第153話 暴発
「——— では、お待たせしました、今から始まるララパルーザの演奏をお楽しみ下さい! 一曲目……『Death!』」
“ババボンバボボンベッバババボン……”
おいおい! 丹菜の奴、何曲紹介してんだよ。「やっちゃった」って舌出す顔もいちいち可愛い。
この曲の出だしは隆臣の高速ベースから始まる。俺には出せない音で人を魅入らせる。悔しいがカッコいい。そして、ギターとキーボードが同時に入り、バスドラが鳴る。ドラムが二小節叩いて即、
「AHHHHHHHHhhhhhhhhhh——————……」
実莉亜のハスキーボイスが会場に響き渡る。丹菜が歌った時とは違う出だしだ。彼女の声、ハスキーボイスのインパクトを与えた出だしに変えたのだ。うーん……声がロック。
観客は実莉亜の声に引っ張られるように眉が上に上がっていく感じで表情が変わっていく。
袖にいるBerry’zと実莉亜フレンズも唖然とした感情なのか徐々に引き込まれてる状況が表情で分かる。
「♪♪♪♪—♬♬♪—♪♫♬———……」
そしてAメロに入ると、観客から歓声が上がる!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「何だこのハマりきった声は!」
「声が勝手に耳に入ってくる!」
「しかも、演奏もメチャクチャ暴走してるのに纏まってるぞ!」
「体が……体が勝手に動く!」
観客が跳ねる! 全員跳ねる! 体育館が揺れじ始めた! マジかよ⁉︎
「何……遊佐って……こんな……凄い! 凄いよ!」
Berry’zのリーダーが自分抱きしめるように両肩を抑えて震えてる。沸き起こる興奮が抑えられないようだ。
そしてBメロ。ボルテージは二段階は上がった。演奏もぶっ放しで衰えるどころかドンドン拡散されて行く。
そして最高の盛り上がり! 曲がサビに入ると、何と! 観客が一斉にステージの際まで押し寄せて来た! そして激しいモッシュが始まった! これは危険だ。観客の暴走だ! 小さい子供はいないみたいで安心だが、これはもう客席に戻すのは困難だ。収拾付かない状態だ!
そしてサビが終わった瞬間!
“———ブォン!”
激しい耳障りな音と共に音が消えた。何と、アンプの電源が落とされたのだ。実行委員がこれ以上の演奏は危険と判断して止めてしまった。賢明だと思う。
実行委員から事情が説明されて、観客は怒るかと思いきや、我に帰ったのか、周りをキョロキョロ確認して自分がいた席付近に散乱している自分の荷物を手に取り、残念がる声を上げながら体育館を出て行った。
「あはは……凄いですね。まさかこんな事になるなんて……」
「脱帽だよ! スゲーよ。流石『ライブ殺し』。自分らのライブすら殺しちまったぞ」
ちょっと項垂れ気味に戻ってきたLallapalooza。
「いやー……、まさかこんな事になるなんてな。でも、実莉亜の声、本番だとマジで凄いな」
「遊佐……凄い……ホント凄かった。今迄見下すようなこと言ってゴメン……ホント御免なさい」
「気にしてないから別にいいよ。私、勝負とかどうでも良かったし、それに皆が言うようにモブってやつだから……」
「ちょっと待って! その
「…………そう……なの? ふーん……そっか……よく分かんないけど……」
ま、実莉亜は全然そういうの興味ない以前価値観を持ち合わせていないから、Berry’zの熱意も伝わらない。
そして陽葵が全部まとめた。
「勝負は付いたね。勝負はBerry’zの勝ちね」
「え? どう見ても会場沸かせたの……」
「いや、さっきのダンス、MY TUBEアップするんでしょ? この後の影響力はあんたらの方が上。一曲目のやつ、あれ今回初披露でしょ?」
「はい……何で分か……」
「だって、観客で踊れる子、一人も居なかったからね。あの振り付け名前付いてる? 付いてないなら適当に『〇〇ダンス』って名前付けときな。一週間で『〇〇ダンス踊ってみた』でバズるよ絶対。だからあんたらの勝ちでいいよ。もし一週間後バズんなかったら、ハズレたって事でなんか奢ってやるよ」
陽葵は先輩面したくてしょうがないようだ。兎に角後輩に何か奢りたいらしい。ふーん……奢るか……女子高生って言ったら甘い物……クレープだったら俺も……
「それじゃあ、軽音部の先輩からの奢りってことで、皆で近々どこかに食べに行きましょう!」
「え! だったら俺、クレープがいいな!」
「「「え?」」」
思わず声が出た。この場にいる後輩達全員、俺が甘党って事は知らないんだった。丹菜が説明をする。
「皆さん驚いてますけど、正吾君、甘いもの大好きなんです。特にクレープが大好物です」
「なんスか、その可愛い嗜好」
俺のイメージに無い好みも知られ、今日の文化祭は終了した。そして……。
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