第31話 秘密


「こんにちはー」

「来た来た」

「いらっしゃい」

「———こんにちは」


 部屋にはテーブルが二つ離れて置いてあった。一つには俺達男どもが三人座り、もう一つには陽葵が一人座っている。

 丹菜と芳賀さんは当然、陽葵の席に座った。


 丹菜は、芳賀さんを皆に紹介……ほぼ、大地に紹介しているようなもんだな。


「えっと、芳賀愛花さんです。って、知らないの大地君だけか」


「こんにちは。陽葵の彼氏の大宮大地です」


「あれ? 言っちゃっていいんですか?」


「ここではね。陽葵とよそよそしく振る舞うのも疲れるし。あ、学校では内緒でお願いします」


「はい。でもビックリ。希乃さんに彼氏いたなんて」


「腐れ縁だね。家も隣だし」


「幼馴染ってやつだ。なんか素敵」


「そうでもないよ。ドキドキとかトキメキとか無縁だし」


「でも、一緒に歩く時腕にしがみついて歩いてますよね?」


「しー! そこは内緒な部分!」


「あ、失礼しました」


 そんなやり取りの中、芳賀さんが俺を見て固まっていた。


「———あのー、何で正吾君ここにいるの?」


 確かに、学校で誰とも話さない俺がここにいる。メチャクチャ不自然だ。ハッキリ言って説明出来ない。


「———陰の友達」


 人間咄嗟の嘘は適当になるもんで、思いっきり意味不明な事を言ってしまった。

 しかし芳賀さんその一言で何か気付いたようだ。


「え? あ、そっか。元々三人仲良かったんだね? やっと繋がったよ」


「え? 何が繋がったんですか?」


「ある日突然、希乃さん、正吾君の事『正吾っぺ』って呼んだことあったでしょ?」


「『正吾君事変』の時だね」


 何? その「正吾君事変」って。


「そう。あの時の希乃さんの正吾君に対する声がけが凄く違和感あって、ずっと気になってたんだよ」


「さすが芳賀さん、鋭い観察眼だね。実は席替え前からちょっぴり仲良しさんだったのだよ」


「え! そうだったんだ。それじゃああの席ってすごい偶然だったんだね」


「運命だね」


「運命ですね」


「———運命なのか?」


「で、話しを紹介に戻しちゃいますけど、空君とは委員会で顔合わせてるんですよね?」


「———え、あ、うん。……こんにちは」


「……ども」


 流石の空も緊張するか。芳賀さんもらしく無い態度だ。でもさすが芳賀さんだ。直ぐ立て直して俺達が一番困惑する質問をしてきた。


「ところで、五人の関係って……何?」


 ———盲点だった。俺達五人を見たら関係性が全然掴めない。一番先に来る疑問だよな。さて、この質問に誰がなんて答える? 誤魔化すか? 嘘を通すか? それとも正直に話すか?


 陽葵も大地も上を見て下を見てお互いを見て悩んでる。

 丹菜は俺達に委ねているようだ。ここはリーダーに任せるしか無いな。空に男を見せてもらおう。


「———空。任せた。お前に従う」


 大地と陽葵も頷いている。丹菜も頷いた。

 そして、空が意を決したように話し始めた。


「学校では絶対内緒にしてて欲しいんだけど……俺らバンドやってんだよ」


「え? 希乃さんと葉倉さんも?」


 芳賀さんは丹菜と陽葵を交互に指差している。


「うん」


「へ———! 全然イメージないじゃん。そんな素振りも無かったし。いつから?」


「私と大地と空は高校入って直ぐくらいかな。丹菜と正吾君は二学期入ったくらいから」


「正吾君も全然イメージ無いけど、言われると今までの振る舞いがロックっぽいわ」


「———俺の存在がロックだからな」


「たまに発言がバカだよね」


「———まあな」


「そこ認めるんですね」


「今の話聞いて日頃のこの三人の構図思い出すと凄く面白いね。で、正吾君が小堀君に答えを委ねたって事は、リーダー小堀君なんだね」


「はい。リーダーの小堀です」


「なんか皆カッコいいわ」


 ・

 ・

 ・


 暫く勉強そっちのけで話が盛り上がった。

 彼女に教えたのはそれぞれのパートだけで、バンド名とかは伏せた。


 勉強も普通にやって、夕食に喫茶希乃音でカレーを食べた。勿論お金は払ってる。ジュースはサービスされた。



 それで肝心の芳賀さんと空だが———。



 ———俺の部屋。丹菜は居ない。

  

 ”ピコン”


 空から俺と大地宛にメッセージが入った。


空[月曜日から一緒に登校する方向で。下校は部活で無理だった]


 さすが空だ。帰りの方向は同じだって言うから、家に着くまでに話を付けたか。下校は無理って彼女部活やってたのか。


正[良かったな]


 これで、空にも春が来るか———。


 俺に春は来るのだろうか?



「ヘックション!」



 なんか、女が俺の噂してるようだ。隣の部屋か?

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