正体を隠して生活してる俺の隣に住んでる美少女とカラオケ行ったらとんでも無い才能の持ち主だったからバンドのボーカルに誘った。

第101話 愉悦

　———丹菜は波奈々をリビングに通す。そしてお茶を出した。

「波奈々、昨日大丈夫でした？」

「うん。大丈夫……」

　なんか、ジッと目の前だけを見ている。焦点も合ってない。何か変だ。

「波奈々どうしたんですか？　目が飛んでますけど……」

「昨日の……昨日の十斗君がカッコ良すぎて……頭の中、十斗君で溢れてる……やばい……」

「あー、これダメなやつですね」

「ダメなやつだね」

　オタク君を「十斗君」って呼んでる事に気付いてないようだ。

「これが恋なんだね……へへへ……いいね……十斗君……ふふふ……」

「波奈々それ行き過ぎです。ちょっと怖いですよ」

「うん……自分でも……分かる……ちょっと戻ってくるから待って……」

　お茶が飲み終わる頃にはいつもの波奈々に戻っていた。

「戻ったようですね」

「いやー、昨日のオタク君、カッコよくてさ……ふふふ」

「昨日何があったか教えてくれますか？」

「昨日一人で買い物してたら突然二人の男に声掛けられて……ナンパだね。で、断ったらもしつこくてさ、腕掴まれたんだよ。そしたらオタク君が現れて『その腕を離せ！』って。で、男の一人がオタク君の胸ぐら掴んだら、オタク君スマホ見せて『友人に連絡済みだから僕に何かあったら警察に連絡が行く』って、怯える様子もなく飄々と男に言って、男達が去ったあと正吾君に電話して、あと家まで送ってってくれたんだ……その時手、繋いでくれて……（ボン！）」

　波奈々は話し終わると突然顔が真っ赤になった。

「あーあ、もうこれはダメだね。ピンチの時に好きな人現れて、しかも怯えること無く堂々と立ち向かって助けちゃったら……何それ？　なんかの主人公？」

「うん、何か小宅君見ると彼の周りにキラキラしたエフェクトが見えるんだけど……」

　俺には波奈々の周りにピンクいオーラがシャワシャワ出てるのが見えるよ……。

　そんな話をしながら三人のチョコ作りが始まった。

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　始まると間もなく、波奈々が、

「あのさ、私、日頃のお礼を兼ねて皆にもチョコあげたいんだけど……でも、こうして三人で作っちゃったら何か変だよね？」

「ふふふ……そうですね。私達はいいですよ。だったら正吾くんにあげて下さい。彼、甘い物好きですし、小宅君に渡す本番前の練習台にでも使って下さい。正吾君いいですよね？」

「———ああ、いいぞ。なんなら空の紙袋でもいいしな」

「流石にそれは無いよ。ちゃんとチョコ作らせて」

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　———翌日、朝、教室で波奈々と話しをしていた。

「昨日はありがと」

「いや、それは良いんだが……大丈夫か？　顔、また変になってるぞ」

「うん、だって……隣にいたら……ね……へへへ♡……ヤバい。顔みれないや♡」

「大丈夫か？」

「うーん……だめかな？　今朝もテーブルクロスの花柄をおかずと間違えて箸で掴もうとしてたしね」

「―――おいおい……そんなんじゃトラックに轢かれるぞ？」

「うん……へへへ……♡」

　だめだこりゃ。完全に舞い上がってる。オタク君に目をやると、彼は何やら真剣に本を読んでる。

　するとベランダから浅原が顔を出した。

「御前君、おはよ。お？　波奈々も来てたか」

「―――どうした？　珍しいな」

「いや、波奈々の件で葉倉さんから話し聞いてちょっとそのお相手を見に来たんだが……え？　彼……彼がそうなのか？」

「―――彼がそうだ」

「マジか……」

「言っとくが、俺が知る中で一番男気がある奴だと思うぞ。俺とお前よりは絶対男としての度胸はある」

「そうか……」

　すると波奈々は浅原兄に噛みついた。

「大河、何？　なんか文句ある？」

「いや、無いんだが……今まで気が付かなかったし……しかも恋って―――」

「しーっ！　しーっ！」

　浅原の「恋」発言に波奈々が必死で止めた。

「あっち行け！　しっ！　しっ！」

　そう言って波奈々は浅原を手で払い出した。

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　短い休み時間。隣に座る波奈々に質問だ。

「波奈々って容姿の好みってどんなんなんだ？」

「葉倉さんも前、同じ事聞いてきたんだけど、実は良く分かんないんだよ……毎日大河見てるせいか、どの男も大してパッとしないんだよね……だから外見の好みは無いね。皆一緒」

「なるほどな。そうすると性格しか好き嫌いの判断が無くなるわけか……」

「そうなっちゃうね」

　波奈々が誰に対しても偏見無く平等に接する理由が分かった。

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　バレンタインデーまでカウントダウンが始まった。結果は既に伝えた通りだ。