、半年前まではあんなに迫力のある人じゃなかったんだがな。もっと温和でおとなしい感じの方だったんだが……」
少し気が緩んだのかポケットから煙草を加えマッチに火を付けながら
「まぁあの荒くれどもが集まりだしたくらいかなぁ。それで町が困ってたところにリードストンさんがあいつらと話をつけてくれてな。まぁそのおかげで横暴さは変わらんがまだ揉め事は起こさなくなった。だがね……チッ」
そこで言葉をにごすように声が小さくなった。手が震えていてマッチに火が付かずイライラし始める。
「そこで?」
俺はマッチを手に取ってカウンターの机を利用して火をつけて差し出しながら話を続けるように促す。マスターは煙草に火をつけて
「あ、ああ、すまないな。その辺りから鉱山から鉱夫たちが戻らなくなった。家を守る女たちはリードストンさんに詰め寄ったが「いまちょっと大事な採掘に入っているので皆は戻せない。しばらく我慢してくれ」と言われた。半年分の給料をその場で渡されたのでみんな納得したのだが、さすがに2か月も戻らないとみなまた騒ぎ始めた」
マスターは一服吸う。少し落ち着いたのだろう。カウンター裏でなにやらごそごそしていたと思ったらウィスキーの瓶を一本出す。
「とっておき用に隠してたんだがな」
そう言ってグラスを2つ並べて注ぐと1つを俺に差し出す。
俺はニコリと笑いそれを受け取ってグッと飲み干す。
くぅぅぅぅぅ、胃に染み込むぜぇ。
「そして直談判に行った女3人が翌日、町のゲートに吊るされていた。無残な姿でな」
そこでグッと酒を煽ったマスターは空になったグラスにまたウィスキーを注ぐ。
俺の方に瓶の注ぎ口を向けたので遠慮なく俺はご相伴に預かる。
「これには町の人間全員が慌てた。まさかこんなことになるなんて誰も思わなかった。そして町の保安官2名がリードストンさんの所に事の確認に行ったが……」
「……翌日吊るされていた、と」
俺の回答にマスターは少し沈黙した後
「……そうだ」
そう言ってまた酒を煽る。
「それから町は少しずつおかしくなってきた。戻らない鉱夫、さっきのあいつらは昼間町に降りてきてここで騒ぐようになった。騒いでるのは体のいいいいわけさ、町を監視しにきてるんだ。町をでようとした一家がいたが当然、翌日に死体で発見された」
マスターはまた震えだす。
「そして夜になると何かヤバいモノが町の中を徘徊するようになった」
「町の中を?ヤバいモノとは?」
「……わからねぇ。確認したくもねぇ。変なうめき声を出しながら町の中を這うような音を立てて回るんだ。そしてありえねーくらい大きな馬車」
「馬車?」
「そうだ。馬も馬車も家1つ分ありそうな馬車が毎晩行き来する。なんのか知らねぇ。知りたくもねぇ」
マスターは尋常じゃない速度で酒を煽る。
さすがに俺はマスターから酒を取り上げる。そこそこいい酒だったのでやけ酒に使うにはもったいない。
俺はそれをこっそりとアイテムBOXにしまいながら質問を続ける。
「まぁ逃げるに逃げれないってのはわかった。もう一つ質問だ。ハンス神父も殺されたのか?」
マスターは少し朦朧とした意識で
「いや、神父は半年前からなにか調べていたようだったがリードストンさんに近づくことはしていなかった。だがここ2,3か月その姿は見てねぇ。教会は町よりリードストンさんの所に近い。だれも確認に行こうとしないさ」
マスターはそう言うと俺を見て
「あんた教会から派遣されてきたって言ってたよな?俺を逃がしてくれねーか。もう気が気でねーんだ。金なら、金なら払うからさ」
俺に縋りついて懇願する。酔いと恐怖からの逃避で目が血走っていた。
「すまんな。俺は今のところこの町から出る予定はまだない。だがあんたたちの状況をなんとかするのも俺が神から与えられた仕事のようだ。当面はいつも通り過ごしてくれ。時が来たら逃がすなりなんなりできるかもしれない」
俺はそう言ってマスターを元気づける。
だがマスターはこの状況が続くことに落胆したように落ち込みその場でブツブツ言い始めた。
「こりゃもう限界が近いの。この調子だと残ってる人間もみな憔悴しきっておるとみるべきじゃろう」
マスターの様子をみたリーネは憐れむような目を向ける。
「そうだな。思った以上に急がねばならんようだ」
俺は日が西に傾き始めたのを見て
「マスター、教会の場所を教えてくれ」
そう訊ねた。
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