第22話 再会、死闘のはじまり

ゴラウ王国、首都サービナンは荒れ果てていた。

横暴な王政、貴族たちは傍若無人に振る舞い、街中で強盗まがいな冒険者たちが暴れる。

 ほんの数ヶ月前まで世界で一番美しき都市、勇者ヘンリー王が統治した世界の楽園と呼ばれた面影は一切ない。

まともな市民は逃げ出し、逃げ遅れた市民は明日の我が身を案じて物陰に潜んでガタガタと震えて暮らす街。

 魔王に怯えていた100年前がこのような世界であったのを今の市民は知らない。

そんな街を愉悦の表情で朽ち果てかけたサービナン自慢の時計塔から眺めながらアシュレイはご機嫌であった。


「ぁぁ、リットさま。計画は順調。あと少し、あと少しです……。早く、早くあなたさまに遭いとうございます……」


切なげにそう呟き、天を仰ぎ見るアシュレイの背後に人影が立つ。


「やっと見つけましたぞ、我が姉上殿。いや……お主、本当にわしゃの知る姉上なのか?」


 人影から発せられた少女の声にしばらく微動だにしなかったアシュレイが、まるで壊れた人形のようにギギギギッという音がしそうな動きでゆっくりと後ろを振り返る。


 アシュレイが視線を向けた先にはボロボロになった外套をすっぽりとかぶり、身体に似合わぬ剣を背中に背負った少女が立っていた。

 少女は外套のフードを跳ね上げて顔を晒す。

幼い顔、紅蓮の瞳、クルクルと巻く小豆色のパーマの髪はかなり伸びて強い風に揺られる。髪の中から覗く2本の巻き角。

アシュレイは目を見開いてにたりと笑う。


「あらあらあら。私の可愛いリーネ。わざわざ私に会いに来てくれたの?嬉しいわ。嬉しいわ。どうしましょう、そうだ、こっちに来なさい。近くで顔を見せて?」


 奇妙な笑みは消え、優しく慈しみに満ちた笑顔を浮かべたアシュレイがリーネに手を伸ばして腰を屈める。

 その姿にかつての姉の姿を見たリーネは一瞬悲しい顔をしたが目を閉じて、次に見開いた時、その瞳には闘志を宿していた。


「紛らわしい演技をするでないわ!!。わしゃは今、最高に気が立っておる。これ以上の言葉は不要、今すぐ斬り伏せてくれるわ」


 リーネはスッと背中の剣を抜き構える。

闘気が剣を流れ聖剣は淡い光を発し始める。

 その剣気を見て一瞬で怯み歪んだ顔になったアシュレイが壊れた操り人形のように大きく跳ね退いて


「シャアアアアアアアア」


 と大きく口を裂いて威嚇する。

その手にはいつ持ったのか曲がり曲がった刀身を持つ魔剣ショーバルムが握られていた。




 アシュレイという女の持つ禍々しい妖気を放つ魔剣を見て俺はため息をつく。


”この世で二度と見たくなかった剣№1なんだが……”


 うんざりと語る俺の愚痴に


「ええい、黙っておれ。気が散るではないかっ」


 相手から一瞬たりとも目を離さずリーネが悪態をつく。そして一呼吸おいて


「仕掛けるぞっ」


 その声と同時にリーネが跳躍する。一瞬で間合いを詰めてアシュレイの首を落としにかかる。その動きに一切の躊躇はない。

 瞬速と呼ぶにふさわしいその攻撃をアシュレイの身体は反応しきれてない。

バッサリと首を落とした、と思った攻撃は生物としては起こりえない動きで躱されていた。

頭があるべき場所からぐにゃりと首が伸びて下に落ちたのだ。


「なっ」

”なっ”


 驚いた俺たちの剣が空を切り一瞬動きが止まった時、リーネの身体に衝撃で吹き飛ばされる。

そのまま壁に叩きつけられてめり込む。

リーネが咄嗟に俺を盾代わりにしたおかげてアシュレイからの衝撃は【自動守護】で防でたが、壁への激突はダメージになった。崩れる壁に半分めり込んだリーネはぐったりとしている。

意識が飛んでいるようだ、


”リーネ!!起きろリーネ!!”


俺の呼びかけですぐにリーネは目を覚ます。


「ぐっ……どれくらい気を失っていた?」


”一瞬だ。大丈夫か?”


「ふん、大丈夫じゃ。問題ない。……それよりアレをなんと見るかの?」


 リーネは壁の残骸を払いのけて立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる伸びた首の先にぶら下がるニタニタと笑う頭がユラユラと揺れている、アシュレイだったモノを睨みながら聞いてくる。

 リーネの目に宿る闘志は衰えぬものの、未知との戦闘にやや気後れしているようだった。


”……ああいうものだと思って攻撃するしかない。というかアレはなんなんだ??魔剣の力というわけでもなさそうだぞ?”


 過去、魔王と対峙したがあんな奇妙な攻撃をすることはなかった。魔剣といっても魔力の増幅やそれを用いた範囲攻撃を得意とした武器のはずだ。

そうなると使い手が異常ということになるが……


全く未知の相手との戦闘は想定していなかった。

あれは……この世ならざる禍々しいモノだ。

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