第8話 ボスとたたかうぜ

「ラナフェル!!」


 リーンの声に合わせて白い狼がベヒーモスバーストの咆哮で揺れる空間の中を疾走して襲いかかる。

俺の1.5倍の大きさのあるフェンリルがまるで子犬に見えるほどベヒーモスは大きかった。


「こんなの勝てるのかよ」


 俺は1人呟く。

リーンはもちろん俺も戦闘スキルはない。

つまりフェンリルのラナフェルだけが頼りだ。

だがあの体格の違いを見ると不安になっってしまった。


 ………だが、それは杞憂だった。


 巨体のベヒーモスをその速さで翻弄し、一撃離脱、確実にダメージを与えていく。

たまたまダメージを受けたとしてもベヒーモスの隙をついて俺の元へ戻ってくるラナフェルに素早く完全回復をかけるとラナフェルは元気にベヒーモスへと挑んでいく。


「楽勝とは言わないが危なげはなさそうだな」


 俺の後方でラナフェルに魔力を送るため精神を集中しているリーンを振り返る。

じっとしゃがみ込み祈るような格好で彼女は魔力を集中していた。

召喚士の魔力を糧に召喚モンスターは能力を上げる。

ラナフェルがベヒーモスを圧倒してるのは彼女の力と言っても過言ではなかった。


 何度目かの回復を行い、ラナフェルは再度ベヒーモスへと向かっていく。

すでにかなりの時間が経過している。

ベヒーモスはボロボロの満身創痍。

このまま順調にいけば俺たちの勝利は確実だろう。

俺はもう一度後ろのリーンを振り返る。

長時間の魔力消費のせいで額に脂汗が滲み出し、疲労で苦しそうだった。


 このまま何事もなく終わってくれ。

俺はそう願った、その矢先、


グオォォォォォォォオオ


 断末魔のごとき雄叫びを上げたベヒーモスの周りに雷が障壁のごとく降り注ぐ。

最後の攻撃を行おうとしたラナフェルがそれに巻き込まれて直撃を浴び、弾き飛びされた。


「ラナフェル!!」


 転がり地面に叩きつけられて倒れたラナフェルに俺は慌てて駆け寄る。

大丈夫だ、動いている。俺はラナフェルに触れてスキル【完全回復】を使用する。

フェンリルの傷は一瞬で癒え、元気に立ち上がる。


グォォォォォォォォォン!!


ベヒーモスの咆哮が再度空を切り裂く。あまりの音に俺は一瞬顔をしかめベヒーモスへと視線を向ける。


「し、しまった!!」


 ベヒーモスの開かれた口に炎の球体が凝縮され発射される。

ターゲットは……俺たちの遥か後方、意識を集中して動けないリーンだ。

俺もフェンリルも咄嗟にリーンに向けて駆け出す。

だが発射された火球の方が速い。


「くっ!!リーンよけろ!!」


 俺の怒鳴り声に集中していたリーンが反応する。顔を上げたリーンが目にしたのは自分に向かって飛来する巨大な火球。


「え?……」


 彼女は一瞬呆けた顔をして自らの危機を理解したが回避に移ることができていない。

いや、いまさら避けたところで躱すことは不可能であった。


 俺は一瞬、思案してリーンに向けて手を伸ばす。


「ユリエ!!!」


 俺の叫びと同時に伸ばした手の先にポンと煙が上がり、青く丸い球体がすごい勢いで飛び出し、リーンの元へと一直線に飛んでいく。

そして火球とリーンの間に割り込みぶるっと大きく震えたかと思うと蒼い球体は投網のようにぶわっと広がり巨大な火球を飲み込んで消化する。


「こ、これは……スライム?」


 彼女の目の前で大きく広がった粘膜上の物体を見てリーンが呟く。


グォォォォォォォォン!!


 再度ベヒーモスの咆哮が鳴り響き、俺たちはベヒーモスを注視する。

ベヒーモスの全身が淡い黄緑の光に包まれていた。


「しまった!!回復スキル持ちかっ!!!」


俺は最悪の展開に舌打ちをした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る