第16話 冒険者ギルド入会試験
リーネに担がれながら俺たちは宿屋で聞いた冒険者ギルドの前に立つ。
「おお、大きな建物じゃの。だが……なんか汗臭いのぅ」
鼻のない俺には分からないがどうやら臭いらしい。
”さっさと行くぞ、宿屋で聞いた通り今日は運よく新人登録の日らしいからな”
そう言ってもリーネは歩き出そうとしない。
”どうした??”
「臭いんじゃ。どうしても入らないとダメか?」
リーネは心底嫌そうな顔をして鼻をつまむ。
”我慢しろ。さっさと済ませて出ればいいんだからさ”
俺はリーネに早く中に入るように促した。
しぶしぶ建物に入ったリーネに鋭い視線が集まる。
中はたくさんの屈強な男たちがひしめき合っていた。
彼らはギルドに入ってきた小さな女の子を見て一瞬の静寂が場を支配した。
それを破るように入口付近にいた髭もじゃの男がリーネに近づいてきて
「おいおいおい、おじょーちゃん。ここは子供の来るところじゃねーぜ?お遊戯場はもっと西だ。おっと西とか言ってもわかんねーかなぁ?」
髭もじゃは西側を向きながら手を額に当てて遠くを見るジェスチャーをする。
その動きに一瞬眉間に皺のよったリーネであったが
「ふむ。心配してもらって恐縮じゃがわしゃお主と違っておむつはしとらんでな。遊戯場には一人で向かうがよかろう」
そう言うとニッコリと可愛い笑顔を男に向けた。
一瞬その笑顔に見惚れた髭もじゃが顔を真っ赤にして怒鳴ろうとした瞬間、
ひげもじゃの首に俺の刀身が当てられる。
「……わしゃ面倒が嫌いでの。これ以上の騒ぎは御免こうむりたいのじゃ。良ければ冒険者登録とやらのやり方をおしえてくれんかの?」
誰の目にもリーネが剣を抜き男の首に剣を突き付けた瞬間を見ることができなかった。
髭もじゃの顔面に冷汗が滝のように流れる。
「あ、あ、あ、あっちにう、受付があってですね。そ、そこで用紙に、な、名前を……」
ひげもじゃは噛み合わぬ歯をガチガチと震わせながら登録の手続きを説明する。
リーネは聞きづらい話を最後まで聞くともう一度ニッコリと笑って
「助かったぞ。お主、思ったよりいい奴のようじゃの。今後も仲良くしてくりゃれ」
そう言うと剣を引きスタスタと受付に向かって歩き始めた。
ここにいた誰もがリーネの実力を理解した瞬間であった。
「では、この後実力を見るための模擬戦が行われます。もうしばらくギルド内でお待ちください」
受付で四苦八苦して申し込み用紙を書き終えたリーネが疲れた顔をして手続きを終えたのは締め切り2分前であった。
”だから少しは字の練習をしろと……”
「今は小言は聞きとうない。黙ってくれんか」
憔悴しきったリーネは壁際に座り込む。
そんな彼女に周りの目が集中している。
少し悪目立ちをしすぎたな。
そんなことを考えていると
「では新規登録の皆さまはこちらにお越しください」
受付をしていた女性がギルド内にそう呼びかける。
ここにいる多くの人間は新規登録組であったようだ。
みなぞろぞろと移動を開始する。
”リーネ、俺たちも行こう”
そう声をかけると暫く動かなかったリーネも重い腰を上げて彼らに付いていく。
建物を出て長い渡り廊下の先に広い闘技場のような場所に出る。
そこには一人の男が仁王立ちしていた。
「がははははは、よく来たな新人諸君。俺が今回の試験官、B級冒険者のバイナリィだ。よろしくだ」
バイナリィと名乗った筋肉モリモリの男はがはははと笑う。
身長も高くガタイもいい、名のある戦士だろう。背に担ぐ大剣は柄の部分が使い込まれている。
十分な実力があるのを見て取れた。
「さて、いっちょ始めるか。全員同時に、と言いたいが……」
バイナリィは全員を見渡しリーナで視線が止まる。
特に驚いた様子もなくじっとリーナを凝視した後、
「んじゃそこのお嬢ちゃん以外は全員同時にかかってこい。誰かが俺に一発入れれたら全員合格。俺に殴られた奴は失格だ。魔法も使っていいがこの闘技場内では威力が格段に落ちるからな。加点はしてやるが一発にはいれんぞ」
バイナリィと多勢に無勢の試験が始まった。
30分後、受験者は全員地面に倒れていた。
「さって、そっちのお嬢ちゃんの番だな」
バイナリィの目に殺気がこもる。
その殺気に反応してリーネがニヤリと笑う。
手練れとは言えリーネの敵ではない。
「……と言いたいとこだが」
バイナリィは殺気を消してボリボリと頭を掻く。
「俺は負けるの嫌いなんだよな。というわけで合格はお嬢ちゃんだけだ」
そう言ってがはははははははと笑った。
やる気満々で前に出ようとしたリーネはハトが豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
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