第148話 盗撮

 ———日曜日、俺と丹菜は街に買い物に来ていた。今日は「御前正吾と葉倉丹菜」スタイルだ。買い物も午後の早い時間に済ませ、駅から自宅へ歩いていると、突然、急な雨に見舞われた。

 俺と丹菜は急いで雨宿りできる場所へ移動した。そこは路地から少し入った公園にある東屋だ。あまり大きな公園では無いので人も居ない。


「突然降ってきましたね」


「まぁ、雲行きは怪しかったけどな」


「髪、ハンカチしかありませんが……」


「サンキュ」


 俺はハンカチで軽く髪を拭くが前髪が顔にへばりついて鬱陶しい。ま、いつものカチューシャで前髪抑えりゃ万事解決だ。という事で、俺は前髪をカチューシャで上げた。

 この格好でいる事は極自然な訳だが、丹菜にとっても息を吸って吐くように俺のこの姿は自然な状態だ。なので何も気にして居なかった。

 そして雨が止むまで二人肩を寄せ合って、ちょいちょいイチャつきながら雨が止むまでここで暫く過ごした。


 雨が止み、俺は髪をそのままに、丹菜は俺の腕を取り家路に着く。


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 その日の晩。空と隆臣から同じ画像付きメッセージが届いた。丹菜の処にも陽葵と紗凪ちゃんから届いたようだ。

 その画像は、東屋で丹菜がトゥエルブモードの俺にもたれ掛かっている写真だった。他にも丹菜がトゥエルブモードの俺の頬に手を添える写真とかトゥエルブモードの俺が丹菜を後ろからギュッってしてる写真とか、数枚添付されていた。


 そして空から電話が入る。


『パパラッチ』


「だな」


『どうする?』


「ま、俺は素顔晒すだけだ。それにハイスペックスも引退したしな。丹菜も正体についてはどうでもいいって思ってるみたいだから……文化祭は素顔で出るしか無いか?」


『随分余裕だね』


「余裕も何も、恋人同士のイチャイチャ写真だぞ? しかも丹菜、この写真、可愛く撮れてるって結構気に入ってるからな。挙句に俺がカッコよくて写ってるって絶賛してたぞ! ったく、器がデカいよ俺の彼女……」


『彼女らしいっちゃらしいな』


「ま、減るもんじゃ無いしな」


『いやいや、丹菜の信頼減ってるって!』


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 そして月曜の朝。俺と丹菜は写真の事は気にせずいつものとおり学校へ。勿論、周りからヒソヒソといつもと違う声が沢山聞こえてきた。流石にこれは頂けない。


 そして教室に入り席に着くと、俺の周りに女どもが群がって来た。


「正吾君写真見たよー。葉倉さん最低じゃん! 正吾君って素敵な彼氏居ながら話題のトゥエルブと浮気って……これは仕返しに私と付き合った方が良いと思うんだけ……どう?」


 なんか突然アピって来た。すると他の女もこぞって立候補して来た。


「この子なんかより私の方が絶対いいって」


「私、料理得意だよ?」


「イヤイヤ、そんなアピられても困るって。別に丹菜と喧嘩もしてないし、トゥエルブの事だって俺は昔から丹菜との付き合い知ってるし、それひっくるめて丹菜と付き合ってっからさ」


「うそー! 何で許せるの? 他に男居るなんて……何? 正吾君二股掛けられてて平気なの? 何で?」


「だってな、トゥエルブの方が俺より先に会ってんだ。それに俺だってトゥエルブの事は自分の分身って思う程俺自身だと思ってるし、そんな俺の分身みたいなトゥエルブを好きな丹菜を嫌いになる訳ねーだろ!」


 なんか言い訳が滅茶苦茶になってる気がするが、俺の隣で芳賀さんが笑いを必死に堪えてる。美人が台無しになってるぞ。

 そして俺は俺に言い寄る女どもに追い討ちを掛けた。


「これを見ろ! 最近丹菜から送られて来たトゥエルブとのツーショット写真だ。結構可愛く撮れてると思わないか?」


 俺はそう言って俺が髪を上げた時の丹菜とのツーショット写真を皆に見せる。


「え? 何? 正吾君、葉倉さんの浮気、容認しての?」


「浮気じゃねーって! 俺は元々トゥエルブが好きな丹菜が好きなだけだ。丹菜がトゥエルブを嫌いになった時点で俺の丹菜への想いは消える……そう言う事だ」


 自分で言ってて笑いが込み上げて来た。芳賀さんは背中を向けて小刻みに震えてる。完全に笑いを堪えてる状態だ。口に牛乳含ませて我慢させたいね。


 丹菜とトゥエルブの写真の件で、丹菜から俺に写真を送るなんて信じられないと疑って来た奴には、丹菜のスマホで撮った自撮りツーショットをメッセージで送って貰ったのを見せて事実である事を証明した。

 皆腑に落ちない顔をしているが、どっちも俺なんだから仕方が無い。


 後で聞いた話では、丹菜と空が態とらしい会話でケムに巻いたらしい。内容は似たようなもんで、俺が丹菜とトゥエルブの関係を知ってるってのと、空も知ってるって感じだ。詳しくは向こうの話を読んでくれ。


 自分達のクラスはそれで丸く収まったが、こんな会話全校生徒の前でやるのは不可能だ。なので文化祭までの間、丹菜は皆から白い目で見られ、俺は憐れみと奇異の目、そしてチャンスとばかりに隙あれば告白されまくるというとんでもない状況になった。文化祭開催までちょっと居心地悪いが……ま、文化祭のステージで暴露すればお終いだから我慢の子だ。

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