第25話 分たれた力

 俺たちは吹っ飛んだ最上階から下の階、時計塔の時計を回す仕掛け部屋へと落ちていく。

傷だらけのリーネは意識を失い、俺は彼女の手から離れてしまう。


”ユリエッ!リーネを頼む!! ”



 落下する空中でアイテムBOXからかろうじてユリエをリーネに向かって放つ。大量の血を流してぐったりと落ちるリーネの下にユリエが潜り込み、大きく広がって地面への激突回避のクッションの役割を果たしてくれる。


 地面に落ちた俺とリーネの距離がかなり離れる。

俺は即座にステータスを開き、リーネの生存を確認。刻一刻と減っていくリーネのHPを見て焦る。


”まだ息がある、今ならまだ【完全回復】で助けれる”


 だが【完全回復】のスキルは相手と接触していなければならず、

また範囲技である【全体完全回復】はその射程内にリーネは入っていない。

 今この時ほど俺は自分が剣であったことを呪わずにはいられなかった。

手足があればっ!! 駆け寄ってすぐにでもリーネを助けれるのにっ!!

だがそれがないことを呪ってる場合ではなかった。

 刻一刻となくなっていくリーネのHP。

 何か、何かリーネを回復する手段は?

クソっ、頭が回らない。数字がすでに3桁を切っている。

なんとかなんとかせねばっ。

気ばかり早る俺の柄に青いぷにぷにした触手が絡みつく。


 ユリエだった。

ユリエが自らの一部を伸ばしてきてくれたのだ。

助かった!!。俺は【全体完全回復】を使う。

【全体完全回復】は範囲外でも触れている者すべてに効果を発揮できる。

リーネのHPの減少は止まり、数字が完全な状態まで戻った。

ユリエの機転に感謝しつつ、俺は安堵してあるはずのない肩の力が抜ける。


”……よかった。ユリエ、すまない。本当に助かった”


 触れてるユリエの触手からテレに似た感情が伝わった。


 ゆっくりとユリエに運ばれて俺は動かないリーネの元に辿り着く。

彼女はまだ気を失ったままだった。

HPが戻った以上すぐ気がつくだろう。


 外でドーンという音と地響きが鳴り響く。

今度は南側。

多分先ほどの火柱が上がったのだろう。

なんらかの儀式、のようなものを企んでいるのか?。

上がっていた火柱の間隔からして街を囲むように火柱が上がっていたようだ。

あと何本の火柱が上がるのかわからないが、俺たちにそれほど猶予があるとは思えない。


「う……うん、……ゴホッ、ゴホッ」


 リーネは喉に引っ掛かっていたと思われる血を吐き出してリーネが目を覚ます。


「こ、ここは……?わしゃ……たしか……ハッ!!」


 覚醒したリーネはしばらく状況を確認して、勢いよく飛び起きる。

胸元の俺、背中のユリエに気づく。


「これは……またユリエに救われたのかの?」


”ああ、ユリエがいなければ助けられなかった”


 俺がそういうとリーネは小さく頷き


「そうか。いつもすまぬな」


 そう言ってユリエを撫でる。ユリエは嬉しそうにぷるっと震える。


「状況は?なぜあの化け物は追ってこぬ?」


”わからん。仕留めたと確信したのか、別の目的で忙しいか、だ”


 俺の言葉にリーネは少し考えるように黙り込む。

その時、俺は何かに呼ばれるような不思議な感覚を感じた。


”……だれか、呼んだか??”


「ん?いや? なんの声もせなんだが?」


俺の問いかけにリーネが顔を上げて周りを見渡す。


…………


”……何かが呼んでる”


俺はこの部屋の奥から何かに呼ばれてる気がした。


「??なんんじゃ?何も聞こえぬぞ?」


”この奥だ。リーネ、すまないが俺を連れていってくれ”


 俺は何故だかわからないが行かねばならない感覚に急かされる。


「……わかった。奥じゃな」


 俺の反応に疑問を感じながらもリーネは立ち上がって俺の示した壁の方へ歩いていく。ユリエが小さくなってポーンと俺のアイテムBOXに戻ってくる。


 俺を呼ぶ声がどんどんと大きくなる。……懐かしい。もうどれくらい前に聞いた声だろう。そう、100年前の……


リーネは壁に突き当たるまで歩いて何もない壁で立ち止まり俺を見た。


「……壁じゃぞ?」


”ああ、俺を壁に近づけてくれ”


 リーネは小首をかしげながらも俺の指示に従う。

すると、壁が淡い光を発して勝手にガラガラと崩れていく。崩れた壁の向こうで光が激しくなる。


 リーネが眩しくて目を逸らす。そこには狭い空間があり、光を発しているのは……剣だった。


”あれは……俺?”


