第102話 共に

 ———そして時間は戻り、バレンタインデー当日。


 テンパりにテンパった波奈々は、朝からガチガチになっていた。後で聞いた話しでは夜も眠れなかったとか。俺でリハーサルを済ませ、あとはオタク君へチョコを渡すだけとなった。


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  ―――本命の小宅君へチョコを渡し、そしてオタク君からも波奈々への気持ちを打ち明けられ、安心したのか彼女の堰が切れる。


「っ……うわぁぁぁぁぁ―――――――ん……」


 教室中に波奈々の鳴き声が響き渡った。廊下を歩いていた人も教室の中を覗き込んでる。


 波奈々はオタク君に抱きつき、人目をはばからず、幼子のように泣き叫んでいた。


「大丈夫。ずっと一緒にいるから泣かないで」


 オタク君の言葉に波奈々は泣きながら頷いている。

 彼は泣きじゃくる彼女の体に腕を回して優しく頭を撫でている。周りにいる人はチョコを渡すところを見ていながらも何が起きたか分からない様子だ。


「正吾君、これって……」


 女が俺に話しかけて来た。どうやら雰囲気で俺も関わってるって思ったんだろう。俺は見たまんまを答えた。


「見たまんまだよ」


「見たまんまって……」


 これは俺の失言だな。見たまんまが分かんないから俺に聞いてきたんだよな。


「波奈々、オタク君の事ずっと好きだったんだよ」


「いつから?」


「文化祭の準備の時から」


 教室にいる奴らは二人の様子を黙って見ていた。そして———


 ———彼女の告白は当然その日のうちに全校生徒が知るところとなる。


 ついでに、オタク君も手作りクッキーを波奈々に渡していたが、そのクッキーは想像の斜め上を行くクオリティーの波奈々を模したクッキーだった。あれは食べちゃ駄目なやつだ。


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 ———昼休み。


「僕、ここにいていいんでしょうか?」


「いいの♡ 他にも部外者愛花居るし♡ ね♡ 正吾君♡」


「———おいおい、俺の名前にまでハート付けるなよ」


「いいじゃん♡ 別に減るもんじゃ無いし♡」


「———まぁ、そうだな」


 波奈々とオタク君は皆からの質問攻めを避けるため、軽音部の部室に避難していた。


「波奈々、良かったですね。でも、小宅君の膝の上に座ってるのは……どうなんでしょう?」


 波奈々はオタク君の膝の上に横に座って小宅君の首に腕を回してすがっている格好だ。顔はニコニコのニコニコでニコニコだ。朝のあの壊れたロボットみたいな喋りと動きと表情は何処に行った?


「丹菜がそれ言っちゃう? あんたも付き合い初めの頃こんなんだったでしょ?」


「え? 丹菜もこんな感じだったの?」


「そっか、波奈々は知らなかったね。うん、休み時間の度っていうかちょっと時間はあればこんな感じだったね」


「じゃあ、私達がイチャベタしても大丈夫だね♡ 十斗君♡」


「え? それはちょっと恥ずかしいよ」


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 ———その日の夜、丹菜と二人でチョコレートフォンデュを楽しんだ。丹菜は凄く不満気だった。この感じ……本気で「裸チョコ」をやろうと思ってたな? 別にやるのはいいんだ……やるのは……そう、。ただ、その後が大変なんだよ……それは勘弁して欲しい。


 今年のバレンタインの一番大きな出来事は波奈々の告白だ。その裏側で、学校一イケメンの大河は持ち帰れない程のチョコを貰いながらも、女の子をお持ち帰りする日々が続いたそうだ。あいつも大概だな。しかもり好みしないようで、同意以前に言い寄ってきた女は片っ端から食ってるって話だ。ある意味、波奈々と兄妹なんだな外見で人を判断しない質って思ってしまった。


 更に意外だったのが芳賀さんだ。彼女、後輩の女の子からチョコを沢山貰ったのだ。最近綺麗度が上がり、後輩から「お姉様」扱いになっているようだ。


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 ———時間は進み、ホワイトデー。オタク君も別な意味でのホワイトデーになったようだ。翌日、オタク君は学校を休んだが……まさか彼も「テクノブレイカー」になったんじゃ……そう言えば、丹菜と波奈々の電話で「あとでご教授」なんて事を言っていたが……まさかな。


 俺は週末、テクノブレイクしかけた。


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 そして時間は更に進んで四月、俺達も三年生だ。

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