第147話 及川隆臣 ⑤

 俺の言葉に、Berry’zの俺と言い合ってた一人が顔を真っ赤のさせて慌てて否定して来た。


「ばっ…なっ、そんな事ねーっつーの! セントフォーは私達の憧れなんだ。気軽に話しかけてちゃダメなんだっつーの!」


「それ……あなた達が勝手に作ったルール。私には関係ないし、セントフォーって言われてる先輩達も関係ない」


「お前らみたいな奴らのせいで陽葵ちゃんは『皆名前で呼んでくれなくて寂しい』って泣いてんだぞ。ただ陽葵ちゃんは自分が認めない人には一切心開かないから、簡単には呼ばせてくれないと思うけどな」


「丹菜ちゃんは……誰にでも優しい」


 突然晴乎も混ざって来た。ちょっと意外だ。


「そう言えば、あんたも軽音部だったよね? ちょっとさ……あんたらバンド組んでんでしょ?」


「組んでるけど……それがどうした?」


「私達と勝負しない?」


「は? お前らバンド組んでの?」


「んな訳ないでしょ! あんな下品な音楽!」


「ん? ちょーっとそれは聞き捨てならんな」


 突然低いトーン声が下から潜って聞こえてきた。皆声のする方を見ると、正吾君と丹菜ちゃん、そして陽葵ちゃんが入り口に立って居た。


「あ、ちわっす。どうしたんですか?」


「あぁ、部活の事でな。なんか口論してたから入りにくくて暫く眺めてた。悪りぃな」


「え? どっから聞いてたんですか?」


「『何でお前みたいなモブが』辺りかな?


「結構最初ですね」


「で、ロックが下品って話だけど……俺は、逆に上品な音楽なんて無いって思ってるけどね。『音楽は下品であれ!』音楽は誰でも気軽に楽しめるからいいんだよ」


「あゎゎ……御免なさい」


「ま、価値観なんて人それぞれだ。俺の価値観を押し付けるつもりは無いし、君の価値観を変えるつもりも無い。気にすんな。で、話の腰を折って悪かった。なんか『勝負』って聞こえたんだが……」


「はい。私達『Berry’z』ってダンスユニット組んでるんです。実莉亜達のバンドと私達のダンスで文化祭のステージで勝負しようかと……」


「なんか面白そうだね」


 陽葵ちゃんが食いついて来た。


「勝負? いいんじゃ無い? 勝ち負けはどうやって決めんの?」


 陽葵ちゃんが話しかけるとBerry’zの面々はなんかソワソワし始めた。顔付きが恍惚とした表情になってる。


「あ……はい、会場の盛り上がり方でって考えてました」


「うん、いいんじゃ無い? で、負けた方は何かすんの?」


「いえ……特に考えては……」


 まさか本人達目の前にして「セントフォーに近付くな」とか言えないわな。


「じゃあさ、あんたら勝ったら私達が何かご馳走奢ってあげる。負けたらこの子らに『御免なさい』しな」


 その言葉にBerry’zの面々は顔を見合わせてる。


「大体、負けた方が何かを失うような誓約だと後々怨恨残るっしょ? 私が言った内容なら誰も泣く人居ないし……どう?」


「希乃先輩が言うなら……はい……それで……」


「それと、実莉亜って……いや、何でも無い。実莉亜とは隆臣みたく今仲良くしとくと後で嬉しい事あるから。それに、この子の事虐める子、私、仲良くするつもりないから宜しくね」


 そう言うと、陽葵ちゃんは振り向きざま、手を「ヒラッ」と振って教室を出て行った。陽葵ちゃんが決めた勝った後のご褒美だけど、俺達Lallapaloozaにメリットは何一つ無い。勝って御免なさいされても……正直、俺達にはどうでもいいことだ。俺はコイツらが実莉亜にちょっかい掛けなければそれでいい。多分、陽葵ちゃん分かってて決めたんだな。


 後で何気なくMY TUBEで調べたら、彼女らのダンス動画のチャンネルがあった。フォロワー数五千。結構ダンスが上手い。「Berry’z」ってお洒落集団の名前じゃなくて、ダンスユニット名だったみたいだ。スマン! 名前の後ろに「(笑)」なんて付けてた。


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 翌日から、Berry’zの子が二人、実莉亜に普通に話しかけるようになった。内容は専ら「お洒落」に通じる事ばっかりだ。実莉亜は興味無さそうにしているが、陽葵ちゃんから「後で役に立つ」って言われたらしく。勉強のつもりで色々話を聞いていたようだ。そして、文化祭が終わって、実莉亜はこの子らと仲良くなるが、彼女達に玩具にされる日々が始まる。本人は鬱陶しそうな態度を取るが、顔はニヤけている。後で聞いたら悪い気は全然無いとの事だ。また一つ、新しい世界の扉が開いたってやつだな。

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