 眩しい光に慣れたリーネも光る小さな部屋の中に目をやって驚く。


「あれは……聖剣か?」


 そう、それはまさしく俺に瓜二つの一振りの剣。

 対峙して……俺はようやく理解する、呼んでいたのがなんなのかを。

あれは俺の一部、本来の俺の力。

 100年前、勇者ヘンリーの手で最果ての地に残された時、彼は俺の力を2つに分けていたのだろう。そしてこの国はヘンリーが立て直した国。

この塔はたぶんヘンリーがこの剣を隠すために建てたのだろう。しかし、なぜ??


「これはどういうことじゃ?」


”……わからん。だがこれは俺の残り半分の力だ。

どうやら今まで俺は力を半分しか出しきれてなかったらしい”


「なんじゃ?それは。じゃあこれで本来の力が取り戻せるわけじゃな?ならばあの姉上もどきを倒せるのか??」


光明が差したが如く喜びの表情がリーネの顔に浮かぶ。

だが俺は言葉に詰まった。


"いや……多分、もうリーネとは一緒に戦えない"


その言葉にリーネの表情が固まる。


「……何故じゃ?」


”あの剣の力はまさに魔族を滅ぼす力だ。リーネ、君が使うということは魔族である君の命を削ることになる。俺は……そんなのは嫌だ!! ”


 倒すべき魔族。滅ぼす相手。俺の力は本来リーネたちを傷つけるための力だ。

だが短い期間だが、ずっと一緒にいたこの食いしん坊で、お調子者で、短絡的で、どこまでも人間臭い、この小さな魔族を俺はとても大事に思っていた。


 俺の話を聞いてリーネはしばらく俯いていたが、優しく笑い


「ははっ、我ら魔族を滅ぼす聖剣の言葉とは思えぬわ。……案ずるな、わしゃが消滅する前にあの化け物を一瞬で滅ぼせば良いだけのことじゃ。その暁にはお主など海の底に沈めて今後の遺恨を残さぬようにしてくれる」


そう言ってはかなげに笑い、俺をぎゅっと抱きしめ


「……姉上は、わしゃの姉上はとても優しくて凛々しくて強くて。

自慢の姉じゃった。その姉をあのままにしたくはないのじゃ。頼む、ケントよ。最後までお主の力を貸してくりゃれ?」


 剣である俺に温度を感じる器官はない。

だが確かにリーネの温もりを感じる。そして彼女の強い覚悟も……。


 リーネは抱きしめる俺を離して、柄を手に持つ、

そして顔をあげて壁の中の空間に刺さって激しく輝いているもう一本の俺と対峙する。


「……さぁ、ゆこう。最終決戦じゃ」


”……ああ”


 俺はなにも言えず静かに返事をした。


 リーネが光り輝く剣に手を伸ばす。

バチリッとなにかに弾かれ一瞬躊躇したが、そのままさらに手を伸ばして光り輝く剣に手をかける。

眩しいほどの光が広がり俺たちを飲み込んだ。


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神剣ケントゥリアをてにいれた。

契約者、リーネバルバリアがしんせいけんのつかいてにてんしょくしました。

ケントがしんせいけんにてんしょくしました。

【剣術・真極】が【二刀流・真極】へ変化しました。

【強化付与】が【強化付与・改】へ変化しました。

【魔力霧散】が【神聖力置換】へと変化しました。

以下の新スキルを獲得ました。

【真力解放】

【神聖力操作】

【神聖力増幅】

【神聖力放出】

【魔力操作】

【魔力増幅】

【魔力放出】

【魔属特攻】

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