第99話 当時
―――新学期が始まり俺達はいつもと変わらない朝を迎え既に学校にいた。
「うっす」
「おはよ」
俺の席の前の女子に挨拶をして席に着く。波奈々はまだ登校してきていない。
「浅原さん来てない……」
俺の前の席の女がボソッと呟く。あまり会話の得意な子じゃないのでこれ以上の会話は無い。
「———大丈夫だ。そのうち来る」
するとベランダから丹菜が来た。そしてベランダの出入り口に立つ。俺の席は丁度その出入り口に面している。なので、俺の隣に立っている状況だ。
「早速今日から一緒に来るみたいですよ。浅原君から妹が今日から遅い時間の電車で行くって言ってたそうです」
「そうか、彼女も行動力有るな」
すると波奈々が教室に入ってきた。
「おはよー」
その一分後、オタク君が教室に入ってきた。二人を見てるとなんか余所余所しというか他人のフリをしているというか……事情を知っている
波奈々は丹菜を見ると、
「―――ニコ♪」
もう、その笑顔が全てを物語っていた。丹菜はその笑顔で全てを察し、「チュッ♡」っと俺の頬にチューして教室に戻って行った……何でホッペにチューした? 視線を感じ目の前を見ると目の前の席の女は顔を真っ赤にして目線を切った……どうやら見られてたようだ。
・
・
・
―――翌日の体育の授業。俺はオタク君と試合の順番を待っていた。
「———通学……どうだ?」
「心臓に悪いですよ。一緒に通学しようって誘われて電車だけでしか一緒になれませんが、彼女いい香りするし電車揺れると身体触れるし柔らかくて華奢で……」
「———支えたくなる」
「それです! 何だか守ってあげたくなるような……」
「———分かるよ。俺がそうだったから」
「それに理性がやばいです」
「それも分かる。理性があと五分で……ってところで電車が着く」
「その通りです」
「でも嫌じゃないんだろ?」
「嫌なわけないですよ。それに彼女痴漢に遭いかけたとも言ってましたし……僕がどこまで守れるか分かりませんけど……」
「その痴漢の話は多分嘘だ」
「え? 嘘なんですか?」
「ああ、多分だけどウソだな。でもな、彼女可愛いだろ? そのうち痴漢なりストーカーなり遭わないとは言えないよな? だから守ってやる必要はある」
「確かに……確かに守ってあげないとですね」
「守るって言えばオタク君、結構いい体してるけど鍛えてる?」
そうなんだよ……オタク君、結構筋肉質で明らかに俺より健康体に見えるんだよな。運動神経も中の上で俺よりいい。着替えの時腹見たら程よく割れてるし……。因みに容姿は身長170㎝無いくらいでメガネを掛けてて髪はマッシュルームっぽい感じだ。「メガネを外したらイケメン」という補正は全く無い。
「はい、中学の頃ハマった格闘漫画の主人公に憧れて筋トレしてたら習慣付いちゃって未だに続けてます」
やっぱ筋トレしてたか……しかし動機が……いや、動機なんてキッカケだ。大切なのは継続だ。オタク君すげーよ。
「そう言えば話変わるけどさ、オタク君に兄弟って……」
「三つ上の姉がいます」
「どんな人?」
「普通の……標準的な女子大生です。僕の事ちょっと毛嫌いしてます。僕の趣味が受け入れられないようです」
「一緒に住んでんだ?」
「大学はこっちですから、一人暮らしの必要ないんです」
波奈々の壁になるか味方になるか……
・
・
・
———翌日の昼休み。
「丹菜……お前、波奈々になんか吹き込んだ?」
「何かあったんですか?」
「波奈々、朝、オタク君の家のインターホン押して来たらしい」
「えー! 早速実践したんですか!」
「やっぱりそうか……」
「で、どうだったんですか?」
「お姉さんに大層気に入られたそうだ。休みの日、遊びに来いとも言われたらしい」
「それは良かったです」
「……男紹介するとも」
「それは良く無いです」
俺達の会話を聞いた陽葵も、
「小宅君は波奈々の事なんて言ってるの? 結局好きなの? どうなの?」
「あー……オタク君の心境を簡単に言うと、付き合う前の……ゲーセンで陽葵達と会った時の俺と丹菜……だな」
「小宅君が一歩踏み出せば……ってところね」
「オタク君曰く、高嶺の花過ぎて全然実感が無いそうだ。向こうの気の迷いだとも思ってる位だからな」
「まぁ、気持ちは分かるね」
・
・
・
そんな平穏な日々が過ぎつつ、波奈々はゆっくり恋を育んで来たのだが……間も無くそれが一気に爆発する出来事が起きる……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます