第112話 活動

 ———引越しの報告も丹菜の妨害でスムーズに終わらず……まぁ、食事は済んだので本題の部活紹介の打ち合わせだ。この場は当然部長の空が仕切る。


「部活紹介の前に、今年の活動なんだけど、バンドそのものを解散しちゃおうかって考えてたんだが……」


 その言葉を聞いても意外にも皆反応が薄い。陽葵も自分の考えを口にする。


「それは私も考えてた。皆の反応見ると多分同じ考えみたいだね」


「俺と丹菜も二人で話してたんだが……やっぱ受験勉強に専念したいよな」


「あぁ……正直、俺らのバンドは技術は有ってもだ。それにこの業界で飯食ってこうって思ってるわけじゃ無い。バンドに対して思い入れが無いわけじゃ無いが、ステージなんて俺ら趣味のお披露目の場でしか無いからな。ま、これ言っちゃうとファンに申し訳ないって思っちまうがな」


「今年は解散はせずとも活動そのものは殆ど無いって思っていいな?」


「だな。俺の考えでは夏休みに一回。最後は文化祭で終わりかなって。文化祭はなんだかんだで毎回演奏しちゃってるし、最後の思い出だな」


 俺と空の話を皆黙って聞いている。オタク君はちょっとキョドった感じだ。


「活動方針は決まったって事で、次に勧誘だ。今年はどうする?」


「そうそう、今年は二人、入部確定な」


「あれ? 燈李だけじゃないの?」


「写真にもう一人女の子写ってたろ? その子も入るってさ」


「へー、めっちゃ可愛い子だったね。で、楽器は?」


「ギター」


「ちょっと待て、新入部員の話はこれくらいにして、まずは今年の勧誘だ。その勧誘の方法だけど———」


 今年の勧誘方法はオタク君から空に提案が有ったようで、空は密かにオタク君となにやら画策していたようだ。俺達はその計画を空から聞く……聞けば確かに面白い……って言うか、オタク君ってスゲーってしか思えない。波奈々がどんどんオタク君にハマって行くのが分かるな。


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 ———時間は進み、今日は新入生の歓迎会の日だ。ステージを前に一年生を前列に全校生徒がコの字型に椅子を並べて座っている。「セントフォー」と名付けられた丹菜達四人は、その名はまだ新入生に知られていないだろうが、注目は兎に角凄い。特に芳賀さんの女の子からの視線と黄色い声は半端ない。そもそも、皆、事前に部活紹介の格好でいるから、芳賀さんは弓道着を着ている。凛とした立ち姿は丹菜には無い精悍せいかんさを感じる。カッコいい。


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 ―――部活紹介が始まり、既に文化部の紹介も終盤だ。そして今、オタク君は会場の中央にマイクを持って立っている。実はオタク君「模型制作愛好会」なる部(?)に所属している。彼はその部(?)の会長だ。

 彼がコの字の中央に立ち部を紹介しているのだが……二人がかりで抱えて持ってきた、普通ではあまり見ない大きめ1m位のフィギュアがまたとんでもないクオリティーで体育館が響めいた。


「なんかスゲーぞ!」

「おいおい、ここって所謂オタク部じゃねーのか? あんなの美術部の奴らでも作れねーだろ!」

「あれって浅原さんだよね? 綺麗……」

「ホントだ。浅原さんだ。いいなー……」


 そのフィギュアは波奈々がショルダーキーボード肩にかけるキーボードを持って演奏している姿だ。

 遠目でも完全に波奈々と分かる容姿で、二、三年生は皆フィギュアと次の出番を体育館の隅で待つ波奈々を交互に見ている。波奈々は手を振って皆に愛想を振り撒いている。

 一年生は自分たちの背中で騒がれているから何が起きてるかわからない。なので皆「何? 何?」とキョロキョロして状況を把握しようと不安がってる感じだ。


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 紹介が終わり、次は軽音部の番だが……オタク君、フィギュアはそのまま置いてった。わざとだ。生徒会には事前に報告済みで、俺達の計画を話すと「盛り上がるのであれば」と部の紹介の順序もこの順序にして貰った。


 俺達は体育館の中央で手早くセッティングする。

 今回の準備は「セッティング」なんて言葉を使う程大掛かりでも無い。部室のキーボードを架台と一緒にセットして、ギターとベースはリュックに入るくらいの小型のアンプで手短に。そしてドラムは机の上に電子ドラムのオモチャ(マットみたいなやつ)を置いた。電源もちゃんと確保している。


 一年生で囲むコの字の列の中央に、丹菜がマイクを持ち、俺達はその後ろにいつもの配置で並んだ。ここにセントフォーの三人が登場した事で体育館が騒然となる。


「あれ? セントフォーの三人って軽音部だったの?」

「そう言えば葉倉さん言ってたな」

「正吾君今回はエレキなんだ」

「空はベースか……渋いな」

「ドラムがオモチャって……」


 一年生は置かれたままのフィギュアと波奈々を見て響めき始めた。綺麗で可愛いお姉様方の登場と、波奈々とフィギアのクオリティーで、一年生は変な騒ぎ方をしている。


 俺は一年生を見渡す……紗凪ちゃんを見つけた。小さく手を振ってるが、目線は俺からちょっと外れてる。ずれた目線を辿ると丹菜と手を振ってたようだ。そして陽葵に目をやると誰かに指を指している。指した方を見ると燈李が居た。


 しかし紗凪ちゃん、飛び抜けて可愛いな。


 そして陽葵がいつものように最初に軽くキーボードに指を走らせると、


「おおおぉぉぉ——————」


 体育館が感嘆の声で包まれる。

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