第28話 銃声とシスターと牧師

  俺は帽子を押さえて


「……殺すなって言ったのに」


 その言葉にビクッとなったシスター姿の少女は


「……あー、あれじゃ、なんと言ったかの?そうじゃみね撃ちという奴じゃ」


 と少女が冷汗を垂らしながら振り返り、無茶ないいわけをした時


 ピコーンという音と共に


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リーネがスキル【みね撃ち】を獲得しました

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 と表示される。

するとショットガンの一撃をもろに受けた男がゴホッと血を吐きだしてビクッと動いた。


「……出鱈目な話だ」


 俺は呆れる。

それと同時にいきなり仲間が撃たれたことで、一瞬呆気に取られていたこの場にいる男たちが


「てめぇ!!」


「やりやがったな!!」


「ぶっ殺してやる」


 と口々に叫んで銃を抜く。

俺は素早くリーネを抱きかかえてカウンターを飛び越える。

身を潜めると同時に激しい銃撃がガンガンと酒場の中を埋め尽くした。


 ガチャンッ!!

 バキンッ!!

 ドゴォォン!!

 ドゴォン!!


 激しい破壊音と銃の発射音が酒場の中でオーケストラを奏でる。

降り注ぐ割れた瓶のかけら、壁の木片。硝煙の匂いが立ち込め視界が少し白く靄がかる。


「くそつ!!なんてことしてくれたんだっ!!この疫病神め!!」


 俺たちと同じくカウンターに伏せてこの大惨事が去るのを一番待っているだろう酒場のマスターが俺に向かって悪態をつく。


「まぁ、気持ちは分かる。俺もおとなしく帰ろうとしたんだぜ?」


 そう言ってこそっとカウンターの棚に置いてある、まだ壊れてない酒瓶に手を伸ばした俺の手が酒瓶を掴んだ時、銃弾が瓶に当たった。引き寄せれたのは瓶の先端だけだった。

 俺は大きくため息をついて割れた瓶の先端を放り投げる。

投げた瓶のかけらは荒れくれ者たちの的にされ、空中でさらに小さなガラス片となってバラまかれた。


「なんじゃ?、わしゃのせいだと言いたいか?あるじに銃を向けられて黙っておってはわしゃの沽券に関わるでな」


 ショットガンを二つ折りにして弾を込め直しながら小さなシスターがふくれっ面で反論する。


 俺は肩をすくめて


「へいへい。ありがたいご忠義で」


 そう言って俺も腰に下げたホルスターから2丁の銃を抜く。


「さて、これ以上店を壊されたら新しい町で酒を飲ませてもらえなくなる」


「それは良いことじゃがこれ以上の狼藉をのさばらせるのは癪じゃ」


「では、レッツ、ロックンロール!!」


 俺たちはカウンターから一気に飛び出す。先に頭を出したのはリーネ。

素早くショットガンを2発放ち、近づいてきていた男2人を吹っ飛ばす。

同時に俺はカウンターを乗り越えながら素早く近くの男に銃の照準を合わせて引き金を引く。

 轟音が鳴り響き、飛び出した俺に照準を合わせようとした男の手にヒットさせる。

そのまま飛び出した勢いを殺さずに身を屈めて床に転がり、さらに2人、狙って撃つ。

 飛び出し、転がった俺に男たちの銃が向く。あっという間にハチの巣になる状況に素早く弾を装填しなおしたリーネのショットガンが再度火を噴く。

俺たちの銃が火を噴くたびに荒くれ者たちの手から武器は落ち、身体に穴が空いて呻いて倒れる。


 あっという間に20人のガンマンは苦痛で呻く重症人と化し、騒がしい酒場の銃声は収まった。


 俺は弾のなくなったシリンダーを外し廃莢して弾を装填し直してから腰のホルスターに戻す。

 リーネは満足げに倒れて呻いている男たちを見ながらこちらに振り向き


「みよ!ちゃんと誰一人死んでおらんぞっ」


と偉そうにふんぞり帰る。


「ああ、そうだな。えらいえらい」


 こういう時は素直に褒めておくのが子供と女の子の正しい扱い方だ。


「そいつらが動けないうちに財布と金目のもの集めといてくれ」


「うむ。了解じゃ」


 リーネは手始めに一番最初に撃たれた男の懐を漁りガンベルトを外しにかかる。


「……おめーら鬼だな」


その様子を見ていたマスターが心底呆れたように俺たちを侮蔑した。


「なぁに、治療費とここの修理費を先払いしてもらうだけさ」


 リーネがポイポイと財布や銃、金目のものを投げてよこし、俺はそれを受け取ってはマントの中にしまうフリをしてアイテムBOXに放り込む。

たくさんの量の銃や財布が消えていく様を胡散臭そうに見ていたマスターが


「……どうなってんだ、あんたのマント」


「ちょっとした神の奇跡ってやつさ」


 眉を顰めるマスター。


「こんなもんかの。もう良いぞ」


 粗方物色をすませたリーネが男たちを跨ぎながら小走りで戻ってくる。

途中、倒れていた男がリーネの足を掴む。


「テメェら……ぶっ殺してやる!」


 痛みで冷や汗をかきながら男が叫ぶ。

リーネはゴミでも見るかのように冷たく見下した後、ニッコリと可愛い笑顔を向けて思いっきり男の顔面を蹴り上げて


「レディの足を掴むとは何事じゃ。たわけが」


 そう言って男をノックダウンさせた。

リーネが俺の元に戻ってきたので今度は俺が男たちの方に歩み寄る。


「さあ、荒くれ者どもの諸君。君たちは頭が悪く、そして運がいい。神が君たちを見捨てなかったんだからな」


俺はそう言ってシャツの胸元から服の下に隠していた首にかけたロザリオを取り出す。


 バーのマスターがこの世の終わりのような顔をして


「あんた牧師かよ。世も末だ……」


 そう呟く。


 俺はニヤリと笑って【全体完全回復】を使う。

痛みでのたうち回るもの、動けず呻いてるもの、痛みで泣いているもの、全員の傷があっという間に治る。


「え?」


「いでーよ、かーちゃん、いでぇぇぇぇぇ……っていたくねぇ?」


「お、おれ撃たれたはず……」


 男たちは現状を掴めず混乱して周りの仲間を確認している。

その中で最初にリーネに撃たれたタトゥー男がゆっくり立ち上がり、俺を睨みながら


「……てめぇ!いったいナニモンだっ!!!」


「ああ、俺は今日この街に派遣された新たな牧師だよ。……なんの変哲もないね」


俺は帽子を脱いでわざとぺこりと挨拶をするようにお辞儀をする。


「なんの変哲もない、だとっ!!神父が銃なんかぶっぱなすかよ!!それにそっちのガキは絶対にいなかった!!……てめぇ。神父なんぞじゃなく悪魔使いだろっ!!」


俺はタトゥーの男を睨み


「……へぇ、面白いことを言うね。その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 俺は欲しい情報が早速耳に入ってきたことに喜びを隠しきれず、口元が緩み笑みが漏れた。





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