第93話 経過


 ———文化祭が終わり、いつもと変わらない日常が戻った。


 陽葵に問い詰める子も居なくなったようで、陽葵に平穏な日々が戻ってきたようだ。

 そして大河は部活を辞めた。勝負に負けただけならまだしも、流石に下心がバレていたと別れば居心地は悪くなる。あいつから陽葵に話しかける事も無くなったそうだ。

 

 それから俺の彼女三人と波奈々の四人が名前を呼び捨てで呼び合うようになった。仲がいいのは良いことだ。


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 そしてハイスペックスだが、今回、文化祭に出たことで、まだ卒業していないと言うことが発覚。暫く浅原兄妹にハイスペックスに関する質問が殺到したが、大河はハイスペックスの話になると終始無言だ。妹は「言えない」の一言で全て一蹴していた。

 一部、高瀬も知ってたという事を思い出して何人か聞きに行ったようだが高瀬も「言えない」で押し通したようだ。


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 ———昼休み。いつもと変わらないランチタイム。


「正)そう言えば部活はどうなんだ? 大河は退部したんだよな? 波奈々はまだ部員だろ? 部活来てるのか?」

「空)ああ、ほぼ毎日来てるぞ。いつもと変わらず演奏して帰ってるな」

「陽)ホントに浅原君には参ったよ。ちょっと悪いと思ったけど下心付きで言い寄ってきたんだ。このくらいの仕打ちはいいよね」

「正)まぁ、こっちも色々説明して説得して止めとけって言った上での結果だ。気にする必要は無いさ」

「空)そう言えばクリスマスライブどうする? 今年も出るか?」

「正)俺はOK」

「丹)私もOKです」

「大)いいよ」

「陽)……うん……いいよ」


 クリスマスライブは今年も参加という事で決定した。ただ、陽葵の返事が歯切れが悪くてちょっと気になった。


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 期末テスト……いつものメンバーで俺の部屋で勉強会を開催。また空が料理を振る舞った。美味かった。

 一応、「部活」の括りで波奈々を誘ったが「全員彼氏彼女の関係に中に私が一人で行っても虚しくなるだけだよ……」と断った。

 そしてテストの結果はみんな平均点以上を採った。ついでに丹菜が一位だ。二位が大河。三位が波奈々だ。


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 ———そしてクリスマスライブ当日。


 いつもと同じように控え室で待ち、そしてステージに上がった。今回も五曲準備したが多分四曲で終わるんだろうな。

 この日は珍しく、四曲目の楽曲を陽葵が指定してきた。何か企んでる気配があったが……放置した。


 ライブが始まり、いつも通り盛り上がった。曲は練習通りに流れて行く。何だか嵐の前の静けさのようだ。

 そして始まった四曲目……前奏、Aメロ、Bメロと進みサビに入った瞬間、ノンノノがいきなりキーボードの音を主張し始めた。完全にソロを取りに来ている。この曲の間奏は元々キーボードのソロだから問題無いが、ここで一気にボルテージを引き上げた。


 ———そして迎えたキーボードのソロ。


 ステージ袖から突然女が入ってきてキーボードを陽葵と一緒に弾き始めた。連弾だ! その女は丹菜達同様、キャスケットで顔を隠している……隠しているがこの背格好は「浅原波奈々」だ!


 陽葵、これ、空がライブ参加の話持ちかけた時から企んでたな?!


 あの時の歯切れの悪い返事、四曲目の指定。俺の中で全てが繋がった。


 ははっ♪ 凄げぇ……マジ凄げぇよ! コンクールで賞を受賞するレベルの二人が演奏する連弾(一台のピアノを二人並んで演奏する技法)に会場は、


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 いままでにない盛り上がりを見せている。これは俺も混ぜて貰うしか無いだろ! 俺は連弾にギターの音を被せに行った。そしてドラムとベースも割り込んできた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 更に盛り上がる会場に丹菜も当てられ……参戦して来た!

 ハッハー! 誰止めんだよこれ♪ 止める必要ねーけどな——————!





“———バン!”





 突然、ステージが真っ暗になり音が止まった。店のスタッフが照明を落としたのだ。

 誰も止める事が出来ないステージは荒れに荒れ、収拾が付かない状況に、スタッフが照明を落として無理矢理終わらせるという前代未聞の幕引きをした。


 一瞬、会場は「何が起きた?」と静かになるが、


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 状況が把握できると再び会場は盛り上がりを見せた。


 この盛り上がりに店のオーナーは大喜びだ。


 この状況をMY TUBEで配信すると「伝説のライブ」として語り継がれる事になる。


 ライブが終わると波奈々はスマホ片手に早足で駅の方へ消えてしまった。


 俺と丹菜は去年同様イルミネーションを歩いた。

 去年と違い既に慣れてしまった丹菜とのスキンシップだが、幸福感? 満足感? 未だによく分からない気持ちは全く薄れることを知らず、今年も充実した気持ちのまま光の世界を二人で歩いた。


 そして俺の部屋でのパーティーも、去年と違い、俺が率先して料理の味付けをしている……俺は完璧に料理が出来るようになっていた。味はまだ工夫の余地はあると思っているが、二人で立つキッチンも楽しさが倍の倍になった。


 クリスマスプレゼントは今回は二人でお店に行き、二人で選んだデザインがユニセックスの完全にペアのブレスレットだ。


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 ———そして年越し。今年も丹菜と手を繋いで年を越した。丹菜の事だ、最初はキスで……なんて言ってくると思ったんだがそんな事は無かった。年を越してからキスしてきたけどな。


 そして去年同様初詣に行ったのだが……行った先でまた意外な人物と遭遇する。その話をすると後の話が面白く無くなるので、話はバレンタインまで一気に飛ばす。


 今年もちょっと荒れたバレンタインになった……。

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