第100話 王子

 ———オタク君は波奈々にさり気無く接して少しずつ交流を深めて行った。勿論、波奈々への想いはその都度強くなっているようだ。

 今では側に居るだけでドキドキが止まらないらしい。


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 ———そんなある日、オタク君から電話が来た。


「どうした? 珍しいな」


『ちょっと相談と言うか教えて欲しいんですけど、浅原さんに対してどう接していいか分からなくなってしまいました』


「今まで通りでいいんじゃ無いのか?」


『そうしたいんですけど、最近僕の行動、ちょっと行き過ぎてるような気がしてます』


「彼女はオタク君の行動を迷惑だとか言ってるのか?」


『そこは何も言ってません』


「だったら大丈夫だろ?」


『浅原さんって嫌な事とか口に出さなければ顔にも出さないんです』


「そんな事は無いと思うぞ?」


『彼女、人に対して嫌な顔をしているところを見たことが無いんです。顔に出してくれれば分かりやすくていいんですが、顔に出ないんで迷惑なのか分からなくて思い切った行動が出来ないんです』


「確かにあいつは人に対して好き嫌いを見せ無いからな」


 俺はオタク君を一歩踏み出させるキッカケを見出せずにいた。


「オタク君自身は、彼女とどうなりたい?」


『どうって、お付き合いしたいです。でも、彼女は僕にとっては高嶺の花です。高嶺過ぎてお付き合いの現実味が全くありません。たまに一緒に出かけたりしてますが、夢の中にいるようで……何故彼女が僕と一緒に行動してくれるのか全然理解出来ないんです』


 確かに俺も丹菜と付き合う前はそうだった……。


「一つ提案があるんだが……もうすぐバレンタインだよな? 女の子から男に告白する日だが……オタク君からも『日頃のお礼』って事でクッキーでもプレゼントしてみたらどうだ? 彼女に何かやるにしても、その日なら何かプレゼントしても自然でいいんじゃないか? 得意の造形技で作った彼女の似顔絵クッキーなんて喜ぶかもな」


『いいですね。ちょっとチャレンジしてみます。インスピレーションも湧いてきました。今から色々作って見ます』


「おう。頑張ってくれ」


『有り難う。なんか前向きなれたよ。ありがとう。じゃ、また学校で』


「おう、またな」


 俺は電話を切った。実は隣に座っている丹菜に今の話しをスピーカーで聞かせていた。


「聞いてたとおり相思相愛だ、良かったな」


「ですね。後は……変に怖じ気づかなきゃ……ですね」


「だな。ま、オタク君は俺みたくヘタレじゃ無いから一発で決めるだろ」


「ですね。誰かさんみたくヘタレじゃ無いみたいですから……ニシシ」


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 ―――そんなある日、丹菜にも波奈々から電話が来た。今度の日曜日俺の部屋で波奈々と陽葵と三人でチョコを作るそうだ。なんで俺の部屋?


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 ———そして約束の日の前日の土曜日。ちょとした事件が起きる。時間は間も無く夕方だ。俺は今、スマホを眺めている。


 さっき、突然オタク君から写真付きでメッセージが入った。その内容がただ成らない。


[五分以内に連絡なければ警察に電話して]


 添付された写真に写っていたのは波奈々と見た事のないの男二人だ。ただ波奈々はその男に腕を掴まれている。顔も明らかに嫌がっている。誘拐? いや、そこまでじゃない……ナンパだな……強引なナンパだ。


「波奈々……大丈夫でしょうか?」


「人通りも多い所みたいだし大丈夫だろ。それにオタク君、ああ見えて俺より筋肉あるし」


 メッセージが来て数分後。電話が鳴った。


「もしもし? オタク君大丈夫か?」


『御前君御免なさい。心配かけたと思うけどもう大丈夫だから』


「そうか、良かった……で、何があった?」


『浅原さん、強引なナンパに遭ってたところ、偶然通りかかって助けただけだよ』


「そうか……それじゃあこれで電話切るぞ。彼女、不安だろうから側にいろ。じゃあな」


『うん、有難う』


 俺は電話を切り安堵した。


「強引なナンパ男から波奈々を助けたらしい」


 その話を聞いた丹菜は少しニヤけた顔で、


「あー、これヤバいですね」


「何がだ?」


「波奈々の恋心……暴走始まりますよ……多分 ニヤリ」


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 ———翌日、今日はバレンタインのチョコ作りに波奈々と陽葵が俺の部屋に来る日だ。俺はバイトが終わって部屋にいる。陽葵は午前中から来ていた。そして……


 ”———ピーンポーン♪“


 ドアを開けると、目の前には大きく目を見開いて何処を見てるか分からない、ちょっと鼻息を荒くした波奈々が玄関に立っていた。

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