第9話 ボス戦ぴんちだぜ

「あ、あ、ぁぁ……」


 集中を切らせたリーンが小さく喘ぐ。

あと少しの所だったベヒーモスの傷がどんどん癒えていく。

【完全回復】ではないようだがかなりの体力を回復されてしまった。


 俺はリーンを見る。

すでに立ち上がる気力は残ってないように見える。

魔力もきっとかつかつだろう。

いまからフェンリルを操り、先ほどまでと同等の戦闘を繰り広げてベヒーモスを倒すことは不可能に見えた。


 どうする?撤退か?


 だが門をくぐった際に別の空間に移動させられた感覚があった。

この部屋からでることが可能とは思えない。

俺の膨大な魔力をリーンに与えることができればいいのだがそんな都合のいいスキルは持ち合わせていなかった。

隣で唸っているラナフェルを見る。

リーンの魔力が尽きればこいつもこの場で存在していられなくなるだろう。

そこでふと俺は閃いた。

ステータスを出し、アイテムbox欄を見る。


「……よし」


 俺はそう呟く。

丁度その時、ラナフェルから淡い光が漏れ始める。

リーンの魔力が限界を迎えたのだろう。

このままではラナフェルは消える。


「リーン!」


俺は後方で座り込んだままのリーンに声をかける。


「え?」


彼女の小さな声を聞いて


「すまない。最後の手段だ。どうなるか分からないが勘弁してくれ」


俺はそれだけを言うと左手を横に伸ばす。

その手の上でポンと煙を上がり小さな袋が掌に収まる。


「ラナフェル、お前の力、おれにくれ」


 グォォォォォォォン


ベヒーモスの咆哮が再度部屋を揺るがす。

俺の声はラナフェルに聞こえたのか分からない。

だが確かにラナフェルの承諾の意思を感じ

消えゆくフェンリルに袋の中の団子を取り出して投げた。

今にも消滅しそうなラナフェルがそれをパクリと食らう。


次の瞬間


「ワォォォォォォォォォン」


 物凄い音量の狼の遠吠えが響き渡る。

凄まじい衝撃がラナフェルを中心に巻き上がり

俺は少し後ずさる。

衝撃が収まると今度は静かな冷気が部屋の温度をすごい勢いで下げ始める。

俺の吐く息は白くなり、身体の芯から冷え始める。

ピコーンという音が俺の頭の中に鳴り響き

目の前にウィンドウが表示される。


[フェンリルをテイムしました。]


俺はラナフェルを見る。

さきほどまでよりさらに1.5倍ほどの体格に変わり、白かった全身の毛が白銀に変わりキラキラと光を発している。全身から冷気が迸り、辺りには小さな雪が舞っていた。

俺はフェンリルのステータスを表示する。


ラナフェル

レベル1

しゅぞく:フェンリル


HP 9999999999999/9999999999999

HP 9999999999999/9999999999999


ちから :  99999

ちりょく:  99999

まりょく:  99999

すばやさ:  99999

きようさ:  99999

みりょく:  99999

すたみな:  99999


特技

凍てつく咆哮

裂空爪

空蹴

瞬足

マスコット化


「ふむ」


俺はユリエと同じくステータスがカンストしてるのを確認する。

攻撃に特化したスキルも多い。これなら負けることはないだろう。


「ラナフェル、行けるか?」


俺の声に白銀輝くラナフェルはウォン!と一声吼えると一瞬でベヒーモスの鼻柱に強烈な突進を食らわせていた。

 それを確認してから俺はリーンの元へ駆け寄り


「大丈夫か?リーン」


 そう声をかける。疲労で状況が掴めないのかリーンはオロオロしながら


「ケ、ケント、ラナフェルは?あれはどうしたの?私、もう魔力がなくてラナフェルを維持できないはずなのに???」


「すまない。あのままラナフェルが消えてしまえば俺たちに勝ちがないと考えてラナフェルを俺がテイムしてしまった」


 そう告げる。


「え?え?」


 リーンはなんのことか理解できないようだった。

俺はふらつく彼女を支えながら細かく事情を説明する。


グォォォォォォォォォォォォ!!


ベヒーモスの最後の雄叫びが響き。落雷の障壁がズドーンと落ちる。


ワオォォォォン!!


ラナフェルの勝利の遠吠えが暗い部屋を震わせた。

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