第90話 浅原波奈々 ①

 私の名前は浅原波奈々。二学期からこの高校に編入してきた。言わば転校生って奴だ。


 私は正直可愛い。可愛くてモテる。モテるんだけど……彼氏はいた事がない。分かんないだよね、その「好き」って気持ち。

 転校してきて「彼氏は?」って聞かれて「別れた」なんて言ってたけど、あれは見栄だ。嘘である。私は「彼氏いない歴=年齢」の下手するとその辺の子より少し遅れた女の子だ。当然経験も無い。

 カッコいいと思える人は何人かいたけど、普段大河を見てるせいか、どうも容姿がキッカケで惹かれる事は無いみたいだ。


 だけどこの文化祭の準備を通じて好きかどうかは分からないけど気になる人が現れた。キッカケは……きっかけなんてホント些細な事なんだね。


 そして文化祭当日、その気になる人と距離を少し縮める事が出来た……と思う。いつも私の隣にいる人は私に関心が無いようだけど……彼は私の事どう思ってるんだろう? ……私が彼を攻略したとして、彼は私に振り向いてくれるだろうか?


 この高校に転校して一番驚いた事はあの「ハイスペックス」が在籍する高校だったって事だ。私は彼らに憧れていた。動画で見る彼らはとても楽しそうに演奏している。どんな人達なのか凄く興味があった。そして出会った彼らはごく普通の高校生で自分らがハイスペックスである事どころか、バンドやってる事すら隠していた。私達兄妹だったら真っ先に公言して注目を浴びるところだ。

 

 私がピアノをやってるのは音楽が楽しいから。バンドをやってるのは目立ちたいから。でもそれ以上に誰かと演奏するのは楽しい。

 そして出会ったハイスペックス。

 今、憧れだったバンドと一緒にステージに上がっている。

 みんなはローブを羽織ってフードを被っているけど私は素顔のままだ。それは望んでそうしている。注目を浴びるのは好きだからね。ステージに上がった私を見て会場から色んな声が聞こえる。


「おっ! 浅原さんだ」

「浅原さん尊い……」

「浅原さんやっぱ可愛いよなー」


 私とトゥエルブは希乃さんと大河と入れ替わり、所定の場所に付いてスタンバイした。初めてこのメンバーで人前で演奏するが不思議と緊張はしていない。


 skyが再びマイクを取る。


「二人目のゲストはキーボードの波奈々」


 私はskyの紹介に、


 ”ピラララララララララ……ジャンジャン♫ “


 と、鍵盤に手を滑らせそして和音を叩いて音で答えた

 

「おおおおおぉぉぉぉ――――!」

「ばななちゃーん♡」

「やっぱ可愛いわ」


 skyはそのままステージを進行する。


「それじゃあ二曲目!」


 ”カッカッカッカッ♪”


♬―♪♩―♪♬♪♩―♩―――♬………ティロティロティロティロティティロロ♪ティリラティリラティリラティリラ♬ウィウィ


 二曲目は nIPPi の歌とトゥエルブのギターから始まる曲だ。


 Aメロはギターの音だけだから大人しめの印象だが、Bメロから一気に弾けて勢いが増す。この曲はこの瞬間が好きだ。


 ―――そしてBメロ。ドラム、ベース、キーボードのメロディーが重なる。


 ”♬―♩―♪―♬♪♩…………

 ”ボボボン♪ ボンボン♩ ボボボン♬…………

 ”ドゥフドゥフドゥフドゥフドゥフ♫…………


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 ここで会場が一気に湧き上がる。そして nIPPi の声も跳ね上がる♫


 するとギターの音が少し弾け始めた。私はその音に素直に呼応できた。指が軽い。音が走る。なんだかトゥエルブにリードされてるみたいだ。そして私達の音に nIPPi の声は更に上がる……そしてギターも声に合わせてテンションが上がる……私はそれに合わせテンションを上げる。流石に私の音はこれが限界だ。ギターの音もピークを感じ……うそ……nIPPiがまたギア上げてきた。まだ上がるの? しかもまだ余力感じるんだけど……ギターも絞り出すようにテンション乗せてきてるけど……ノンノノの言ってた「練習の意味が無い」って意味が今分かった……駄目だこの人……nIPPi……化け物だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る