第32話 当日

 ———期末テストの結果に皆一喜一憂している十二月。勉強の甲斐あって、赤点はメンバーの皆免れた。


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 ———俺の部屋にて。


 ”ピコン“


 メッセージが来た。空からだ。丹菜にもメッセージが入っている。


 空[Seekerのクリスマスライブ、エントリーするか?]


「正吾君、クリスマスライブって、何ですか?」


「俺も初めてなんだけど、Seekerって毎年、12月24~25日にかけて、ライブやってるらしい。時間は24日は日中から始まって夜通しやって25日の朝方5時までやるそうだ。当然、高校生の俺達は19時に追い出される」


「なんか凄そうですね。―――正吾君はどうしたいですか?」


「———俺は賛成だ。このメンバーで一度しかステージに上がってないしな」


「そうですね。文化祭で上がりましたがアレはイレギュラーですし」


 クリスマスイブは、丹菜と過ごすんだろうなと思っていたが、ライブで一緒って言うのも悪くない。そう思っていたら―――。


 ”ピコン“


 大[陽葵と俺OK]


「もう夜も9時になるのに、まだ二人一緒に居るみたいですね。正吾君はOKすると練習必要になりますが、バイトはどうするんですか? シフトの時間早めたじゃないですか」


「———そうだった。明日、店と相談だな」


「私はOKで返信しておきます」


「ああ、そうしてくれ。俺は『明日返事する』って入れとくよ」


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 ———翌日の昼休み。


 屋上でのひと時を終え、廊下を歩いていると空と大地が廊下で話していた。


「よっ、こんなところでどうした?」


「おお、正吾。最近空と芳賀さんどうなのかって聞いてたところだ」


「どうなのかって? 俺達普通に一緒に毎朝登校してるだけだよ」


 言葉では普通と言ってるが、メチャクチャ笑顔だ。顔が蕩けてる。凄く幸せそうだ。


「周りから何か言われたりしてないのか?」


「初めの頃はクラスの連中揶揄ってきたけど、そんなの反応するから面白がられるんであって、俺からすれば、これが『当たり前』になる訳だからな、堂々としてれば揶揄ってる方が道化に感じて勝手に手を引くもんだ」


「流石だな———」


 俺は廊下の天井を仰いだ。大地も頭を掻きながら外を眺めている。お互いに心に刺さる部分があったようだ。


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 ———その日の夜。俺はバイトが終わり家路についていた。俺は皆にイベントの件でメッセージを送信した。ついでに「今帰ってる」を丹菜だけに送ろうとして皆に誤送信する可能性があるので……。


 正[イベントOK。シフトの調整ついた。今家に戻ってる最中だから何かあれば後で]


 これなら自然且つ丹菜に報告で一石二鳥だ。俺、出来る男。


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 俺が玄関を開けるとメッチャ美味そうな匂いが俺の胃袋を刺激した。今夜のおかずは照り焼きハンバーグだ。


 食事をしながら丹菜に年内のバイトの予定を話した。


「バイト、一週間休みにした」


「大丈夫なんですか?」


「その代わり、冬休み中、今年残りの平日の日中も入る事で調整できたから問題無い」


「そうですか。であれば練習沢山出来ますね」


「そうだな」


 丹菜も部屋に戻り俺も寝る時間になった。最近ベッドに入ると丹菜の匂いがする。———悪くは無い……いや、寧ろいいんだけど———もしかして……丹菜のやつ、俺がいない時にベッドに入ってる? それはそれで別にいい。「別にいい」というより「寧ろいい」。なので俺は黙っていることにした。


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 ———とある日の昼休み。


 再び廊下で空と大地が話をしているところに遭遇した。


「よお、正吾、ちょっと聞いてくれ、空が芳賀さんクリスマスライブに招待したって」


「———お前、アクティブだな」


「すまん。俺らの正体バラす事になる。まずは皆に相談するべきだった。ちょっと気持ちが急ってしまった」


「———俺は問題ない。勉強会の時点でこうなる事は分かっていたしな」


「お前が芳賀さんに秘密を作るって事は、俺達の事を秘密にするってことじゃん。それ、俺達が申し訳無く感じるから全部話して貰った方が全員スッキリするだろ。特に陽葵と丹菜ちゃんは」


「———ありがとう。そう言って貰えると助かる……嬉しいよ」


「———大地の気持ちは、メンバー全員のロックだ」


「だから、それ、意味わかんねーって」


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 ———ライブ当日。今日から冬休みでもある。


 俺は丹菜と一緒に家を出て、ステンドグラス前で別れたのだが、今日の彼女はいつにも増して可愛かった。今日の衣装は黒のワンピースでプリンセスガーリーだ。最近丹菜の好みが分かってきたが、ロリポップ系の服が好きなようだ。


 因みに出かける前に一言。


「———今日も可愛いな」


 と言ったら凄く喜んでいた。やっぱり屈託なく笑う彼女は可愛すぎてキュン死しそうになる時がある。


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 ———Seekerの控室。


「うっす」

「よっ」

「おっつ」


 男どもは全員揃った。皆、チューニング済みの相棒楽器抱えてジャガジャガやってる。大地はスティック両手にトコトコやってる。


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 暫くして、丹菜達がSeekerに着いた。


 ”———ガチャ“


「来たよー」

「ちーっす」

「うっす」


 男共は、体育会系のノリだ。


 彼女らは部屋に入ると、まず始めに椅子を出して芳賀さんに座るように促した。芳賀さんはキョロキョロ周りを見ながら椅子に腰掛ける。


「へぇー、なんか、ぽくていいね」


「『ぽくて』じゃなくて本物だよ」


 空が笑顔でつっこんだ。芳賀さんは空を見るとちょっと魅入った感じだ。


「空君、カッコよく決めたね」


愛花まなかちゃんもカッコいいじゃん」


 二人はさり気無く褒め合ってる。ナチュラルだ。

 今朝、俺も丹菜にナチュラルに言えてたんだろうか?


「葉倉さんと希乃さんには誰も何も言ってくれないの?」


「あ、私は朝言って貰ったから♡」


「私も言って貰いましたので。ふふ♪」


 ふと、芳賀さんを見ると勉強会の時のように俺を直視していた。———そう言えば……。


 芳賀さんは目の前のが誰なのか聞いた。


「———この方は……」


 俺は前髪を上げたままだった。

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