第10話 ダンジョン脱出ぴんちだぜ

 ベヒーモスバーストを倒し、その死骸にリーンが近づくとベヒーモスの死体は光の粒子と変わりその光はリーンの身体の周りに集まって彼女の中へと消えていった。


「これで、ベヒーモスは私の召喚モンスターになりました」


 リーンが振り返って俺にはかなげに笑う。

そしてお座りをして待つ白銀の狼の元に近づき


「ラナフェル、お前は私の手を離れてしまったのね」


クゥゥゥン


と鼻を摺り寄せて小さく鳴くラナフェルと名残惜しそうにその頭を撫でるリーン。

咄嗟のこととは言え少し悪いことをしたかなと考えていた俺は二人の抱擁を遠くで眺める。

 一応、テイムの解除はできないものかとステータス画面を確認してみたがそれらしい項目は存在しなかった。

こちらに近づいてくるリーンとラナフェルに向かって俺は頭を下げる。


「すまない。やはりテイムは解除できないようだ。君の大事な相棒を横取りするような形になってしまった」


 俺は精一杯謝罪をする。


クゥゥン


そんな俺を励ますように頬を摺り寄せるラナフェル。

俺はリーンの言葉を待った。

彼女は長い沈黙ののち


「……ラナフェルは賢い子です。ケントさんと共にあることをこの子が望んだのです。頭を上げてください」


少し怒った声でリーンはそう言い、顔を上げた俺に向かって優しく笑いかけて


「大事にしてあげてくださいね?」


そう告げた。


「……ああ」


俺は力強くそう答えた。


「では帰りましょう。私、もうクタクタで」


 彼女はそう言って前を歩き出す。

俺はそんな彼女の後姿を見た後。ラナフェルを見て


「行こう」


 そう告げて彼女の後ろを追いかけた。


 帰りは行き以上に楽であった。

テイムしたラナフェルは数段に強くなり、その姿を見るだけでモンスターは逃げ去った。

無用な戦闘がなく俺たちはスムーズに出口まで辿り着く。


「出口ですよ!!あと少し!!」


 戦闘がなかったおかげで少し体力も魔力も回復したのであろう、リーンの顔にも血色が戻り笑顔がこぼれていた。

 リーンは俺の横について歩き、なにか考えていたようだが


「ケントさん」


 なにか決意の表情で俺に声をかけてきた。


「どうした?」


 俺は彼女を見る。最初のおどおどした彼女の雰囲気はなく一仕事終え、信頼の芽生えたいい表情をしていた。


「あ、あのよろしければ今後も一緒にパーティを組みませんか?」


 彼女は前のめり気味にそう提案をしてくる。

俺は少し驚き、身を引いて天を見る。


「あ、あぁ。……それもいいな」


 願ってもない申し出だった。一人でなにかするには少し動きづらい立場であったからS級冒険者であるリーンと共に行動することにメリットは多い。

なによりラナフェルと一緒なら彼女も喜ぶだろう。


「ああ、そうし」


 よう、と答えようとした時、突然大きな揺れが俺たちを襲った。


「地震だ!!」


 俺は咄嗟にそう叫ぶ。ジシン??地震とはなんだ???

一瞬そう考えたがそんな考えを振り払って俺はすばやくリーンを抱えて地面に伏せる。


「ケ、ケケケントさんっ??」


 突然のことにリーンはパニクッた反応を見せるがかまってられない。

おれは彼女の頭を抱きしめるようにして身体を丸める。

その俺を守るようにラナフェルが覆いかぶさる。

揺れは激しくなり立っていることができないほど大地は暴れていた。


「きゃあああああああ」


 俺の胸元でリーンが絶叫にちかい悲鳴を上げる。

物凄い揺れはかなりの時間続いた。

いくつも落石があったがすべてラナフェルが受けてくれた。

徐々に激しい振動は収まっていく。

ラッキーなことに生き埋めになるほどの崩落は起きず、揺れが完全に収まるのを俺たちはじっと待ち続けた。


「……収まったか?」


 揺れが完全に収まったのを確認して俺は頭を上げる。

ダンジョンの天井を見上げる。崩落する気配はない。だがいつ崩れてもおかしくはない。出口はすぐそこ、素早く出るべきだな。

俺はそう考え胸に抱いたリーンに声をかけようと彼女を離すと


「キュウ……」


 ゆでだこのようになったリーンがふらふらとしていた。

しまった、強く抱え過ぎたか?


「リーンここは危ない。早く外に出るぞ」


 そう声をかけて軽く揺するが彼女の意識はしっかりしないようだった。

仕方ない、一にも二にもここを出るのが先決だ。

俺は彼女の手を引いてダンジョン入り口を目指すことにした。

出口の明かりはそこに見えている。

急いで出ようと一歩踏み出した時、


「ケントっ!!あぶないっ!!!」


 リーンの声と同時に俺は突き飛ばされた。

突然のことでバランスが取れず前のめりに倒れた俺。

どどーーんという地響きが起こり、慌てて身体を起こして振り返ると

そこには土砂と岩が雪崩崩れていた。

そして崩れてきた岩に足を挟まれたリーンが倒れていた。


「リーン!!」


 俺は彼女に駆け寄る。

右足が完全に岩の下敷きになっていたスキル【自動守護】はモンスターの攻撃にしか反応しない。彼女の足は多分潰れている。

だが、俺の【完全回復】なら問題ない。とりあえず彼女を助け出すのが先決だ。

俺は辺りを見渡す。ちょうど良いことに程よい長さの木材を発見する。

俺は素早くそれを彼女の足と岩の間に入れて


「少し痛いかもしれないが我慢してくれ」


 そう声をかける。


 ゴゴゴゴゴゴ・・・・・


物凄い地鳴りと共にばらばらと岩が落ちてくる。

 これは……ダンジョンが崩落する。

俺は背中に冷汗が流れるのを感じた。

俺は梃子の原理を利用してリーンの足を潰している岩ごと土砂を一瞬持ち上げる。


「ぐぎっ」


 痛みで小さく悲鳴を上げるラナフェルがリーンの襟元を咥えて引きずり出す。


「よし」


 俺は素早く支えていた木材を放り出してリーンへ駆け寄り【完全回復】を使用する。

ガラガラと大きな岩が落ちてくる。俺は焦りながら


「ラナフェル、リーンを連れて行けるか?」


俺はリーンを担ぎ上げてラナフェルの背中に乗せる。

【完全回復】で回復したリーンが


「ケント。私、大丈夫よ?」


 そう声をかけてきたが


「急ぐんだ、そのままラナフェルに捕まれ」


 そう指示してラナフェルを先行して走らせる。

その後を追おうとした時

一瞬で視界が塞がれる。身体の上に重い、重い物が一気に圧し掛かってきて

俺は一瞬で暗闇に飲み込まれた……。



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