第3章 新章
第27話 酒と男とショットガン
”……おい、いつまで寝ておる。起きろ! 起きぬか!!”
キンキンと頭の中に響く声で俺は目を覚ます。
グワングワンと頭の中で鐘のなるような感覚で眉間に皺をよせ
「……うるさい、二日酔いに響く。少し静かにしてくれ」
そう言ってこめかみを抑える。
意識が戻ってみればゆったりと走る馬の上。
その揺れも相まって胃の中の物が込み上げてきた。
「あ、もうダメ……ぶぉぉええええええぇぇぇ」
情けなく俺は馬上から吐瀉物をどこかの噴水のようにまき散らす。
俺を乗せた馬はそんなこと気にせずにゆっくりと道と呼べぬ荒野のあぜ道を前へ進む。太陽はカンカンと照りつけ、こういう日に限って風はない。俺は腰の革袋から水をがぶ飲みしてペッとタンを吐き捨てる。
「くそっ、昨夜は呑み過ぎた。財布はすっからかんだしついてねぇ」
”だからほどほどにしておけというたのじゃ。なのに熱くなりおって……”
「うるさいよ。いい感じに勝ってたんだよ。あそこで相手にフルハウスが入ってるとは思わねーだろ?」
”ふん、イカサマの常套手段にだまされよって”
「ああ、もういい、小言は聞き飽きたよ」
俺は話を遮るように手を振る。傍からみたらただのイカレに見えるだろうが誰もいないのだから気にする必要もない。そんな長い旅の終わりを告げるように
”ふん、町がみえてきたぞ”
俺は正面に見える町の入り口と思われる木の丸太のみでできたゲートを見えた。
ようこそニューデルバリーへ
と書かれていたと思われる文字は擦れて読めず、何本もの切れた縄が括られている。
さらによく見ると弾痕がたくさんついていた。
「……やれやれ、これを見るだけで先が思いやられるな」
俺は独りぼやいてボロボロのゲートをくぐった。
街の中は閑散としており、時折人を見かけるがこちらに気づくと飛び込むように近くの建物に飛び込んで戸を閉められる。
俺はそんな光景を橋目に見ながら町の広場に出る。
賑わっていれば活気のありそうな広場であったが今は誰もいない。
ただ1つ、昼間だというのに驚くほど騒がしい酒場を除いて。
俺は馬を降りて手綱を引き、酒場の前の木に馬を繋ぐ。
そして首の顎紐を手繰って背中に回っていたカウボーイハットを手に取って目深に被り直し、腰の左右のホルスターを確認する。面倒ごとは避けたいが、こういうシュチュエーションでこれを抜かなかった試しはない。俺はゆっくりと騒がしい酒場の入口へと向かった。
キィッと建付けの悪い音をたてながら俺は昼間から大盛況ぶりの酒場のウェスタンドアを押して一歩中に入る。薄暗い酒場の中には20人近くの大の大人が談笑したり、酒を飲んだり、ポーカーに興じたりしてワイワイと楽しんでいたが、俺が入ると全員がこちらを向き、ピタリと騒音が止んだ。
”ぉぉ、こわっ”
俺の中で少女の声が楽しそうにそう呟く。
俺は気にせずゆっくりと足を進め、周囲を伺う。
全員が俺に注目しているようにこちらに顔を向けてじっと見ている。
俺は静かにカウンターまで行き、この状況がいかにも迷惑だ、という顔をしたマスターの前でカウンターに立ち、机に脱いだ帽子を置いて
「バノゥブを」
酒場なら必ずあるお高めのウィスキーの名を告げる。
マスターはこちらに人睨みきかせて
「……そんないい酒はうちには置いてないな」
と迷惑そうに答えた。
「じゃあウィスキーであるものを。何でもいい。長旅で喉が渇いてるんだ」
俺がそう告げるとマスターはしばらく無視を決め込んでいたが大きくため息をついてグラスを出してラベルの薄汚れた瓶から酒らしいものを注ぎ、俺の前に出す。
俺がそのグラスを手に取ろうとしたがスカッと空をつかむ。後ろから手が伸びて俺のグラスはそのごつい手にもっていかれた。
後ろに立っていた男はいかにも荒くれ者、坊主頭に蛇のタトゥーの入った目つきの悪い男であった。男はグラスの中の酒を勝手に飲み干して
「にーちゃん、空気読めよ。場がしらけてるだろうが。今すぐ出て行けば財布置いて行くだけで勘弁してやる」
俺に顔を近づけて因縁をふっかけてきた。
俺は男の発する酒臭い息を避けるように顔を背けて
「……喉が渇いてるんだ。一杯だけでいいから飲ませてくれないか?そしたら出て行くからさ」
俺が下手に出たのを聞いて男は謎に勝利を確信したように笑い
「だめだ。すぐ有り金を出せよ。あと無駄にぶら下げてる腰のも置いてけ。
なんなら服も全部脱いでいけや」
男はニヤリと笑ってそう大声で告げると
静かだった外野がゲラゲラと笑い、ヒューっと口笛を吹く。
俺はヤレヤレと首を振り机の帽子を手に取って、さっと被りなおしてこの場を去ろうと踵を返した時、男は腰にぶら下げた銃を引き抜いて俺の頭の横に押し当てる。
俺の動きがピタリと止まる。
「どこに行く?聞こえなかったのか?全部置いてけっていったんだよ!」
男はニヤニヤと笑いながら撃鉄を起こす。その目は血走り血をみたいという欲望が浮かんでいた。
やれやれだ。
「おい、殺すなよ」
と言った俺の言葉はズドンという轟音にかき消され、俺に銃を向けた男が後ろへ盛大に吹っ飛んだ。
俺の外套のマントがふわっと浮いてそこに身長の低い、黒いシスター服に身を包んだ少女が、銃口に硝煙を漂わせるショットガンを構えて立っていた。
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