閑話 残された世界

 男は上空高い場所に静止して空気椅子に座っているかの如く足を組んで足元に見える壊れた時計塔の上で行われている戦いをつまらなそうに眺めていた。


少女の持つ黄金輝く剣が胸を裂かれた女の身体を両断する。

斬られた女の断末魔が小さく響く。


「……ふん、神聖剣か。ヘンリーめ、残りの力をどこに隠したのかと思っていればやはりここだったか。……食えぬ男だった」


男は誰も聞くものがいないのに独り言を呟く。


もう助かりそうもない斬られた女が喚いている。そして身体を引き裂いて黒い穴がし出現する。それに吸いこまれまいと神聖剣の持ち主が逃げ始める。


「へたくそめ。あの距離では逃げられるではないか。まぁいい。計画は上手くいかなかったが、結果としては上出来か」


男は立ち上がり手を横に上げる。

そして大きく回すように振って時計塔に向けて腕を振り下ろす。

すると街の周りに昇っていた7本の火柱が大きく噴きあがり、紫の炎はそのまま時計塔に向けて飛んでいく。


紫の炎は逃げおおせそうだった神聖剣の持ち主の行く手を遮り、そのまま黒い穴を中心に包むように球体になる。


「あはははははははは。きっと今、絶望が心を満たしたんじゃないか?ええ?」


男は愉快そうに身体を揺らして笑う。

紫炎の球体が徐々に小さくなっていく。

その時、男の後方で最後の紫の炎柱が上がる。


それを見もせず舌打ちして


「……少し遅かったな。もう少し早ければこの世界ごと消滅させれたのに」


悔しそうに呟く。

その時、8本目の火柱が吹き飛ばされ白い光に変わる。


「なにっ!!!これはっ!!」


男は驚き光の方向を見た時、残りの火柱もすべて光の柱へと置き換えられた。

男は憎々し気に


「……やってくれたな、ヘンリー。……俺の目論見を知っていたとは思えない。同じ

手順で街を守る防御策を練っていたのか。……鬱陶しいやつめ」


 光の柱の出現で時計塔の紫の炎の球体もはじけ飛んだ。

男の身体が時計塔に向けてゆっくりと浮遊して降りていく。

黒い穴も消滅しており、男は舌打ちをする。

時計塔に降り立ち、穴の存在していた付近まで歩いて行く。


 そして腰を屈めて何かを拾った。

それはほとんどの部分を失った聖剣の柄の一部だった。

男はつまらないものを見たような顔で


「ちっ、ヘンリーの邪魔のせいで消し切れなかったか。……まぁいい。決着は次の世界で、ということか」


男は懐から短剣を取り出して


「わざと面倒な手順を踏んでみたがダメだな。まぁこの世界、長く楽しめたからまぁいいか。次はもっとシンプルにいくのがいいな」


 そう言って笑いながら自らの首をかき切った。

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