第24話 急転
激しい爆発で時計塔の上部が四散する。
「ケホッ、ケホッ……、くそぅ、前が見えぬ……」
あたりは燃えた時計塔の残骸と黒煙に満たされてリーネはその煙で咳き込んでいた。
”うぷっ……きもぢわるい……”
すさまじく気持ち悪いが胃も喉もないから吐くこともできない。代わりに俺は弱音を吐いた。
膨大な魔力を注ぎ込まれ、さらにそれを一気に膨張させられたのだ。聖剣としては耐え難い状況であった。
「くそっ!奴はどうなった?消し飛んだのかっ……ケホッ」
リーネは煙を吸い込まぬように口を押えながら視界の悪いながらも周囲を見渡す。
天井も壁もほとんど吹き飛んでしまったため、強風が吹いて立ち上る煙を一気に吹き流し視界が開ける。
吹き飛んだ時計塔の頂上は瓦礫などが散乱しているものの動く物はない。ちょこちょこ舞い上がった瓦礫などが落ちてくる。
その時、リーネの背後でガラガラっと瓦礫が崩れる音がする。
素早く振り返って剣を構える。
ボーンっと飛び出してきたのは小さくなった青い球体。スライムのユリエだった。
それをあわててキャッチして
「おお、ユリエ、無事じゃったか」
リーネは手の上に乗ったユリエの無事に安堵する。完全に爆発に巻き込んだと思っていたのだろう。
爆発の直前、俺はユリエの一部が切り離されたのを感じていた。
「これで……終わったのじゃな」
リーネは俺を床に突き刺してユリエを撫でながら肩の力を抜く。
「あらあら、そんなに気をぬいて良いのかしら?」
リーネの耳元で突然現れた逆さまの首が薄く笑いながら小さく囁いた。
慌てて身体を捩って耳元に湧いて出た首を払いのけ、地面に刺した剣を引き抜いて飛び退いて構える。ユリエもピョンと飛び降りて俺のアイテムBOXへと戻る。
ぶらぶらと揺れながら、クスクスと笑う逆さまの首
よく見ると破損し、辛うじて形を残していた石柱にぷよぷよと動く肉塊が張り付き、そこから首を伸ばして垂れ下がっていた。
「クズクスクス、その下等な生物が逃れれたのにこのわたくしにできぬとでも思って?」
ニタニタと笑う首はニュルニュルと肉塊まで縮み、ぼこぼこと増殖して再生を開始する。
「くそ、あれだけ魔力を込めたのにやはり火力が足らなんだかっ!」
リーネは舌打ちする。
……俺に流れてきた魔力は相当な物だった。しかも直接突き刺して叩き込んだのに逃れられるとは……。
”……あっ”
思考を巡らせたとき、俺は一つの原因に思い至る。
「なんじゃっ!!」
”……【魔力霧散】のせいだ”
俺のスキル【魔力霧散】は周囲の魔力を拡散してしまう。当然俺自身に流れる魔力もその対象。そして俺に近ければ近いほど魔力は拡散される。……つまり俺を介した魔力攻撃は全て【魔力霧散】により威力が半減してしまうのだろう。
俺の説明を聞いてリーネは失笑しながら
「……お主は間抜けじゃの。魔力だだ洩れでも気づかぬわしゃも大概じゃが」
”……面目ない”
「つくづく相性の悪い相棒じゃて」
そう言って自嘲気味に笑うリーネ。
次の瞬間、ある程度再生し、歪な手足や触手をたくさん生やした肉塊、マガマガシイモノが伸ばした触手をさらに分散して無数にばらけさせて攻撃を仕掛けてくる。
リーネは飛び下がり大きく剣を振りながら回転し、衝撃波を2発出して応戦する。
触手はあっさりと切断されたが、切断された部分がそのまま空中で爆発的に分裂し、さらに無数の触手に分かれて襲いかかってくる。
「ええいっ!」
リーネは素早く魔力を集中すると俺に流し込む。今度は邪魔にならぬように俺はスキル【魔力霧散】を解除する。
先ほどより強力な魔力が急激にドバッと俺の中に流れ込み、その苦しみは声が出ぬほどであった。
”ッッッッッ”
俺の全身に先ほどとは比べ物にならないほどの炎を纏い、リーネはそのまま高速で炎の斬撃を打ち出す。
襲いかかってきた触手は炎に飲まれてあっという間に消し炭になってポトリと地面に落ちた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
剣を構え直したリーネが肩で息をし始める。
運動量の疲労ではなく、魔力の消費のしすぎによる疲労なのだろう。
くそっ、もっと早く気づいていればっ
俺は自分の間抜けさにいら立ちを覚えた、
失態続きのせいでリーネへの負担が増えすぎていた。
その時、街の東側でドーーーンっという大きな破裂音と共に紫色の火柱のようなものが噴き上がる。
俺たちはその凄まじい光景に一瞬呆気にとられる。
すると、先ほどまで触手を増殖させていただけの肉塊だったマガマガシイモノが急にその触手を方々に伸ばして、至る所に転がる消し炭などをかき集め始める、
それらを吸収してさらに膨れ上がり、一気に人の形を成し黒髪の美女の姿へと戻っていく。
「ああ、ついに始まりました。リットさま……あなたさまの悲願まであと少し」
復活した美女はうっとりとした歓喜の表情を浮かべ噴き上がった火柱を眺める。
続けて南東、北東、北にも同じような紫色の火柱が上がる。
俺たちがいる塔の爆破、各所で上がる不気味な火柱、夜中の静かだったサービナンの街が激しい恐慌の叫びをあげ始める。
「さて」
アシュレイを形どったマガマガシイモノがゆっくりとこちらを振り向き
「かわいいリーネ……名残惜しいけどこれ以上あなたと遊んであげれる時間は無くなってしまったわ。残念ながらここでお別れね」
その手にはいつの間にか魔剣ショーバルムが握られている。
「……ふん。奇遇じゃな。わしゃもお前の顔を見飽きたところじゃ」
もう魔力もカツカツで底を尽きかけてる。
次が最後の攻撃になるだろう。
リーネの覚悟を感じた。ゆっくりと深呼吸をして練り込んだ魔力を俺に注ぎ込んでくる。
凄まじい気持ち悪さだったがどこか心地よさ、暖かさのようなものも感じた。
正真正銘、リーネの全てをかけた攻撃なのだろう。
俺も覚悟を決める。言葉はもういらない。
リーネがゆっくりと剣を担ぐような構えをとる。
目の前のアシュレイは涼しげに微笑んでいる。持っている魔剣が鈍く光る。
「さらばじゃ、姉上」
リーネは呟き、力強く地面を蹴る。
最速の突撃。担いだ剣に青白い炎がまっすぐと噴き出し、剣身に纏わりつく。
アシュレイを剣の間合いに捉えた時、
ドス黒い魔力が地面より噴き出し、球状となり俺たちを包み行く手を阻んだ。
”しまった!!”
俺は今頃気づく自分の浅はかさをさらに呪うことになる。
【魔力霧散】を解除するということ。
それは抑えられていた魔剣の力をも解き放つということ。
禍々しい剣より放たれていた魔力の罠に俺たちは気づくことなく引っかかり捕らえられていた。
”リーネっ!!”
咄嗟に【魔力霧散】を使用したが、間に合わず俺たちを包んだ黒い球体の至る所から無数の黒い刃が俺たちを襲った。
【自動守護】によりいくらかは防御したものの、無惨に切り刻まれるリーネ。
激しい攻撃は球状の中の時計塔の床をも破壊し、俺たちはなす術なく落下した…‥。
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